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漢方「五行論」に学ぶ味付け法

2016年03月04日 | 漢方栄養学

漢方「五行論」に学ぶ味付け法

 漢方では、あらゆるものを5分類し、それぞれに特徴的な5つの属性(氣)があるうえに、それらが単独で存立するものではなく、相互に影響し合い、それら5つの集合が全体でもって成り立っていると説きます。
 世界には、その多くを3分類や4分類にするという特徴を持った民族がいるのですが、なぜか漢民族は、3でも4でも6でもなく5つに分類してしまいます。それでもって、全てが矛盾なく納まり、全ての説明がつくというスタンスを取っています。
 その分類表(五行色体表)を見てみると、これは偶然にしては出来すぎだが、うまいこと5分類できているではないか、と思わせられます。
 加えて、同一の属性に所属する
物や事象は、全く異質なものであっても互いに関係するといいますから、これまた不思議なことですが、なんとなく当たっている感がします。
 ここのところが「五行論」を興味深くし、何かと実生活への応用範囲が広くて重宝させられます。

 さて、我々が感じる味というものは、単味である場合はまれで、幾つかの味が混ざって感じられ、その相互作用でもって美味しかったり、まずかったりもします。
 ところで、味の種類は幾つあるでしょうか。漢方では当然のことながら5種類だけとなりますが、ヒトの舌に存在するセンサーは、旨味、えぐ味、渋味といったものを感じ取ることもでき、5種類よりずっと多いです。でも、漢方では、旨味は“甘味のなかに含まれてしまう”ようですし、えぐ味や渋味は“これは味にあらず。味には氣があり、それでもって人の臓器の氣を養うものである”として無視してしまうようです。えぐ味や渋味というものは毒であり、また、毒と表裏一体の「下薬(短期間治療に用いる毒性のある薬)」であるといったところでしょうか。

 よって、漢方に登場する味は、酸味、苦味、甘味、辛味、塩味の5つの基本的な味だけです。そして、それぞれの味がそれぞれの臓器に対応し、順番に肝、心、脾、肺、腎と密接な関係にあるとするものです。酸味は肝が喜ぶ、苦味は心が喜ぶ、といったぐあいです。また、季節とも対応し、春、夏、土用、秋、冬と関わりが深いものとなります。つまり、春は肝の季節で酸味がよい、夏は心の季節で苦味がよい、というものです。
 考えてみるに、季節の野菜・果物もそんな感じがします。春は酸っぱい甘夏が旬になりますし、夏は苦味が強いゴーヤが出回り、その昔のキュウリは首の部分が苦かったものです。

 季節ごとの味一つだけを覚えておくだけでも健康に役立ちますが、料理は複数の味がからんできますから、より健康に、そして、より美味しいく料理を作っていただくためには、複数の味の組み合わせを知っておかれるといいでしょう。
 そこで、各季節ごと、さらに、24節気ごとの食材の選択や味付けについて、このブログで紹介(24節気は現在進行形)していますが、本稿で「漢方二味・三味」の組み合わせをまとめて紹介することにします。

 まず、基本となる「漢方二味」は次のようになります。
  春 主:酸味 従:甘味(酢の物、酢漬には砂糖が不可欠)
  夏 主:苦味 従:辛味(ゴーヤ料理には唐辛子をふる)
 土用 主:甘味 従:塩味(鰻[甘味食品]の蒲焼[塩味]

  秋 主:辛味 従:酸味(カレーライスにはラッキョウの酢漬が付き物)
  冬 主:塩味 従:苦味(冬野菜のカブ[苦味食品]の塩漬)

 きちんとルール化された組み合わせになっていて、従味は2つ先の季節の主味になっています。この組み合わせが不思議と美味しく感ずるのです。

 では、「漢方三味」はというと、次のようになります。
 春 主:酸味 従:甘味 添:苦味(酢の物は砂糖を使い、柚子の皮を添える)
 夏 主:苦味 従:辛味 添:甘味(ゴーヤ料理には唐辛子の他に甘味食材も)
土用 主:甘味 従:塩味 添:辛味(鰻[甘味食品]の蒲焼
に山椒の粉)
 秋 主:辛味 従:酸味 添:塩味(カレーは塩味あり+ラッキョウ酢漬)
 冬 主:塩味 従:苦味 添:酸味(カブ[苦味]の塩漬は発酵して酸味あり)

 これもきちんとルール化されていて、添味は直ぐ次の季節の主味になっています。この三味の組み合わせで料理の味に深みが出て、とても美味しく感ずるのです。
 和風懐石料亭はこの五味をご存知でして、上手に三味が組み合わせられています。例えば、酢の物が必ず出ますが、ちゃんと柚子の皮が乗っかっています。

