音楽はいつだって世界中の人々の心に訴える、最も強力な言語の一つ
byジミー・ペイジ(ギタリスト)
開演前のベルが鳴り、注意のアナウンスが入る。本日は収録があるため、マイクやカメラが入っている
こと、「指揮者のタクトが振り終わるまで拍手はせず余韻をお楽しみください」と、暗にフライング
ブラボーを制している所など、昔より断然厳しくなっている。チラシのビニール袋もなくなっているし
チラシも受け取らなくてもいいくらいになっている。
1曲目児童合唱団が入り、オーケストラメンバーが入り、ピアニスト・声楽ソリストが入り、指揮者が入場。
静まり、タクトが振り下ろされる。現代曲なので、メロディー・リズム・ハーモニーが耳に心地よいという事は
ない。曲の内容からも混とんとしたものだし、心地よいものではない。それらのぶつかり合いの中で、救いはない。
テキストが重い内容なので、それをどう処理にしたらいいのか、聴き手に返される。向き合わざるを得ない。
「あなたは何のために生まれてきたのか」天国で決めてきた目的はとうに忘れている。そんな歌詞があって、
子供たちが、歌詞を話し始める。歌うのではない。ミニマル・ミュージックみたいに、普段話しているようなことを
話し始める。もの凄いエネルギーが迸る。ステージではそれが滝のように客席に届く。独奏ピアノも声楽と
オーケストラの間に入って、饒舌に語る。大した役回りで、オケと声楽の間を埋める。
母親役のアルト・ヴォイスが切々と子供に訴えかけ、「自分とあなたは永遠」たぶん最後まで・・・。
指揮棒が降りた後、突然目頭が熱くなった。重い話だ。曲というよりは振付のない音楽劇と言った方がわかりやすい
かもしれない。朗読とか、放送劇とかそんな感じ。
川瀬氏が作曲者の個展という演奏会でこの「子守歌」という作品を聞き、衝撃を受けて自分でも再演したい
と思い、常任であった名古屋の時と今回の神奈川で再演出来た。
責任ある立場の選択として聴かせたい1曲として、この作品の力を信じて疑わず、ステージにかけた。
常任の責任として失敗は許されない。それを超えても聴いてもらいたいという意志は固かった様だ。
オーケストラ・合唱・声楽家・ピアニスト、それぞれのバランスを取りながらまとめていった手腕は大したもの。
指揮しながら泣くわけにもいかないが、その時の情動を知恵に変えながら作品をまとめたのだろう。説得力は大した
物だと思う。作品の力も凄いが、演奏者側の表現力・演奏力も勝っていたと思う。これは放送録音になっているらしいが、
オン・エアされるかは不明。11月以降の「ブラボー・オーケストラ」(NHK-FM)で放送されるかもしれない。
生の気合が放送で伝わるかどうか。
20分の休憩の後、セッティングが変わり、交響曲の演奏になる。
リハの時の音とは違い、こなれている。ヴァイオリンは金属的でなくシルキーな感じに音が変わっている。
低域も良く音が客席まで飛んできている。金管も安定して聴いていられた。
リハーサルと同じように、川瀬さんはゆっくりと音を置くように曲を進めていった。4番は割と印象的な旋律も多く、
つかみやすくはある。マーラーで初めて聴いた交響曲がこの4番だった。しかしながら、ドキュメンタリー映画
「ユートピアノ」というNHKので放映されたものの中で使われていた。
その意味では部分的に知っていたが、全曲聴きとおしたのは、それからあとの事だった。
2楽章ではソロ・コンサートマスターがソロのところをヴァイオリンを持ち替えて弾いていた。
「トニーノ」それ以外の楽章は「ゴフリラー」という楽器だそう。座席の前に椅子を置き、
ある意味無造作にヴァイオリンを置いていた。高価な楽器だろうに・・・。そんな心配をよそに
曲は進んでいく。曲中はフォアシュピーラー(副主席奏者)が同じフレーズを弾いていたりする。
なんか複雑な曲だ。木管楽器やホルンなどもベルアップといい、朝顔を上に向けたりして演奏する部分があり、
そのようなこともやっていた。楽器の音程音色が安定している。アンサンブルもきっちりしている。
リハよりも当たり前だけど、本番の方が聴き映えがする。
3楽章ここは山場で20分以上静かな曲調が続く。眠くなってしまっても仕方なかったりする。
5番の4楽章のような美しく粘るとまた違うのだが、4番の3楽章は美しいけど、ある意内向的な
感じがし、違う部分を刺激する。3楽章が終わるか終わらないかの所で、盛り上がりがあり、
それを潮にソプラノがドアの向こうから「天上の生活」を歌いに来る。
市原さんの声質ハイ・トーンなど透明で美しい。適役なのかもしれない。歌いきって、余韻を持ちながら
その後指揮棒は置かれる。最後の音符と休符を数えて、ゆっくりと指揮棒は置かれた。
ゆっくり拍手は始まるが、ブラビー(女性のソリストに対して)がかからない。ある意味いいお客さん
なのかもしれない。2回目の呼び出しで声がかかったが、放送では流れないかもしれない。
いい演奏会だったと思う。常任指揮者の音楽ファンとしてのこの曲やりたいと、人として、音楽家として
なすべきことは何かという事を含めて、聴衆に投げかける。それも仕事。
今回はやり切った感があるのではないだろうか。
力のある人だと思う。
演奏後、メンバーを立たせてその労をねぎらった。拍手はいつまでも続いた。
参照
「涙止まらなかった」 鎮魂の子守歌再演 神奈川フィル川瀬賢太郎
http://www.kanaloco.jp/article/365185
