今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の分光観測データを使い、134億光年彼方の宇宙に明るく輝く2つの銀河の正確な距離測定に成功しています。(図1)
天体の観測史上最遠方である134億~135億光年彼方の宇宙では、これまでに3個の銀河が確認されていました。
でも、その結果が理論予測と矛盾しているのかどうかは分かっていませんでした。
今回、新たに2個の銀河が確認されたことで、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡打ち上げ前に出版されたどの理論予測と比べても予想以上に銀河の数が多く、初期の宇宙では短い時間で次々に星が誕生していることが分かりました。
この結果は、初代銀河を含む宇宙初期の銀河の形成過程が、これまで考えられていた理論とは異なる可能性を示しています。
宇宙の夜明けの時代
138憶年前のこと、生まれたばかりの宇宙は電子や陽子、ニュートリノが密集して飛び交う高温のスープのような場所で、電離した状態にありました。
でも、宇宙が膨張し冷えるにしたがって、電子と陽子は結びつき電気的に中性な水素が作られます。
この時代には、光を放つ天体はまだ生まれていなかったので“宇宙の暗黒時代”と呼ばれています。
その後、数億年が経過した頃に宇宙最初の星“初代星(ファーストスター)”や、最初の銀河“初代銀河”が誕生し、それらが放つ紫外線により水素が再び電離されていくんですねー
これにより、宇宙に広がっていた中性水素の“霧”が電離(宇宙の再電離)されて晴れていきます。
この誕生直後の真っ暗な状態から、続々と天体が誕生し宇宙に光がともされる時代のことを“宇宙の夜明け”と言います。
この宇宙の夜明けの時代は、138億年の宇宙の歴史の中でまだ探査されていない最後のフロンティアで、天文学者の大きな関心を集めています。
特に初代銀河がいつ頃形成し、どのような性質を持っていたのかは分かっておらず、現代の天文学の大きな謎になっていました。
最遠方銀河の探査では分光観測が不可欠
このような初代銀河を調べるために、天文学者たちはより昔、つまり遠方の宇宙に存在する銀河を探してきたんですねー
これまで精力的に行われてきた探査は、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などの大型望遠鏡を使った遠方銀河のもの。
ただ、134億年以前の宇宙初期に存在する銀河は数例しか見つからず、正確な距離も分かっていませんでした。
これは、膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光の波長が引き伸ばされて赤外線での観測が必要になるからです。
このことから、これまでの大型望遠鏡では感度の良い観測が行えていませんでした。
そこに登場したのが、2021年12月に打ち上げられ、2022年から観測を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡でした。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、この状況を打破し天文学研究に革命を起こしつつあります。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の最重要課題は、まさに宇宙初期の銀河の観測でした。
直径6.5メートルという宇宙望遠鏡としては最大の鏡を活かし、他の望遠鏡と比べて10倍~1000倍高い感度を赤外線の波長で実現することで、実際に134億年前~136億年前の最遠方宇宙に存在する銀河の候補を多数見つけています。
でも、これらの天体は画像から発見された遠方銀河の候補であり、正確に距離を決定するには光を波長ごとに分解して詳しく調べる分光観測が必要になります。
例えば、一昨年の夏に136億年前の銀河の候補として報告された“CEERS-93316”は、その後の分光観測により136億年前ではなく、126億年前の銀河ということが判明しています。
このような事例は、最遠方銀河の探査では分光観測による正確な距離の確定が不可欠だということを示しています。
今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって取得された分光観測データを精査することで、134億年前の銀河の候補であった2天体から酸素の輝線と水素による吸収線を高精度(99.9999%以上の有意土)で検出。(図2)
これにより、それぞれの正確な距離を134.0億光年・134.2億光年と決定することに成功しています。(※1、2)
ただ、この方法だと、銀河までの距離がしっかりと決まっていないという心配が常にあります。