 最後に避けたほうがいい味もあります。それをすぐ上に掲げた「漢方三味」に書き添えましょう。
 春 主:酸味 従:甘味 添:苦味 ×:辛味(酢の物には唐辛子は合わない)
 夏 主:苦味 従:辛味 添:甘味 ×:塩味(塩からいゴーヤ料理はまずい)
土用 主:甘味 従:塩味 添:辛味 ×:酸味(鰻の蒲焼に梅干は食い合わせ)
 秋 主:辛味 従:酸味 添:塩味 ×:苦味(苦いカレーなんて食えません)
 冬 主:塩味 従:苦味 添:酸味 ×:甘味(甘い塩漬は、まずいです)

 これもきちんとルール化されていて、避けたほうがいい味は2つ前の季節の主味になっています。このようにバッティングする味もあって、不味くなることもあるのです。
 いかがでしたでしょうか。
 ところで、五味の残りの一味はどうすればいいでしょうか。これは食材に混じりこんでいる場合もありましょうし、自然に任せればいいでしょう。また、それによって美味しく感ずるようでしたら付け足されていいものです。

 以上が、季節折々の「漢方三味」の組み合わせですが、これをあまりに忠実に守り過ぎるのも考えものです。どの味も毎日欠かせないものですからね。
 例えば、春は辛味を避けねばならないとばかり、好きなカレーライスは当分おあずけにしたり、食卓から唐辛子の瓶を追放したりする必要はありません。これらは他の季節よりは控えることを意識するだけで摂りすぎが防げましょう。
 また、肝臓がいつもお疲れさん状態であれば、季節に関わりなく酸味を主体とした料理なり、酸っぱい果物を少し意識して召し上がられるといいです。もっとも酸味が強すぎると、過ぎたるはなお及ばざるが如し、となって逆効果にもなりますから、美味しいと感じる程度に止めてください。
 なお
、肝臓が弱っている方は、日頃から肝臓に差しさわりがある辛味を取りすぎないよう注意なさってください。その理由はのちほど述べます。

 「漢方二味・三味」を暗記しておくのは大変ですから、漢方「五行論」の「相生・相剋」図を下に貼り付けました。これを見て「漢方二味・三味」を拾い出してください。
(注:漢方では塩味のことを「鹹味」といいます。図中「水」の箇所が「鹹」=「塩」です。)
 時計回りの矢印が「相生」で次々と他のものを生み出していくことを意味しますが、味の場合は元になるものを次と次のものが助けることになります。太い矢印は「相剋」で相手方を抑えつけることを意味し、味の場合は避けるべしとなります。

 

 「漢方二味」の場合は時計回りに2つ先のものが助けてくれ、「漢方三味」の場合は1つ戻って隣のものも助けてくれる、そして、太い矢印が差し込んでくる味を避ける、と覚えておかれるといいでしょう。

 さて、この図は「木・火・土・金・水」の基本五行に、体の臓腑や器官、季節や感情そして味が付け足され、それぞれのグループごとに密接な関係を持っていることを意味しています。よって、冒頭で述べましたが、春・肝臓・酸味は密接な関わりを持つのです。
 ここで、五味と五臓の関係を、春に肝臓を十分に働かせようと酸味をとった場合を例にして、少々詳しく説明することにします。

 酸味をとる→肝氣が強まる→相剋関係にある脾氣を抑える→※脾氣が弱まる
 (これでは都合が悪いですから、脾氣を高めねばなりません。よって、甘味を補う)
 ※脾氣が弱まる→相剋関係にある腎氣を抑える力が落ちる→腎氣が強まる→相剋関係にある心氣を抑える→※心氣が弱まる
 (これでは都合が悪いですから、心氣を高めねばなりません。よって、苦味を補う)
 ※心氣が弱まる→相剋関係にある肺氣を抑える力が落ちる→肺氣が強まる→相剋関係にある肝氣を抑える
 でも、すでに酸味をとって肝氣を強めようとしていますから、大丈夫です。
 このように、酸味だけでは五臓のバランスを崩しますから、酸味をとった場合には、これによって弱まる臓器を助ける味を加える必要性があるのです。
 <主:酸味、従:甘味、添:苦味>の組み合わせがこうして生まれます。
 また、辛味でもって肺氣を強めすぎると肝氣を抑えつけすぎますから、辛味は避けるべし、ということも分かるのです。

 いかがでしたでしょうか。
 この「漢方三味」と、その組み合わせに加えることを避けるべき味を覚えておかれると、高級和風懐石料亭の味が楽しめるでしょうし、季節折々の正しい食養でもって心身ともに健康になることもできるのです。
 なお、薬膳料理とは、本来はこうしたものをいいます。
 そして、薬食同源(近年は間違って医食同源と名を変えてしまいましたが)の本来の意味は、“命は食にあり、食誤れば病いたり、食正しければ病自ずと癒える”であって、「心身を癒してくれる薬」と「美味しい食べ物」とは同じものであり、それは全て食べ物に源を発すると言っているのです。例えば、味噌汁だって季節折々の具材を上手に組み合わせれば、美味しくて立派な煎じ薬になるのです。
 
 さあ、皆さん、今日から旬の薬膳料理をお作りになって、毎日が高級和風懐石料亭へ行った気分に浸りませんか。


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