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小惑星からのサンプルリターンはアメリカ宇宙探査史上初! “オシリス・レックス”の着陸候補地点4か所を選定

2019年08月24日 | 太陽系・小惑星
2016年に打ち上げられた探査機“オシリス・レックス”の着陸候補地点が4か所選ばれました。
予定では、来年の後半に小惑星ベンヌに着陸して試料採取を行うことになります。

小惑星からのサンプルリターンはアメリカの宇宙探査史上でも初めてのこと。
アポロ計画で月の物質を持ち帰って以来、最大量のサンプルを持ち帰る計画なんですねー

小惑星は、46億年前に太陽系を作った物質が残されている貴重な研究対象になります。
初期太陽系の姿の解明に役立つ発見があるといいですね。


神話に登場する鳥の名前が付けられた着陸候補地点

NASAの小惑星探査機“オシリス・レックス”が小惑星ベンヌに到着したのが2018年12月。
以来、ベンヌ全球の地形を観測し、試料採取を安全に行える場所を探してきました。

今回選定されたのは4か所の候補地点。
それぞれに、Nightingale(サヨナキドリ)、Kingfisher(カワセミ)、Osprey(ミサゴ)、Sandpiper(シギ)と、エジプトに生息する鳥の名前が付けられています。

探査機の名前“オシリス・レックス(OSIRIS-REx)”と小惑星“ベンヌ(Bennu)”は、エジプトの神々にちなんだもので、ベンヌ表面の地形には神話に登場する鳥の名前が付けられることになっています。
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試料採取を行う4か所の候補地点(各画像の円部分)。


着陸候補地点の特徴

Nightingale(サヨナキドリ)北緯56度
4つの中で最も北にあり、試料採取できそうな場所が複数存在している。
直径140メートルの大きなクレーターの内部にある小クレーターの内側の地点。
粒子が細かく暗い色をした物質が存在していて、反射率や表面温度は4地点の中で最も低い。

Kingfisher(カワセミ)北緯11度
ベンヌの赤道に近い小クレーターの内部にある。
このクレーターは直径8メートルで岩塊に囲まれているが、エリア内に大きな岩はない。
4か所の中で含水鉱物のスペクトルが最も強い。

Osprey(ミサゴ)北緯11度
直径20メートルの中にあり、試料採取できそうな場所が複数存在している。
周囲に様々なタイプの岩石が存在するため、Osprey内部の砂(レゴリス)も様々な種類からなる可能性がある。
4か所の中で炭素質の物質のスペクトルが最も強い。

Sandpiper(シギ)南緯47度
直径63メートルの大きなクレーターの壁の上にある比較的平らな場所。
含水鉱物が存在していて、変成を受けていない水に富んだ物質を含む可能性がある。


粒子の細かい物質が存在する場所を特定する

当初、地球からの観測で推定されていたのは、ベンヌの表面には粒子の細かい物質が堆積した大きな平坦地がありそうなこと。

でも、“オシリス・レックス”がベンヌに到着して表面を撮影すると、ベンヌの地形は岩だらけだと分かります。

そのため、岩塊で埋め尽くされたベンヌの表面で、サンプリングできる物質が存在する安全なエリアを見つけることが運用チームの課題に…
でも、こうした予想外の事態に対応する準備もされていて、“オシリス・レックス”のミッションの日程には300日以上の余裕が見込まれています。

もともと運用チームが予定していたのは、今夏までに着陸地点を2か所まで絞り込むこと。

それを変更し、今回4か所の候補地点を選び出し、今後4か月かけて詳しく調査していきます。
特に各地点の高解像度観測を行って、粒子の細かい物質が存在する場所を特定することに重点を置くそうです。


狭い着陸地点へ探査機を誘導する方法

4地点の安全性を評価するにあたって活用されたのは、今年初めに一般のボランティアも参加して作成されたベンヌ表面の岩塊の分布図でした。

元の計画では着陸地点は半径25メートルの円を想定。
でも、この広さの岩塊のない場所はベンヌには全く存在せず…
運用チームは半径5~10メートルの範囲で平坦なエリアを探し出すことにします。

こうした狭い場所へ探査機を正確に着陸させるため、運用チームでは探査機の航法誘導の要求精度を厳しくし、“ブルズアイTAG”と名付けられた新たなサンプリング方法を編み出しています。
  “はやぶさ2”で用いられたのは“ピンポイントタッチダウン”と呼ばれる誘導方法。
  リュウグウ表面に投下済みのターゲットマーカーをカメラの視野内に捕捉し続けることで、
  マーカーから指定の距離・方向にシフトした場所へ着陸する。


“ブルズアイTAG”では、ベンヌ表面の画像を使い探査機が表面に設置するまで高い精度で誘導。
これまでの運用実績から、新たな要求精度を十分にクリアできる見込みです。


着陸地点の詳細な分析を行う“偵察”フェーズ

“オシリス・レックス”の試料採取方法は“タッチ・アンド・ゴー(Touch And Go:TAG)”と呼ばれています。

探査機本体から“TAGSAM”と呼ばれるアームを伸ばし、その先端をベンヌの表面に接地。接地時間はわずか5秒程度だそうです。

アームの先端には鍋の蓋のようなカバーが取り付けられていて、接地すると同時にカバーの内側に窒素ガスを噴射。
これによってベンヌ表面の物質が巻き上げられ、カバー内にキャッチされる仕組みなんですねー
“TAGSAM”で取り込める物質は、粒径が2.5センチ以下のものに限られているそうです。
  “はやぶさ2”もリュウグウ表面に接地するのは数秒程度。
  接地すると弾丸を地表に発射して舞い上がった地表物質を採取し上昇する。

試料採取アーム“TAGSAM”の動作を解説する動画。

今回選ばれた4地点は、地理的な位置も地質学的な特徴も異なっています。

採取可能な物質がどのくらいの量存在しているかはまだ分かりません。
でも、4か所とも徹底的に安全評価が行われていて、探査機が降下して表面に接地しサンプルを採取しても安全であることは確認済みです。

今秋には、この4地点の詳細な分析を行う“偵察”フェーズが始まります。

このフェーズの第1段階では、探査機は4地点を高度1.29キロから観測。
着陸の安全性や試料採取が可能であることを確認します。

また、各地点の近接撮影も行われ、探査機を自動誘導する際に目印となる特徴的な地形をマッピング。
この観測で得られたデーを使って、最終的に第1候補地点と予備地点の計2か所が12月に決定される予定です。

偵察フェーズの第2・第3段階が始まるのは来年の初め頃。
より解像度の高いデータを得るため、最終候補地点の2か所を低高度から観測します。

試料採取は来年の後半になる見込みで、地球にサンプルを持ち帰るのは2023年9月24日になるそうですよ。
4つの候補地点の解説動画。


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