今回の研究では、NASAが運用中の高エネルギーガンマ線天文衛星“フェルミ”と、広島大学 宇宙科学センターが運用する東広島天文台の“かなた望遠鏡”を用いて、宇宙最大の爆発現象“ガンマ線バースト”を観測しています。
観測では、ガンマ線と可視光線の同時観測に成功。
さらに、ジェット内部を逆方向に進む衝撃波がガンマ線放射に寄与していることを確認しました。
この研究成果は、金沢大学 理工研究域 先端宇宙理工学研究センター/数物科学系の有本真淳教授、東京大学 宇宙線研究所 高エネルギー宇宙線研究部門の浅野勝晃教授、広島大学 宇宙科学センターの川端弘治教授、東北大学 学際科学フロンティア研究所の當真賢二教授たちの国際共同研究チームによるもの。
詳細は、英科学誌“Nature”系の天文学術誌“Nature Astronomy”に掲載されました。
宇宙で最も高エネルギーな天文現象
短時間に高エネルギーのガンマ線を放出する、宇宙で最も高エネルギーな天文現象の1つが“ガンマ線バースト”(※1)です。
でも、いつどこで起こるのかは不明なので、事前に予測しての観測は困難なんですねー
このため、発生メカニズムには、まだ多くの謎が残されています。
ただ、これまでの研究からは、詳細な仕組みが分かってきています。
大質量星が重力崩壊した後にブラックホールが誕生。
その瞬間、プラズマのジェットが光速に近い速度(亜光速)で噴き出し、そのジェット内で衝撃波が形成され、そこで高エネルギー粒子が加速されます。
加速された粒子は、磁場と相互作用することでガンマ線が放射され、それがガンマ線バーストとして観測されることになります。
ただ、どのような機構がジェットを亜光速まで加速しているのか、また衝撃波内にどのような磁場が形成されることでガンマ線が放射されているのかは、未解明のままになっていました。
ガンマ線と可視光による同時観測
そうした中、“フェルミ”やその他のガンマ線バースト観測衛星が、2018年7月20日にガンマ線を観測。
うお座に近い方向の61億光年彼方から到来した高エネルギーガンマ線が1000秒にわたって検出され、“GRB 180720B”と命名されました。
発見と同時に、地上の望遠鏡や研究者にすかさずアラートが送られます。
その中で、ガンマ線バースト発生から80秒後という、極めて早い時間帯から可視光での観測を開始したのが“かなた望遠鏡”でした。
ガンマ線バーストはすぐに暗くなってしまうので、早くから観測できたことで、極めて良質のデータを得ることができたそうです。
さらに、“かなた望遠鏡”には特徴がありました。
それは、他の地上望遠鏡では観測が困難な“偏光”情報を得られるというもの。
これにより、世界で初めて高エネルギーガンマ線と同時に、偏向検出が達成されています。
この可視光線放射は“シンクロトロン放射”(※2)によって起きると考えられていて、偏光観測で光の偏りを調べることで放射が起きている現場の磁場構造を知ることができます。
この放射の持続時間は数百秒しかなかったので、“フェルミ”と“かなた望遠鏡”の素早い連携観測が功を奏したと言えます。
ガンマ線バーストのジェット
さらに、偏光情報から判明したのは、衝撃波中の磁場構造がドーナツ型の“トロイダル磁場”で、磁場が非常に乱れた乱流構造であることでした。
そして、衝撃波の放射が終わった後、今度はジェットと同じ方向に進む衝撃波からもガンマ線が観測されたそうです。
今度の衝撃波の磁場構造は放射状で、2種類の衝撃波で全く異なる磁場構造になっていることが明らかになりました。
特に逆方向に進む衝撃波は、ガンマ線バーストのジェット内の情報を有していて、その起源に関するヒントを与えてくれるはずです。
なお、ジェットを亜光速まで加速するメカニズムの1つとして理論的に提案されているのが、ブラックホールを貫く磁場を介して、その回転エネルギーでジェットを加速する“磁場駆動モデル”です。
このモデルは、ブラックホールの回転で磁場がねじれ、ジェット内にドーナツ型の磁場が作られることを予言したものでした。
今回の研究により、逆方向への衝撃波中でドーナツ型の磁場が観測されたことは、このモデルを支持する結果でした。
ジェットの謎を解明する大きな一助と言えます。
また、磁場の乱流が観測されたことも非常に重要なことと言えます。
これまで、衝撃波内でガンマ線を生み出す粒子を、高エネルギーまで効率よく加速するには、磁場の乱流が必要と考えられてきました。
なので、今回の結果は、そのような理論モデルの妥当性を示す直接的な証拠と言えます。
近年、これまでの定説だったシンクロトロン放射では説明できないほどの超高エネルギーのガンマ線が見つかり、ガンマ線の生成機構の理解が徐々に進みつつありました。
今回の研究成果は、ジェットの謎の解明にもつながる可能性があると言えます。
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観測では、ガンマ線と可視光線の同時観測に成功。
さらに、ジェット内部を逆方向に進む衝撃波がガンマ線放射に寄与していることを確認しました。
この研究成果は、金沢大学 理工研究域 先端宇宙理工学研究センター/数物科学系の有本真淳教授、東京大学 宇宙線研究所 高エネルギー宇宙線研究部門の浅野勝晃教授、広島大学 宇宙科学センターの川端弘治教授、東北大学 学際科学フロンティア研究所の當真賢二教授たちの国際共同研究チームによるもの。