この研究では、分光観測から正確な距離が測定されているので、これまでと比べて信頼度が高い議論が展開でき、科学的に非常に高い価値があると言えます。
最遠方宇宙では予想以上に活発な星形成活動がある
天体の観測史上最遠方である134億~135億光年彼方の宇宙では、これまでに3個の銀河が分光観測によって存在を確認されていました。
でも、この結果が理論予測と矛盾しているのかどうかは、分かっていませんでした。
今回、新たに2個の銀河が加わったことで、宇宙誕生後3億年から4億年という初期の宇宙に、合計5つの銀河の存在が確認されたことになります。
この5つの銀河の発見は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられる前に出版された、どの理論モデルでも予言されていないものでした。(図3)
でも、今回のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による最遠方宇宙における5つの銀河の発見は、どの理論モデルでも予言されていないものでした。
さらに、今回の研究では、銀河の明るさから星がどれくらいのペースで誕生しているかを調査。
すると、134億~135億光年彼方の宇宙では、モデルの予測に比べて星の誕生率が4倍以上もあり、予想よりも短い時間で次々に星が誕生していることが分かりました。(図4)
初期の宇宙で活発に星を誕生させる何らかのメカニズムがあったことを意味していて、私たちが長年持ち続けてきた星や銀河の誕生の通説に再考を迫るものでした。
一方、これら5つの銀河は、星ではなく巨大ブラックホールの活動によって明るく輝いている可能性もあります。
その場合だと、巨大ブラックホールが宇宙の非常に早い時代に出現していたことになります。
このことが正しければ、ブラックホールの誕生と成長に対しても、大きな問題提起になるはずです。
ただ、これらの可能性のうち、どれが正しいのかは、これまでに得られた観測結果だけでは分からないんですねー
今後のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測研究が明らかにすべき最重要課題の1つとなることは間違いないはずです。
今回の研究によって、最遠方宇宙では理論モデルの予想以上に活発に星が誕生し、宇宙の夜明けの時代を明るく照らしていることが分かりました。
宇宙で最初に生まれた初代銀河も、中で活発に星が誕生していたのかもしれません。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は今回の成果以外にも、宇宙初期における酸素の急増や窒素異常、大量のブラックホールの発見に成功しています。
この素晴らしい性能によって、遠方の宇宙でこれまで予想されていなかった天体や現象が次々と発見されていて、さらに人類は初代銀河の形成に、あと少しで手が届きそうなところまで迫っています。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による天文学の革命が、今まさに起きつつあるようです。
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天体の観測史上最遠方である134億~135億光年彼方の宇宙では、これまでに3個の銀河が確認されていました。
でも、その結果が理論予測と矛盾しているのかどうかは分かっていませんでした。
今回、新たに2個の銀河が確認されたことで、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡打ち上げ前に出版されたどの理論予測と比べても予想以上に銀河の数が多く、初期の宇宙では短い時間で次々に星が誕生していることが分かりました。
この結果は、初代銀河を含む宇宙初期の銀河の形成過程が、これまで考えられていた理論とは異なる可能性を示しています。
この研究は、東京大学宇宙線研究所の播金優一助教を中心とする研究チームが進めています。
図1.研究チームにより正確な距離が測定された134億光年彼方にある銀河の疑似カラー画像。拡大図の中心にある赤い天体が、今回の研究により正確な距離が測定された134億光年彼方の銀河の一つ“CEERS2_588”。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で取得された3色の観測データを合成することで、画像に色を付けている。(Credit: NASA, ESA, CSA, Harikane et al.) |
宇宙の夜明けの時代
138憶年前のこと、生まれたばかりの宇宙は電子や陽子、ニュートリノが密集して飛び交う高温のスープのような場所で、電離した状態にありました。
でも、宇宙が膨張し冷えるにしたがって、電子と陽子は結びつき電気的に中性な水素が作られます。
