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スペースXの新型ロケット“スターシップ”が打ち上げ成功! 多数のタイル消失やフラップ損傷でも大気圏再突入・軟着水を成功

2024年06月07日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
日本時間2024年6月6日、アメリカの民間宇宙企業スペースX(SpaceX)社は、開発中の新型ロケット“スターシップ(Starship)”による第4回飛行試験を実施しました。

第1段の“スーパーヘビー(Super Heavy)”は海上への軟着水に成功。
第2弾の宇宙船“スターシップ(Starship)”本体は宇宙空間を飛行後、機体が一部破損しながらの大気圏再突入を経て海上への軟着水に成功しました。
図1.スターシップは第4回飛行試験のため、アメリカ・テキサス州ボカチカにあるスペースX社の施設“スターベース(Starbase)”を離床。第1段に搭載された33基のラプターエンジンのうち1基が停止したが、スターシップは無事宇宙へ向かった。(Credit: SpaceX)
図1.スターシップは第4回飛行試験のため、アメリカ・テキサス州ボカチカにあるスペースX社の施設“スターベース(Starbase)”を離床。第1段に搭載された33基のラプターエンジンのうち1基が停止したが、スターシップは無事宇宙へ向かった。(Credit: SpaceX)
“スターシップ”は、第1段の大型ロケット“スーパーヘビー”と第2段の大型宇宙船“スターシップ”で構成された、全長121メートルの再利用型の新型ロケット。
打ち上げシステムとしても“スターシップ”の名称で呼ばれています。

今回の無人飛行試験は、2023年4月、2023年11月、2024年3月に続く4回目のもの。
計画では、スターシップ宇宙船は最終的にインド洋へ発射約1時間5分後に着水することになっていました。

スターシップ宇宙船は、日本時間2024年6月6日21時50分(※1)にアメリカ・テキサス州ボカチカにあるスペースX社の施設“スターベース(Starbase)”を離床。
スーパーヘビーは33基搭載するラプターエンジンの1基が早々に停止したが、他のエンジンには波及せず順調に高度と速度を上げています。
※1.発射からの時刻などの情報はスペースX社のライブ配信を参照している。
打ち上げの約2分50秒後には、第1段のスーパーヘビーを分離。
第2段を点火しながら第1段を切り離すことで、推力の損失を抑える“ホットステージング”に成功しています。

その後、スーパーヘビーはブーストバック燃焼(飛行経路に対する逆噴射)を行って落下へ。
高度を下げて行き海上スレスレでエンジンの着陸噴射を実施し、打ち上げの約7分30秒後に計画通りメキシコ湾への軟着水に成功しています。
“スターシップ”は第1段と第2段の両方を再使用する計画で、一連の軌道打ち上げ試験では初の軟着水成功となりました。
図2.第1段のスーパーヘビーは、おなじみの“垂直着陸”により海上への軟着水を成功させた。(Credit: SpaceX)
図2.第1段のスーパーヘビーは、おなじみの“垂直着陸”により海上への軟着水を成功させた。(Credit: SpaceX)
一方、上昇を続けるスターシップ宇宙船は、打ち上げの8分30秒後に高度約150キロでエンジン燃焼を停止。
慣性飛行に移行したスターシップ宇宙船は順調に飛行し、高度約190キロの宇宙空間を巡行しています。
図3.宇宙空間を巡行するスターシップ。(Credit: SpaceX)
図3.宇宙空間を巡行するスターシップ。(Credit: SpaceX)
打ち上げの約45分後、スターシップ宇宙船の高度が100キロを下回り大気圏への再突入が始まります。
時速2万6000キロという猛スピードでの降下により、機体が前方の大気を圧縮することで生じるプラズマに包まれていました。
図4.猛スピードの機体に前方の大気が圧縮されて超高温になることで生じるプラズマ。(Credit: SpaceX)
図4.猛スピードの機体に前方の大気が圧縮されて超高温になることで生じるプラズマ。(Credit: SpaceX)
前回の試験では、機体がすぐに不安定化しましたが、今回はしばらく安定していました。
でも、大気が濃くなる高度60キロ付近から機体の一部が破損し始めることに…
ライブ映像に映し出されていたのは、フラップの一つが高熱によって損傷していく様子でした。

