以前にも本ブログで取り上げたことのある抗うつ薬エスケタミン(https://blog.goo.ne.jp/mori8701/s/%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3)が、米国の食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)にて本年の3月5日にうつ病治療薬として正式に承認されました!この抗うつ剤の開発・上市は、うつ病治療の歴史において数十年ぶりの大きな進歩と言えます。
というのも、本薬剤はこれまでの抗うつ薬の作用機序とは一線を画し、最短で2回の投与でうつ症状の著明な改善が得られるからです。しかも本薬剤の対象疾患は、他の抗うつ薬に反応しない「治療抵抗性うつ病」なのです!また、これまでの他の薬と比べて即効性がある点でも注目されています。本薬剤は点鼻薬で、既存の経口抗うつ薬と併用する形で投与されます。
アメリカでは長期試験も行われており、エスケタミンのうつ病再発予防効果も確認されています。
今後、日本でも本薬剤の開発・上市が大いに期待されます!
今月の19日に、産後うつ病の静脈注射治療薬ZULRESSO (brexanolone)が米国FDAにより承認されました。開発に成功したSage Therapeutics社は本年6月中の発売を見込んでいます。
産後うつ病は、最重度の場合には子供と無理心中してしまうこともあるため、本薬剤の開発成功はビッグニュースと言えます。
ただし、本薬剤の有害事象としてひどい眠気や突然の意識消失の恐れがあるため、同薬剤の点滴中はずっとパルスオキシメトリの使用(血中の酸素量測定)が必要とされます。また、点滴中は家族などに赤ちゃんを預ける必要があります。
ZULRESSOの投与は1度きりですが、ロイター通信によると1回の治療の定価は34,000ドルとのことです。
ZULRESSOの成分brexanoloneは人に生来備わるアロプレグナノロンと化学的に同一で、GABAA受容体からの電流を強め、神経に働きかけることが分かっています。
本邦でも承認が期待されますが、まだはっきりとした開発の動向は不詳です。分かり次第、本ブログに掲載したいと思っております。
今年の2月にLancetという権威のある医学雑誌に、抗うつ薬の効果と忍容性に関する論文が掲載されました。本論文では21種類の抗うつ薬が比較されて、順位づけされています。今回の研究では急性期のうつ病が対象疾患となっております。
効果の面での上位5位には、
1.アミトリプチロン(商品名;トリプタノール. 三環系抗うつ薬)
2.ミルタザピン(商品名;リフレックス/レメロン. NaSSA)
3.デュロキセチン(商品名;サインバルタ. SNRI)
4.ベンラファキシン(商品名;イフェクサーSR. SNRI)
5.パロキセチン(商品名;パキシル. SSRI)
の薬剤がランクインしておりました。
実は、1~4まではセロトニンとノルアドレナリンの両方に作用するお薬です。1のトリプタノールは確かに良く効くことで昔から有名ではありますが、古いタイプの抗うつ薬で、便秘や口渇、眠気など副作用も強いため、最近ではうつ病治療の第一選択薬にはなりにくいのが現状です。
なお、当院で使用頻度の高い抗うつ薬TOP3はミルタザピン、デュロキセチン、ベンラファキシンで、この3剤で現在使用中の全抗うつ薬の過半数を占めております。私自身も普段、うつ病の治療を行っていて、セロトニンとノルアドレナリンの両方に作用する抗うつ薬(SNRIやNaSSA)の方がセロトニンのみに作用する抗うつ薬(SSRI)よりもより効果が高いと実感しておりましたが、今回の報告はそれを裏付けてくれる結果となりました。
BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル;イギリス医師会雑誌)の今月号に、不安障害に対する抗うつ薬での治療期間に関する論文が掲載されていました。SSRIやSNRIは様々な不安障害にも効果を有しますが、抗うつ薬にて改善後、少なくとも1年間は薬物治療を継続しないと再発率が有意に高まることが報告されています。また、抗うつ薬をやめるとより早く再発するという結果も示されています。今回の研究では5200人の患者が1年間に渡り、調査されています。
