心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

最新の精神医学に関するトピックスやクリニックの情報などを紹介します

介護予防・日常生活支援総合事業;新しい総合事業が始まります

2017年02月23日 | ブログ

平成29年4月より介護予防・日常生活支援総合事業が新しく変更されます。主な変更点は、介護サービスの一部である「訪問型サービス」と「通所型サービス」は新しい総合事業へ移行します。ただし、変更になったからといって、これまでに受けられていたサービスが受けられなくなるということはありません。ご安心ください。

この新しい総合事業のサービスのみを利用する場合は、従来の要介護認定の手続きが不要となり、基本チェックリストにより対象者の判定を行うことになります。新しい総合事業を受ける対象者は、要支援1と2に該当する方の中で「訪問型サービス」と「通所型サービス」のみを利用する方と、基本チェックリストにより事業対象者と判定された方です。

新しい総合事業のそれぞれのサービスの概要は以下の通りです。

〈訪問型サービス〉

・介護予防訪問介護相当サービス;ヘルパーが実施する身体介護や生活援助サービスで、入浴介助や掃除・洗濯・調理等の家事をお手伝いするサービス

・住民主体型訪問サービス;ごみ出しや草むしり、花の水やりなどの簡易な援助を、地域住民の協力によって提供される住民主体のサービス

・短期集中型訪問サービス;理学療法士、作業療法士、歯科衛生士、栄養管理士、保健師などの保健医療専門職が訪問し、相談指導を行うことで、短期間集中的に機能回復を図るサービス

〈通所型サービス〉

・介護予防通所介護相当サービス(送迎あり);いわゆるデイサービスで、食事や入浴など日常生活上に必要な支援や機能訓練などを提供するサービス

・ミニデイサービス;機能訓練やレクリエーションなどを、半日(3~5時間)程度で行うサービス(ただし入浴・食事は含まれない)

・住民主体型通所サービス(高齢者ふれあいサロン);地域の身近な場所で、運動やレクリエーションなどを住民が自主的に行うサービス

・短期集中型通所サービス;保健医療専門職による運動・認知機能向上プログラムを短期間集中的に、集団で行うサービス

今回の新しい事業への変更のメリットは、対象者の判定が基本チェックリストのみで可能となったため、従来の要介護認定の手続きが不要となり、必要なサービスがより迅速に受けられるようになったことでしょう。詳しくは、お近くの地域包括支援センターにご相談ください。どこに近隣の地域包括支援センターがあるのか分からない方は、長崎市の高齢者すこやか支援課にお問い合わせください。


抗うつ薬ALKS 5461

2017年02月18日 | 新薬

Alkermes社が開発中の抗うつ薬「ALKS 5461」が米国において、今年後半の承認申請に向けて準備が順調に進んでいる旨が、昨日、同社の決算報告の際に発表されました。「ALKS 5461」は既存の標準的な抗うつ薬であるSSRIやSNRI、NaSSAなどとは作用機序が全く異なる新しい抗うつ薬に分類されます。この抗うつ薬は「治療抵抗性うつ病」と呼ばれる難治性のうつ病に対して適応取得を目指しており、その効果が期待されます。

ALKS 5461はμ-およびκ-オピオイド部分作動薬であるbuprenorphineとμ-オピオイド拮抗薬であるsamidorphanの合剤であり、オピオイドの調節により抗うつ効果が発揮されると推定されています。オピオイドは従来、鎮痛薬として知られていますが、この部分作動薬と拮抗薬の合剤が抗うつ薬として作用するということは興味深いです。確かに、うつ病の患者さんはしばしば体の痛みも訴えますので、うつ病と痛みには密接な関連があるのかもしれません。

 


抗Aβ抗体「ソラネズマブ」の第3相試験中止の発表

2017年02月01日 | 新薬

近年、アルツハイマー病の発症メカニズムの一端が明らかになりつつあります。そういった中で、さまざまな種類のアルツハイマー病治療候補薬が現在、世界中で開発途上にあります。

Eli Lilly社は、アルツハイマー病治療候補薬の一つである抗Aβ抗体「ソラネズマブ」の開発を進めてきましたが、昨年11月に臨床第3相試験での主要評価項目を満たすことができず、この度、同社CEOのDavid Ricks氏が同薬の開発中止を発表しました。この薬の開発の動向には、実は私も大きな期待を持って注目していました。なぜなら、現在、上市されているアルツハイマー病治療薬(アリセプトやレミニール、メマリーなど)はいずれも対症療法薬であり、単に「認知症の進行を遅らせる」効果しかないのに対し、この抗Aβ抗体はアルツハイマー病の根治を目指せる可能性を秘めていたからです。

昨年11月、当時のCEOのJohn C. Lechleiter氏は「ソラネズマブの第3相試験の結果は期待とは異なるものだった。何百万人もの方々が有望なアルツハイマー病の疾患修飾薬の登場を待っていることを考えると、大変残念に思っている」とコメントし、失望を隠せませんでした。

薬の開発には治験が必須であり、治験は第1相試験、第2相試験、第3相試験の3段階から成ります。各段階の詳細は割愛しますが、第3相試験では多数の患者さんで有効性や安全性、使用方法などを確認します。そして、どうやら近年のアルツハイマー病の開発薬にとってはこの「第3相試験」が高い壁となり、立ちはだかっているようです。ソラネズマブに関しては2012年8月に続き、今回が2回目の第3相試験での失敗でした。他にも、2012年夏にPfizer社の抗Aβ抗体「バピネオズマブ」が同様の理由で、開発の断念を余儀なくされました。

他には現在、Biogen社が抗Aβ抗体「アデュカヌマブ」を治験中で、昨年12月に第1相試験にてその有効性が示されました。しかしまだ第1相試験の結果しか出ておらず、予断を許さない状況です。Eli Lilly社も今回のソラネズマブの開発中止にもめげずに、AstraZeneca社との共同開発にて経口βセクレターゼ(BASE)阻害剤「AZD3293」の治験を進めており、現在、第3相試験に入っております。

日本においては、中外製薬が抗Aβ抗体「ガンテネルマブ」の第3相試験を、MSD社がBACE阻害薬「MK-8931」の第3相試験を、エーザイ社が抗Aβプロトフィブリル抗体「BAN2401」の第2相試験をそれぞれ実施中です。「BASE阻害薬」や「抗Aβプロトフィブリル抗体」も「抗Aβ抗体」と同様にアルツハイマー病根治の可能性を持つアルツハイマー病治療候補薬であり、これらの今後の開発の動向にも目が離せません。

アルツハイマー病は加齢自体が発症の危険因子であることが分かっており、今後、ますますアルツハイマー病の患者さんが増えることが予想されます。今後の急速な高齢化社会化に向けて、根治可能なアルツハイマー病治療薬の開発に世界中が注視しています。また、アルツハイマー病の発症メカニズム自体の全容解明にも期待がかかります。