この時代には、光を放つ天体はまだ生まれていなかったので“宇宙の暗黒時代”と呼ばれています。
その後、数億年が経過した頃に宇宙最初の星“初代星(ファーストスター)”や、最初の銀河“初代銀河”が誕生し、それらが放つ紫外線により水素が再び電離されていくんですねー
これにより、宇宙に広がっていた中性水素の“霧”が電離(宇宙の再電離)されて晴れていきます。
この誕生直後の真っ暗な状態から、続々と天体が誕生し宇宙に光がともされる時代のことを“宇宙の夜明け”と言います。
この宇宙の夜明けの時代は、138億年の宇宙の歴史の中でまだ探査されていない最後のフロンティアで、天文学者の大きな関心を集めています。
特に初代銀河がいつ頃形成し、どのような性質を持っていたのかは分かっておらず、現代の天文学の大きな謎になっていました。
最遠方銀河の探査では分光観測が不可欠
このような初代銀河を調べるために、天文学者たちはより昔、つまり遠方の宇宙に存在する銀河を探してきたんですねー
これまで精力的に行われてきた探査は、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などの大型望遠鏡を使った遠方銀河のもの。
ただ、134億年以前の宇宙初期に存在する銀河は数例しか見つからず、正確な距離も分かっていませんでした。
これは、膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光の波長が引き伸ばされて赤外線での観測が必要になるからです。
このことから、これまでの大型望遠鏡では感度の良い観測が行えていませんでした。
そこに登場したのが、2021年12月に打ち上げられ、2022年から観測を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡でした。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、この状況を打破し天文学研究に革命を起こしつつあります。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の最重要課題は、まさに宇宙初期の銀河の観測でした。
直径6.5メートルという宇宙望遠鏡としては最大の鏡を活かし、他の望遠鏡と比べて10倍~1000倍高い感度を赤外線の波長で実現することで、実際に134億年前~136億年前の最遠方宇宙に存在する銀河の候補を多数見つけています。
でも、これらの天体は画像から発見された遠方銀河の候補であり、正確に距離を決定するには光を波長ごとに分解して詳しく調べる分光観測が必要になります。
例えば、一昨年の夏に136億年前の銀河の候補として報告された“CEERS-93316”は、その後の分光観測により136億年前ではなく、126億年前の銀河ということが判明しています。
このような事例は、最遠方銀河の探査では分光観測による正確な距離の確定が不可欠だということを示しています。
今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって取得された分光観測データを精査することで、134億年前の銀河の候補であった2天体から酸素の輝線と水素による吸収線を高精度(99.9999%以上の有意土)で検出。(図2)
これにより、それぞれの正確な距離を134.0億光年・134.2億光年と決定することに成功しています。(※1、2)
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
今回、酸素の輝線と水素による吸収線を検出することで正確な距離が測定された2つの銀河の赤方偏移は、それぞれz=11.04とz=11.40。Planck観測機チームが2015年に公表した宇宙論パラメータを用いて赤方偏移から距離を計算すると、それぞれ134.0億光年と134.2億光年となり、これらの銀河は134億年前に存在していたことになる。一方、宇宙は膨張しているので、現在の宇宙では私たちとこれらの銀河の距離は134億光年以上になる。
※2.これまで、アルマ望遠鏡やジェームズウェッブ宇宙望遠鏡などにより、銀河の中から酸素が発見されてきたが、今回の結果(赤方偏移z=11.04とz=11.40)は銀河中の酸素の発見記録としては、これまでの記録を塗り替える、観測史上最も遠方の発見になる。
今回、酸素の輝線と水素による吸収線を検出することで正確な距離が測定された2つの銀河の赤方偏移は、それぞれz=11.04とz=11.40。Planck観測機チームが2015年に公表した宇宙論パラメータを用いて赤方偏移から距離を計算すると、それぞれ134.0億光年と134.2億光年となり、これらの銀河は134億年前に存在していたことになる。一方、宇宙は膨張しているので、現在の宇宙では私たちとこれらの銀河の距離は134億光年以上になる。
