心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

最新の精神医学に関するトピックスやクリニックの情報などを紹介します

塩野義製薬がADHDのデジタル治療アプリの製造販売承認を申請

2024年03月27日 | 発達障害
塩野義製薬は本年2月26日、米社が開発した注意欠陥多動性障害(ADHD)のデジタル治療アプリの日本での製造販売承認を同日付で申請しました。
このデジタル治療アプリは、2020年7月24日に本ブログにて紹介したことのあるEndeavorRx(AKL-T01)のことです。

本デジタル治療アプリに関しては、実は当院でも日本における第2相、第3相臨床試験(いわゆる治験)に参加をして、良好な手ごたえを掴んでおりました。本治験に参加してくださり、ご協力いただきました皆さまには心よりお礼を申し上げます。塩野義製薬の公式サイトでも、第3相臨床試験において良好な結果が示されたことが掲載されており、日本でも近々、正式に保険診療にて、ADHDの非薬物治療として本アプリを使用することができるようになるでしょう。

当院で本治験にご参加してくださったお子さんのあるお母様は、「治験に参加して、最初は半信半疑だったけれど、段々と不注意症状が減っていき、びっくりしました。治験に参加できてよかったです」と語ってくれました。中には、治験での本デジタル治療アプリの使用を機に、薬物治療を中止できた方もいらっしゃいました。

一見すると本デジタル治療アプリはゲーム機器のようにも見えますが、内容的には同じ繰り返しとなっており、治験参加者全員が段々と使用に飽きてきて、使用を継続していただくのに逆に一苦労しました💦。そのため、本アプリの使用に対する依存の心配はまったく不要でしょう。

日本での正式な認可が待たれます✨!

(院長 森)

PTSDの新しい治療法を米国FDAが認可

2023年06月19日 | ブログ
本年3月、PTSDの新しい治療法がアメリカのFDAにより認可されました。この治療法は薬物治療でもなく、持続エクスポージャー法(PE)やEMDR、認知処理療法(CPT)などのトラウマ焦点化心理療法でもなく、PTSDに対してはこれまでになかった全く新しい治療法で、治療機器を用いたニューロモデュレーション療法の一つとなります。

この治療機器はニューロフィードバックを利用することで、PTSD症状の緩和を図ります。ニューロフィードバックとは自分の脳活動を可視化し、リアルタイムでモニターしながらその活動を訓練により制御していく治療法です。可視化には機能的MRI(fMRI)や定量的脳波検査(QEEG)が用いられます。

 今回の治療機器は“Prism”と呼ばれるもので、脳波計ヘッドセットとPCモニターのみで簡便に治療を行うことが可能となっています。

この新しい治療法の最も画期的なところは、トラウマ治療にもかかわらず、トラウマを想起させる必要のないことだと思っています。正直、日常臨床で薬物治療のみではPTSDを根本的に治癒させることは難しく、一方、PEやEMDRなどのトラウマ焦点化心理療法では高い治療効果は得られるものの、大なり小なり治療過程でトラウマを想起させるため、患者さんには心理的な負荷がどうしてもかかってしまいます。

今回の新しい治療機器では、PCモニター上で、最初は立って騒いでいる人々を、患者さんが自分なりの方法で自分自身の気持ちを沈めていくにつれて、その人々が一人ずつモニター上の席に着席していきます。そして全員を着席させることができれば1セッションが終了となります。

この過程で脳内で起こっていることは、頭に取り付けた脳波計が偏桃体の活動をモニタリングしており、モニター上の人々が座っていくのに合わせて、偏桃体の過活動が正常化していくということです。

PTSDでは脳内の機能異常のひとつに偏桃体の過活動が報告されていますが、この治療機器により、トラウマを想起させずにPTSD症状を緩和させることに成功したということです。

この治療法の様子を収めた動画を見つけましたので、リンクを貼っておきます。ご興味のある方はご覧ください(ただし英語の動画です)。なんだかゲーム感覚のようにも見えます...。

日本ではまだまだPEやEMDRなどのトラウマ焦点化心理療法が普及しておらず、本治療機器の登場が待たれるところです。

(院長 森)

心理士2名がソマティック・エクスペリエンシング療法のプラクティショナー資格を取得

2023年05月24日 | 専門外来
3年間に渡るソマティック・エクスペリエンシング療法の初級・中級・上級の研修を経て、今月、当院の心理士2名(森ゆみ、上野)がソマティック・エクスペリエンシング療法のプラクティショナー資格(SEP)を取得いたしました。

ソマティック・エクスペリエンシング療法は身体と神経系の統合をベースにした、安全で自然なトラウマ療法です。身体感覚に働きかけることで自律神経系の自己治癒力を呼び覚まし、過去のトラウマによって引き起こされているさまざまな辛い症状を和らげていきます。それによって過去に起きたことに縛られずに、自分らしく生きるという実感を取り戻すことができます。 

