心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

最新の精神医学に関するトピックスやクリニックの情報などを紹介します

週刊現代に喝!

2016年08月26日 | ブログ

ご存知の方も多いかもしれませんが、週刊現代が6月25日号から連続して最新号まで、医療を批判する記事を特集しています。私は、普段は週刊誌の記事ごときにいちいち反論することはしないのですが、ここまでひどいと患者さんに悪影響が出てきますので、医療批判を展開し続けている週刊現代を批判させて頂きます。

週刊現代の医療批判には、精神科領域の薬剤や病気も含まれています。ごく一部には最もな部分もありはしますが、ほとんどは薬の副作用の部分だけをクローズアップして、不必要に読者を不安に陥れているのが実情です。なかでも特に許せないと感じたのは、「うつ病は典型的な作られた病気」と断言していることです(8月20日・27日合併号pp49-50)。しかも、このように答えているのは「大学病院脳外科医」となっており、精神科の専門医ではありません。そして、氏名は書かれていません。「一体、どれだけ精神障害に理解がないのか!」と怒りを覚えます。

うつ病は、世界保健機構(WHO)が発刊している“ICD-10”という診断基準に掲載されており、言うまでもなくれっきとした精神障害の1つです。そして、うつ病で苦しんでいて、現在、受診している患者さんは全国で約70万人ですが、まだまだ精神科・心療内科の敷居が高く、実際にうつ病として治療を受けている患者さんの数は氷山の一角と考えられており、現実には630万~1670万人の方が病院を受診できずにうつ病で苦しんでいると推定されています。 うつ病は、気持ちの問題でもなく性格の問題でもなく、脳の機能障害によるれっきとした病気の一つです。

それなのに、週刊誌に簡単に「うつ病は作られた病気」と、よくものうのうと言ったものです。このように発言した“大学病院脳外科医”は、実名を出してほしいものです。こんな記事が出るから、うつ病の患者さんは「自分の気が弱いせい」と思い込んだり、その家族は「気の持ちようだから、頑張れ!」と不適切な助言をするようになります。本当に困ったもので、迷惑極まりない記事です。

そして、代表的な抗うつ薬の1つである“SSRI”については、「やめるのが難しく、薬がどんどん増えていく怖さがる」と記載されています。しかし、日本うつ病学会が作成しているうつ病治療のガイドラインには、うつ病治療の原則として、“薬物療法は抗うつ薬を十分量、十分な期間、服用することが基本となる”と明記されています。これは、“うつ病の薬物療法では抗うつ薬を少量から開始し、効果が不十分な場合には寛解を目指して増量し、十分な期間(初回のうつ病の場合は、寛解してから4~9か月間)、内服を継続すること”という意味です。ですので、場合によっては抗うつ薬を最大用量まで使用することも少なからずあります。つまりは、中途半端に効かない用量を内服し続けていてもそれは意味がないことなので、きちんと増量してうつ病の回復を目指す、というのがうつ病治療の基本ということです。そして、薬を減量・中止する際には、専門医の指示通りに少量づつ減量していけば、大抵の場合は安全に減量・中止することができます。これは、精神科専門医であれば、常識です。

SSRIが「やめるのが難しく、薬がどんどん増えていく怖さがる」とのたまっているのは、これまた精神科専門医ではなく、「関西のクリニック, 内科医」となっており、これまた実名は書かれていません。素人がいい加減なことを言うのは、本当にやめてほしいです。適切な抗うつ薬による治療によって、大抵のうつ病患者さんはうつ病から回復し、社会復帰しています。近年発売されているSSRIをはじめとした抗うつ薬は、多くのうつ病患者さんに恩恵をもたらしているのが実情です。

他にも、きりがないくらいたくさんの記事に「喝!」を入れる必要があります。ですので皆さんは、3流週刊誌のたわ言に惑わさせずに、これまで通りかかりつけの主治医の指示通りに治療を受けてください。ただし、もし治療に納得のいかない場合には、今はセカンドオピニオンという制度がありますので、主治医にその旨を申し出てください。私も、患者さんからセカンドオピニオンの希望がある際には、いつでも快く応じています


リオ 日本卓球代表大健闘!

