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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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急に明るくなったホームズ彗星を調べてみると、他の彗星に比べて太陽から遠く冷たい場所で生まれたことが分かった

2018年12月05日 | 流星群/彗星を見よう
2017年10月下旬のこと、わずか2日の間に40万倍以上も明るくなったホームズ彗星。
増光時のデータから、爆発的な増光の原因は大量のチリの放出だと分かります。

でも、どのようにして爆発的増光が起こったのでしょうか?

データを再解析して分かってきたのは、ホームズ彗星が他の彗星に比べて、太陽から遠く冷たい場所で生まれたということでした。


わずか2日で40万倍以上も明るくなった彗星

1892年に発見されたホームズ彗星は、太陽の周りを約7年で公転しています。

2007年5月に太陽に最も接近する“近日点”を通過した後、10月下旬には爆発的な増光(アウトバースト)を起こします。

アウトバーストを起こした場所は、太陽から約3.6億キロ(太陽から地球までの約2.4倍)離れた場所。
10月23日には約17等の明るさだったホームズ彗星は、24日には9等級も増光して8等になり、翌25日に約2.9等になっていました。

わずか2日ほどの間に14等級以上、明るさにして約40万倍以上も増光したことになります。
○○○
2007年10月26日のホームズ彗星


揮発性の高い氷の昇華が大増光を引き起こした

急増光直後に行われたホームズ彗星の分光観測で分かったのは、爆発的な増光の原因が大量のチリの放出にあることでした。

でも、どのようにして爆発的増光が起こったのかは謎のまま…

そこで、今回の研究ではホームズ彗星から放出されたチリの成分に着目。
ホームズ彗星の爆発的な増光の分光データを再解析したんですねー
  すばる望遠鏡が中間赤外線波長で観測したデータを使用している。

そして気付いたのことが、ホームズ彗星には揮発性の高い氷が多く含まれているという可能性でした。

このような氷が爆発的に昇華することで爆発的なチリの放出が生じ、ホームズ彗星の大増光を引き起こしたようです。
○○○
爆発してから約2日後に、
スバル望遠鏡で撮影したホームズ彗星の中間赤外線画像


ホームズ彗星は太陽系の過去の情報を秘めた化石

解析の結果、ホームズ彗星は他の彗星に比べて、アモルファス(非晶質)成分のチリが多く、結晶質成分が少ないことが分かります。

彗星に含まれるシリケイト(ケイ酸塩)と呼ばれる鉱物は、結晶質のものとアモルファスのものとが共存していました。

このうち結晶質の成分は、アモルファス成分のものが原始太陽の近くで加熱されて変化したものであり、太陽から離れた場所まで運ばれてから彗星に取り込まれたと考えられています。

太陽から遠く離れるほど、そこまで運ばれるチリが少なくなります。
なので、結晶質成分が少ないほど、太陽から遠いところで誕生した彗星だと考えることができるんですねー

つまり、ホームズ彗星に結晶質成分が少ないということは、この彗星が他の彗星に比べて太陽から遠く冷たい場所で誕生した証拠になるということです。

そのような場所には、低い温度で昇華する一酸化炭素などの氷や、水のアモルファス氷といった揮発性の高い氷が豊富に存在すると考えられ、それらがホームズ彗星に含まれていたようです。

ホームズ彗星は今回の研究で、太陽系の過去の情報を秘めた化石という一面を見せてくれました。
彗星は、大きな尾をたなびかせた美しい姿や、崩壊や急増光といった思いもよらない姿を見せてくれるだけではないんですね。


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  予想に反して生き残った彗星
    

ラブジョイ彗星は宇宙の醸造所? 毎秒ワイン500本分のアルコールを放出

2015年11月03日 | 流星群/彗星を見よう
今年初めに明るくなったラブジョイ彗星を電波で観測したところ、
ピーク時には、毎秒ワイン500本分ものアルコールを、
宇宙に放出していることが分かったんですねー

