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惑星は大気をどのように失うのか? 金属元素が流れ出すラグビーボール型の惑星からヒントが得られるかも

2019年08月26日 | 宇宙 space
ハッブル宇宙望遠鏡の観測により、系外惑星の大気からマグネシウムと鉄が流れ出す様子が初めてとらえられました。

なぜ、このような重元素が惑星から流れ出すのでしょうか?
どうやら、主星が放つ強い紫外線が惑星を加熱することに原因があるようです。

主星の近くを回る巨大ガス惑星

今回観測対象になったのは、とも座の方向約900光年彼方の距離に位置する“WASP-121 b”。
2015年に発見された系外惑星で、質量は木星の1.2倍ほどある巨大ガス惑星です。

主星の“WASP-121”の半径は太陽の1.4倍で、表面温度は太陽よりやや高い6400K。
“WASP-121 b”は、この主星からわずか380万キロ(地球から太陽までの距離の40分の1)しか離れていない軌道を1.27日周期で公転しています。

そう、“WASP-121 b”は巨大ガス惑星が主星のごく近くを回る“ホットジュピター”に分類される惑星なんですねー
https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/56/eb4f9cc3382e3ff9d17a378bb70aa5b1.jpg
WASP-121 b(イメージ図)


惑星からマグネシウムや鉄が流出している?

今回、“WASP-121 b”が主星の前を横切る瞬間を、アメリカ・ジョンズ・ホプキンズ大学を中心とする研究グループが観測。

観測に使われたのはハッブル宇宙望遠鏡の撮像分光器“STIS”。
このとき、“WASP-121 b”の大気を通り抜けてくる主星の光が紫外線の波長で調べられました。

そして見つかったのが、惑星から流れ出すマグネシウムや鉄などの重元素でした。

金属元素はほかのホットジュピターでも見つかっています。

でも、それらが検出されていたのは惑星大気の表面よりもずっと深い場所。
なので、今回検出された重元素が惑星から流出したものなのかどうかは、よく分かっていません。

今回、“WASP-121 b”の観測でマグネシウムと鉄が検出されたのは、惑星の重力の影響が及ばないほど遠く離れた場所でした。


流出の原因は主星からの紫外線

通常、ホットジュピターのようなサイズの惑星では内部は十分に低温で、マグネシウムや鉄は雲の中で凝結しています。

でも、この惑星系では、主星が放射する紫外線が太陽よりも強く、エネルギーも高いんですねー
このため、紫外線によって“WASP-121 b”の上層大気が約2800Kもの高温に加熱され、重元素とともに惑星の外に流出してしまいます。

惑星の大気に重元素が含まれていれば、主星からの紫外線は上層大気の重元素が吸収・散乱するので大気の奥深くまで届きません。

でも、“WASP-121 b”では重元素が失われつつあるので、大気が紫外線を透過して、余計に強く加熱されていると考えられます。

また、主星と“WASP-121 b”の距離は、主星から受ける潮汐力で惑星自体が破壊されるかどうかというぎりぎりの近さ。

そのため、“WASP-121 b”は潮汐力によって引き延ばされ、ラグビーボールのような形をしているはず…
今回、この惑星が観測対象に選ばれたのは、非常に極端な環境にあるからだそうです。

この後、惑星は主星に近づくにつれて大気は散逸すると考えられます。

ホットジュピターの大気は、ほとんど水素で構成されています。
これらの惑星が比較的容易にガスを失いうることは、これまでの観測から知られていました。

でも、“WASP-121 b”の場合、水素とヘリウムは川のように絶えず流出していて、重元素も一緒に流れ出しています。
惑星大気が失われるメカニズムとしては非常に効率が良いといえます。

“WASP-121 b”の観測結果は、惑星は原始大気をどのように失うのか? っというシナリオを解明するうえで手掛かりになるものかもしれませんね。


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