それでもスターシップ宇宙船は、姿勢制御を失うことなく大気を利用した減速を継続。
海面付近で機体を水平姿勢から垂直姿勢に起こして着陸噴射を行い、打ち上げの約1時間5分後にインド洋へ着水しました。
図5.機体の一部(おそらくフラップ)が破損されている様子。(Credit: SpaceX)
図5.機体の一部(おそらくフラップ)が破損されている様子。(Credit: SpaceX)
スペースXは公式X(旧Twitter)アカウントで、「着水が確認された。4回目の飛行テストを達成したチーム全員に祝福を」とコメント。
イーロン・マスク氏は「多くのタイルが失われ、フラップが損傷したにもかかわらず、スターシップは海に軟着陸した」と投稿しています。


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NASAの火星小型衛星ミッション“EscaPADE”はブルーオリジンの大型ロケット“ニューグレン”初号機に搭載され打ち上げへ

2024年05月03日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
EscaPADE(Ecape and Plasma Acceleration and Dynamics Explorers)は、火星を周回する軌道に2機の探査機を投入し、火星を取り巻く磁気圏などを観測するミッションです。

このミッションにより様々なデータを得ることで、太陽風が火星の磁気圏に与える影響などが理解できる見込み。
簡単に言えば、太陽風が火星の大気をどのように吹き飛ばし、火星の気候を変えてしまったのかが分かってくるはずです。

2機の探査機はRocket Labが開発し、大きさは冷蔵庫ほど、燃料込みの重さは約120キロとなり、打ち上げは9月29日が予定されています。

この2機の探査機を打ち上げるのが、ブルーオリジン社の新型ロケット“ニューグレン(New Glenn)”です。
ニューグレンは、直径7メートルの2段構成で全長82メートル、3段構成で全長95メートルとなる大型ロケット(3段構成はオプション)で、今回が初打ち上げとなります。
軌道投入能力は地球低軌道(LEO)で45トン、製紙以降軌道(GTO)で13トンで、1段目は再使用することを想定しています。

NASAは、スタートアップ企業の育成や大企業の競争力強化を目的に科学技術衛星の打ち上げを民間企業に委託する“VADR(Venture-class Acquisition of Dedicated and Rideshare)”の契約を進めています。

EscaPADEの打ち上げでも“VADR”での契約を活用し、ブルーオリジン社(※1)に2000万ドル(約31億円)を与えています。
ブルー・オリジン社は、インターネット小売り大手のアマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏が設立したアメリカの民間宇宙開発企業。
NASAのNick Benardini氏は、ケープカナベラル宇宙軍基地での探査機の組み立てや、火星の汚染を防ぐ保護要件について言及していますが、ブルーオリジン社による正式な打ち上げ日の発表はなし…

“ニューグレン”の開発は、当初のスケジュールから数年遅れているので、EscaPADEの打ち上げはスケジュール上のリスクも指摘されています。

ただ、ブルーオリジン社は2月に、新型の大型ロケットエンジン“BE-4(Blue Engine 4)”を搭載していない“ニューグレン”を、ケープカナベラルの第36打ち上げ施設に配備。
ブルーオリジンのニューグレン担当シニアバイスプレジデントのJarrett Jones氏によれば、初号機は2024年には打ち上げ予定としています。

“BE-4”エンジンは、アメリカの民間宇宙企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社の新型ロケット“ヴァルカン(Vulcan)”初号機の1段目に採用され、今年の1月に無事打ち上げられています。
なので、ニューグレンロケットより一足先に“BE-4”エンジンには成功事例ができた訳です。

さらに、ヴァルカンロケットは、アメリカの民間宇宙企業シエラ・スペースが開発した有翼の宇宙往還機“ドリーム・チェイサー(Dream Chaser)”の初号機“テナシティ”を搭載し、近々打ち上げられる予定です。

ひょっとすると、ニューグレンロケット向けの“BE-4”エンジンは、ヴァルカンロケットに持っていかれたのかもしれませんね。
ブルーオリジン社の大型ロケット“ニューグレン(New Glenn)”。(Credit: Blue Origin)
ブルーオリジン社の大型ロケット“ニューグレン(New Glenn)”。(Credit: Blue Origin)



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【打ち上げ成功】ボーイングの新型宇宙船“スターライナー”が有人飛行試験の打ち上げを成功!

