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原始惑星の数少ない生き残り小惑星ベスタ。南半球にある異常に分厚い地殻はどうやって作られたのか?

2019年07月01日 | 太陽系・小惑星
小惑星ベスタを起源とする隕石の年代測定から、ベスタが約45億年前に巨大衝突を経験していたことが分かってきました。

これまで謎だったベスタの南半球にある異常に分厚い地殻… これも、どのように形成されたのか解明できるようですよ。

原始惑星の生き残り

地球などの惑星の元になった原始惑星が、太陽系の歴史の中でいつ誕生し、どのように成長したのか?
これらのことは、太陽系形成のシナリオを考える上でとても重要になります。

ただ、ほとんどの原始惑星は衝突などによって失われてしまうんですねー

でも、火星軌道と木星軌道の間に広がる小惑星帯の中に、原始惑星の数少ない生き残りが存在しています。
その生き残りが、小惑星帯の中で2番目に大きい小惑星ベスタ(直径525キロ)です。
小惑星ベスタ
小惑星ベスタ
ベスタが起源だと考えられている隕石グループに“メソシデライト”があります。
“メソシデライト”はその性質上、層構造を持つ天体が大規模に破壊されたときに形成されたと考えられています。

でも、“メソシデライト”がベスタで形成されたとすると、ベスタは形成史の中で大きな崩壊を経験したことになってしまいます。

一方で、ベスタに起源を持つ別の隕石グループ“HED隕石”の研究によると、ベスタは今も形成当時と同じ層構造を保っていると考えられていて、“メソシデライト”の形成に必要な大規模崩壊が起こったという推測とは矛盾する結果になっています。

ベスタは過去に巨大衝突を経験している

今回、東京工業大学の研究チームが検討したのは、これまでの研究で考慮されていなかったベスタにおける巨大衝突の可能性について。
このために調べたのは“メソシデライト”の形成年代でした。

5つの“メソシデライト”に含まれていたジルコンに対して、ウラン-鉛年代測定法(ID-TIM法)を用いて超高精度の年代測定を実施。
すると、“メソシデライト”の母天体の地殻は45.59±0.02億年前に形成され、45.254±0.009億年前に大規模な破壊を経験したことが判明します。

この結果と一致していたのは“HED隕石”から分かっているベスタの進化史でした。
“HED隕石”の測定から知られているのは、ベスタの地殻が45.5億年前に形成され、45.2~45.3億年前に何らかの原因で外部から再加熱されたこと。

また、これまでに得られた全科学データが“HED隕石”一致していて、“メソシデライト”の母天体は“HED隕石”と同じベスタであると確認されます。
“メソシデライト”と“HED隕石”の年代に関するヒストグラム。(上)“メソシデライト”に含まれるジルコンのウラン-鉛年代に基づく母天体の進化史(下)“HED隕石”のウラン-鉛年代に基づくベスタの進化史。地殻形成と再加熱(巨大衝突)の年代が一致している。
“メソシデライト”と“HED隕石”の年代に関するヒストグラム。(上)“メソシデライト”に含まれるジルコンのウラン-鉛年代に基づく母天体の進化史(下)“HED隕石”のウラン-鉛年代に基づくベスタの進化史。地殻形成と再加熱(巨大衝突)の年代が一致している。

南半球にある分厚い地殻は巨大衝突によって作られた

さらに研究チームは、ベスタでの巨大衝突モデルのいくつかを検討。
すると、当て逃げ型(ヒットエンドラン)の衝突モデルが、“メソシデライト”の形成やベスタ南半球の分厚い地殻の謎を説明できることが分かってきたんですねー

このモデルでは、まずベスタが40キロ程度の地殻を持って誕生。
その後、45.25億年前に別の小惑星と衝突を起こして北半球の大部分が崩壊します。

この時、地殻やマントル物質、溶融状態の金属コアが宇宙空間に飛び出しますが、大部分はベスタの重力から脱することができず、衝突の影響が比較的小さかった南半球に分厚く降り積もることになります。

その時に形成されたと考えられているのが“メソシデライト”。
最終的に地殻と衝突破砕物からなる分厚い層が、南半球のマントルの上にできたそうです。
(上)ベスタにおける巨大衝突モデルのイラスト、(下)45.25億年前のベスタにおける巨大衝突のイメージ図
(上)ベスタにおける巨大衝突モデルのイラスト
(下)45.25億年前のベスタにおける巨大衝突のイメージ図
NASAの小惑星探査機“ドーン”の探査データに基づいたシミュレーション研究から、ベスタの地殻の厚さが80キロ以上もあることが推定されていました。

その異常に分厚い地殻の正体は、この地殻と衝突破砕物の層で、45.25億年前の巨大衝突によってベスタの層構造が大きく変化した証拠ということになります。

今回の研究では、世界で初めて天体の巨大衝突が起こった年代が超高精度で決定され、ベスタの進化史がより鮮明に描き出されることになりました。

同様の年代測定法を他の隕石や探査機による回収資料に応用していくと、太陽系に存在する小惑星や惑星の多様性についての理解が進むのかもしれませんね。


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