心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

最新の精神医学に関するトピックスやクリニックの情報などを紹介します

うつ病に激励禁忌は本当?

2013年08月31日 | 気分障害

うつ病が巷に広く知られるようになり、一般の方でも“うつ病の人には、励ましてはダメなんでしょう?”と、「頑張れ」などの声掛けは禁句だと知られるようになってきました。これは、ある意味、正しいのですが、うつ病の概念が拡散している現在においては、全てのうつ病に対して“激励は禁忌”というわけではなくなってきています。

では、まずどのようなタイプのうつ病に「頑張れ」が禁句かというと、病前性格が“真面目で責任感が強い(メランコリー親和型)”、いわゆる古典的な内因性うつ病の患者さんです。このタイプのうつ病は、もうこれ以上頑張れないほど頑張って、疲弊してうつ状態になり、自責的・罪責的となっているため、「頑張れ」と励ますことは患者を追い詰めることになるので、励ましは禁忌です。

しかし、最近では“うつ病”といっても、上記の内因性うつ病以外にも過去に本ブログで取り上げたことのある“非定型うつ病”や“神経症性うつ病(気分変調症)”と呼ばれるタイプのうつ病も多くみられるようになってきており、これらのタイプのうつ病患者に対しては、時には適度に励まして背中を押すことがよい結果につながることがあります

よって、“全てのうつ病”=“激励禁止”というわけではありません。ですので、うつ病の患者さんに対する接し方はうつ病のタイプによって異なるため、患者さんの家族は「うつ病=励ましはダメ」と決めつけず、接し方については主治医とよく話し合い、正しい知識を持ち、患者が回復に向かうよう適切に接することが大切です


双極性障害講演会

2013年08月07日 | 気分障害

昨日、長崎市内で双極性障害の講演会が開催されました。特別公演では、世界的にも双極性障害研究の第一人者の一人である、理化学研究所の加藤忠史先生のご講演をweb生中継でお聞きしました。近年、新しい気分安定薬や非定型抗精神病薬が開発され、使用が可能になっておりますが、本ブログでも紹介したことのある炭酸リチウム(リーマス)の有用性を強調されていました。

それに引き続き、僭越ながら私が双極性障害の症例の報告発表をいたしました。その後、参加者で双極性障害の治療などについて討論しましたが、最も議論になったのは、双極性障害のうつ状態に抗うつ薬を使うかどうか、という問題でした。うつ状態に抗うつ薬を使用すると、頻度は低いながら、躁転(うつ状態から躁状態になって、かえって気分が不安定になること)するリスクがあるので、抗うつ薬は使用しない方がよいという意見と、現実的には抗うつ薬も使用しないとうつ状態からの回復は難しいこともあるので、慎重に使用することもあり得る、など様々な意見が出ました。私自身は、うつ状態に対する改善効果を持つ気分安定薬や非定型抗精神病薬を使用してもうつ症状の改善が乏しい場合には、少量から慎重に抗うつ薬を使用しています。そうすることで、実際にうつ症状が改善し、安定した状態で過ごしている方もいます。

海外では、ジプレキサ(非定型抗精神病薬)と抗うつ薬(SSRI)の合剤(シンビアックスという薬剤)が双極性障害のうつ状態に適応を取っています。おそらく数年後には日本でも適応を取得する見込みですので、そうなると「双極性障害に抗うつ薬を使用するべきかどうか」という問題に対しても、今とはまた違った意見が出てくると考えられます。また、今年の5月に双極性障害を含めた精神疾患の診断基準の見直し(DSM-Ⅳ→DSM-5)があり、今後も双極性障害の疾患概念の変遷とともに、治療方針も少しずつ変わる可能性があると思われます。