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超新星爆発の直後に中性子星やブラックホールなどのコンパクト星が発生したことを示す直接的な観測証拠を初めて発見

2024年02月26日 | 宇宙 space
太陽より重い恒星が一生の最期に起こす“重力崩壊型超新星爆発”では、その後に高密度に潰れた中心核“中性子星”や“ブラックホール”のような“コンパクト星”が残されることが良く知られています。

でも、これまで超新星爆発とコンパクト星が関連していることを示す、直接的な観測証拠はありませんでした。

今回、2つの国際研究チームは“SN 2022jli”という超新星爆発を観測。
すると、ある独特な光度曲線(明るさの変化)をとらえることになります。

この光度曲線の特徴から考えられるのは、超新星爆発によって誕生したコンパクト星が、膨張した伴星の大気を吸い込んでいること。
超新星爆発とコンパクト星が関連していることを示す初の観測記録になるようです。
図1.“SN 2022jli”が発生した瞬間(イメージ図)。伴星は超新星爆発の影響を受けたものの、生き残ったと考えられる。(Credit: ESO & L. Calçada)
図1.“SN 2022jli”が発生した瞬間(イメージ図)。伴星は超新星爆発の影響を受けたものの、生き残ったと考えられる。(Credit: ESO & L. Calçada)


超新星爆発の直後にコンパクト星の存在を示す観測記録

太陽のおよそ8倍以上の質量を持った恒星が、進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなります。

太陽のような恒星は、中心核で起こる核融合反応により自らエネルギーを生成することで、重力によって潰れるのを回避しています。
なので、核融合ができなくなると重力によって潰れる“重力崩壊”を起こすことになります。

この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“重力崩壊型超新星爆発”を起こすと考えられています。

そして、爆発の後にはコンパクトな天体が残されることになります。
重力崩壊に対抗できる力が存在せず、無限に潰れてしまった天体はブラックホールと呼ばれ、ブラックホールになる手前で重力崩壊が停止した天体は中性子星と呼ばれます。
ただ、重力崩壊後のプロセスの詳細は、現在でもよく分かっていません。

中性子星やブラックホールは、数百万キロの直径を持つ恒星と比べれば、どちらもずっと小さな天体です。
数キロから数十キロのサイズしか持たないので、これらを総称してコンパクト星(※1)と呼びます。
※1.コンパクト星には直径が1万キロ程度の白色矮星も含まれる。これは太陽のような、超新星爆発を起こさない恒星の中心核に由来する。
超新星爆発に伴ってコンパクト星が生成されることは、理論的に何度も検証され強固に予測されています。
また、過去の超新星爆発の跡でコンパクト星が見つかった例も、いくつかあります。
中でも、1054年に観測された超新星爆発で生成された超新星残骸“かに星雲”の中心部に存在する中性子星“かにパルサー”が有名です。

このように、超新星爆発とコンパクト星の関連性に関する証拠は集まっていて、疑いようのない状況となっています。

でも、超新星爆発の直後にコンパクト星の存在を示す観測記録が得られるという、ほぼリアルタイムな発見はこれまで実現していませんでした。

本来なら、コンパクト星は超新星爆発が起きた時のたった数秒間で生成されていると考えられています。
ただ、超新星爆発の現場は莫大な物質と放射に包まれているので、中心部のコンパクト星からの放射は隠されてしまい、長期にわたって直接とらえることができません。

科学的に厳しい言い方をすれば、超新星爆発と同時にコンパクト星が生じているという考えは、現時点では状況証拠に基づくものなので、直接的な証拠がないことを指摘することもできます。

このため、超新星爆発の直後にコンパクト星を見つけるには、何か別の観測証拠が必要になります。


超新星爆発“SN 2022jli”の周期的な明るさの変化

“SN 2022jli”は、くじら座の方向約7500万光年彼方に位置する銀河“NGC 157”で発生した超新星爆発です。

この超新星爆発は、先行してクイーンズ大学ベルファストのT. Mooreさんたちが研究を行い、追加観測を行ったワイツマン科学研究所のPing Chenさんたちの研究チームが、さらなる詳細を明らかにしています。
この2つの研究チームの論文は、それぞれ2023年のAstrophysical Journal Letters誌、および2024年のNature誌に掲載されました。

まず、Mooreさんたちは、チリのラ・シヤ(ラ・シア)天文台に設置された“NTT(新技術望遠鏡)”などを使用し、“SN 2022jli”の明るさがどのように変化するのかを表す光度曲線を取得しています。 

通常の超新星爆発の場合、最初に明るさのピークがあり、時間が経つにつれて徐々に暗くなるという光度曲線が得られます。
図2.“SN 2022jli”の光度曲線。全体として時間経過によって暗くなっているものの(図の上側)、前後で比較をすると、約12.4日周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返していることが分かる(図の下側)。(Credit: T. Moore, et al.)
図2.“SN 2022jli”の光度曲線。全体として時間経過によって暗くなっているものの(図の上側)、前後で比較をすると、約12.4日周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返していることが分かる(図の下側)。(Credit: T. Moore, et al.)
ところが、“SN 2022jli”の光度曲線は非常に変わっていたんですねー
典型的な超新星よりも明るく始まった“SN 2022jli”は、その後約25日間かけて暗くなった後、爆発から約52日後には再び明るくなっていました。