2024年04月06日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
2024年6月6日更新
日本時間2024年6月5日、ボーイングの新型有人宇宙船“スターライナー(Calypso:カリプソ)”による有人飛行試験ミッション“Crew Flight Test(CFT)”の打ち上げが実施されました。
この有人飛行試験のクルーは以下の2名です。
コマンダーのNASAのバリー・ウィルモア(Barry Wilmore)宇宙飛行士
パイロットのスニータ・ウィリアムズ(Sunita Williams)宇宙飛行士

ユナイテッド・ローンチ・アライアンスの“アトラスV N22”ロケットに搭載された“スターライナー”は、日本時間2024年6月5日23時52分に打ち上げを実施。
発射の14分52秒後に“アトラスV”のセントール上段から分離し、発射31分後に計画通りスラスターを噴射して地球を周回する安定した軌道に入りました。
国際宇宙ステーションへのドッキングは、日本時間2024年6月7日1時15分頃になるそうです。

2024年6月2日更新
現地時間6月1日に予定していた“スターライナー”の打ち上げが、土壇場で延期されました。
中止が決定されたのは、打ち上げまで4分を切ったタイミング。
理由は、“地上発射シークエンサー”の不具合で、今後は地上支援装置を評価し、現地時間6月2日に情報をアップデートするそうです。
すぐに打ち上げ可能との判断が下されれば、次の打ち上げ機会は現地時間6月5日から6日になるそうです。

2024年5月16日更新
“スターライナー”の最初の有人飛行試験の打ち上げが、現地時間5月21日16時43分(日本時間22日5時43分)以降に再設定することが発表されました。
もともと飛行試験が予定されていたのは5月7日。
でも、ロケット上段の液体酸素のタンクの圧力調整バルブに異常が見つかり、17日以降の打ち上げとされていました。
11日にバルブの交換に成功しましたが、今度は“スターライナー”のサービスモジュールで少量のヘリウム漏れが新たに判明。
これにより、打ち上げが21日以降に再設定されたそうです。

2024年4月27日更新
有人宇宙船“スターライナー”による、有人飛行試験ミッション“Crew Flight Test(CFT)”の飛行試験準備完了審査(Flight Test Readiness Review)が完了したことを、2024年4月25日付でNASAとボーイング社が発表しました。
これにより、打ち上げは早ければ5月6日に実施される予定ですが、国際宇宙ステーションでは“スターライナー”の到着に備える準備として、現在国際宇宙ステーションに係留中の無人補給船“カーゴドラゴン”の出発と、有人宇宙飛行ミッション“クルー8”の“クルードラゴン”宇宙船の移動が行われる予定です。
当初、“カーゴドラゴン”の国際宇宙ステーション離脱は、アメリカ現地時間の2024年4月26日に予定されていましたが、着水予定海域の悪天候が予想されることから同4月28日に延期されていて、“スターライナー”による有人飛行ミッションのスケジュールにも影響する可能性が出ています。
なお、“スターライナー”を搭載するユナイテッド・ローンチ・アライアンスの“アトラスV(Atlas V)”ロケットについては、アメリカ現地時間の2024年4月26日にNASA、ボーイング社、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社による打ち上げリハーサルが実施されています。



ボーイング社の商業用旅客機“ストラトライナー”や“ドリームライナー”に連なる名前が付けられた開発中の有人宇宙船“スターライナー(CST-100 Starliner)”。
NASAによると、早ければ2024年5月6日(アメリカ現地時間)に、有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”による打ち上げを実施するそうです。(2024年4月2日発表)
図1.2022年5月に実施された無人飛行試験“OFT-2”で国際宇宙ステーションに接近するボーイング社の新型宇宙船“スターライナー”。(Credit: NASA TV)
図1.2022年5月に実施された無人飛行試験“OFT-2”で国際宇宙ステーションに接近するボーイング社の新型宇宙船“スターライナー”。(Credit: NASA TV)
“スターライー”はスペースX社の“クルードラゴン”とともに、NASAのコマーシャルクループログラム(宇宙飛行士の商業輸送契約)のもとで開発がスタートした4人乗りの有人宇宙船です。

初飛行は、2019年12月に実施された無人での軌道飛行試験“OFT(Orbital Flight Test)”。
このミッションでは、ソフトウェアの問題が生じたので計画されていた軌道に入ることができず…
“スターライナー”は国際宇宙ステーション“ISS”への到達を断念し地球に帰還しています。

2022年5月には、2回目の無人飛行試験“OFT-2(Orbital Flight Test 2)”が実施され、国際宇宙ステーションへのドッキングを含む打ち上げから帰還までの実証試験に成功しています。

2度の無人飛行試験に成功した“スターライナー”は、本格的な有人飛行の開始に先立ち、実際にクルーが搭乗する有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”の実施を控えていました。
“CFT”では、NASAのバリー・ウィルモア(Barry Wilmore)宇宙飛行士とスニータ・ウィリアムズ(Sunita Williams)宇宙飛行士がプライムクルーに、マイケル・フィンク(Edward Michael Finche)宇宙飛行士がバックアップクルーに任命されています。

