腐りの鎖。 『ZOO』

で、ロードショーでは、どうでしょう？　第２３２１回。

「なんか最近面白い映画観た？」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

 

『ZOO』

 

 

動物園の動物学者兄弟は妻を事故死で亡くしたことで物の腐敗に、事故を起こしたアルバは片足を失したことで兄弟にとり憑かれていくアート・ドラマ。

 

別題は、『A ZED & TWO NOUGHTS』。
『A ZOO: A ZED & TWO NOUGHTS』。
『動物園：一つのゼットと二つのゼロ』。

 

 

製作年：1985
製作国：イギリス
上映時間：115分

 

配給：ユーロスペース

 

 

物語。

80年代オランダ、ロッテルダム。
動物園で働く双子の動物学者オズワルドとオリバー兄弟は、交通事故で同時に妻を亡くしてしまう。
車を運転していた女性アルバは一命をとりとめたものの、片足を失った。
悲しみに暮れる兄弟は物が腐敗する様子を映像で記録することにとり憑かれていく。
兄弟はアルバから妻の最後を聞こうと彼女の下に通うようになる。

 

 

『コックと泥棒、その妻と愛人』など唯一無二の芸術的センスで数多くのアーティストに影響を与えたイギリスの名匠ピーター・グリーナウェイの初期作品。
長編４作目にして、日本で実質的に初めて紹介された作品でもある。

グリーナウェイとともに映画界で評価を築いたマイケル・ナイマンが今作でも音楽を担当している。

３人の主役の内、兄弟役は実際の兄弟であるディーコン兄弟が演じ、片足の女アルバ役は『終電車』『最後の晩餐』のアンドレア・フェレオルが演じた。

2024年に＜ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ　美を患った魔術師＞にて『英国式庭園殺人事件』（４Ｋリマスター）、『プロスペローの本』、『数に溺れて』（４Ｋリマスター）、『ＺＯＯ』の４作が特集上映された。

 

 

スタッフ。

監督・脚本：ピーター・グリーナウェイ
製作：ピーター・セインズバリ、キース・カサンダー
撮影：サッシャ・ヴィエルニ
編集：ジョンウィルソン
音楽：マイケル・ナイマン

 

 

出演。

ブライアン・ディーコン　（オズワルド・デュース）
エリック・ディーコン　（オリバー・デュース）
アンドレア・フェレオル　（アルバ・ビューイック）

フランシス・バーバー 　（ヴィーナスのミロ）
アグネス・ブルレット　（ベータ・ビューイック）
ジョス・アックランド　（ヴァン・ホイテン）
ジェラール・トーレン　（ファン・メーレン）
ジム・デヴィッドソン　（ジョシュア・プレート） 

 

 

『ZOO』を観賞。
80年代オランダ、動物学者兄弟は妻を事故死で失って物の腐敗に、事故を起こしたアルバは片足を失って兄弟にとり憑かれていくアート・ドラマ。
アートドラマ映画の巨匠ピーター・グリーナウェイの1985年の第４作。
分かりやすいとは言わないが、圧倒的な映像力となによりマイケル・ナイマンの音楽がすべてを倍増させる。
その音楽の繰り返しの陶酔、二曲が編集に合わせてガチャンガチャンと入れ替わって流れるトリップ感は映画ならではの目と耳をダンスさせる。
タイムラプスで腐っていく様を見るとき、そこに時間を超えた映像の醜悪な美を見る。だって、美しいんだもの。そこには命が蠢いている。
美しき戦慄と響きで得も言われぬ感情で画面に標本宜しく釘付けになる。
映画館はホルマリン漬けになる。
気づけば、次の腐敗を待ち望む。
静けさと走る音色を待ちわびる。
ストーリーはあるっちゃある。
兄弟が妻の死から、生物の死を知るために動物の死骸を集めていくのと、死の瞬間にそばにいたアルバに執着していく様を描き出す。
肉体の変化に囚われていく３人の姿はある意味でホラーと言える。クローネンバーグなどのボディ・ホラーの系譜だ。死に捕まれば脳は崩れていく。『バービー』とも通ずる発想。
そして、ジョジョ好きなら有名な引用されたシーンも見どころだったりする。
＜ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ　美を患った魔術師＞にて特集上映なんだが、４Ｋリマスターとそうでないのがあり、今作はリマスターではなかったが、デジタル化がうまく行っていて、まあまあきれいな画面を保っていた。そうフィルムは腐っていかない。腐っていくものが写されまくるのに。
画面は古典の様相を纏うが、この音楽との絡み合いは今聞いても新鮮だったりする。
40年の時間がこの映画の意味を変えたのだ。
そして、再び再生される。
オルガスムス＝小さな死でもある。
そうそう、ちょこちょこ挟まれる小話も面白いので、案外コメディなのかも。
終わりを知れば、始まりへとつながっていく。
死（Ｚ＝ゼット）から無（０＝ゼロ）へ。
渦を巻いて、フィルムは回る。
朝は四本の足、昼は三脚、夜は一本足、夜明けは足無し。
足の無い生き物にまとわりつかれるるるるるz◎。
ねんねんころりのZZZ。
命のように映画は終わる。
腐る鎖を断ち切れない一本。