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超新星の光度と輝線として見える元素には関係性がある? プロ・アマ連携で分かった明るい重力崩壊型超新星を取り巻くガスは元素が豊富

2023年10月14日 | 宇宙 space
日本のアマチュア天文家の松垣公一さんが5月に発見した超新星“SN 2023ixf”。
この超新星“SN 2023ixf”が21世紀以降で最も明るい“重力崩壊型超新星爆発”だったことが追観測によって分かってきました。

この成果は鹿児島大学とアマチュア天文家の連携によるもの。
追観測では、星の極近傍を取り巻いている“星周ガス”の存在や成分も明らかになったようです。
この成果は、鹿児島大学大学院 理工学研究科の山中雅之特任助教たちの研究チームによるものです。

超新星爆発で観測される輝線

超新星爆発の分光観測によって、近年スペクトルに水素などの元素の強い輝線という、予想外の発見があり注目されています。
スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。
個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
このことが意味するのは、星の極近傍を取り巻いている“星周ガス”が存在すること。
この星周ガスは、星が爆発直前に活動的になった結果、ガスを噴出することで形成されたと考えられています。

その後も、いくつかの超新星爆発において輝線が観測されるのですが、まだサンプル数が乏しいので、星周ガスの詳細は依然として理解が進んでいない状況でした。

特に、星周ガスの組成には多様性が認められるのか、どのような超新星がどのような星周ガスを持つのか、などの点が未解明になっています。

もし、ガス組成と超新星の性質の関係性を明らかにすることができれば、爆発直前の星の進化過程を理解する手助けになると期待されています。

渦巻銀河“M101”で発見された超新星

問題は、輝線は一般的に爆発後の2~3日程度の間でしか観測できないこと。
なので、超新星爆発の発見後に速やかに分光観測を行う必要があります。

でも、超新星の大半は遠方に位置しているので、見た目の明るさはとても暗く、口径2~8メートルの大型望遠鏡が使われるケースがほとんどでした。
これらの望遠鏡は、すばる望遠鏡などのように研究用で、台数も少なく観測時間も確保しにくいんですねー

そのため、個人でも所有できるような、より小さな望遠鏡でも観測可能な地球近傍の明るい超新星の出現が待ち望まれていました。

そうした中、2023年5月19日に発表されたのが、日本のアマチュア天文家の板垣公一さんによって発見された超新星“SN 2023ixf”のニュース。
“SN 2023ixf”は、太陽系から約2100万光年と比較的近くにある渦巻銀河“M101”で発見された超新星でした。

発見時に14.9等だったこの超新星は増光を続け、5月24日には10.8等にまで到達。
これほど明るくなる超新星はとても希少なので、研究チームを含め、プロ・アマ問わず世界中で数多くの追観測が実施されています。
鹿児島大学の入来観測所に設置されている1メートル望遠鏡に搭載された近赤外線3色同時撮像装置“kSIRIUS”を用いて撮影された“SN 2023ixf”の近赤外線データ。左から順に、それぞれ1.2、1.6、2.2マイクロメートルを中心としたフィルターバンドにて撮影されている。任意の色が付けられていて、実際の色ではない。(Credit: 鹿児島大学)
鹿児島大学の入来観測所に設置されている1メートル望遠鏡に搭載された近赤外線3色同時撮像装置“kSIRIUS”を用いて撮影された“SN 2023ixf”の近赤外線データ。左から順に、それぞれ1.2、1.6、2.2マイクロメートルを中心としたフィルターバンドにて撮影されている。任意の色が付けられていて、実際の色ではない。(Credit: 鹿児島大学)
追観測を行ったアマチュア天文家の1人が、今回の研究チームの一員である藤井貢さんでした。

40センチ望遠鏡に搭載した自作の分光器で取得したスペクトルは精度がとても高いもので、十分に天文学的な研究調査が可能なレベル。
取得したスペクトルには、強い輝線とともに青い連続光と呼ばれる特徴が見られ、初期段階の重力崩壊型超新星に合致していました。

この特徴は、“SN 2023ixf”が21世紀以降で、見かけの上では最も明るい重力崩壊型超新星であることを意味していました。

藤井さんは、その後も観測を続け、推定爆発日から8日間で合計4本ものスペクトルの取得に成功しています。
“kSIRIUS”で撮影された“SN 2023ixf”の1.2、1.6、2.2マイクロメートルの撮影データを合成した画像。あくまで近赤外線の波長域であり、実際には人の目には見えない。(Credit: 鹿児島大学)
“kSIRIUS”で撮影された“SN 2023ixf”の1.2、1.6、2.2マイクロメートルの撮影データを合成した画像。あくまで近赤外線の波長域であり、実際には人の目には見えない。(Credit: 鹿児島大学)

超新星の光度と輝線として見える元素との関係性

今回の研究では、そのスペクトルを用いて水素の輝線が調査されています。

その結果分かってきたのは、水素の輝線は2つの成分に分けられること。
それぞれ、超新星そのものの膨張ガスと取り巻いていた星周ガスに対応していました。

さらに判明したのは、スペクトルには水素だけでなく、ヘリウムや炭素、窒素などの輝線が存在すること。
これは、星周ガスには窒素などの元素が豊富に含まれていることを意味していました。

一方で、これまでの星周ガスを持つ超新星のサンプルを集めた比較検討では、特に炭素と窒素をスペクトルに示さない超新星に比べ、窒素などを豊富に有している可能性が示唆されています。

過去の超新星において、炭素と窒素が示された例はわずかですが3例あり、それらは重力崩壊型超新星の中でも比較的高い光度を持つものでした。

研究チームでは、今回の超新星が発見された翌晩から、鹿児島大学で運用している入来観測所の1メートル望遠鏡を使って近赤外線観測を実施しています。

その結果確認されたのが、近赤外線波長域においては絶対等級が-18等程度だということ。
このことから今回の超新星も、重力崩壊型超新星の中では高い光度を持つことが確かめられています。

今回の研究によって、超新星の光度と輝線として見える元素には、関係性がある可能性が示唆されたと言えます。

理論的には、高い光度を持つ超新星は、親星の初期質量が大きいことも予測されます。

今後、期待されるのは、星の質量と星周ガスの元素との関係性に焦点を当てた理論研究が進むこと。
また、この超新星は8月上旬の段階で12等台と見かけの等級で明るい状態を保っているので、可視光線や近赤外線を中心として様々な研究が実施されることが期待されています。


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