NASAによると、“スターライナー”の有人飛行試験“CFT”の実施は、早ければアメリカの現地時間2024年5月6日。
フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から、ユナイテッド・ローンチ・アライアンスの“アトラスV(Atlas V)”ロケットに搭載され打ち上げ予定です。

国際宇宙ステーションへのドッキング成功後、バリー・ウィルモア宇宙飛行士とスニータ・ウィリアムズ宇宙飛行士は8日間ほど滞在してから地球へ帰還することになります。

有人飛行試験“CFT”に先立ち、国際宇宙ステーションでは2024年3月23日に到着した無人補給船“カーゴドラゴン”の出発や、有人宇宙飛行ミッション“クルー8”の“クルードラゴン”宇宙船を現在係留中のドッキングポートから別のドッキングポートに移動させるなど、“スターライナー”の到着に備えた準備が進められています。
図2.2024年3月25日時点で国際宇宙ステーションに係留中の宇宙船を示した図。“スターライナー”は、有人宇宙飛行ミッション“クルー8”の“クルードラゴン”宇宙船が係留されている“ハーモニー”モジュールの前方にドッキングする。このため、“カーゴドラゴン”補給船の出発後に空いたドッキングポートへ“クルードラゴン”宇宙船を移動させる作業が行われる。(Credit: NASA)
図2.2024年3月25日時点で国際宇宙ステーションに係留中の宇宙船を示した図。“スターライナー”は、有人宇宙飛行ミッション“クルー8”の“クルードラゴン”宇宙船が係留されている“ハーモニー”モジュールの前方にドッキングする。このため、“カーゴドラゴン”補給船の出発後に空いたドッキングポートへ“クルードラゴン”宇宙船を移動させる作業が行われる。(Credit: NASA)
2023年4月の時点では、有人飛行試験“CFT”の実施は同年7月21日以降に予定されていました。
でも、パラシュートの問題や機体全体で使われているテープの問題といった2つの問題が発覚したことで、延期が発表されています。

一旦は、2024年4月中旬に実施される予定でしたが、国際宇宙ステーションの運用スケジュールの見直しを受けて2024年5月に変更へ…
国際宇宙ステーションの混み具合によって決定されたようです。

ボーイング社では、コマーシャルクループログラム(宇宙飛行士の商業輸送契約)として、最大6機の“スターライナー”による宇宙飛行士の打ち上げを実施したいそうです。

今回の有人飛行試験“CFT”が成功すれば、“スターライナー”の正式な運行開始は2025年春頃。
その頃には、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の新型ロケット“ヴァルカン(Vulcan)”により“スターライナー”の打ち上げが実施されているのかもしれませんね。


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小型スペースシャトル“ドリーム・チェイサー”が初試験打ち上げへ前進! 初号機“テナシティ”がケネディ宇宙センターに到着

2023年11月05日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
2024年5月24日更新
“ドリーム・チェイサー”の初号機“テナシティ(Tenacity)”がケネディ宇宙センターに到着したそうです。
“テナシティ”による“ドリーム・チェイサー”の初飛行が予定されているのは2024年後半。
7800ポンド(約3.5トン)の物資を搭載した“テナシティ”は、ケープカナベラル宇宙軍基地からヴァルカンロケットにより打ち上げられます。
“テナシティ”は、操縦性能の技術実証を行った後、国際宇宙ステーションのロボットアームを使って把持・結合。
約45日後に国際宇宙ステーションを離れて、ケネディ宇宙センターの打ち上げ着陸施設(旧シャトル着陸施設)へ帰還することになります。
NASAのケネディ宇宙センターに到着した“ドリーム・チェイサー”の初号機“テナシティ”。(Credit: NASA/Kim Shiflett)
NASAのケネディ宇宙センターに到着した“ドリーム・チェイサー”の初号機“テナシティ”。(Credit: NASA/Kim Shiflett)


