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衝撃波による加熱はどのようにして起こるのか? 宇宙で最もエネルギーの高い現象の一つ銀河団合体を観測

2024年07月06日 | 銀河・銀河団
宇宙は、銀河、星、ガス、そして目に見えないダークマターが複雑に絡み合い、重力によって支配された広大な空間です。

その中で銀河団は、最大で数千もの銀河が集まり、高温のプラズマに包まれ、巨大なダークマターのハローに囲まれた、宇宙最大の構造物として知られています。
この銀河団の形成と進化は、宇宙の構造形成と進化を理解する上で重要なカギを握っていると言えます。

銀河団は、静的な存在ではなく、絶えず進化し、互いに影響を及ぼし合っています。
その進化において、特に重要な役割を果たすのが、銀河団同士の合体です。
銀河団の合体は、ビッグバン以来、宇宙で最もエネルギーの高い現象の一つで、莫大な量のエネルギーを開放し、銀河団の構造と進化に劇的な変化をもたらします。

銀河団の合体が起こると、銀河団内媒体(ICM)と呼ばれる、銀河団内の銀河間空間に存在する高温プラズマは、激しい衝撃波と乱流にさらされます。
これらの衝撃波は、銀河団内媒体を加熱し、磁場を増幅し、超相対論的粒子の加速を引き起こすなど、銀河団の物理的性質に大きな影響を与えることになります。

このため、衝撃波は銀河団合体の過程を理解するための貴重な手掛かりとなります。
衝撃波面は、銀河団内媒体の密度、温度、圧力の急激な変化として観測され、その形状や強度から、合体の進行状況やエネルギー解放のメカニズムを推測することができます。

衝撃波の強さは、マッハ数と呼ばれる無次元量で表されます。
マッハ数は、流体の速度と音速の比で、マッハ数が大きいほど衝撃波は強く、銀河団内媒体へのエネルギー注入も大きくなります。

今回の研究では、赤方偏移z=0.34に位置する合体銀河団“SPT-CLJ 2031-4037”を、X線天文衛星を用いて観測。
その結果に焦点を当てています。
この銀河団は、約800兆太陽質量という質量を持ち、X線光度は1.04×1045erg/sと推定されています。
この研究は、アラバマ大学のPurva Diwanjiさんが率いる研究チームが進めています。
図1.“SPT-CLJ 2031-4037”の0.5‐7.0keVエネルギー領域の点光源を除去し、σ=3ガウスで平準化した露出補正画像。北が上、東が左。北西に一次衝撃波、南東に表面輝度エッジが見える。最も明るいX線のピークは表面輝度エッジの後ろにあり、青い十字で示されている。一次衝撃波の後方にもX線のピークがあり、赤い十字で示されている。緑の線は“チャンドラ”の等高線。(Credit: Diwanji et al., 2024.)
図1.“SPT-CLJ 2031-4037”の0.5‐7.0keVエネルギー領域の点光源を除去し、σ=3ガウスで平準化した露出補正画像。北が上、東が左。北西に一次衝撃波、南東に表面輝度エッジが見える。最も明るいX線のピークは表面輝度エッジの後ろにあり、青い十字で示されている。一次衝撃波の後方にもX線のピークがあり、赤い十字で示されている。緑の線は“チャンドラ”の等高線。(Credit: Diwanji et al., 2024.)


非常に激しいエネルギー現象“銀河団合体”

今回の研究では、NASAのX線天文衛星“チャンドラ”を用いて“SPT-CLJ 2031-4037”を観測。
“チャンドラ”は、高温プラズマからのX線を観測することに特化した高性能なX線天文衛星で、銀河団の衝撃波の研究に威力を発揮します。

“チャンドラ”の観測データから明らかになったのは、“SPT-CLJ 2031-4037”には2つの衝撃波面が存在することでした。
強い衝撃波面は北西に、弱い衝撃波面は南東(南東端)に位置していました。
強い衝撃波面では、表面輝度のエッジを挟んで密度が3.16倍に跳ね上がり、マッハ数は3.36。
一方、弱い衝撃波面では、密度の跳ね上がりは1.53倍、マッハ数は1.36でした。

この観測結果が示唆しているのは、“SPT-CLJ 2031-4037”における銀河団合体が非常に激しいエネルギー現象ということ。
特に、強い衝撃波面のマッハ数3.36は、これまでに“チャンドラ”によって発見された合体衝撃波面の中でも、非常に高い値でした。


衝撃波による銀河団内媒体の過熱メカニズム

衝撃波は、銀河団内媒体の過熱に重要な役割を果たすと考えられています。
でも、その具体的なメカニズムについては、まだ完全には解明されていません。

現在、提案されているのは、大きく分けて以下の2つのモデルになります。

1.衝突平衡モデル
このモデルでは、衝撃波面通過後にイオンと電子が衝突を繰り返すことでエネルギーを交換し、最終的には熱平衡状態に達すると考えられています。

2.瞬間衝撃波加熱モデル
このモデルでは、衝撃波面通過時にイオンが電子よりも効率的に加熱。その後、熱伝導などによって電子の温度が上昇すると考えられています。

“SPT-CLJ 2031-4037”の観測データが示していたのは、衝突平衡モデルを支持する結果。
観測された衝撃波の電子温度は、瞬間衝撃波加熱モデルで予測される温度よりも低く、衝突平衡モデルの予測に近い値でした。


合体による銀河団の進化

“SPT-CLJ 2031-4037”での強い衝撃波面の発見は、銀河団合体における衝撃波加熱のメカニズムを理解する上で、重要な手掛かりとなります。

銀河団合体は、宇宙の大規模構造の進化、銀河の形成と進化、宇宙の物質進化など、様々な宇宙論的な問題と密接に関係しています。
なので、“SPT-CLJ 2031-4037”のような合体銀河団の観測は、これらの問題を解明するために不可欠と言えます。

今後のより詳細な観測を通して、銀河団合体における衝撃波加熱のメカニズム、ひいては宇宙の進化と構造形成に関する理解が深まることが期待されます。

銀河団は、宇宙の進化と構造形成において重要な役割を果たしています。
にもかかわらず、その形成過程や進化の詳細については、まだ多くの謎が残されています。

例えば、以下のようなものがあります。
1.銀河団の質量の大部分を占めるダークマターの正体は何なのか?
2.銀河団内媒体はどのように加熱されるのか?
3.銀河団内の磁場はどのように生成され、進化しているのか?

これらの謎を解き明かすために、世界中の研究者が観測や理論の両面から精力的に研究を進めています。
今後、より高性能な宇宙望遠鏡やスーパーコンピュータの登場により、銀河団の研究はますます進展していくことが期待されます。


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