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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

ダークマターを含まない銀河がダークマターの存在を証明する?

2018年04月14日 | ダークマターとダークエネルギー
ダークマターをほとんど全く含まない銀河が6500万光年彼方に見つかりました。

これまでダークマターがあるから銀河が生まれると考えられていたので、この発見は銀河形成の標準的な理論に見直しを迫るものになる可能性もあるんですねー

そして、ダークマターの正体を解き明かす新たな手がかりにもなるのかもしれません。


超拡散状銀河

銀河に含まれている星や星団の運動速度から求めた銀河の質量は、銀河全体の明るさから星やガスの総量を求めて導いた質量に比べて10倍以上大きな値になることが知られています。

このことから考えられるのが、光などの電磁波を出さずに重量だけを及ぼす物質の存在。
そう、“ダークマター(暗黒物質)”と呼ばれる物質が銀河の質量の9割以上を担っているということです。

でも今回、アメリカ・イェール大学の研究チームが見つけたのは、この経験則にまったく当てはまらない銀河でした。

  研究チームは独自開発の望遠鏡を使って、
  非常に淡く暗い天体を観測するプロジェクトを進めている。


研究チームが今回観測した銀河の名前は“NGC 1052-DF2”。
くじら座の方向約6500万光年彼方にあり、“NGC 1052”という巨大楕円銀河を中心とする銀河群に含まれています。

ただ、“NGC 1052-DF2”は天の川銀河と同じくらいの直径を持っているのですが、星の数は天の川銀河のおよそ200分の1しかないんですねー

“NGC 1052-DF2”のように大きさの割に明るさが非常に暗い銀河を“超拡散状銀河”と呼びます。
近年の観測で、こうした大きく淡い銀河が銀河群や銀河団の中にかなり多く存在することが分かっています。

  研究チームが2015年に発見し、
  全質量の99.99%がダークマターであることが判明した銀河“Dragonfly 44”も超拡散状銀河の一つ。

  99.99%が暗黒物質で出来た銀河を発見!
    

○○○
ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された超拡散状銀河“NGC 1052-DF2”



ダークマターを含まない銀河

研究チームはハワイのケック望遠鏡を使って“NGC 1052-DF2”を取り巻く10個の球状星団の運動速度を観測。星団が秒速10.5キロ以下というかなり小さな速度で運動していることを突き止めます。

この速度から計算して分かったのは、銀河の質量が太陽質量の約3億4000万倍ということ。

一方、この銀河の明るさから見積もった恒星質量の合計は太陽質量の約2億倍でした。

誤差を考えると、この銀河の質量はほぼすべて恒星が担っていると言ってもよく、ダークマターは予想の約400分の1しか含まれていないことになります。

これまで全ての銀河にはダークマターが存在し、ダークマターがあるから銀河が生まれると考えられてきました。

ダークマターはあらゆる銀河の主成分なので、これをほぼまったく含まない銀河が見つかるというのは予想外の結果なんですねー


銀河はどうやって生まれたのか

研究チームはNASAのハッブル宇宙望遠鏡やハワイのジェミニ望遠鏡を用いて、この奇妙な銀河の性質をさらに詳しく調べていきます。

そして分かってきたのが、“NGC 1052-DF2”には典型的な渦巻銀河に見られる明るいバルジや渦巻腕、円盤部などが無いこと。

かといって楕円銀河の特徴とも似ておらず、ほとんどの銀河の中心に存在すると考えられている大質量ブラックホールを持つ証拠もなし。他の銀河と過去に相互作用をした痕跡もありません。

  球状星団の色の観測から、この銀河の年齢はおよそ100億歳と推定される。

この銀河には恒星からなるハローと球状星団しかなく、それ以外の要素がまったく見当たらず…
このような銀河が形成された過程はまったく不明なんですねー

銀河群の中心銀河である“NGC 1052”が成長する過程で、“NGC 1052-DF2”からダークマターを失わせるような何らかの役割を果たしたのかもしれません。

また、“NGC 1052”に向かって落ち込むガスの塊が分裂して“NGC 1052-DF2”が作られたという説や、“NGC 1052”の中心で生まれた超大質量ブラックホールが強烈な風を放出して“NGC 1052-Df2”の形成を助けたとう説も考えられています。