酒類に含まれる身近なエタノールが彗星から検出されたのは初めて。

さらに、単糖類の一種になるグリコールアルデヒドや、
21種類の有機分子も彗星から発見されたそうです。


マイクロ波を調べてみると

昨年8月に発見されたラブジョイ彗星は、今年の1月に太陽や地球に接近。
4等台まで明るくなって、私たちの目を楽しませてくれました。

太陽に最接近した1月30日ごろ、
スペインのシエラネバダ山脈の“IRAW30m電波望遠鏡”によって、
彗星がマイクロ波で観測されています。

このころには彗星から毎秒20トンの割合で水が放出されていました。
2015年2月12日に撮影されたラブジョイ彗星

彗星の大気中の分子が太陽光からエネルギーを得ると、
特定のマイクロ波で輝きます。

その波長や強度を調べることで、
どのような種類の分子が、どれくらい存在しているかを知ることが出来るんですねー

そして、ラブジョイ彗星の観測からは、
大量のエタノール(エチルアルコール)とグリコールアルデヒド、
および21種類の有機分子が発見されます。

エタノールは酒類に含まれる身近なアルコールですが、
彗星から検出されたのは初めてのことでした。


彗星の有機分子が生命誕生のカギになる?

約38億年前、地球に最初の海が誕生し始めたころ、
多くの彗星や小惑星が、地球へ降り注ぐように衝突した時期“後期重爆撃期”がありました。

一部の研究者は、
彗星の衝突によって生命誕生につながる有機分子が、
地球にもたらされたと考えています。

なので、ラブジョイ彗星で複雑な有機分子が発見されたことは、
そのことを裏付ける証拠の一つになるんですねー

複数の炭素原子からなる分子の発見…
つまり、糖や複雑な有機分子になるアミノ酸などが作られ始めているところを、
観測したわけです。

また今年の7月には、
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を探査機“ロゼッタ”が探査しています。

その“ロゼッタ”から彗星へ降下した着陸機“フィラエ”が、
16種類の有機化合物を検出。

その中には、アミノ酸や核酸塩基、
糖類を作るために重要な役割を果たす物質が含まれていました。

これら彗星で発見された有機物質が、どこから来たのか?

太陽系を形成する元となった原始的な雲からか、
それとももっと後、まだ若かった太陽を取り巻く原始惑星系円盤の中で作られたものなのか。

次のステップは、これを突き止めることだそうです。


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20分で大きく変化していた、2013年のラブジョイ彗星の尾

2015年03月20日 | 流星群/彗星を見よう
ハワイのすばる望遠鏡でラブジョイ彗星を詳しく観測した結果、
イオンの尾の構造が、20分ほどの間に大きく変化していたことが分かりました。

地球に近づいて十分に明るく見える彗星は、1年に1つあるかないかで極めて少ない存在。
なので、イオンの尾の急激な変化の観測データが少なく、
まだよく理解されていないんですねー

今回の研究では、すばる望遠鏡の広い視野と高い集光力が威力を発揮することになります。
ラブジョイ彗星のイオンの尾の大局的な時間変化を、
Iバンドで得られた2分露出の3枚の画像から作成したアニメーション。
特に尾の下流の方(画像下側)で、
尾の幅が数分で細くなっていたことが分かる。

彗星の尾には、チリとイオンの両方があり、
今回は、イオンの尾を詳しく調べています。

そして、すばる望遠鏡に搭載された主焦点カメラで、
彗星の核から80万キロほどの範囲のイオンの尾を、繰り返し観測して、
刻々と変わる様子を追っているんですねー

観測に使われた“Iバンド(波長850ナノメートル)”では水イオン、
“Vバンド(波長550ナノメートル)”では一酸化炭素イオンと水イオンが発する光を、
それぞれとらえています。

そして、データを詳しく調べたところ、
ラブジョイ彗星の尾の大局的な構造が、10分間ほどで刻々と変化していたことが分かることに…

さらに、イオンの尾の中を詳しく解析して、
核から30万キロほどの位置に塊が生まれて、秒速20~25キロで下流に流れていく様子も発見しました。
(左)Iバンドで2秒露出のラブジョイ彗星。
水色の四角が、右で切り出されている部分を示している。
(右)彗星のイオンの尾の中の塊の移動。

