厚生労働省が3月29日に、抗うつ薬の「効能・効果に関連する使用上の注意」の改訂を指示しました。内容としては、SSRI(ジェイゾロフト、デプロメール・ルボックス、レクサプロ)、SNRI(サインバルタ、トレドミン)、NaSSA(リフレックス・レメロン)の6剤に関して、「小児への投与は慎重に検討する」ということです。ただし、レクサプロ錠では12歳未満、他の5剤は18歳未満に対する注意事項となっております。SSRIの一つであるパキシルに関しては、18歳未満患者に対し今回と同様の対応をすでに取っておりましたので、今回の改訂対象には入っておりません。
この背景には、海外でのプラセボ対照臨床試験で有効性が確認できないとの結果が報告されたことを受けております。このような結果になった要因として、プラセボ(偽薬)効果が実薬との差がほとんど出ないほど高かったことがあげられます。ただし、6剤中レクサプロの1剤のみ、12歳~17歳で有効性を示すデータが報告されており、アメリカでは12~17歳のうつ病の治療薬として承認されています。
また、うつ病ではありませんが、強迫性障害の治療薬として、デプロメール・ルボックスは8歳以上の小児・青年期に対してアメリカ、ドイツ、イギリス、フランスにおいて適応を取得しています。
なお、日本うつ病学会と日本児童青年精神医学会が共同で発表した声明では、小児患者では「さまざまな重症度のものが含まれており、なかには心理的介入のみでは不十分なケースもあり、現に薬物療法の有効なケースも認められます。そのような場合は、薬物療法あるいは薬物療法と心理療法の併用を考慮すべきです」と指摘しております。同時に、SSRIなどの抗うつ薬を「積極的に選択するだけの合理的な根拠はありません。年齢により治療反応性が異なることを踏まえ、慎重に薬物療法を実施することが求めらます」と指摘しています。
つまり今回の改訂は、小児・青年期のうつ病治療に対して抗うつ薬の使用を否定するものではないけれど、まずは心理社会的支援や心理療法を実施し、うつ症状の程度に応じて、抗うつ薬を使用するかどうかを個々のケースに応じて慎重に検討する必要がある、ということでしょう。
実際に、私の臨床経験からも、18歳未満でもうつ症状が強い場合には抗うつ薬を使わざるを得ないケースがあり、実際に奏功することも少なからずあります。小児に限ったことではありませんが、薬剤を投与する際には、メリット(作用)とデメリット(副作用)を十分に検討することが求められます。