銀河のダークマターについては、運動から求めた銀河の質量が明るさから求めた質量よりも必ず大きな値になることから、この食い違いはダークマターのせいではなく、これまで前提としてきた重力の法則自体が間違っていると考えることも…

ただ、2つの方法で求めた質量の食い違いがほとんどない銀河が今回見つかったことから、ダークマターは確かに存在し、恒星やガスなど、銀河の他の成分と分離することもありうる存在であることが示されたようです。

銀河の振る舞いに関する標準的な理論の見直しや、ダークマターが現実に存在することを今回の発見は示しているのかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ
  宇宙論の標準モデルでは説明できない衛星銀河の運動
    

ダークマター候補物質の検出へ! アメリカが次世代ダークマター検出装置を建設

2017年03月22日 | ダークマターとダークエネルギー
宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めているのに、
目に見えない未確認の重力源ダークマター(暗黒物質)。

このダークマターの候補物質の中に未発見の粒子WIMPがあります。
  ダークマターの候補“WIMP”の兆候を検出

WIMPは電磁気的な相互作用がほとんど起きないので、
電磁波による観測ができないんですねー

このWIMPを検出するため、
アメリカが次世代の実験装置を建設するというお話です。


地下深くの実験施設

このプロジェクトを選定したのは、
アメリカエネルギー省とアメリカ国立科学財団で、
世界38以上の研究機関も参加するそうです。

実験設備が建設されるのは、サウスダコタ州のスタンフォード地下研究施設。

この施設の地下深く(地下約1.6キロ)に、
WIMPを検出するLUX-ZEPLIN実験のための施設が建設されるんですねー
完成用は2020年になっています。


大型地下キセノン実験

LUX-ZEPLIN実験の前身には大型地下キセノン実験がありました。

この実験では350グラムの液体キセノンを詰めた容器を地下坑道に設置し
ダークマター粒子が液体キセノンに衝突したときに起こると予想される、
微弱な発光を観測しようとしました。

でも、検出は出来きず…

今回のLUX-ZEPLIN実験では、大型地下キセノン実験の跡地を利用。

10トン級の超高純度液体キセノンを用いることで、
検出感度を大型地下キセノン実験より50倍以上高め、検出に挑むそうです。


微弱な発光の検出

入射したダークマター粒子が、大型容器内に満たされた液体キセノンと衝突すると、
キセノン原子が発光し電子を放出します。
大型の液体キセノン容器に入射したダークマター粒子が、キセノン原子と衝突するときの発光を電子増倍管で検出する。

この発光を容器の上下にある検出器(光電子増倍管)で検出しようというわけです。

衝突時にキセノンから放出された電子は、
電界によって容器上部に移動し二次発光するので、
これも検出するそうです。

ダークマター粒子がキセノンに衝突するときの発光は、
極めて微弱なものと考えられています。

なので、その信号をとらえるには、
バックグラウンドノイズのレベルを下げておく必要があります。
LUX-ZEPLIN実験でのダークマター粒子検出装置のイメージ。バックルラウンドノイズを減らして微弱な信号をとらえるため、地中深くに建設される。

