心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

最新の精神医学に関するトピックスやクリニックの情報などを紹介します

世界メンタルヘルスデー 「うつ病について話そう」

2016年10月29日 | 気分障害

毎年、10月10日は「世界メンタルヘルスデー」と定められています。これは、オランダに本部を置くNGOの世界精神衛生連盟(WFMH)により1992年にメンタルヘルス問題に関する世間の意識や関心を高め、偏見を無くし、正しい知識を普及するために定められました。その後、世界保健機関(WHO)も協賛し、正式に国際デーと認められるようになりました。

WHOはうつ病の啓発を目的とした1年間のキャンペーンを同日に発表し、今回のキャンペーンのスローガンは「うつ病について話そう(Depression : let's talk)」となっております。うつ病について話すことがうつ病からの回復の重要な要素として重要であるとし、「話す相手が家族、友人、あるいは医療従事者か、また話す場所が学校や職場、あるいはニュースメディアやソーシャルメディア、ブログなどかにかかわらず、うつ病について誰かと話すことはうつ病への偏見の解消の手助けとなり、結果としてより多くの人々が助けを求めることにつながる」と説明しています。

また、特にうつ病のハイリスク群として「青年期や若年層の成人」、「出産適齢期(特に産後)の女性」および「60歳以上の高齢者」の3群をターゲットとした啓発キャンペーンに力を注ぐとし、「母と娘」や「新生児を抱えた母親と医師」、「学生と教師」、「職場の同僚」などの場面を想定した、以下のような啓発用ポスターを用意しております(WHO公式サイトからの引用)。

「母と娘」

「新生児を抱えた母親と医師」

「学生と教師」

「職場の同僚」

 

うつ病は、まだまだ「気の持ちよう」とか「性格の問題」など誤って認識されており、うつ病の患者さんに「もっと頑張れ!」とか「気持ちを強く持て!」や「なんでも前向きに考えなさい」など不適切なアドバイスをする人も少なくありません。しかしそうではなく、うつ病は脳の機能的異常に起因する精神疾患の一つであり、紛れもなく「病気」のひとつなのです。

そして、大切なことはまずは「うつ病の人の気持ちに寄り添って、その人の話に耳を傾ける」ことであり、周囲に苦しみや悩みを打ち明けて、理解を示してくれる人がいるだけでもうつ病の患者さんは安心感を持つことができ、不安な気持ちは幾分、和らぎます。

なお、日本でも10月10から16日に厚生労働省と全国の自治体が主催となり「第64回精神保健福祉普及運動」が実施され、「誰にでもできることがある社会の実現に向けて」をテーマに各地でさまざまな行事が開催されました。

今後、ますますうつ病について啓発、啓蒙されることが望まれます


アモバンとデパスが向精神薬指定に

2016年10月14日 | ブログ

本日付で、エチゾラム(商品名デパス)とゾピクロン(商品名アモバン)が厚生労働省より「第三種向精神薬」に指定されました。これに指定されると、投与期間の上限が「30日間」に制限されます。現在、ほとんどのベンゾジアゼピン系などの睡眠薬や抗不安薬は向精神薬に指定されており、保険診療上、1回の処方日数の上限は30日となっております。しかし、これまでデパスとアモバンは向精神薬に指定されておらず、患者さんが長期処方を希望した場合、1回に30日以上処方することができていました。

デパスはこれまで向精神薬指定されていなかったことで、精神科以外の医師は「デパスは作用が軽い薬」と思い違いをし、結果として不安や抑うつを訴える方には誰にでも気楽に処方され、乱用されてきました。しかし、このブログでも過去に取り上げたように、デパスは実は非常に危険な薬剤なのです。デパスは「高力価短時間型」のベンゾジアゼピン系抗不安薬に分類される薬剤ですが、「高力価」とは“作用が強い”ということを意味し、「短時間型」は概して依存性が高いのが特徴です。また、デパスは筋弛緩作用が非常に強く、内服すると体の力が抜け、高齢者では転倒のリスクが高まります。

つまりは、デパスはすぐに効く作用の強いお薬ですが、すぐに効果もなくなるため、効果がなくなるとかえって強い不安感や焦燥感などが出現することがあります。これを“離脱症状”と言います。そうすると「もう1錠飲まないと不安でたまらない」という状態となり、患者さんは追加でもう1錠飲むことになります。しかしその追加の効果もつかの間で、また不安が出るので、さらにもう1錠・・・と、どんどん一日の内服量が増えていくのです。そしてやっかいなことに、高力価で短時間型のベンゾジアゼピン系の薬剤は耐性がつきやすく、同じ効果を得るためには最初よりも多い用量を内服しないといけなくなります。そしてされにどんどん内服する錠数が増えていく・・・、という悪循環に陥ります。これが、いわゆる“依存性”です。そして、この離脱症状や耐性、依存性がデパスよりもさらに強いのがハルシオンなのです

また、デパスは以前、本ブログでご紹介したとおり“奇異反応”と呼ばれる副作用が生じることがあり、デパスを内服することで抑制が外れて、怒りやすくなったり興奮したり、衝動的になったり敵意を抱いたり、暴言を吐いたり暴れたりするなど、手におえない状態になることがあります。実際にそのような患者さんが当院を受診したことがあります。デパスをやめるとそのような言動はなくなりのですが、デパス依存に陥っている患者さんはそのような病識はなく、性懲りもなくまたデパスを飲んで同じような状態になり、家族や周囲の人々を悩ませ、困らせます。

ですので、今回のデパスの向精神薬指定によって、本邦でのデパスの処方機会が減ることを強く期待しております。そしてもう一つ、向精神薬指定されたことによる大きな点は、“海外から個人輸入することができなくなった”ということです。知っている人は知っているのですが、向精神薬に指定されていない睡眠薬や抗不安薬(いわゆる安定剤)、抗うつ薬、抗精神病薬などは、通常の保険診療では医師が診察して処方箋を出さないと手に入らないのですが、これらの薬剤は困ったことに医師の処方箋がなくても簡単にネットで個人輸入により購入することができるのです。しかし、ちょっと考えてもらえると分かることなのですが、通常、医師が診察して処方箋を発行しないと入手できない薬というのは効果を期待できる反面、それ相応の副作用も出現し得るので、きちんと医師の指示や指導のもと内服してもらう必要があるわけです。

ですので、これまでは実はデパスは、もし病院で処方してもらえなくなってもネットでの購入が可能だったのですが、今回の規制によりやっと個人輸入が不可となりました。他にも個人輸入で入手できる薬の中には、大きな効果を期待できる反面、命にかかわるような大変危険な副作用が出現し得る薬剤(例えば、クロザピン)があり、厚生労働省には早急に手を打ってほしいものです。ですので、くれぐれも自己判断のみで精神科領域の薬を個人輸入して、内服することは控えてください。