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なぜ、ほうおう座銀河団では大量のガスが冷えているのに、ブラックホールのジェットが存在しているのか?

2020年09月04日 | 銀河・銀河団
地球から約59億光年彼方に位置する年老いて冷えてしまった“ほうおう座銀河団”。
この銀河団の中心にある巨大銀河に、若いブラックホールのジェットが発見されました。
ジェットが噴き出すと、そのエネルギーにより銀河団中心部のガスは温められるはず…
でも、“ほうおう座銀河団”の中心部では大量のガスが例外的に冷えていたんですねー
この発見は、銀河団の冷却と過熱についてのこれまでの理解を覆すもの。
さらなる謎をもたらした新たな知見になるようです。
ほうおう座銀河団の中心にある銀河から噴き出すジェットのイメージ図。(Credit: 国立天文台)
ほうおう座銀河団の中心にある銀河から噴き出すジェットのイメージ図。(Credit: 国立天文台)


銀河団の冷却と加熱

銀河団はダークマターの強い重力によって、数十個から数千個の銀河が集まって形作られたと考えられています。

また、ダークマターは銀河団内に銀河だけでなく、1千万度を超えるような高温のガスも大量に閉じ込めていて、強いX線を放射しています。

X線が放射されると、ガスからは次第に熱が失われていきます。
その結果、圧力が低下して均衡を保てなくなると、ガスはダークマターの重力でさらに中心部に落ち込むことに。
中心部にガスが集まるとX線の放射がより強まり、ガスの熱が失われるということが繰り返されていきます。

こうして、冷えたガスが中心の銀河に降り積もると何が起こるのでしょうか?
星は冷えたガスから形成されるので、大量の星の形成“スターバースト”が発生すると考えられています。

ところが、天の川銀河近傍にある銀河団では、大量の冷えたガスと“スターバースト”現象は見つかっていません。

それは、銀河団中心に位置する銀河に超大質量ブラックホールが存在しているから。
ブラックホールからジェットが噴き出してエネルギーを供給し、ガスが冷えないようにしているんですねー


爆発的に星が形成されている巨大銀河

今回の研究で着目しているのは、地球から約59億光年彼方に位置する年老いて冷えてしまった“ほうおう座銀河団”。
理由は、“ほうおう座銀河団”が天の川銀河の近傍銀河団と、状況が大きく異なっていたからです。

その“ほうおう座銀河団”の中心には、通常の1000倍という速さで爆発的に星が形成されている巨大銀河存在しています。

アルマ望遠鏡を用いたこれまでの観測からも、“ほうおう座銀河団”の中心部では、例外的に大量のガスが冷えていることが分かっていました。
この冷えた大量のガスが、巨大銀河に見られる爆発的な星形成の種になっているようです。

一方、その巨大銀河の中心にも超大質量ブラックホールが確認されています。
しかも、毎年太陽60個分の質量を取り込んで急成長しているという超大物なんですねー

では、このブラックホールにジェットは存在していないのでしょうか?

これだけの質量を取り込んでいるので、天の川銀河近傍の銀河団の銀河のようにジェットを噴き出しているはずです。
でも、これまでの観測では解像度や感度が足りず、ジェットの存在は確認されていませんでした。


ガスは冷えているのにジェットが存在している

そこで研究チームが着想を得たのは、水沢VLBI観測所で行っている比較的高い周波数によるジェットの観測。
これまで用いられていたジェット全体像の観測のための周波数よりも、さらに高い周波数の電波を長時間にわたって観測するという手法を用いています。

選ばれたのは、より長い観測時間を得られる南半球の電波干渉計“オーストラリア・コンパクトアレイ(ATCA)”。
その結果、“ほうおう座銀河団”の中心部の高感度・高解像度のデータの取得に成功し、中心部の銀河から噴き出すジェットを確認することができました。
ほうおう座銀河団の中心で観測された電波ジェット。グラフの縦横軸は天体の天球上での座標、色は電波強度を示している。銀河団の中心(C1)から両方向に電波の放射が観測された。(Credit: Akahori et al.)
ほうおう座銀河団の中心で観測された電波ジェット。グラフの縦横軸は天体の天球上での座標、色は電波強度を示している。銀河団の中心(C1)から両方向に電波の放射が観測された。(Credit: Akahori et al.)
観測されたジェットの画像にある“C1”が、今回ターゲットになった銀河団中心部の銀河。
左右とも同じ領域で観測された画像で、電波の強度を色として示しています。

左の画像は“C1”の強度分布が分かるように示されたもの。
右画像は、右上と左下の両方向に伸びたジェットからの電波強度が分かるように、コントラストが調整されています。

さらに、今回の観測により判明したのは、時代が異なると考えられる2組のジェットが噴き出していたこと。
右画像の四角点線で囲まれた“C5”と“C6”のペアが、以前に噴出したもので中心より遠方に位置しています。
最近のものが楕円点線で囲まれた“C3”と“C4”のペア。
より中心部に近い位置にあり、銀河団に比べてとても若く、誕生から数百万年と推定されています。

銀河団の中心部で大量のガスが冷えているにもかかわらず、ジェットの存在が確かめられたということは、これまでの理解とは異なり、ジェットがガスの冷却を止めることができていないことを示しています。

その理由として、今回観測された最近のジェットは噴き出したばかりのため、ガスの過熱が十分に進んでいないことが考えられています。

“ほうおう座銀河団”は英語でいうと“Phoenix galaxy cluster”、つまり不死鳥のことなんですねー
不死鳥の伝説の通り、年老いて冷えてしまった“ほうおう座銀河団”は蘇るのでしょか?

この謎を解くには、銀河団の冷却と過熱を理解する必要があります。

そこで、研究チームが期待しているのは、これから建設が始まる超大型電波望遠鏡“SKA”を用いて、さらに高感度かつ高解像度でこの天体を観測すること。
超大型電波望遠鏡“SKA(Square Kilometre Array)”は、最終的に1平方キロメートルの集光面積を持つ、世界最大の電波望遠鏡を建設する国際的なプロジェクト。ハッブル宇宙望遠鏡をはるかに上回る画像分解能や、膨大な視野を撮像する能力を持つことになる。

より詳しい観測で、天の川銀河近傍の銀河団との違いがなぜ生じているのかを解明できるといいですね。


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