宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

NASAが新ミッションを発表! 衛星タイタンにドローンで降り立って有機物を探査

2019年07月09日 | 土星の探査
2023年12月4日更新
11月28日、“ドラゴンフライ”の打ち上げ時期を1年延期することがNASAから発表されました。
このミッションの打ち上げ予定は、もともと2027年に設定されていて、タイタンに到着するのは2033年でした。

NASAによれば、2024年度の予算に基づきミッションを再設計し、打ち上げ準備時期を2028年7月に修正。
2024年半ばにミッションの打ち上げ準備日が正式に設定されることになるようです。
“ドラゴンフライ”ミッションのイメージ図
NASAが発表した新たな探査ミッション“ドラゴンフライ”。
このミッションで使われるのはドローン型の着陸機で、土星の衛星タイタンを探査して有機物の探査などが行われるようです。
“ドラゴンフライ”の着陸機(イメージ図)

2年8か月の有機物探査ミッション

土星の衛星タイタンは水星よりも大きく、太陽系の衛星としては木星のガニメデに次ぐサイズの天体です。

タイタンの大きな特徴の1つは、衛星としては唯一、大気が存在すること。
その主成分は地球と同じ窒素で、表面気圧は地球の1.5倍あります。

また、タイタンではメタンの雲が発生してメタンの雨が降り、地表には湖や海が存在しています。

さらに、タイタンは初期の地球に似ているので、地球でどのように生命が誕生したのかを知る手がかりを与えてくれると考えられているんですねー

これまでにもNASAとヨーロッパ宇宙機関の土星探査機“カッシーニ”による観測が行われたほか、2005年には“カッシーニ”の子機“ホイヘンス”が着陸探査を実施しています。

そのタイタンを探査する新たなミッションとして今回発表されたのが、NASAの“ドラゴンフライ”でした。
トンボを意味するこの探査機が打ち上げられるのは2026年、タイタン到着は2034年になる予定です。

“ドラゴンフライ”の基本ミッションは約2年8か月。
この間に有機物の砂丘から衝突クレーターの底まで、幅広い環境を探査することになります。
タイタンに着陸する“ドラゴンフライ”の着陸機(イメージ図)
タイタンに着陸する“ドラゴンフライ”の着陸機(イメージ図)

大気が濃いタイタンでの探査と移動にはドローンが適していた

“ドラゴンフライ”の着陸機は8枚のローター(回転翼)を持ち、大型のドローンのような機体になっています。

地球以外の天体で複数の回転翼を持つ機体を、科学調査目的で飛行させるミッションはNASA史上初。

タイタンの大気は地球の4倍の濃さなので、観測装置を新たな場所へ運んでは特定の表面物質を調べる、ということを繰り返し行うのにドローンが適していたんですねー

“ドラゴンフライ”では、“カッシーニ”が13年間にわたって集めたデータを活用。
着陸に適した穏やかな天候や安全な着陸地点、科学的に興味深い探査地点が選ばれています。
“ドラゴンフライ”の着陸機(イメージ図)
最初の着陸地点は、タイタンの赤道域にある“シャングリラ”という砂丘地帯になる見込み。
この場所はナミビアにある縦列砂丘に地形的に似ていて、多様なサンプル採取場所を選ぶことが出来ます。

着陸機は、この地域を短い期間探査した後、最大8キロに達する長距離の飛行を何度か行います。
蛙跳びのように飛行と着陸を繰り返し、様々な地質を持つ場所に着陸してサンプルを採取していくことになります。

生命誕生の前段階で起こる化学反応“前生命化学”を調査

この飛行の後、着陸機が目指すのは最終目的地の“セルククレーター”。
ここはかつて液体の水と、炭素・水素・酸素・窒素からなる複雑な有機分子が、1万年以上にわたって存在した証拠が見つかっている場所です。

これらの物質に加えてエネルギー源があれば、生命誕生の材料がそろうことになります。

“ドラゴンフライ”ミッションでは、この場所で生命誕生の前段階で起こる化学反応“前生命化学”がどのくらい進行しているのかを調査するそうです。

最終的に着陸機は175キロキロ以上を飛行します。
これは過去に火星探査車全機が走破した合計距離の2倍近くになる距離なんですねー

冥王星やカイパーベルト天体を探査した“ニューホライズンズ”、木星探査機“ジュノー”、小惑星ベンヌを探査中の“オシリス・レックス”などと並ぶ、NASAの“ニュー・フロンティア”計画の一部として今回選定されたのが“ドラゴンフライ”です。

“ニュー・フロンティア”計画では、荒れ狂う木星大気の内部構造や組成を解き明かし、氷で覆われた冥王星の風景の秘密を発見し、カイパーベルトに存在する不思議な天体の姿を明らかにし、生命の材料を求めて地球近傍小惑星の探査を行っています。
その結果、私たちの太陽系に関する理解は次々に変わることになります。

そして、今回NASAが探査リストに加えたのが土星の衛星タイタンでした。
謎に満ちた衛星タイタンの探査で、生命誕生に関する新たな発見があるのでしょうか?