その後の約200日間にわたる継続的な観測によって、徐々に暗くなりつつも、約12.4日周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す周期的な光度曲線が得られています。
超新星爆発において、これほど長期にわたって周期的に明るさが変化する様子が観測されたのは、“SN 2022jli”が初めてのことでした。

この研究では、“SN 2022jli”の周期的な明るさの変化について、その正体を正確に突き止めることはできていません。
でも、Mooreさんたちの研究チームでは2つの仮説を立てています。

1つ目は、恒星が爆発前に周期的に噴出した物質と、超新線爆発後に噴出した物質が衝突することによって起こるという説。
2つ目は、超新星爆発を起こした恒星には伴星が存在していて、その伴星の大気をコンパクト星が吸い込むことで、エネルギーが放出されたという説です。


超新星爆発の直後にコンパクト星が発生したことを示す直接的な観測証拠

一方、Chenさんたちの研究チームが用いたのは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設した超大型望遠鏡“VLT”の分光観測器“Xシューター”や、NASAが運用中の高エネルギーガンマ線天文衛星“フェルミ”の検出装置“LAT”など。
これにより、“SN 2022jli”のより詳細な観測を実施しています。

その結果、水素の存在を示すスペクトル線やガンマ線の放出などが観測され、可能性が高いのは2つ目の説だと結論付けています。
図3.コンパクト星の周囲形成された降着円盤からのジェットにより輝いている様子。この現象が周期的に起こることが、“SN 2022jli”の周期的な明るさの変化の理由だと考えられる。(Credit: ESO & L. Calçada)
図3.コンパクト星の周囲形成された降着円盤からのジェットにより輝いている様子。この現象が周期的に起こることが、“SN 2022jli”の周期的な明るさの変化の理由だと考えられる。(Credit: ESO & L. Calçada)
図4.観測に基づいた“SN 2022jli”の状況(左上~右上→左下~右下の順)。連星を成す恒星の片方が超新星爆発を起こし、コンパクト星を残す。伴星は超新星爆発の影響を受けたものの、その影響で大気が膨張する。コンパクト星が公転によって伴星に近付く度に、大気を剥ぎ取って降着円盤を形成し、そこからのジェットで輝くようになる。(Credit: ESO & L. Calçada)
図4.観測に基づいた“SN 2022jli”の状況(左上~右上→左下~右下の順)。連星を成す恒星の片方が超新星爆発を起こし、コンパクト星を残す。伴星は超新星爆発の影響を受けたものの、その影響で大気が膨張する。コンパクト星が公転によって伴星に近付く度に、大気を剥ぎ取って降着円盤を形成し、そこからのジェットで輝くようになる。(Credit: ESO & L. Calçada)
2つ目の説を、より詳しく解説すると以下のようになります。

①超新星爆発の後に残されたコンパクト星は、恒星だった頃の伴星と引き続き連星関係を維持している。
②伴星は、超新星爆発で放出された物質と相互作用をし、その結果通常よりも膨張。表面の水素の大気が剥がれやすい状態となる。
③コンパクト星が公転して伴星に接近する度に、伴星表面の大気がコンパクト星に剥ぎ取られていく。
④コンパクト星に落下する剥ぎ取られた大気は角運動を持つため、“降着円盤”と呼ばれるへんぺいな円盤をコンパクト星の周囲に作る。
⑤降着円盤内では、ガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ。
この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射する。
降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。

このことからChenさんたちの研究チームでは、③~⑤の現象が約12.4日周期で発生する明るい放射に関連していると考えています。

今回の観測では、コンパクト星からの直接的な放射を観測できた訳ではありません。
ただ、観測で得られた全ての証拠を考慮すると、この現象を最もうまく説明できるのがコンパクト星の存在でした。
それ以外の過程では、観測で得られた証拠の全てを矛盾なく説明することは困難でした。

つまり、今回の観測では、超新星爆発の直後にコンパクト星が発生したことを示す、直接的な観測証拠が初めて得られたことになります。

ただ、多くの謎も残されています。
例えば、コンパクト星の直接観測や、その正確な性質を探ることはできていません。
また、“SN 2022jli”のような連星が、どのような進化や運命を迎えるのかも分かっていません。

これらの性質に関する謎は、ヨーロッパ南天天文台が建設を進めている口径39mの大型望遠鏡“欧州超大型望遠鏡(E-ELT : European Extremely Large Telescope)”を用いれば解明できるのかもしれません。
2025年に稼働開始予定の“欧州超大型望遠鏡”によって“SN 2022jli”の性質に関する謎が解ければいいですね。


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