EMDR療法やTF-CBT等に加え、ソマティック・エクスペリエンシング療法もやっと本格的に提供できるようになりました。今後もさらに質の高い医療の提供を目指し、スタッフ一同、精進いたします。

*ただし現在、カウンセリングをご希望される患者様が大変多くいらっしゃり、新たにカウンセリングを受け入れることが困難な状態となっております。つきましては、本年5月10日より本年12月末日までの間、新規でのカウンセリングの受け入れは一旦、停止とさせていただいております。

(院長 森)

長崎県精神神経科診療所協会での取り組みのご紹介と今後の目標

2023年05月16日 | ブログ
当院HPには掲載いたしておりましたが、長崎県精神神経科診療所協会の会長に選任され、本年4月1日付けをもちまして就任いたしました。 長崎県の精神科医療を向上させるという責務を与えられたことを光栄に感じるとともに、重責に身の引き締まる思いです。 微力ではありますが、責務を全うできるよう精一杯、努めたいと存じております。 

精神科・心療内科のクリニックに限った問題ではありませんが、長崎県の精神科医療にはまだまだ課題が山積しています。

現在、活動・計画しているものとしては、
・長崎県の精神科医療の質の向上;定期的な講演会・事例検討会の実施(昨年度も実施いたしました)
・精神科診療所同士の連携の強化;今年度より新たに県内3カ所の精神科診療所にご加入いただきました。
・精神障害の啓蒙活動;市民公開講座の実施(今年度は長崎市地域保健課との共催で、年4回の実施を予定しています)
・大学病院および県内の精神科病院との連携強化
・プライマリケア医や小児科医、産婦人科医との連携
・精神科救急医療体制の構築
などです。なお、長崎県精神神経科診療所協会にはHPもございます。

なかには中・長期的な取り組みが必要な活動もありますが、出来ることから始め、さらなる地域精神医療の向上に努めて参りたいと存じます。皆さま、どうぞよろしくお願い申し上げます。

(院長 森)

TF-CBT Introductory Training 修了のお知らせ

2022年08月01日 | 専門外来
当院の野畑医師と心理士の久冨、中武が7月30日、31日に開催されたTF-CBT Introductory Trainingに参加いたしました。

TF-CBT(Trauma-Focused Cognitive Be havioral Therapy;トラウマフォーカスト認知行動療法)は効果が実証され、いくつかのPTSD 治療ガイドラインにおいて子どものトラウマへの第一選択治療法として推奨されているプログラムです。EMDR療法と同様に、海外では子どものトラウマ治療法として普及が進んでおります。

講師は白川  美也子先生 (こころとからだ・光の花クリニック院長)と服巻智子先生(Minds & Hopes 所長)が務めてくださりました。白川先生は日本におけるトラウマ治療の第一人者のお一人で、TF-CBTのトレーナーの資格とともに、日本EMDR学会認定EMDRコンサルタントの資格も有しております。 

今回のトレーニングは当初、長崎市内の会議室にて実施される予定でしたが、コロナ第7波に伴う大規模な感染拡大を踏まえ、急遽、オンラインでの開催となりました。

今後もさらに研鑽を積み、当院における心理検査や心理療法をますます充実させていきたいと思っております。   

(院長 森)

あたまのストレッチ教室の様子

2022年04月21日 | 専門外来
4月7日より当院3F多目的室にて、「あたまのストレッチ教室 」を実施しております。現在のところ5名の方にご参加いただいております。本日は3回目で、テーマは「思い込みを変えよう …先入観が強くなってませんか? 」でした。

毎回、違ったテーマで、1回約1時間取り組んでいただきます。実は人間は様々な思い込みや決めつけを無意識にしてしまう場合が少なくなく、参加者からそれぞれの意見をお聞きし、最後にファシリテーターの中西心理士がコメントいたします。

どんな意見が出ても、決して否定したり批判したりすることはなく、個々の意見を尊重するようにしていますので、和やかな雰囲気となっております。

計16回のセッションがあり、5回目まででしたら途中からの参加も可能です。当院通院中の患者さんで、今からでも参加したい!という方がおられましたら、主治医までご相談ください。

(院長 森)

4月7日より新たに「あたまのストレッチ教室」を始めます

2022年04月04日 | 専門外来
4月7日より当院多目的室にて、精神科リハビリテーションの一環として新たに「あたまのストレッチ教室」を開催いたします。これは、正式には「メタ認知トレーニング」と呼ばれるもので、メタとは「高次の」という意味で、メタ認知とは「高次(高い視点)から認知する」ということを意味します。 つまりメタ認知とは、「自分が認知している物事を、もう一人の自分が客観的に認知し、コントロールしている状態」のことをいいます。 