2024年5月11日更新
オハイオ州にあるNASAのニール・アームストロング試験施設に持ち込まれていた“ドリーム・チェイサー”の初号機“テナシティ(Tenacity)”は、衝撃や振動、熱真空試験など、一連の評価を完了。
現在は、2024年後半に予定されている初打ち上げに向け、2機の“ドリーム・チェイサー”をフロリダ州のケネディ宇宙センターに輸送する準備を進めています。
ちなみに、“ドリーム・チェイサー”の2号機“崇敬や恭順を意味するレヴァレンス(Reverence)”はコロラド州ルイビルのシエラ・スペース社の工場で製造されています。
ケネディ宇宙センターで“ドリーム・チェイサー”は、音響テスト、電磁干渉と互換性のテスト、熱保護システムの最終検査がを受けることになります。
その後、初テスト飛行となる“商業輸送サービス2”が予定されています
“ドリーム・チェイサー”を搭載するヴァルカンロケット初号機の打ち上げは成功しているので、もうスケジュールの延期はないはずですよ。
ニール・アームストロング試験施設にある熱真空試験室内に積み重ねられたドリーム・チェイサー初号機“テナシティ(Tenacity)”とカーゴモジュール“シューティング・スター(Shooting Star)”。(Credit: Sierra Space)
ニール・アームストロング試験施設にある熱真空試験室内に積み重ねられたドリーム・チェイサー初号機“テナシティ(Tenacity)”とカーゴモジュール“シューティング・スター(Shooting Star)”。(Credit: Sierra Space)


2023年11月5日作成
小型スペースシャトル“ドリーム・チェイサー”が初試験打ち上げへ前進! 初号機“テナシティ”は組み立てを終え数週間の内に試験施設へ
民間宇宙ステーションの開発などを手掛ける航空宇宙企業シエラ・スペース(Sierra Space)社が、スペースシャトルの1/3ほどの大きさの宇宙往還機“ドリーム・チェイサー(Dream Chaser)”の初テスト飛行に向けて準備を進めているようです。

初号機“テナシティ”の機体組み立ては完了。
今後、数週間の内にオハイオ州にあるNASAのニール・アームストロング試験施設へ持ち込まれる段階にきているようです。

“ドリーム・チェイサー”の初号機の名前は、“粘り強さ”や“不屈”を意味するテナシティ(Tenacity)。
国際宇宙ステーションの脱出艇“HL-20”から始まり、国際宇宙ステーションへ向かう有人宇宙船へのチャレンジを経て、“商業輸送サービス2”の契約を獲得して補給船として復活した“ドリーム・チェイサー”にピッタリの名前ですね。
初号機の完成を祝うシエラ・スペース社の社員たち
シエラ・スペース社は、長年の熱意、数えきれないほどの画期的なイノベーション、そして絶え間ない努力の結晶“ドリーム・チェイサー”を誇らしげに公開。初号機“テナシティ”は完成し、数週間以内にオハイオ州にあるNASAのニール・アームストロング試験施設に環境テストのために出荷される。(Credit: Sierra Space)


小型スペースシャトル“ドリーム・チェイサー”

シエラ・スペース社が開発を進めている有翼の宇宙往還機が“ドリーム・チェイサー”です。

“ドリーム・チェイサー”は、小さいながらも翼を持っていて、胴体そのものが揚力を生む“リフティング・ボディ”を持っています。
スペースシャトルのように宇宙から滑走路に着陸し、15回以上の再使用をこなす小型シャトルで、国際宇宙ステーションへの輸送ミッションや、大分空港での運用の検討も進められていました。

製造はロッキード・マーティンが担当し、社内にある特別開発チーム“スカンク・ワークス”が培ってきた技術が活用されるそうです。

全長は約9メートル、翼の長さは約7メートルで、スペースシャトルの1/3ほどという小ささ。
翼は空母艦載機のように折りたたむことができ、既存のロケットのフェアリングの中に収められて打ち上げられます。
有人宇宙船版の“ドリーム・チェイサー”はアトラスVロケットの先端にむき出しの状態で搭載される設計だった。
帰還時には翼を広げ、スペースシャトルが着陸していたケネディ宇宙センターのシャトル着陸施設(滑走路)に着陸することになります。


民間企業による有人宇宙船の実用化

国際宇宙ステーションへの物資輸送を行うため開発が進められている“ドリーム・チェイサー”。
もともとはNASAの“民間企業による有人宇宙船の実用化を支援”計画の下で、開発が進められていた宇宙船のひとつでした。

カプセル型宇宙船になるスペースX社の“ドラゴン”やボーイング社の“CST-100”とは異なり、スペースシャトルに似たリフティング・ボディを持つ“ドリーム・チェイサー”。
ベースになったのは、かつてNASAのラングレー研究所が国際宇宙ステーションからの緊急帰還用として開発を進めていた、“HL-20”という宇宙船でした。