ぶらあぼ10月号スペシャル・インタビューP90~91
byジミー・ペイジ(ギタリスト)
開演前のベルが鳴り、注意のアナウンスが入る。本日は収録があるため、マイクやカメラが入っている
こと、「指揮者のタクトが振り終わるまで拍手はせず余韻をお楽しみください」と、暗にフライング
ブラボーを制している所など、昔より断然厳しくなっている。チラシのビニール袋もなくなっているし
チラシも受け取らなくてもいいくらいになっている。
1曲目児童合唱団が入り、オーケストラメンバーが入り、ピアニスト・声楽ソリストが入り、指揮者が入場。
静まり、タクトが振り下ろされる。現代曲なので、メロディー・リズム・ハーモニーが耳に心地よいという事は
ない。曲の内容からも混とんとしたものだし、心地よいものではない。それらのぶつかり合いの中で、救いはない。
テキストが重い内容なので、それをどう処理にしたらいいのか、聴き手に返される。向き合わざるを得ない。
「あなたは何のために生まれてきたのか」天国で決めてきた目的はとうに忘れている。そんな歌詞があって、
子供たちが、歌詞を話し始める。歌うのではない。ミニマル・ミュージックみたいに、普段話しているようなことを
話し始める。もの凄いエネルギーが迸る。ステージではそれが滝のように客席に届く。独奏ピアノも声楽と
オーケストラの間に入って、饒舌に語る。大した役回りで、オケと声楽の間を埋める。
母親役のアルト・ヴォイスが切々と子供に訴えかけ、「自分とあなたは永遠」たぶん最後まで・・・。
指揮棒が降りた後、突然目頭が熱くなった。重い話だ。曲というよりは振付のない音楽劇と言った方がわかりやすい
かもしれない。朗読とか、放送劇とかそんな感じ。
川瀬氏が作曲者の個展という演奏会でこの「子守歌」という作品を聞き、衝撃を受けて自分でも再演したい
と思い、常任であった名古屋の時と今回の神奈川で再演出来た。
責任ある立場の選択として聴かせたい1曲として、この作品の力を信じて疑わず、ステージにかけた。
常任の責任として失敗は許されない。それを超えても聴いてもらいたいという意志は固かった様だ。
オーケストラ・合唱・声楽家・ピアニスト、それぞれのバランスを取りながらまとめていった手腕は大したもの。
指揮しながら泣くわけにもいかないが、その時の情動を知恵に変えながら作品をまとめたのだろう。説得力は大した
物だと思う。作品の力も凄いが、演奏者側の表現力・演奏力も勝っていたと思う。これは放送録音になっているらしいが、
オン・エアされるかは不明。11月以降の「ブラボー・オーケストラ」(NHK-FM)で放送されるかもしれない。
生の気合が放送で伝わるかどうか。
20分の休憩の後、セッティングが変わり、交響曲の演奏になる。
リハの時の音とは違い、こなれている。ヴァイオリンは金属的でなくシルキーな感じに音が変わっている。
低域も良く音が客席まで飛んできている。金管も安定して聴いていられた。
リハーサルと同じように、川瀬さんはゆっくりと音を置くように曲を進めていった。4番は割と印象的な旋律も多く、
つかみやすくはある。マーラーで初めて聴いた交響曲がこの4番だった。しかしながら、ドキュメンタリー映画
「ユートピアノ」というNHKので放映されたものの中で使われていた。
その意味では部分的に知っていたが、全曲聴きとおしたのは、それからあとの事だった。
2楽章ではソロ・コンサートマスターがソロのところをヴァイオリンを持ち替えて弾いていた。
「トニーノ」それ以外の楽章は「ゴフリラー」という楽器だそう。座席の前に椅子を置き、
ある意味無造作にヴァイオリンを置いていた。高価な楽器だろうに・・・。そんな心配をよそに
曲は進んでいく。曲中はフォアシュピーラー(副主席奏者)が同じフレーズを弾いていたりする。
なんか複雑な曲だ。木管楽器やホルンなどもベルアップといい、朝顔を上に向けたりして演奏する部分があり、
そのようなこともやっていた。楽器の音程音色が安定している。アンサンブルもきっちりしている。
リハよりも当たり前だけど、本番の方が聴き映えがする。
3楽章ここは山場で20分以上静かな曲調が続く。眠くなってしまっても仕方なかったりする。
5番の4楽章のような美しく粘るとまた違うのだが、4番の3楽章は美しいけど、ある意内向的な
感じがし、違う部分を刺激する。3楽章が終わるか終わらないかの所で、盛り上がりがあり、
それを潮にソプラノがドアの向こうから「天上の生活」を歌いに来る。
市原さんの声質ハイ・トーンなど透明で美しい。適役なのかもしれない。歌いきって、余韻を持ちながら
その後指揮棒は置かれる。最後の音符と休符を数えて、ゆっくりと指揮棒は置かれた。
ゆっくり拍手は始まるが、ブラビー(女性のソリストに対して)がかからない。ある意味いいお客さん
なのかもしれない。2回目の呼び出しで声がかかったが、放送では流れないかもしれない。
いい演奏会だったと思う。常任指揮者の音楽ファンとしてのこの曲やりたいと、人として、音楽家として
なすべきことは何かという事を含めて、聴衆に投げかける。それも仕事。
今回はやり切った感があるのではないだろうか。
力のある人だと思う。
演奏後、メンバーを立たせてその労をねぎらった。拍手はいつまでも続いた。
参照
「涙止まらなかった」 鎮魂の子守歌再演 神奈川フィル川瀬賢太郎
http://www.kanaloco.jp/article/365185
ぶらあぼ10月号スペシャル・インタビューP90~91