お待たせいたしました。本年の新年のごあいさつで、今年の目標として「社交不安障害に対する認知行動療法を皆様に提供できるようになること」を本ブログ上であげておりましたが、その準備が整いました。“認知行動療法”と一言でいっても、うつ病とパニック障害と社交不安障害では行う内容がそれぞれ異なります。
社交不安障害の薬物療法では、 抗うつ薬の一種であるSSRIの有効性が示されております。日本ではフルボキサミンとパロキセチンが社交不安障害の適応を取得しております。一方、社交不安障害に対する最新の認知行動療法の治療プロトコルは英国の心理学者であるClark教授らによって開発され、2003年にSSRIよりも優れた治療効果が報告されました。2006年にはClark教授が来日し、Clark & Wells(1995年発表)の認知モデルに基づく治療プロトコルを紹介されました。
この認知モデルは、「自分自身に過剰に注意を向けることが社交不安障害の根本の原因で、そのために自分の悪いイメージにとらわれ過ぎてしまい、不安や恐怖が増強して、安全行動(うつむいたり声が小さくなったりする、等)をとってしまう」というものです。そして治療では、安全行動について検証したり、ビデオ機器を使用して自己イメージの歪みを修正するためのビデオフィードバックなどを行います。
従来は社交不安障害の認知行動療法は集団で行うものがメインでしたが、現在ではこのClark & Wellsモデルに基づく個人認知行動療法の方がより効果的であることが分かっています。当院では、このClark & Wellsモデルに準じた個人認知行動療法を臨床心理士が行っております(曜日は火曜、水曜、金曜のいずれか)。すでに数名の社交不安障害の患者さんにこの認知行動療法を開始しております。1回のセッションは50分で、理想的には週に1回ずつ来院してもらい、計16回程度のセッションで終了となります。社交不安障害の程度が中等度~重度の場合には薬物療法も並行して行うと、より効果的です。
現在、先日もお伝えいたしました通り、当院の心理療法外来は2カ月待ちの状態となっております。そこで、「認知行動療法で少しでも早く社交不安障害を治したい」という方には、“自分で治す「社交不安症」”という書籍をお勧めしております(千葉大学大学院医学研究院教授, 清水 栄司 著)。Clark & Wellsモデルを基にした認知行動療法が、タイトル通り自分自身でできるように工夫されて書かれております。
今後も研鑽を積み、当院における心理療法をさらに充実させていきたいと思っております。