“ドリーム・チェイサー”の源流は、1960年代のソ連で開発されていた実験機“BOR”にまでさかのぼることができます。
1986年になり、“BOR”とNASAなどがかねてより研究していた胴体そのものが揚力を生む“リフティング・ボディ”機との融合が図られ、国際宇宙ステーションの脱出艇“HL-20”の開発を開始。
でも、1990年には資金難により開発は中止… 以来、“HL-20”の存在は長らく忘れ去られることになります。

2005年になり、スペースデヴ社というベンチャー企業が“HL-20”の研究成果や試験機などを受け継ぎ“ドリーム・チェイサー”としてよみがえり、2008年にはスペースデヴ社をシエラ・ネバダ社が買収。
現在はシエラ・ネバダ社から分離したシエラ・スペース社が、国際宇宙ステーションへ向かう補給船として開発を行っています。

このような経緯から分かるように、もともと“ドリーム・チェイサー”は有人宇宙船として開発されていて、シエラ・スペース社も当初は国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送用としてNASAに売り込んでいました。

地球低軌道まで7人の乗員を輸送でき、滑走路へ着陸できる上に、再使用も可能。
そして輸送能力の高さからも“ドリーム・チェイサー”は注目されていました。


有人宇宙船を貨物専用にした“ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム”

実際にNASAからの発注が行われるまでには、ラウンド形式でいくつかの審査が行われています。
その最終候補まで残った“ドリーム・チェイサー”ですが、最終的にNASAがこの計画で選んだのはボーイング社とスペースX社でした。

ここで、小型のスペースシャトルが宇宙へ行くチャンスは途切れてしまうことに…
でも、シエラ・ネバダ社は諦めていませんでした。
“ドリーム・チェイサー”を貨物専用にした“ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム”を発表するんですねー

この機体で、NASAによる国際宇宙ステーションへの貨物輸送を民間に委託する計画“商業輸送サービス2”の契約獲得を狙い、2016年見事に勝ち取ることになります。

一方、開発はやや遅れていて、2013年に実施されたヘリコプターを使った滑空試験飛行では着陸に失敗。
2013年10月の試験飛行では、順調に滑空飛行していたが左側の車輪が出ず着陸には失敗。左側の翼を擦る形で着陸している。2017年11月に実施された滑空試験飛行に成功している。
2017年11月に行われた2度目の滑空試験飛行。“ドリーム・チェイサー”はエドワーズ空軍基地滑走路22Lへの着陸を成功させている。(Credit: SNC)
2017年11月に行われた2度目の滑空試験飛行。“ドリーム・チェイサー”はエドワーズ空軍基地滑走路22Lへの着陸を成功させている。(Credit: SNC)
その後、設計が二転三転するなどして、当初2019年の打ち上げ予定が、2021年までズレてしまいます。

現在開発が進んでいる無人の補給船“ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム”。
シャトル型の機体の後部にはカーゴ・モジュール“シューティング・スター(Shooting Star)”を持っていて、機体とカーゴ・モジュールを合わせると与圧物資を約5000キロ、非与圧物資を約500キロ、合計で約5500キロの物資を国際宇宙ステーションに運ぶことができます。

また、シャトル型の機体を活かして、約1750キロの物資を国際宇宙ステーションから地球に持ち帰ることもできます。

特に注目すべき点は、“ドリーム・チェイサー”は翼を使って大気圏内を滑空飛行し、滑走路に着陸することができること。
これにより、搭載物にかかる加速度は1.5Gと小さくなるので、壊れやすい物資なども安全に持ち帰ることができるんですねー
さらに、着陸後すぐに持ち帰った物資を取り出せるという特徴も持っています。

もちろん、国際宇宙ステーションからの物資回収は、スペースX社の“ドラゴン”補給船でも行えます。
でも、“ドラゴン”補給船はカプセル型なので加速度が大きく、また海に着水するため、“ドリーム・チェイサー”のこうした特徴は唯一無二のものになります。

なお、カーゴ・モジュールは使い捨てで、帰還時には国際宇宙ステーションで発生したゴミなどを搭載。
シャトルとの分離後には地球の大気圏に再突入し、ゴミと共に燃え尽きることになります。


初となる試験打ち上げに向けて

現在、“ドリーム・チェイサー”の初号機“テナシティ”は組み立てを完了し、数週間の内にオハイオ州にあるNASAのニール・アームストロング試験施設へ持ち込まれる段階にきています。

