心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

最新の精神医学に関するトピックスやクリニックの情報などを紹介します

障害年金申請について

2016年07月30日 | ブログ

病気やけがなどで障害が生じた際に、生活を支えるために支給される制度として、「障害年金」というものがあります。精神障害に関しては、統合失調症や双極性障害などの精神病、あるいは知的障害などで一般就労が困難な場合に、障害年金の支給対象となります。ただし、受給の前提条件として公的年金に加入しており、一定の保険料納付要件を満たしている必要があります。国民年金の場合は1級と2級があり、厚生年金と共済年金の場合は1級と2級に加え、3級があります。

当院では、上記の状態に該当する患者さんには私の方から適切な時期を見計らって、障害年金の申請をお勧めしております。

先日、障害年金を申請予定の患者さんで、「障害年金申請を社労士に依頼しました」という方がいらっしゃいました。私は思わず、「エッ?」と絶句してしまいました。噂には、「障害年金の申請を食い物にしている社会保険労務士がいる」と聞いたことはありましたが、実際に社労士に依頼した患者さんは、当院では初めてでした。契約内容を聞くと、「着手金が10,000円で、成功報酬は年金額の3か月分」とのこと。それを聞いて、今度は怒りが沸いてきました。例えば、もし障害年金2級が認定された場合、2級の支給月額は約65,000円(障害基礎年金の場合)ですので、3か月分と言えば195,000円です。なんと法外なことか。社労士に障害年金申請の依頼をしても、診断書を書くのは医師であり、社労士がすることと言えば申請に必要な書類を取り寄せたり、医師が作成した書類等を役所に提出する程度で、たいした労務ではありません。

私は、即刻、その患者さんに、その社労士との契約を解約するようアドバイスしました(すでに支払った着手金の10,000円は戻ってきませんが...)。障害年金の申請手続きは社労士に依頼しなくても、必ず患者さん本人のみで行うことが可能です。もし患者さんご本人で分からないことがあれば、当院ではあらゆる援助を行っております。もちろん、その援助は無料です。例えば、当院では私が直接、年金事務所に電話で問い合わせをしたり、それでも埒が明かない場合には、患者さんに同行して年金事務所に赴いたこともあります。そして、言うまでもなく成功報酬などを徴収することもありません。

本来ならば、障害年金申請に係る費用は医師の診断書作成料のみです。診断書作成料は各医療機関で異なりますが、当院では1枚6,000円で診断書の作成を行っております。要するに、通常であれば6,000円で済むことが、社労士に依頼するとなんと約20万円(2級が認定された場合)も掛かるということです。つまりは、6,000円の30倍以上の額が必要になる、ということです。障害年金を必要とする精神障害者は、一般就労が困難でお金がなくて経済的に困窮しているからこそ障害年金を申請するわけなのに、その患者さんから申請代行だけで20万円も取るなんで、とんでもないことです。これは、一種の“貧困ビジネス”と言っても過言ではないでしょう。

繰り返しになりますが、障害年金申請を社労士に依頼する必要は全くありません。当院では責任を持って、私が障害年金の申請を受理してもらえるまで無償で援助を行っております。皆様、くれぐれも気をつけて下さい。


オキシトシン点鼻薬による自閉スペクトラム症治療の可能性

2016年07月15日 | 新薬

発達障害のひとつに、自閉スペクトラム症という診断名があります。かつてはアスペルガー症候群、高機能自閉症、自閉症(カナータイプ)などいくつかのタイプに分類されていましたが、近年はこれらを総称して自閉スペクトラム症(Autistic Spectrum Disorders;ASD)と呼称されるようになっております。

ASDの中核症状には以下の3つがあります

・社会性の障害:他者との共感性や相互性が乏しくトラブルが多い、常識の欠如

・コミュニケーションの問題:言葉や動作、目線などを使って、情報の受信・発信がうまくできない

・想像力の問題:こだわりが強く、先読みができない。変化によってパニックをおこす

発達障害には他に注意欠如・多動症(かつての注意欠陥・多動性障害)、いわゆるADHDがありますが、ADHDに関してはその中核症状(不注意や多動、衝動性)に対する治療薬が既にあります。しかしASDについては上記の中核症状に対する治療薬はないのが現状です。

ところが、2003年にASDの中核症状(反復的行動)に対するオキシトシン点鼻薬の有効性を示す最初の研究成果が報告され、その後これまでにASDの中核症状に対するオキシトシン点鼻薬の有効性を検討した研究が約20報ほど報告されています。結論から言うと、どうやらオキシトシンにはASDの中核症状のうち、対人交流症状や感情認識能力、反復的活動などに効果があることが分かってきております。なお、オキシトシン点鼻薬には明確な有害事象は今のところ認められておりません。

日本では東大や金沢大の研究グループが現在、ASDに対するオキシトシン点鼻薬の治験を行っており、昨年の9月には東大の研究グループがASDの中核症状(社交的相互性)に対するオキシトシン点鼻薬の有効性を報告しております(“Brain”という一流医学雑誌に掲載されました)。近い将来、日本でオキシトシン点鼻薬がASDの治療薬として正式に認可されることが期待されます


長崎市介護認定調査員「現任研修会」の講師

2016年07月15日 | ブログ

昨日、長崎市からの依頼で、長崎市介護認定調査員対象の「現任研修会」の講話を行ってきました。本研修会の講師は平成26年2月に一度務めており、今回は2年ぶりにお話しさせて頂きました。今回の内容は、“認知症、精神疾患等のある対象者の認定調査の着眼点について”でした。

講話では、まず認知症高齢者の日常生活自立度判定の目安についてお話し、その後、調査員からのリクエストで「レビー小体型認知症」についての説明をしました。以前は、日本では脳血管性認知症の割合が高いと考えられていましたが、近年、レビー小体型認知症の認知度が上がるにつれ、レビー小体型認知症と診断される割合が増えてきました。現在では、最も多い認知症はアルツハイマー型認知症(約50%)ですが、ついで多いのがレビー小体型認知症(20%)で、脳血管性認知症は約15%といわれています。

レビー小体型認知症の初期症状は必ずしも“物忘れ”ではなく、幻視や抑うつ、夜間の大声や叫び声(レム睡眠行動障害)、パーキンソン症状から始まる場合が少なからずあり、初期症状からは診断に苦慮することがあります。

また、講話では認知症のBPSDの評価に関しても具体例を挙げながら説明いたしました。皆さまお忙しい中、100名以上の方にご参加頂きました。研修会の時間は2時間と比較的長かったので資料も多めに用意していきましたが、皆さま熱心にお聞き頂きました。微力ながら調査員の方々のお役に立てれば幸いです。