神秘的な海を持っているタイタンを探査することで、私たちが持っている宇宙の生命についての知識が一変するかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ


“原始惑星系円盤”に小さな電波源を発見! 惑星形成のプロセスの重要な部分を初めてピンポイントで観測できたのかも

2019年07月07日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”の中に発見されたのは、周囲より電波を強く放つ小さな場所でした。

そこは、今まさに惑星が形成されている現場なんだとか…
このような惑星誕生の現場をピンポイントで特定できたのは、今回初めてだそうですよ。


惑星の周囲を回転する円盤状の構造“周惑星円盤”

惑星は、若い恒星を取り巻くガスとチリの円盤“原始惑星系円盤”の中で形成されると考えられています。
  原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。
  恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。


初期の“原始惑星系円盤”には、数μmから数㎜の微小なチリが存在していて、このチリが時間とともに合体し成長することで惑星の種“微惑星”になります。

この“微惑星”が自身の重力によって周りのチリやガスを取り込みながら成長し、最終的には惑星になるんですねー

このとき、取り込まれる物質は惑星の周囲を回転する円盤状の構造“周惑星円盤”を作る っと理論的に予測されています。

ただ、これまで考えられている“周惑星円盤”の大きさは“原始惑星系円盤”全体の約1%…
非常に小さいこともあり、これまでの観測では“周惑星円盤”は見つかっていませんでした。


“原始惑星系円盤”に見つかった小さな電波源

今回の研究では、惑星誕生の詳細なプロセスを調べるため、“原始惑星系円盤”の存在が知られている若い星“うみへび座TW星”を、国立天文台のチームが観測しています。

地球から194光年の距離に位置する“うみへび座TW星”の年齢は約1000万歳ほど。
若い星の中では最も太陽系から近く、太陽と同じくらいの重さの恒星なので、太陽系の起源を知る手がかりになる天体として多くの観測が行われてきました。

研究チームでは、これまでの観測の約3倍という非常に高い感度で、“うみへび座TW星”の“原始惑星系円盤”の詳細な電波強度分布を調査。
すると、これまで見つかっていなかった小さな電波源が1つ発見されたんですねー

この電波源の位置は、円盤の中心から約78億キロの距離(太陽~海王星の約1.7倍)。
周囲に比べて1.5倍ほど電波が強くなっていました。

大きさは、長さが6億キロ程度、幅は1億5000万キロ程度に広がっていて、円盤の回転方向にわずかに伸びていました。

このような微小な電波源が“原始惑星系円盤”に見つかったのは今回が初めてのことでした。
○○○
アルマ望遠鏡で観測した“うみへび座TW星”の“原始惑星系円盤”の電波強度分布。


小さな電波源の正体

小さな電波源の正体については、主に2つの可能性を挙げることが出来ます。

1つ目は“周惑星円盤”です。
この場合、発見された構造の大きさから見積もると、中心で形成されているのは海王星質量程度の惑星だと考えられます。

赤外線波長の観測で明るい天体が見られないことや、円盤中のこの位置に隙間が見られないので、この距離に木星質量程度の重い惑星は存在しないと考えられていました。もちろん、海王星質量程度の軽い惑星の存在についても同様です。

でも、今回の観測結果から、海王星質量程度の軽い惑星が存在する可能性が示されたんですねー

一方で、観測された電波強度は、海王星サイズの惑星を取り巻く“周惑星円盤”と考えるにはやや強すぎるという問題もあります。

また、“周惑星円盤”だとすると想定される形は惑星を中心とした円形であるはず。
でも、観測された電波源の形は楕円形… この点も不自然でした。

っと言うことで、2つ目の可能性です。
電波源の正体は“周惑星円盤”でなく、小さいガス渦に溜まったチリというものです。

地球で高気圧や低気圧が発生するように、“原始惑星系円盤”内でも局所的に渦を巻く流れがたくさん存在すると考えられています。
そこに掃き集められて溜まっているチリが電波源になっているのかもしれません。