※2.これまで、アルマ望遠鏡やジェームズウェッブ宇宙望遠鏡などにより、銀河の中から酸素が発見されてきたが、今回の結果(赤方偏移z=11.04とz=11.40)は銀河中の酸素の発見記録としては、これまでの記録を塗り替える、観測史上最も遠方の発見になる。
図2.134億光年彼方の2つの銀河の位置(上パネル)と分光スペクトル(下パネル)。研究チームは、分光スペクトルから酸素の輝線(黄色)と水素による吸収(青色、※3)を高精度(99.9999%以上の有意度)で検出し、この2つの銀河までの距離を正確に測定することに成功している。(Credit: NASA, ESA, CSA, Harikane et al.) |
※3.今回観測された水素による吸収線は、銀河と私たちの間にある中性水素による吸収によって生じるもので、ライマンブレイクと呼ばれる。静止系で0.12マイクロメートルの波長より短い波長の光が中性水素により吸収されることで、銀河スペクトルに鋭い落ち込みが現れる。今回の天体の赤方偏移はz=11なので、ライマンブレイクは観測波長で1.5マイクロメートル付近に現れる。
これまでの最遠方銀河の研究は、画像から見つかった銀河の候補をもとに行われることがほとんどでした。ただ、この方法だと、銀河までの距離がしっかりと決まっていないという心配が常にあります。
この研究では、分光観測から正確な距離が測定されているので、これまでと比べて信頼度が高い議論が展開でき、科学的に非常に高い価値があると言えます。
最遠方宇宙では予想以上に活発な星形成活動がある
天体の観測史上最遠方である134億~135億光年彼方の宇宙では、これまでに3個の銀河が分光観測によって存在を確認されていました。
でも、この結果が理論予測と矛盾しているのかどうかは、分かっていませんでした。
今回、新たに2個の銀河が加わったことで、宇宙誕生後3億年から4億年という初期の宇宙に、合計5つの銀河の存在が確認されたことになります。
この5つの銀河の発見は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられる前に出版された、どの理論モデルでも予言されていないものでした。(図3)
でも、今回のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による最遠方宇宙における5つの銀河の発見は、どの理論モデルでも予言されていないものでした。
さらに、今回の研究では、銀河の明るさから星がどれくらいのペースで誕生しているかを調査。
すると、134億~135億光年彼方の宇宙では、モデルの予測に比べて星の誕生率が4倍以上もあり、予想よりも短い時間で次々に星が誕生していることが分かりました。(図4)
※4.専門的な言葉では、宇宙の星形成率密度と呼ぶ。
この結果が示しているのは、初代銀河を含む宇宙初期の銀河の形成過程が、これまで考えられていた理論とは異なる可能性でした。初期の宇宙で活発に星を誕生させる何らかのメカニズムがあったことを意味していて、私たちが長年持ち続けてきた星や銀河の誕生の通説に再考を迫るものでした。
一方、これら5つの銀河は、星ではなく巨大ブラックホールの活動によって明るく輝いている可能性もあります。
その場合だと、巨大ブラックホールが宇宙の非常に早い時代に出現していたことになります。
このことが正しければ、ブラックホールの誕生と成長に対しても、大きな問題提起になるはずです。
ただ、これらの可能性のうち、どれが正しいのかは、これまでに得られた観測結果だけでは分からないんですねー
今後のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測研究が明らかにすべき最重要課題の1つとなることは間違いないはずです。
今回の研究によって、最遠方宇宙では理論モデルの予想以上に活発に星が誕生し、宇宙の夜明けの時代を明るく照らしていることが分かりました。
宇宙で最初に生まれた初代銀河も、中で活発に星が誕生していたのかもしれません。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は今回の成果以外にも、宇宙初期における酸素の急増や窒素異常、大量のブラックホールの発見に成功しています。
この素晴らしい性能によって、遠方の宇宙でこれまで予想されていなかった天体や現象が次々と発見されていて、さらに人類は初代銀河の形成に、あと少しで手が届きそうなところまで迫っています。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による天文学の革命が、今まさに起きつつあるようです。
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