抗うつ薬を1年間続けたグループはその間の再発率は16%でしたが、偽薬のグループの再発率は36%で、再発率に2倍以上の差が認められました。なお、今回の調査対象となった不安障害は、全般性不安障害と社交不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSDでした。これらの不安障害に対しては、薬物療法だけでは効果は往々にして不十分ですので、認知行動療法やEMDRが推奨されます。
今回もNEJM Journal Watchからの話題です。8月31日付の記事で、「児童・思春期の精神疾患に対するSSRIやSNRIでの治療効果は、統計学的にプラセボよりも幾分、上回る」と報じられました。これは、18歳以下の6800人を対象とし、メタ解析した結果です。対象疾患はうつ病と不安障害と強迫性障害の3つで、SSRIやSNRIは、うつ病に対してよりも不安障害に対してより効果的であったことも分かっております。
しかしながら、これは以前から指摘されていることではありますが、成人に比べると希死念慮などの重篤な副作用の出現頻度が高いことも同時に指摘されており、薬物治療を行う際にはリスクとベネフィットを十分に考慮した上での慎重な使用が望まれます。
論説委員は最後に、「児童・思春期のこの3疾患に対しては心理的介入も薬物療法も効果はほぼ同等であり、理想には及んでおらず、中でも特にうつ病は理想に及んでいない。よって、さらに効果的な治療法が明らかにされることが望まれる」と結んでおります。
確かに、児童・思春期のケースでは、家族背景や思春期心性などを十分に考慮した上での治療が必要となるため、心理療法にしても薬物療法にしても、様々な工夫や配慮が求められます。今後も研鑽を積み、少しでも皆様のお役に立てるよう努めて参りたいと思っております。
昨年12月8日に、SNRIに分類される“イフェクサーSR”という抗うつ薬が本邦において上市されました。実は海外ではスイスで1993年に発売が開始されており、2008年の世界医薬品売上高ランキングでは抗うつ薬のなかでは一位でした。海外ではトップシェアを誇っていた抗うつ薬がやっと日本でも遅ればせながら使えるようになったわけですが、果たしてその効果とは…。
結論から言うと、これまでに日本で発売されている抗うつ薬のなかでは一番効果があり、かつ副作用も少なく、非常に優れた抗うつ薬と言えます。当院ではすでに80名近い患者さんに使用しておりますが、効果の発現が早く、抗うつ効果も高く、かつ副作用も少ないと三拍子揃った抗うつ薬といえます。SSRIやSNRIは一般的に嘔気・嘔吐による副作用での脱落が多いのですが、当院ではこれまでに嘔吐した方はおらず、嘔気による副作用の中止は一例しかありません。イフェクサーは徐放性カプセルとなっており、カプセルが溶けて少しずつ薬が血中に放出されるため、概して副作用が少ないと推定されます。
また、イフェクサーは不安に対する効果も高く、海外ではパニック障害や社交不安障害、全般性不安障害にも適応を取得しております。残念ながら日本における適応症は現時点ではうつ病のみですが、パニック障害や社交不安障害、全般性不安障害はしばしばうつ病と併発するため、そのような症例にはイフェクサーを用いることができます。
遅れてやってきた主役ですが、今後はうつ病治療における第一選択薬になっていくことが予想されます。
ただし、イフェクサーにもデメリットはあります。それは、薬価が高いということと、75mgのカプセルの大きさが比較的大きく、患者さんの中には「飲みにくい」という声があることです。
SSRIのひとつであるレクサプロが、11月20日に社交不安障害に対する効能・効果が追加承認されました。これで、日本においては社交不安障害に適応を持つ薬剤はデプロメール/ルボックス、パキシルに続き、3剤目となりました。レクサプロは眠気等少なく、他の2剤と比較して忍容面で優れていますので、今後は社交不安障害の薬物治療の第一選択薬になり得る薬剤として期待しております。
ただし、先日のブログの記事で述べたように、社交不安障害は薬物療法だけで完治させるのは困難ですので、薬物療法に加えて認知行動療法を組み合わせて治療を行うのが理想と言えるでしょう。