この構造は、チリが合体して惑星になる最初期段階の重要なものといえます。

渦にとらえられたチリは楕円状に広がることが理論的に予言されていて、今回の観測によって見出された電波源の構造とよく一致しています。

ただ、そのような小規模の高気圧が“原始惑星系円盤”内に1つだけ存在するというのも不自然です。


どちらであっても惑星形成のプロセスの重要な部分の発見になる

今回の観測結果は、“周惑星円盤説”と“ガス渦説”のどちらとも一致する部分と、不自然な部分の両方を持ち合わせていて、正体を正確に突き止めることができていません。

ただ、“ガス渦説”であったにせよ、いずれは惑星の形成に向かっていくことになります。
なので、惑星形成のプロセスの重要な部分を初めてピンポイントで観測できたという点では、大きな意義のある成果になると思います。

形成中の惑星は、周囲の物質を取り込む際に温度が高くなるので、“周惑星円盤”の内縁が特に暖められることになります。

“周惑星円盤”とその中心に惑星は存在しているのでしょか?

アルマ望遠鏡を使ったより高い解像度の観測を行えば、今回発見された電波源の内部の温度分布を明らかにできるはず。
さらに、すばる望遠鏡などを使って、惑星の周囲にある水素が高温になったときに放つ光の観測準備も進めらています。
なので、その中心に惑星があるかどうかは近い将来に分かりそうですよ。


こちらの記事もどうぞ
  原始惑星系円盤に隙間を作りながら成長中の2つの惑星をはっきりと検出
    

キュリオシティが過去最高濃度のメタンを火星で検出! 微生物から出たもの? 残念ながら発生源はよく分かっていないようです。

2019年07月05日 | 火星の探査
火星探査車“キュリオシティ”によって、これまでで最も高い濃度のメタンが火星大気から検出されました。
でも、なぜかメタンの濃度は、数日後には平常時のレベルにまで下がったそうです。
○○○

メタンは生物由来なのか、それとも地質由来なのか

火星のゲールクレーター周辺で2012年から探査を続けているNASAの探査車“キュリオシティ”。

この“キュリオシティ”が、これまでに検出した中でも最大の濃度になるメタンを大気中で検出したことが発表されました。
  検出されたのは体積比で21ppb(10億分の21)という濃いメタン。
“キュリオシティ”が現在探査している尾根“ディールリッジ”。“粘土ユニット”と呼ばれている地域の一部(6月18日に撮影)。
“キュリオシティ”が現在探査している尾根“ディールリッジ”。
“粘土ユニット”と呼ばれている地域の一部(6月18日に撮影)。
このデータは“キュリオシティ”の試料分析ユニット“SAM”の波長可変レーザー分光計で得られたもの。

地球では微生物がメタンの重要な発生源になっています。
このことから、今回の発見は生命の存在を示している っと期待しますよね。
ただ、メタンは岩石と水の相互作用でも発生します。

“キュリオシティ”には、メタンの源を特定できるような観測装置は搭載されていません。
なので、今回のメタンがゲールクレーターの限られた場所から出てきたものか、火星の別の場所で発生したものかはよく分かっていません。

残念ながら現状の観測結果では、このメタンが生物由来なのか、地質由来なのかを知る手段はありません。
さらに、古い時代に生成されたメタンなのか、それとも最近作られたものなのかということも分からないんですねー

“キュリオシティ”が検出したのはメタンの雲

“キュリオシティ”の科学チームは6月22~23日にかけて引き続きメタンの観測を行い、24日朝に観測データを受信しています。

そのデータによると、メタンの検出量は急激に下がり、1ppb以下にまで減ってしまったそうです。
この値は“キュリオシティ”が日常的に検出しているメタンのバックグラウンド濃度と変わらない値でした。

この結果が示唆しているのは、今回検出された過去最大量のメタンは、以前にも観測された突発的なメタンの雲であるということ。

これまでに“キュリオシティ”は、移動経路上のあちこちでメタンを検出していて、メタンのバックグラウンド濃度が季節によって変動することも分かっていました。

でも、今回のような突発的なメタンの雲がどのくらいの間持続するのか、なぜ季節変動とは違う変化をするのか、といった点についてはまだほとんど分かっていません。

これから研究を進めていく上で必要になるのは、これらの手掛かりを分析して、もっと多くのメタンを測定すること。

また、2016年から観測を行っているエクソマーズミッションとの連携も必要になってきます。
  エクソマーズは、ヨーロッパ宇宙機関とロシア・ロスコスモスの共同ミッション。
  このミッションの軌道周回機“トレース・ガス・オービター”のチームとの連携も必要。