実験施設を地中深くに建設するのはこのためなんですねー

なお、同様の次世代ダークマター検出実験は、
イタリアや中国でも計画されています。


超対称性粒子

検出対象となるWINPとしてはニュートラリーノなどが想定されています。
  “Super-WIMP”がダークマター候補から外れる
    

ニュートラリーノは、
素粒子物理学上の仮説である超対称性理論によって存在が予測されている
超対称性粒子の一種。

冷たいダークマター(熱的なランダムな動きの小さいダークマター粒子)の
最有力候補とされています

超対称性理論が正しければ、
素粒子には未発見のパートナー粒子が存在することになり、
素粒子の数は現在の標準模型の2倍になるそうです。

ヨーロッパの大型ハドロン衝突型加速器や、
国際宇宙ステーション上に設置されたアルファ分光器など、
さまざまな方法での実験が続けられています。

でも、これまでのところニュートラリーノを含む、
超対称性粒子が実験的に確認された事例はありません。

今回は、地下深くの検出感度を高めた検出装置で、
この粒子の発見に挑むことになります。

され、この粒子と液体キセノンの衝突時に起こる微弱な発光を
観測することができるのでしょうか。


こちらの記事もどうぞ
  矮小銀河からガンマ線、ダークマター粒子対消滅の証拠の可能性
    

遠方にある星形成銀河から分かってくる宇宙の泡構造

2017年02月18日 | ダークマターとダークエネルギー
宇宙にある質量の大半を占めながら観測できていない物質…

その物質“暗黒物質”の分布と銀河の3次元分布とを比べてみると、
不思議な関連性が見えてきたんですねー

分かってきたのが、宇宙では過去に遡るほど、
暗黒物質の分布と星形成銀河分布の関連が深くなるということでした。


暗黒物質の分布

宇宙には、ほとんど何もないところや、
反対に銀河が多く集まっているところがあります。

こうした銀河の分布のことを“宇宙の泡構造”と呼び、
とくに銀河が多く集中しているところは“銀河団”と呼ばれています。

泡構造の形成は、
暗黒物質(ダークマター)同士の重力相互作用に支配されているのですが、
暗黒物質は電磁波では観測できません。

でも、暗黒物質の分布の様子を知る方法はあるんですねー
それは“重力レンズ効果”を観測すること。

遠方の銀河の形状が、
手前の銀河団の重力によってゆがめられる“重力レンズ効果”を観測することで、
分布の様子を知ることが出来ます。


暗黒物質と銀河の分布

暗黒物質の分布と、見える銀河の分布とを比べると、
暗黒物質と銀河の星形成の関係を調べることができます。

今回の研究では、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ(HSC)を使って、
かに座方向の領域を観測し、暗黒物質の分布図を作成。

そして、約1万2000個の銀河の距離を赤方偏移から測定し、
大規模な3次元銀河分布を作成しています。

比較は、この2つの分布図で行われました。

  膨張する宇宙の中では、遠方の銀河ほど高速で遠ざかっていくので、
  銀河からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が、
  波長の長い方(色で言えば赤い方)にずれる現象を赤方偏移といいます。
  なので、赤方偏移の量が大きいほど、遠方の銀河ということになります。



銀河団領域。等高線は質量分布を表し、
赤は星形成をやめた銀河、青は星形成中の銀河。

まず、それぞれの構造がよく似ていること、
つまり、銀河によって描き出された質量分布は、
暗黒物質の分布とよく一致していることが確かめられます。

さらに、赤方偏移から得られた銀河の3次元分布を宇宙の時代ごとに切り分け、
時代ごとに銀河の分布が、暗黒物質の質量分とどれくらい似ているかを調べています。

距離ごとに分けて銀河分布を調べるイメージ図。
地球(観測者)から観測された銀河の3次元分布を描いている。
赤は星形成をやめた銀河。

すると、50億光年先にある遠方銀河団の周りの星形成銀河の分布が、
30億光年先にある近傍銀河団の周りの星形成銀河の分布に比べて、
より暗黒物質の質量分布図と一致していることが分かりました。
(上)30億光年先と(下)50億光年先の銀河団領域の拡大図。
(左)暗黒物質の質量分布、(中)星形成をやめた銀河の分布図、(右)星形成銀河の分布。
30億光年先の銀河団では質量分布に対応する星形成銀河がほとんど見えないが、
50億光年先では対応する銀河増えている。

このことは、遠方にいくと宇宙の泡構造に対する星形成銀河の寄与が、
より顕著になるという変化をとらえたものになります。

星形成銀河が宇宙の暗黒物質の物質分布をなぞる様子が、
宇宙の歴史の中で変化してきたことを明らかにしたんですねー


さらに遠方の宇宙の観測へ

遠方の宇宙では、今まで無視されてきた星形成銀河が、
重要な役割を果たすことが新たに分かってきました。

超広視野主焦点カメラで得られた質量分布図の中には、
さらに遠方の宇宙の情報も含まれていると考えられています。

さらに、現在開発中のすばる望遠鏡次世代超広視野多天体分光装置(PFS)が完成すれば、
より遠方の銀河を一度にたくさん分光することができます。

今後研究チームでは、超広視野主焦点カメラと、
次世代超広視野多天体分光装置のデータを組み合わせることで、
星形成活動が活発だった時代の暗黒物質と星形成銀河の様子の解明を目指すそうですよ。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 宇宙の網を作る暗黒物質のフィラメント構造