NASAは、この試験場で1~3か月ほどの期間をかけて振動や音、厳しい熱、真空環境での耐久性などを試験する予定です。
“テナシティ”は、2023年12月15日に環境試験を開始。カーゴモジュール“Shooting Star”と積み重ねられた打ち上げ形態で振動テストが進められている。
一連の試験をクリアすれば、“ドリーム・チェイサー”はフロリダ州にあるケネディ宇宙センターに移送され、初となる試験打ち上げに備えることになります。

そこで、気になるのは打ち上げの日程。
この打ち上げは、今のところ4月の実施が予定されているものの、スケジュールが予定通りに進むかどうかは分かりません。

もともと、“ドリーム・チェイサー”は2023年に初フライトが予定されていました。
ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社の新型ロケット“ヴァルカン”の2度目のミッションに搭載され、フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げる予定でした。
この試験打ち上げは、NASAによる国際宇宙ステーションへの貨物輸送を民間に委託する計画“商業輸送サービス2”契約下で行われるもの。“商業輸送サービス2”では、“ドリーム・チェイサー”を使い最低6回の補給ミッションを行うことが決まっている。
でも、ヴァルカンロケットも開発が遅れているんですねー
初の打ち上げを12月に予定している段階です。
“ヴァルカン”は第2段の“セントールV”の試験中に水素が漏洩して爆発、これを受けて初打ち上げが延期されている。
なので、ここで何か問題が見つかれば、“ドリーム・チェイサー”の初飛行にも影響する可能性があります。

これまで、ヴァルカンロケットの初打ち上げは延期を繰り返している状況なので、“ドリーム・チェイサー”の初打ち上げもいつになるか不安になってきます。

有人宇宙船版の“ドリーム・チェイサー”は、アトラスVロケットに搭載される設計でした。
ヴァルカンロケットが間に合わないときには、実績のあるアトラスVロケットに乗っけて、さっさと打ち上げてしまえばいいのに!
っと思ってしまいますが、そういう訳にはいかないのでしょうね。


諦めていない地球低軌道への有人飛行

これらの関門を無地に突破できれば、次の目標は国際宇宙ステーションへのドッキングになります。

シエラ・スペース社は、将来的に“ドリーム・チェイサー”による地球低軌道への有人飛行も可能にしたいと考えています。

そこで、期待されるのが、ジェフ・ベゾス氏のブルー・オリジン社との共同プロジェクト。
こちらは、国際宇宙ステーションの後継になることが期待されている商用宇宙ステーション“オービタル・リーフ(Orbital Reef)”に向かう、有人の“ドリーム・チェイサー・ミッション”です。

シエラ・スペース社では有人機版“ドリーム・チェイサー”の開発も継続しているので、補給機版の実績や、今後の需要の変化などによって、宇宙飛行士を乗せて飛ぶ可能性もありそうです。

現状、NASAが国際宇宙ステーションへ荷物や人員を輸送できる宇宙船は、スペースX社のドラゴン宇宙船のみ。
ボーイング社が開発中の有人宇宙船“スターライナー(CST-100 Starliner)”は、有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”の実施を、2024年4月以降に延期… これにより運行開始時期も2024年夏から2025年初頭へと延期されています。

新型コロナのパンデミックもあり、その後の開発もまた遅延に見舞われたものの、シエラ・スペース社では“ドリーム・チェイサー”の2番目の試験打ち上げ用の機体を、2026年の完成を目標として準備に取り掛かっているようです。

国際宇宙ステーションの緊急脱出艇から有人宇宙船を経て、無人補給船となって宇宙へ飛び立つことになる“ドリーム・チェイサー”。
運用までには、初の試験打ち上げや大気圏再突入、国際宇宙ステーションとのドッキングなど、まだまだ試験や開発が続くことになります。


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ボーイングの新型宇宙船“スターライナー”の有人飛行試験は2024年3月以降になるようです

2023年08月17日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
2023年10月17日更新

ボーイング社の商業用旅客機“ストラトライナー”や“ドリームライナー”に連なる名前が付けられた開発中の有人宇宙船“スターライナー(CST-100 Starliner)”。
スペースシャトルのような翼は持たない、スペースX社の“クルードラゴン”と同じカプセル型の宇宙船です。

NASAによると、“スターライナー”による有人飛行試験は2024年3月以降に実施される見込みのようです。
“スターライナー”による有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”の実施を、2024年4月以降に延期したことをNASAが発表しました。
これにより運行開始時期も2024年夏から2025年初頭へと延期されています。