詳細は、英科学誌“Nature”系の天文学術誌“Nature Astronomy”に掲載されました。
宇宙で最も高エネルギーな天文現象
短時間に高エネルギーのガンマ線を放出する、宇宙で最も高エネルギーな天文現象の1つが“ガンマ線バースト”(※1)です。
※1.ガンマ線バーストは、0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象。1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象。
ガンマ線バーストは、太陽よりもずっと質量の大きな恒星で発生する超新星爆発に伴って発生する現象だと考えられています。でも、いつどこで起こるのかは不明なので、事前に予測しての観測は困難なんですねー
このため、発生メカニズムには、まだ多くの謎が残されています。
ただ、これまでの研究からは、詳細な仕組みが分かってきています。
大質量星が重力崩壊した後にブラックホールが誕生。
その瞬間、プラズマのジェットが光速に近い速度(亜光速)で噴き出し、そのジェット内で衝撃波が形成され、そこで高エネルギー粒子が加速されます。
加速された粒子は、磁場と相互作用することでガンマ線が放射され、それがガンマ線バーストとして観測されることになります。
ただ、どのような機構がジェットを亜光速まで加速しているのか、また衝撃波内にどのような磁場が形成されることでガンマ線が放射されているのかは、未解明のままになっていました。
図1.ガンマ線バーストのイメージ図。(Credit: 2023 金沢大学、イラスト制作:武重隆之介・髙橋壮一) |
ガンマ線と可視光による同時観測
そうした中、“フェルミ”やその他のガンマ線バースト観測衛星が、2018年7月20日にガンマ線を観測。
うお座に近い方向の61億光年彼方から到来した高エネルギーガンマ線が1000秒にわたって検出され、“GRB 180720B”と命名されました。
発見と同時に、地上の望遠鏡や研究者にすかさずアラートが送られます。
その中で、ガンマ線バースト発生から80秒後という、極めて早い時間帯から可視光での観測を開始したのが“かなた望遠鏡”でした。
ガンマ線バーストはすぐに暗くなってしまうので、早くから観測できたことで、極めて良質のデータを得ることができたそうです。
さらに、“かなた望遠鏡”には特徴がありました。
それは、他の地上望遠鏡では観測が困難な“偏光”情報を得られるというもの。
これにより、世界で初めて高エネルギーガンマ線と同時に、偏向検出が達成されています。
この可視光線放射は“シンクロトロン放射”(※2)によって起きると考えられていて、偏光観測で光の偏りを調べることで放射が起きている現場の磁場構造を知ることができます。
※2.シンクロトロン放射は、光速近い速度の荷電粒子(主に電子)が、磁力線の周りを円運動しながら進む時に放出される電磁波のこと。
得られたデータを詳細に解析してみると、亜光速ジェットの内部に、その進行方向とは逆向きに進む衝撃波が発生し、そこから可視光やガンマ線が強く出ていることが確認されました。この放射の持続時間は数百秒しかなかったので、“フェルミ”と“かなた望遠鏡”の素早い連携観測が功を奏したと言えます。
ガンマ線バーストのジェット
さらに、偏光情報から判明したのは、衝撃波中の磁場構造がドーナツ型の“トロイダル磁場”で、磁場が非常に乱れた乱流構造であることでした。
そして、衝撃波の放射が終わった後、今度はジェットと同じ方向に進む衝撃波からもガンマ線が観測されたそうです。
今度の衝撃波の磁場構造は放射状で、2種類の衝撃波で全く異なる磁場構造になっていることが明らかになりました。
特に逆方向に進む衝撃波は、ガンマ線バーストのジェット内の情報を有していて、その起源に関するヒントを与えてくれるはずです。
なお、ジェットを亜光速まで加速するメカニズムの1つとして理論的に提案されているのが、ブラックホールを貫く磁場を介して、その回転エネルギーでジェットを加速する“磁場駆動モデル”です。
このモデルは、ブラックホールの回転で磁場がねじれ、ジェット内にドーナツ型の磁場が作られることを予言したものでした。
今回の研究により、逆方向への衝撃波中でドーナツ型の磁場が観測されたことは、このモデルを支持する結果でした。
ジェットの謎を解明する大きな一助と言えます。
図2.今回の研究概要。(Credit: 2023 金沢大学、イラスト制作:武重隆之介・髙橋壮一) |
これまで、衝撃波内でガンマ線を生み出す粒子を、高エネルギーまで効率よく加速するには、磁場の乱流が必要と考えられてきました。
なので、今回の結果は、そのような理論モデルの妥当性を示す直接的な証拠と言えます。
近年、これまでの定説だったシンクロトロン放射では説明できないほどの超高エネルギーのガンマ線が見つかり、ガンマ線の生成機構の理解が徐々に進みつつありました。
今回の研究成果は、ジェットの謎の解明にもつながる可能性があると言えます。
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