ただ、1年以上にわたって火星軌道で観測を行っている“トレース・ガス・オービター”は、まだメタンを検出していないんですねー

今後、“トレース・ガス・オービター”がメタンを検出できれば…
火星表面と軌道上での観測データを組み合わすことで、火星のメタン源を特定し、火星大気中でメタンガス雲がどのくらい持続するのかを理解するのに役立ちそうです。

そうすれば、“トレース・ガス・オービター”と“キュリオシティ”のメタンのデータが食い違っている原因も説明できるのかもしれません。

火星大気中でメタンはどのよう振る舞いをしているのでしょうね。


こちらの記事もどうぞ
  ゲールクレーターを覆っていた1~2キロ厚の堆積物がシャープ山を作った? 火星探査車“キュリオシティ”の観測で分かってきたこと
    

銀河円盤と同じ方向に回転しながら落ち込んでいくハローガスを観測、この後ガスは星形成の材料になるそうです。

2019年07月03日 | 銀河・銀河団
典型的な星形成銀河50個を数年かけて観測して得られたもの。
それは、銀河を取り巻く冷たいハローガスは、たいていの場合銀河円盤と同じ方向に回転していることを示す初の直接的な観測的証拠でした。

これにより、星形成の燃料を銀河円盤がどのように得て成長しているのか っという、これまでの謎が解明されそうですよ。



銀河全体を包み込む球状の構造“ハロー”

銀河を取り巻く球状構造“ハロー”には、薄いながらもガス(ハローガス)が存在しています。
  ハローは銀河全体を包み込むように希薄な星間物質や球状星団が
  まばらに分布している球状の領域。

このハローガスは、銀河がどのように進化してきたかを知る重要な手がかりになると考えられているんですねー

10年ほど前の理論モデルからは、回転する冷たいハローガスの角運動量によって銀河の重力の一部が相殺されることで、銀河円盤へのガスの降着速度が遅くなり、円盤の成長期間が長くなることが予測されていました。


ハローガスを調べれば銀河円盤がどう成長するのかが分かってくる

今回、アメリカ・カリフォルニア大学サンタバーバラ校のチームが行ったのは、50個の典型的な星形成銀河におけるハローガスの回転の向きと速度を調べる観測・研究。

研究チームでは、アメリカ・ハワイにあるケック天文台で、銀河の背後に位置する明るいクエーサーのスペクトルを観測し、クエーサーの吸収スペクトルから、見えざるハローガスを検出しています。

さらに、スペクトルに現れるドップラー効果から、ガス雲の回転の向きと速度を調査。
すると、銀河の円盤の回転と同じ向きにハローガスが回転していること、ガスは銀河円盤に向かって渦を巻きながら落ち込むことが分かってきます。
○○○
銀河円盤と同じ方向へ回転しているハローガスが検出された銀河の1つヘルクレス座の“j165930+373527”。
ハッブル宇宙望遠鏡のデータ(青と緑)とケックII望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRC2”のデータ(赤)を合成している。
このガスは、もともとは銀河からずっと遠く離れたところに蓄積されていたもの。
何らかの原因で銀河の方へと動いて来るうちに、今見られるような銀河円盤と同じ向きに回転するハローガスになった可能性が考えられます。

今回の研究成果は、これまでの理論の正しさを確認するもの。
ハローガスの角運動量は円盤へと落ち込むガスの速度を遅くするほど強いものだが、銀河円盤へのガスの供給を完全に止めてしまうほどではないことが示されることになります。

銀河は大質量のガスに取り囲まれていて、目に見える銀河の範囲から非常に遠くまで広がっています。

それらの物質が銀河円盤にどのように運ばれて、次世代の星形成の材料として供給されていくのかは、これまではっきりと分かっていません。
○○○
星の形成材料として銀河円盤へ供給されるガスの流れ(青)のイメージ図。
これから研究チームが進めるのは、銀河円盤へと引っ張り込まれるハローガスの割合を計算し、星形成率とガスが流れ込む割合を比較すること。

これにより、星形成銀河の進化や、数十億年という時間スケールで銀河円盤がどのように成長を続けるのか分かるようですよ。


こちらの記事もどうぞ
  星の材料は超大質量ブラックホールによって銀河内を循環している
    

原始惑星の数少ない生き残り小惑星ベスタ。南半球にある異常に分厚い地殻はどうやって作られたのか?