ボーイングの新型宇宙船“スターライナー”、有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”で使用される機体の組み立て作業の様子。2023年1月19日撮影)。(Credit: Boeing/John Grant)
ボーイングの新型宇宙船“スターライナー”、有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”で使用される機体の組み立て作業の様子。2023年1月19日撮影)。(Credit: Boeing/John Grant)

無人飛行試験を終えて有人飛行試験へ

“スターライー”はスペースX社の“クルードラゴン”とともに、NASAのコマーシャルクループログラム(宇宙飛行士の商業輸送契約)のもとで開発がスタートした有人宇宙船です。

初飛行は、2019年12月に実施された無人での軌道飛行試験“OFT(Orbital Flight Test)”。
このミッションでは、ソフトウェアの問題が生じたので計画されていた軌道に入ることができず…
“スターライナー”は国際宇宙ステーション“ISS”への到達を断念し地球に帰還しています。

2022年5月には、2回目の無人飛行試験“OFT-2(Orbital Flight Test 2)”が実施され、国際宇宙ステーションへのドッキングを含む打ち上げから帰還までの実証試験に成功しています。

2度の無人飛行試験に成功した“スターライナー”は、本格的な有人飛行の開始に先立ち、実際にクルーが登場する有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”の実施を控えていました。

“CFT”では、NASAのバリー・ウィルモア(Barry Wilmore)宇宙飛行士とスニータ・ウィリアムズ(Sunita Williams)宇宙飛行士がプライムクルーに、マイケル・フィンク(Edward Michael Finche)宇宙飛行士がバックアップクルーに任命されています。

有人飛行試験延期の原因となった2つの問題

2023年4月の時点では、“CFT”の実施は同年7月21日以降に予定されていました。
でも、2つの問題が発覚したことで同年6月に延期が発表されていました。

1つ目は、パラシュートの問題。
サスペンションライン(吊索)と機体を繋ぐソフトリンクと呼ばれる部品の強度の分析に誤りがあり、帰還時に展開される3つのパラシュートのうち1つが何らかの理由で失われた際に、残る2つのパラシュートのソフトリンクに求められる安全マージンが確保できていなかったようです。

2つ目は、ワイヤーハーネスを結束・保護するために機体全体で使われているテープの問題。
試験の結果、粘着剤が可燃性だったことが判明したそうです。
無人の“OFT-2(Orbital Flight Test 2)”ミッションを終えてホワイトサンズ宇宙港に着陸する新型宇宙船“スターライナー”(Credit: NASA/Bill Ingalls)
無人の“OFT-2(Orbital Flight Test 2)”ミッションを終えてホワイトサンズ宇宙港に着陸する新型宇宙船“スターライナー”(Credit: NASA/Bill Ingalls)
問題が判明したソフトリンクとテープは、2022年5月の“OFT-2”でも使用されていましたが、この時は特に異常が生じるようなことはありませんでした。

これらの問題が“CFT”の実施直前になってから見つかった理由について、設計の初期段階における“ある種の楽観的な意識”と説明されています。

結局、2023年8月7日(現地時間)にNASAが開催したメディアブリーフィング及び同日付のプレスリリースで、“CFT”の実施が2024年3月以降になるという見通しが発表されることに。

問題点の1つパラシュートのソフトリンクは、設計を改めたうえで現在試験が進められ、2023年11月後半には降下試験も実施予定になっています。

もう1つの問題点のテープは、全体の約85%が除去されたそうです。
ただ、一部に除去することが難しいテープもあり、場合によっては損傷を招く可能性もあるので、場所に応じてテープをコーティングしたり別のテープを巻き付けたりといった、可燃性を軽減するための措置が取られることになります。

問題のテープは環境によっては可燃性があるということですが、NASAのデータベースにおけるテープの可燃性に関する項目は“少し矛盾していて”、そのことが危険性のある環境での使用に結び付いたと説明されています。

ただ、仮に2024年3月の段階で“スターライナー”の打ち上げ準備が整ったとしても、国際宇宙ステーションへ飛行する他の宇宙船のスケジュールとの兼ね合いもあるので、すぐに“CFT”が実施されるとは限りません。

例年3月は、ロシアの宇宙船“ソユーズ”による国際宇宙ステーション長期滞在クルーの交代が行われる時期なので、“CFT”は2024年4月以降にずれ込む可能性もあります。

“CFT”がまだなので運用飛行の開始について判断するのは難しいですが、順調に進めば2024年末頃もあり得るのかもしれませんね。 


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