イオンの尾は、太陽から流れてくる太陽風で、
彗星の核付近の原子や分子がイオン化して、吹き流されてできたもので、
最終的には太陽風の速度(秒速300~700キロ)に達すると見られています。

今回の観測は、彗星の近くでイオンの塊が、
太陽風によって最初の加速を受けつつある状態をとらえたものといえます。

観測当時、ラブジョイ彗星のイオンの尾は、
地球から見て垂直方向にたなびいていたので、
こうした尾の中の移動を詳しく探るのに適していたんですねー

観測されたイオンの塊の移動速度は、ハレー彗星で観測された秒速58キロや、
過去の大きな彗星の観測から得られた、秒速44±11キロという値と比べてかなり遅く、
新しい謎にもなっています。

イオンの塊の生成の仕組みは、まだはっきり分かっていません。

なので、彗星の観測データを蓄積していけば、
イオンの尾で起きる物理現象に、もっと迫れるかもしれませんね。

予想に反して生き残った彗星

2015年03月02日 | 流星群/彗星を見よう
2月の18日から21日にかけて、
太陽をかすめるように近日点を通過した彗星の姿を、
NASAの太陽観測衛星“SOHO”がとらえました。

この彗星“SOHO(C/2015 D1)”は、
ほとんどの彗星と同じように、太陽への最接近で蒸発すると考えられていました。

でも予測に反して、太陽表面から約350万キロの距離を通過した後も生き残ったんですねー


さらに興味深いのは、この彗星がどのグループにも属していないこと。
2月20日に“SOHO”のLASCO C3カメラがとらえた
彗星“SOHO(C/2015 D1)”

“SOHO”の視野に入るような彗星は、
太陽のすぐそばをかすめる“クロイツ群”に属しているものがほとんどです。

“クロイツ群”の彗星は似通った軌道を持っていて、1つの巨大な彗星が、
かつてバラバラになったもののようです。

また、その明るさも特異で、
2月21日に“SOHO”の視野から抜けたときの彗星の明るさは4~4.5等級でした。
“SOHO”のLASCO C2カメラの視野中を移動する
彗星“SOHO(C/2015 D1)”

思いのほか
早く消滅するかもしれないようで、
今後も地上から“SOHO(C/2015 D1)”を観測できるか、確立は半々…

これから“SOHO(C/2015 D1)”は、
うお座からペガサス座まで移動。

おそらく6等級以上になることはなく、
予想外のアウトバーストを起こさない限り、数日のうちに暗くなるそうです。

日没後の西の低い空に位置するので、観測は難しそうですね。



電波のまたたきでとらえたアイソン彗星のイオンテイル

2015年03月01日 | 流星群/彗星を見よう
名古屋大学と日本大学の共同研究チームが、
2013年11月に太陽に再接近して消滅したアイソン彗星のプラズマの尾を、
電波のまたたき現象を利用した観測でとらえました。

そして、この観測が彗星や太陽風の謎に迫るうえで、
有効な手段だと分かってきたんですねー
2013年11月23日のアイソン彗星

今回の研究では、
愛知県豊川市などに設置された専用アンテナを使って、太陽からのプラズマ粒子の流れ“太陽風”ごしに見える、遠方の電波源のまたたきを調べています。

データの解析からは、
アイソン彗星のイオンテイル(太陽風にたなびくプラズマの尾)が電波源の手前を通過したときに、電波源のまたたき現象が強くなるようすが見つかり、イオンテイルの電子密度の推定が行われました。

ただ、尾の境界付近が最も電子密度が高いという意外な結果も得られることに…
今後、この解釈が課題になるそうです。

電波源のまたたき現象を利用した彗星のイオンテイル観測は、
まだ例が少ないのですが、彗星の時間変化や太陽風との相互作用などの謎に迫るうえで、有効な手段になると期待されているようですよ。
電波源のまたたき現象を観測する大型アンテナ