2016年08月18日 | 卓球

リオオリンピックも終盤に差し掛かってきましたね。本大会では様々な競技で日本選手が活躍しており、オリンピックの視聴で夜更かししている人も多いのではないかと思います。今回は医学とは全く関係ありませんが、卓球について熱く語らせて頂きたいと思います。

実は、私は熱烈な卓球愛好家で、学生時代は趣味を通り越してかなり本気で卓球に取り組んでいました。大学生の時に、医師ではなく、「卓球選手になりたい!」と本気で思った時期もありました。ただ、プロになるほどの実力は到底なく、普通に医師になりました(笑)。ですので、最近は仕事が忙しくやや卓球から離れてしまっていますが、それでも卓球に関することなら大抵のことは分かります。

今回の日本卓球代表選手は、男女ともによく頑張ったと思います。特に、男子個人戦シングルスで銅メダル、男子団体戦で銀メダルを獲った水谷選手の活躍は特筆すべきものです。今回の水谷選手のメダルは、1988年に卓球が五輪の正式種目に採択されて以来、日本男子選手としては初めての快挙です。男子団体戦では残念ながら決勝戦で中国に敗れはしましたが、水谷選手は中国の許昕にセットオールデュースの末、勝利をもぎ取りました。水谷選手は許昕に対してこれまで0勝12敗の対戦成績でしたが、今回、本当によく頑張りました。最後は「絶対に勝つ!」という水谷選手の強い意志と執念を感じました。仕事があったのでLIVEでは見れませんでしたが、録画で見て、壮絶な戦いに感動しました。水谷選手、大あっぱれです。中国男子チームが今大会で落としたゲームは、この1試合のみです。

どこかのご意見番が、水谷選手のガッツポーズに「喝」を入れておりましたが、とんでもない的外れです。これまで20年以上、毎日死ぬ思いで限界まで自分を追い詰めて練習して、そして小さい頃からの夢であったメダルをやっと獲得して、心の底から本能的に湧き起ってくる感情に伴うガッツポーズには、見ていて感動すら覚えます。そして、試合後には必ず対戦相手と握手を交わしてお互いの健闘を称え合うので、ガッツポーズは全く問題ありません。むしろ、そんなことを言ったご意見番に「喝!」と言いたいところです。

それにしても、中国は男女ともに相当強いですね...。オリンピックの団体戦は4単1複で、先に3勝したチームが勝ちなのですが、中国の強さを分かりやすくテニス界に例えるなら、ジョコビッチと全盛期のフェデラーとナダルの3人が団体戦を組んでいるようなものです。中国代表の馬龍と張継科は五輪・世界選手権・ワールドカップの3大タイトルを制しており(馬龍は今回の五輪個人戦優勝で達成)、テニス界でいうところのグランドスラムに値します。水谷選手の立ち位置は、テニス界ではちょうど錦織選手に相当するのではないかと思います。今回、奇しくも二人そろって個人戦シングルスで銅メダルを獲得しております。ちなみに卓球界でこの3大タイトルを獲得しているのは、他に3人しかおりません。その3人とは、中国の孔令輝と劉国梁、そして「百年に一人の天才」や「卓球界のキング」等と称されている、スウェーデンのワルドナーです。劉国梁は中国の現男子チーム監督兼総監督で、今回の五輪の男子団体戦では中国ベンチで選手を熱く応援していました。シェークハンドに対抗するために現在ではペンホルダー選手の裏面打法は当たり前のようになっていますが、これは劉国梁が現役時代に発案し、本格的に試合で使うようになったのが始まりです。また、孔令輝は中国の現女子チーム監督で、こちらも同じく女子団体戦でベンチから応援をしたり、選手にアドバイスを送ったりしていました。

さて、現在の中国代表選手がどのくらい強いかというと、この2年間の各選手の対外戦績は、馬龍はなんと「無敗」、許昕は1敗(2015年のアジアカップで、丹羽孝希に敗退。丹羽選手は今回の五輪の日本代表選手)、張継科は少し取りこぼしが多いですが、それでも6敗です。そして、その許昕に本日の団体戦決勝で水谷選手は勝ったのです。個人戦シングルスでは、準決勝で馬龍から2セットをもぎ取りました。この試合も壮絶なものでした。なお、馬龍には遡ること4年前、アジアでのロンドン五輪代表選考会で丹羽選手が1回だけ勝ったことがあります。

今後、日本が中国に勝つためには、水谷選手のさらなるレベルアップと、少なくとももう一人、水谷選手と同格かそれ以上の実力を持つ選手の出現が必要でしょう。現在の日本では水谷選手が頭ひとつ抜け出しており、全日本卓球選手権で5連覇を含む通算8回の個人戦シングルス優勝を達成しています。この記録は史上最多タイの記録です(もう一人、過去に斉藤 清選手が計8回の優勝を成し遂げています)。水谷選手は今後も当面は優勝を重ねていくことと思います。

私個人的には、現在中学1年の張本智和選手に注目しています。張本選手は小学6年間、世代別の全日本卓球選手権で6連覇しており、今年1月(当時は小学6年生)に行われた全日本卓球選手権一般の部では社会人を次々と撃破し、なんと4回戦まで進出しております。これは小学生では史上初の快挙です。4回戦では今回の五輪代表の丹羽選手に敗れましたが、丹羽選手は「小学生でもすごく強かった」と舌をまいていました。その1カ月前に行われた世界選手権男子代表選考会ではロンドン五輪代表の岸川聖也選手も破っており、現在の世界ランキングはすでに63位です。なお、18歳以下の世界ランキングでは13歳にして堂々の「1位」なのです!。すでに「未来の世界チャンピオン候補」と称されており、期待大です!。このまま成長を遂げれば、4年後の東京オリンピック代表の可能性も十分にあります。