メタ認知が養われると、
✔感情のコントロールが可能で、冷静な対応ができるようになる
✔仕事への意欲が高く、何事にも積極的に行動できるようになる
✔柔軟性があり、周囲への配慮や気配りができるようになる
✔主観と客観の使い分けができ、相手の意図に合わせた言動や自分の行動の意図を説明できるようになる
✔自分の長所と短所が分かり、自分に足りない能力が見極められるようになる
などのメリットがあります。

精神障害をお持ちの方は、無意識に自身の思い込みや決めつけで「自分はダメだ」や「自分は嫌われている」と考えがちですが、メタ認知トレーニングを通してメタ認知が養われ、柔軟な思考ができるようになると、自分自身の考えについても冷静に、中立的にみることができるようになっていきます。

主な対象は、統合失調症や双極性障害、うつ病、発達障害などの患者さんで、考え方の偏りが気になっている方です。3名~10名の集団で実施いたします。担当は当院の心理士 中西がいたします。詳しくは当院の主治医にお尋ねください。

(院長 森)

インターネット・ゲーム依存の集団治療プログラムの様子

2022年03月03日 | 専門外来
現在、第3期生2名が毎週水曜の午前にインターネット・ゲーム依存の集団治療プログラムに参加し、取り組んでいます。

本プログラムは、久里浜医療センターにて実施されている認知行動療法をより取り組みやすいようにアレンジし、当院オリジナルのRegardプログラムとして実施しています。

毎週水曜の午前9時から1回50分かけて行い、全部で7回で完結します。プログラムの内容は以下の通りです。

第1回 一日の生活の振り返り
第2回 起きていた問題の振り返り
第3回 ネット使用の良い点・悪い点
第4回 過剰なネット使用について
第5回 ネット以外の活動を検討
第6回 欲求への対処方法
第7回 将来の目標設定

本プログラムへの参加を通し、今までのネットの使い方を客観的に見直し、過剰使用に戻らない対処法を身に着けることを目標とします。

本日は第3回目が行われました。今回のクールでは、ファシリテーターは当院心理士の中西が担当しております。参加者からは活発な意見が出され、有意義なひと時を過ごしていただくことができたのではないかと思います。
現在実施中のクールは3月末頃に終了予定で、現在、4月から新規に開催予定の第4期生を募集中です。参加人数は1クールにつき、2~10名です。なお、第4期は毎週火曜の午前9時から実施いたします。

対象は小学生高学年~高校生で、ネットやゲームの過剰使用により日常生活に支障が生じていると感じ、何とかしたいけれど自力では抜け出すのが難しい!と思っている方でしたら、どなたでもご参加いただけます。

ご希望の方は、お気軽に当院受付または主治医までお問い合わせください。

(院長 森)

コロナ禍における換気に際するお願い;厚着でご来院ください

2021年12月27日 | ブログ
当院HP上でもご案内いたしておりますが、当院では新型コロナウイルス感染症対策の一環として、令和元年4月のコロナ禍以降、終日、入口の自動ドアおよびクリニック内の全ての窓を開放しております。

そのため現在、待合室や診察室は常に暖房を入れておりますが、暖房の効果はほとんど得られないのが現状です。中には「電気代をケチるな」と苦情をおっしゃられる方もおられますが、決して電気代を節約している訳ではございません(毎月、約10万円の暖房費が掛かっております)。

新型コロナウイルス感染症対策では換気の効果が最も高いことが明らかにされており(感染経路の約9割が飛沫のため)、今後はオミクロン株の流行も懸念されるため、当面はこれまで通りの換気を継続いたします。そのため当院にご来院の際には、厚着にてお願いできますと幸いです。ご不便をお掛けいたしますが、新型コロナウイルス感染症予防のため、ご理解の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。

(院長 森)

オキシトシンで自閉スペクトラム症小児の社会的スキルは改善せず

2021年10月18日 | 発達障害
10月13日にNew England Journal of Medicineという世界で最も権威ある医学雑誌に、「オキシトシンの点鼻により自閉スペクトラム症小児の社会的スキルに改善は認められなかった」との研究報告が掲載されました。

対象は3~17歳の290人の小児で、24週間にわたって毎日、オキシトシンまたはプラセボの点鼻スプレーが投与されました。オキシトシンの忍容性はよく、副作用はほとんどありませんでしたが、プラセボ群と比較して、効果面で有意差はありませんでした。

過去に本ブログでも自閉スペクトラム症に対するオキシトシンでの治療の可能性について触れたことがあり、期待を持って注視していましたが、今回はとても残念な結果となりました。

