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“いつ”、“どこで”発生するか分からない恒星フレア現象の観測に成功! 2つのX線観測装置“MAXI”と“NICER”による全天監視と詳細観測

2024年06月13日 | 宇宙 space
りょうけん座RS星に代表されるフレア星で、公転周期が比較的短い、分離型の近接連星系“RS CVn型連星”。
このRS CVn型連星が起こすフレア(※1)現象は、太陽フレアより桁違いに大きいことが知られていて、巨大フレアの発生メカニズムや周辺環境への影響を調べる上で重要な対象と言えます。
※1.フレアは、恒星の外層大気で磁場に蓄積されたエネルギーが、突発的に解放される爆発現象。
今回の研究では、国際宇宙ステーションに搭載された広範囲観測を得意とする全天X線監視装置“MAXI”(※2)と、詳細観測を得意とする高精度X線望遠鏡“NICER”(※3)を使用。
この2つのX線観測装置を組み合わせることで、全天の“いつ”、“どこで”発生するか分からないフレア現象を、初期段階で発見し、詳細な観測を開始することに成功しています。

※2.全天X線監視装置“MAXI(Monitor of All-sky X-ray Image)”は、日本が開発し国際宇宙ステーションの“希望”モジュールに搭載されている観測装置。2009年8月から運用され、現在もおよそ90分に一度全天X線画像を更新することができるので、突発天体現象発見に大きく貢献している。

※3.高精度X線望遠鏡“NICER(Neutron Star Interior Composition Explorer)”は、“MAXI”と同様に国際宇宙ステーションに搭載されているアメリカが開発したX線観測装置。観測の開始は2017年6月。その有効面積の広さを生かして、中性子星をはじめとする多くのX線天体を観測している。

図1.国際宇宙ステーション搭載の“MAXI”と“NICER”。“MAXI”は、これまでたくさんの恒星のフレアをとらえ、RS CVn型恒星に限っても110を超える検出実績がある。(Credit: JAXA/NASA)
図1.国際宇宙ステーション搭載の“MAXI”と“NICER”。“MAXI”は、これまでたくさんの恒星のフレアをとらえ、RS CVn型恒星に限っても110を超える検出実績がある。(Credit: JAXA/NASA)
フレアが減衰するまでの5日間ほどを“NICER”で観測した結果、フレアの規模は過去最大の太陽フレアの100万倍にも達していたことが明らかになりました。

得られたフレア初期のデータから、電荷を持った粒子“プラズマ”の温度、電子密度、フレア磁気ループ(※4)などを導き出しています。
※4.フレア磁気ループは、フレアの際に見られる磁力線が恒星表面からアーチ状に立ち上がった形状。
また、太陽以外の恒星のフレアでは初となる、衝突電磁平衡(※5)に達していない(電離非平衡)プラズマの観測的証拠を調査し、フレア初期に電離非平衡モデルでも説明可能な答えを示しました。
※5.恒星外層大気での原子の電離状態を変化させる主な素過程として、束縛電子を持つイオンや原子が運動する電子と衝突、束縛電子が引きはがされて価数が減る“電離”と、イオンや原子が周辺の電子を捕まえることで価数が増える“再結合”がある。衝突電離平衡とは、単位時間当たりにこの電離と再結合が生じる割合が釣り合っている状態を指す。
電離非平衡は、プラズマで急激な温度変化が生じた際に一時的に生じますが、フレアもその例外ではありません。
このことは、X線プラズマの分光観測でフレアのより正確な物理メカニズムを理解する際に重要な観点でありながら、これまで恒星フレアの初期段階における好条件の観測がありませんでした。

今回は電離平衡モデルの答えの棄却には至らず、いずれのモデルでも説明できるという結論でしたが、今後の展望として、電離状態により強い制限をかける観測について提案しています。
この研究は、東京大学大学院理学研究科 天文学専攻/宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系の栗原明稀さんを中心とする研究グループが進めています。
本研究の成果は、2024年4月16日発行のアメリカの天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal”に、“Investigation of non-equilibrium ionization plasma during a giant flare of UX Arietis triggered with MAXI and observed with NICER”として掲載されました。


恒星フレア現象の観測

恒星フレアは、恒星の外層大気で磁場に蓄積されたエネルギーが突発的に解放される爆発現象です。
私たちの身近にある太陽も恒星なので、しばしばフレアを起こしています。

解放された磁場エネルギーは、熱エネルギーとしてプラズマの過熱に使われたり、運動エネルギーとして粒子の加速に使われたりと、周辺環境に与える影響は甚大なものと言えます。
過去には太陽の大規模なフレア発生に伴って地球上で停電が発生し、私たちの生活に支障をきたした例があります。

