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“怖いバービー”の正体は? ブラックホール? 何もないところに突然現れ、長期間に渡って大量のエネルギーを放出している天体

2023年06月21日 | ブラックホール
超新星爆発やクエーサーをはじめ、宇宙には高エネルギーな天文現象が数多くあります。

このような天文現象を一度に多数観測することも、観測能力の向上とともに容易になってきました。

でも、観測される数が増えたことで、これまでの分類には当てはまらない天文現象も多数見つかることに…
新たな謎も増えることになったんですねー

これらの天文現象に関する理解は、今もなお発展途上なようです。

突然現れた天文現象“怖いバービー”

こぎつね座に現れた天文現象“AT 20211wx”も、そんな謎多き天体の1つです。

“AT 20211wx”という名称は突発天体に付けられるカタログ名になります(ATは突発天体を意味するAstronomical Transientの略)。

この天体は、他にも小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)による“ATLAS20bkdj”、ツビッキー掃天観測(ZTF)による“ZTF20abrbeie”、パンスターズ(Pan-STARRS)による“PS22iin”といった別名を持っています。

特にZTFによるカタログ名の末尾は“バービー(Barbie)”に似ていることから、“AT 20211wx”には“怖いバービー(Scary Barbie)”という通称が付けられています。

何もないところに突然現れ、長期間に渡って明るく輝く天体

“AT 20211wx”はATLASによって2020年11月10日に初めて観測されましたが、その後3年が経っても明るく輝いています。

通常、超新星が明るく輝く期間は長くても数か月であることを考えると、長期間に渡る“AT 20211wx”の輝きは注目すべき現象でした。

また、通常の超新星であれば、爆発した星が属していた銀河なども観測されるものです。

でも、“AT 20211wx”の場合、その位置に天体が観測された記録はありませんでした。

つまり“AT 20211wx”は、「何もないところに突然現れ、長期間に渡って大量のエネルギーを放出しているように見える天体」っということになるんですねー
“AT 20211wx”が観測された前後の天文画像。“AT 20211wx”が現れた場所に(左側)、発生前は何も写っていないように見える(中央および右側)。(Credit: Subrayan, et.al.)
“AT 20211wx”が観測された前後の天文画像。“AT 20211wx”が現れた場所に(左側)、発生前は何も写っていないように見える(中央および右側)。(Credit: Subrayan, et.al.)
“AT 20211wx”の見た目の明るさと、地球から約80億光年という距離をもとに計算すると、“AT 20211wx”のピーク時の明るさは7×10の38乗W、エネルギーの総放出量が1.5×10の46乗Jであると推定されます。

これは、ピーク時の明るさが太陽の約2兆倍であり典型的なクエーサーに匹敵し、エネルギーの総放出量は典型的な超新星爆発の100倍に匹敵する値になります。

ピーク時の明るさと総エネルギー、そして過去その位置に天体が見つかっていないという点で、“AT 20211wx”は非常に謎の多い天体と言えます。

“AT 20211wx”の明るさやエネルギーの値は、クエーサー以外の天体では観測史上最大規模であり、研究チームはこれを“宇宙最大”の爆発だと表現しています。

物質が降着したブラックホールの活動

パデュー大学のBhagya M. Subrayanさんたちの研究チーム、およびサウサンプトン大学のP. Wisemanさんたちの研究チームは、それぞれ独立して“AT 20211wx”の研究を進めていました。

“AT 20211wx”の正体については、2つの研究チームの見解は一致。
ブラックホールの一時的な活動であると考えています。

ブラックホールそのものは、電磁波を何も放射しないので直接観測できません。
でも、ブラックホールの周辺に物質が供給されると、強い重力によって激しくかき回されて高温に加熱された物質からは、X線から電波まで様々な波長の電磁波としてエネルギーが放出されます。
ブラックホールに物質が降着している様子(イメージ図)。“AT 20211wx”もこのような天体であると想像される。(Credit: John A. Paice)
ブラックホールに物質が降着している様子(イメージ図)。“AT 20211wx”もこのような天体であると想像される。(Credit: John A. Paice)
これを遠く離れた私たちが見れば、非常に大規模なエネルギー放出現象が突然現れたように見えるわけです。

ただ、両チームの結論は細かい点で異なっていました。

Subrayanさんたちの研究チームは、ブラックホールの質量を太陽の1億7000万倍、供給された物質は太陽の約14.28倍の質量を持つ恒星だと推定。

これに対してWisemanさんたちの研究チームは、ブラックホールの質量は太陽の1億倍から10億倍あり、供給された物質も恒星のような一塊の物体ではなく、水素やチリを含むガスのような変形しやすい物体だと推定しています。

Subrayanさんたちの研究チームよりも後に論文が公開されたWisemanさんたちの研究チームによれば、X線以外の波長での観測結果がチリの存在を示唆していることや、ガス状の物質が降着円盤を構築しているモデルの方が、潮汐力によって破壊された恒星のモデルよりも観測結果と適合していることを根拠に、ブラックホールにガスが降着した説を提唱しているそうです。
潮汐力は、重力によって起こる二次的効果の一種。天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力とに差があるため起こる。
超大質量ブラックホールに星が十分に接近したことで、ブラックホールの潮汐力に引きちぎられてスパゲッティ化する天文現象を潮汐破壊現象(星潮汐破壊現象)という。破壊された星の残骸はブラックホールへ取り込まれることになる。ブラックホールへ落下する物質は角運動を持つので、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。
ブラックホールの質量や供給された物質の正体については、現在の観測データで結論を出すには不十分とのこと。
より多くの継続観測が求められているので、“AT 20211wx”の正体に迫るにはもう少し時間が掛かりそうですね。


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