今後、自閉スペクトラム症の中核症状に改善が得られる他の薬剤の開発が強く期待されます。

(院長 森)

COVID-19流行により世界のうつ病などが増加

2021年10月11日 | ブログ
10月8日に発刊されたランセットという権威ある医学雑誌に、「世界のうつ病や不安障害の有病率が30%近く上昇」することが報告されました。

もし新型コロナウイルスの流行がなければうつ病の割合は10万人あたり2,471人だったと予測されていましたが、流行のせいでその割合は10万人あたり3,153人へと28%上昇しました。

また、不安障害は流行がなければ10万人あたり3,825人だったと予測されていましたが、流行のせいで10万人あたり4,802人へと26%上昇しております。

新型コロナウイルスの感染流行で精神的に変調をきたしてしまった人々への支援や治療など、精神医療の強化は世界的な急務となっています。当院でも微力ながら、少しでも皆様のお役に立てると幸いです。どうぞお気軽にご相談ください。

(院長 森)

メンタルヘルスがCOVID-19ワクチン接種で大幅に改善

2021年09月15日 | ブログ
9月8日にPLOS ONEという医学雑誌にて、2020年3月10日~今年2021年3月31日にかけてアメリカの成人約8000人を調べたところ、新型コロナウイルスワクチン接種を境に精神的苦痛が大幅に軽減されたという調査結果が報告されました。

本調査では、心配や不安、無気力、興味の喪失などを調べることができるPHQ-4といううつ病評価尺度が用いられましたが、うつ病罹患の確率がワクチン接種後に低下し、メンタルヘルスを大幅に改善させることが分かりました。

もちろんワクチン接種は任意ですので、決して強制されるものではありません。個々がリスクとベネフィットを十分に考慮し、各々の判断で接種をご検討ください。

(院長 森)

年2回の投与で治療可能な統合失調症治療薬が米国FDAに承認

2021年09月04日 | 抗精神病薬
9月1日付で、Johnson & Johnsonの開発した半年に1回の投与で統合失調症の治療が可能な続効性注射剤のInvega HafyeraがアメリカのFDAに認可されました。

治験の第3相試験では、同薬剤を投与された患者の93%が再発なしで1年間を過ごすことができています。

現在、日本では1ヶ月に1回投与のゼプリオンと3ヶ月に1回投与のゼプリオンTRI の使用が可能となっていますが、半年に1回の注射のみで統合失調症の維持療法が可能になれば、さらに統合失調症患者さんの維持治療に対する心理的・身体的負担は軽減され、QOLの向上が期待されます。

日本でも同薬剤の開発・発売が期待されます。

(院長 森)

日本初の原発性腋窩多汗症治療剤

2021年06月24日 | ブログ
昨年11月に科研製薬株式会社より、日本初の原発性腋窩多汗症治療薬が発売されました。エクロックゲルという名前の塗り薬となります。

心療内科と腋窩多汗症はあまり関係がないかと思われるかもしれませんが、実は多汗症の方はうつ病などの精神疾患を併発したり、日常生活に支障をきたすこともあり、精神面への影響も少なくないのが現状です。

多汗症の治療薬としては、これまではプロ・バンサインという内服薬がありましたが、便秘や口渇、瞳孔散大、排尿障害などの副作用が起こることもあり、必ずしも使い勝手はよいとは言えませんでした。

今回の塗り薬は、適応の身体箇所は腋窩(脇の下)のみですが、腋窩多汗症の方には新たな治療の選択肢ができ、恩恵が得られるかと思われます(ただし、残念ながらワキガには効果はあまり期待できません)。腋窩多汗症でお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

(院長 森)

双極性障害講演会 参加報告

2021年06月18日 | 気分障害
6月16日(水)に長崎市内で双極性障害の講演会が開催されました。特別講演では「双極性障害の現状と未来」との演題のもと、順天堂大学医学部精神医学講座主任教授  加藤  忠史先生がご講演されました(コロナ禍のため、加藤先生には東京からオンラインでご講演いただきました)。

加藤先生は日本における双極性障害研究の第一人者で、これまでに多くの発見や報告を世界に向けて発信されてきました。今回は、双極性障害のこれまでの研究成果や効果的な治療薬の使い方などについてご教示いただきました。なお、僭越ながら講演後のディスカッションでは、パネリストとして私も参加させていただきました。

今回は大日本住友製薬株式会社が1年前に発売した双極性うつ病治療薬[ラツーダ]の発売1周年を記念し、企画した講演会でしたが、このラツーダという治療薬はこれまでの双極性うつ病治療薬と比較して効果、安全面ともに優れている点が多く、ラツーダ発売以降、多くの患者さんが恩恵を受けています。

ただ、未だ双極性うつ病の治療薬は限られているのが現状ですので、今後も新薬の登場が期待されます。