このような巨大フレアは規模が大きくなればなるほど発生頻度が低くなるので、太陽の観測のみでリスクを定量化するのはあまり現実的とは言えません。
そこで、宇宙に数多くある恒星の観測の出番となる訳です。


恒星フレアの全天監視と詳細観測

フレアが発生する現場は、数百万度以上の高温プラズマが存在するので、X線で明るく輝いて見えます。
でも、X線で宇宙の“いつ”、“どこで”起こるか分からない恒星フレア現象を見つけ、詳細な観測を行うことは簡単なことではないんですねー

現在稼働しているX線観測衛星単一では、多数の天体の常時監視と個別天体の詳細観測を両立することが難しく、これまでの観測は長期モニターで受動的にフレアの発生を待つという、効率面で劣る方法が主流でした。

この状況を改善するため、研究グループが考えたのは、地上約400キロの地球低軌道を周回している国際宇宙ステーションに搭載されている2つの相補的なX線観測装置“MAXI”と“NICER”(図1)を活用することでした。
この2つの観測装置を連携させることで、恒星フレアなどの突発的なX線増光を起こした天体を素早く補足するシステム“MANGA(MAXI and NICER Ground Alert)”を開発しています。

“MANGA”システムにより、RS CVn型連星であるおひつじ座UXのフレア初期の増光を“MAXI”にて検知し、そのわずか88分後に“NICER”による詳細追観測に成功しました。(図2)
図2.観測されたフレアX線光度の時間変化(Kurihara+2024を改変)。“MAXI”、“NICER”でそれぞれスケールは調整されている。(Credit: Kurihara)
図2.観測されたフレアX線光度の時間変化(Kurihara+2024を改変)。“MAXI”、“NICER”でそれぞれスケールは調整されている。(Credit: Kurihara)


過去最大の太陽フレアと比較して約100万倍大きい恒星フレア現象

フレアの規模は、過去最大の太陽フレアと比較しても100万倍近く大きいものでした。

解析として行ったのは、フレアによるエネルギー解放直後のX線エネルギースペクトル(図3)(※6)のモデリング(熱制動放射(※7)による連続成分と脱励起(※8)による輝線成分の分析)です。
※6.X線エネルギースペクトルは、あるエネルギーを持ったX線光子がどのくらい観測されたかを表すデータ。
※7.熱制動放射は、プラズマ中を熱運動する電子がイオンとのクーロン相互作用で減速する際に放出される電磁波。
※8.ここでは励起準位にいた電子が下の準位に遷移すること。その際のエネルギー差分が電磁波として放射されることがある。
連続成分の情報から、プラズマ温度とX線光度の変化には時間差が生じていることが分り、フレアループ内のプラズマ形成の時期をとらえていることが示唆されました。
図3.“NICER”で取得されたX線エネルギースペクトル(Kurihara+2024を改変)。スケールを調整し、上から下へ時間変化を示すように描画している。観測エネルギーバンド全体にわたる連続放射性分と、局所的な輝線放射性分で特徴づけられていることが分かる。(Credit: Kurihara)
図3.“NICER”で取得されたX線エネルギースペクトル(Kurihara+2024を改変)。スケールを調整し、上から下へ時間変化を示すように描画している。観測エネルギーバンド全体にわたる連続放射性分と、局所的な輝線放射性分で特徴づけられていることが分かる。(Credit: Kurihara)
また、反ループ長を太陽半径の約4倍(太陽フレア典型スケールの約100倍)と見積もり、規模の大きさを裏付けています。

輝線成分の情報では、太陽以外の恒星フレア現象で初となる衝突電離平衡から乖離したプラズマの観測的証拠を探しています。

鉄の24階電離イオン、25階電離イオン(※9)からの輝線放射強度比の時間的進化を求めて理論予測と比較することで、フレア発生直後のプラズマは電離非平衡状態で説明可能であることを示しました。

今回の観測データでは、電離平衡状態の解を棄却するまでは至りませんでしたが、今後、X線天文衛星“XRISM”(※10)など他のX線天文衛星と同時観測を行うことで、電離非平衡プラズマの初検出を目指すそうです。
※9.N回電離イオンは、ある元素が中性からN個の電子を失った状態のイオン。
※10.“XRISM(X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission)”は、NASAやヨーロッパ宇宙機関の協力のもと2018年に開始され、2023年9月打ち上げ・2024年1月運用を開始した、JAXAの7番目のX線天文衛星計画。星や銀河、そしてその間を吹き渡る高温ガス“プラズマ”に含まれる元素やその速さを図ることで、星や銀河、銀河の集団が作る大規模構造の成り立ちを、これまでにない詳しさで明らかにする。“XRISM”に搭載されるのは、広い視野を持つX線撮像器と極超低温に冷やされたX線分光器。これらを使って、プラズマに含まれる元素やプラズマの速さを、画期的な精度で測定する。


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