2019年07月01日 | 太陽系・小惑星
小惑星ベスタを起源とする隕石の年代測定から、ベスタが約45億年前に巨大衝突を経験していたことが分かってきました。

これまで謎だったベスタの南半球にある異常に分厚い地殻… これも、どのように形成されたのか解明できるようですよ。

原始惑星の生き残り

地球などの惑星の元になった原始惑星が、太陽系の歴史の中でいつ誕生し、どのように成長したのか?
これらのことは、太陽系形成のシナリオを考える上でとても重要になります。

ただ、ほとんどの原始惑星は衝突などによって失われてしまうんですねー

でも、火星軌道と木星軌道の間に広がる小惑星帯の中に、原始惑星の数少ない生き残りが存在しています。
その生き残りが、小惑星帯の中で2番目に大きい小惑星ベスタ(直径525キロ)です。
小惑星ベスタ
小惑星ベスタ
ベスタが起源だと考えられている隕石グループに“メソシデライト”があります。
“メソシデライト”はその性質上、層構造を持つ天体が大規模に破壊されたときに形成されたと考えられています。

でも、“メソシデライト”がベスタで形成されたとすると、ベスタは形成史の中で大きな崩壊を経験したことになってしまいます。

一方で、ベスタに起源を持つ別の隕石グループ“HED隕石”の研究によると、ベスタは今も形成当時と同じ層構造を保っていると考えられていて、“メソシデライト”の形成に必要な大規模崩壊が起こったという推測とは矛盾する結果になっています。

ベスタは過去に巨大衝突を経験している

今回、東京工業大学の研究チームが検討したのは、これまでの研究で考慮されていなかったベスタにおける巨大衝突の可能性について。
このために調べたのは“メソシデライト”の形成年代でした。

5つの“メソシデライト”に含まれていたジルコンに対して、ウラン-鉛年代測定法(ID-TIM法)を用いて超高精度の年代測定を実施。
すると、“メソシデライト”の母天体の地殻は45.59±0.02億年前に形成され、45.254±0.009億年前に大規模な破壊を経験したことが判明します。

この結果と一致していたのは“HED隕石”から分かっているベスタの進化史でした。
“HED隕石”の測定から知られているのは、ベスタの地殻が45.5億年前に形成され、45.2~45.3億年前に何らかの原因で外部から再加熱されたこと。

また、これまでに得られた全科学データが“HED隕石”一致していて、“メソシデライト”の母天体は“HED隕石”と同じベスタであると確認されます。
“メソシデライト”と“HED隕石”の年代に関するヒストグラム。(上)“メソシデライト”に含まれるジルコンのウラン-鉛年代に基づく母天体の進化史(下)“HED隕石”のウラン-鉛年代に基づくベスタの進化史。地殻形成と再加熱(巨大衝突)の年代が一致している。
“メソシデライト”と“HED隕石”の年代に関するヒストグラム。(上)“メソシデライト”に含まれるジルコンのウラン-鉛年代に基づく母天体の進化史(下)“HED隕石”のウラン-鉛年代に基づくベスタの進化史。地殻形成と再加熱(巨大衝突)の年代が一致している。

南半球にある分厚い地殻は巨大衝突によって作られた

さらに研究チームは、ベスタでの巨大衝突モデルのいくつかを検討。
すると、当て逃げ型(ヒットエンドラン)の衝突モデルが、“メソシデライト”の形成やベスタ南半球の分厚い地殻の謎を説明できることが分かってきたんですねー

このモデルでは、まずベスタが40キロ程度の地殻を持って誕生。
その後、45.25億年前に別の小惑星と衝突を起こして北半球の大部分が崩壊します。

この時、地殻やマントル物質、溶融状態の金属コアが宇宙空間に飛び出しますが、大部分はベスタの重力から脱することができず、衝突の影響が比較的小さかった南半球に分厚く降り積もることになります。

その時に形成されたと考えられているのが“メソシデライト”。
最終的に地殻と衝突破砕物からなる分厚い層が、南半球のマントルの上にできたそうです。
(上)ベスタにおける巨大衝突モデルのイラスト、(下)45.25億年前のベスタにおける巨大衝突のイメージ図
(上)ベスタにおける巨大衝突モデルのイラスト
(下)45.25億年前のベスタにおける巨大衝突のイメージ図
NASAの小惑星探査機“ドーン”の探査データに基づいたシミュレーション研究から、ベスタの地殻の厚さが80キロ以上もあることが推定されていました。

その異常に分厚い地殻の正体は、この地殻と衝突破砕物の層で、45.25億年前の巨大衝突によってベスタの層構造が大きく変化した証拠ということになります。

今回の研究では、世界で初めて天体の巨大衝突が起こった年代が超高精度で決定され、ベスタの進化史がより鮮明に描き出されることになりました。

同様の年代測定法を他の隕石や探査機による回収資料に応用していくと、太陽系に存在する小惑星や惑星の多様性についての理解が進むのかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ
  小惑星ベスタの地殻の厚さは80キロ以上もある