それに対し、中国には今回の五輪には参加しておりませんが、次世代のエースとして樊振東(19歳)というとてつもない強者が控えています。ちなみに樊振東はこの2年間では対外的には3敗しかしていません...。そして、未だ樊振東に勝ったことのある日本選手はおらず、樊振東の現在の世界ランキングはなんと2位なのです!。なお、現在の世界ランキング1位は馬龍で、許昕は3位、張継科が4位となっております。そして水谷選手は現在、6位につけております。オリンピックの参加枠は各国3人まで(個人戦は2人まで)と決まっているため、樊振東は、今回のリオ五輪出場は先輩に譲る形となりましたが、4年後の東京五輪代表には間違いなく入ってくるでしょう。ちなみに現在の卓球界では、馬龍と許昕、張継科、そして樊振東を加えた4人がBIG4と呼ばれています。みんな中国人です...。

こんな最強の中国軍団に敵う選手がいるのか...、と半ば絶望的になってしまいますが、1980年代後半以降、約10年に渡って無敵とも思える中国選手に立ちはだかった男が一人だけいました。それが、先程紹介したワルドナーです。ワルドナーは1989年と1997年の世界選手権および1992年のバルセロナ五輪の男子個人戦シングルスで中国選手を蹴散らし、優勝を飾っております。特に1997年のマンチェスター世界選手権では1セットも落とさずに優勝するという偉業を成し遂げ、伝説となりました。ワルドナーは「卓球界のモーツァルト」とも称されており、本番の試合中に初めて思いついて繰り出す技などがあるため、同僚のスウェーデン選手さえも目を丸くしていました。そのため最強の中国がいくら本気でワルドナー対策を練っても、ワルドナーは試合ごとに新たな戦術や技を繰り出すため、さすがの中国も対応しきれなかったというわけです。ワルドナーは、野球界で云わばイチローのような存在です。1980年代後半までは、中国は自国の伝統であった「中国式ペン表ラバー前陣速攻」で世界を圧巻してきましたが、1989年のドルトムント世界選手権で当時、世界最強と言われていた中国の江加良をワルドナーが破り優勝して以来、中国はこの伝統打法に見切りをつけ、シェークハンドに移行していきました。なお、1985年と1987年の世界選手権個人戦シングルスで2連覇を成し遂げていた江加良はこの敗戦により、当時まだ26歳の若さでしたが、1989年の世界選手権後に引退に追い込まれました...。

現在ではほとんどの選手がシェークハンドを使用しておりますが、この流れを作ったのは紛れもなくワルドナーで、この男一人の出現が世界の卓球の歴史を塗り替えたといっても過言ではありません。中国男子が世界大会の団体戦で最後に負けたのは2000年に遡りますが、その時に勝ったのがワルドナーを擁するスウェーデンチームでした。スウェーデンにはもう一人、パーソンというワルドナーに次ぐ天才選手がおり、この2人で決勝戦で中国チームから3勝をもぎ取り、優勝しました。それでも3勝2敗の辛勝でした。それもそのはず、当時の中国チームは孔令輝と劉国梁のダブルエースを擁していたのです。しかしこの大一番で劉国梁はワルドナーとパーソンに敗れ、2敗を喫してしまいました。なお、パーソンは1991年の千葉世界選手権個人戦シングルスで優勝しております。スウェーデンチームはこのほかに1989年と1991年、1993年の世界選手権にもこの2人を擁し、男子団体戦で優勝しています。要するに、中国チームに勝つためには世界チャンピオンが2人必要ということになります...。ちなみにワルドナーは今年の2月に50歳で現役生活にピリオドを打ちました。最後はスウェーデンのプロリーグに所属していました。世界中の卓球ファンを魅了し、感動と夢を与えてくれたワルドナー選手には心から感謝です。長い間、大変お疲れ様でした。

蛇足ながら、私の父は元日本卓球ナショナルチームドクターで、世界選手権などにも帯同し、長きにわたり日本の代表選手をサポートさせて頂きました。そういったご縁で、現在の日本男子代表チームの倉嶋洋介監督や元世界チャンピオンの伊藤繁雄さんなどが、別府市にある私の実家を訪れてくれたこともあります。父と福原 愛選手との2ショットの写真もちゃっかりありました!。そんな父も高齢となり、2013年のパリ世界選手権帯同を最後に、チームドクターを退きました。

本当は女子選手についてもいろいろと言及したいところですが、私の卓球談義にはきりがないので、今日はこの辺でやめておきます(笑)。