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夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『モリのいる場所』

2018年05月25日 | 映画(ま行)
『モリのいる場所』
監督:沖田修一
出演:山崎努,樹木希林,加瀬亮,吉村界人,光石研,青木崇高,
   吹越満,池谷のぶえ,きたろう,林与一,三上博史他

シネ・リーブル梅田で2本ハシゴの2本目。
前述の『心と体と』のすぐ後に。

1977(昭和52)に97歳で亡くなった画家・熊谷守一(くまがいもりかず)。
昨年没後40年を迎え、より注目度が高まっているようです。
彼のその暮らしぶりを描いた作品だから、伝記ドラマということになるのでしょうが、
ユーモラスな演出がお得意な沖田修一監督のこと、
どこまでがこのとおりだったかはわからない。とにかく楽しいです。

1974(昭和49)年の東京。
94歳になるモリこと熊谷守一(山崎努)は、30年間自宅から出ていないとの噂。
噂はほぼ真実で、モリは自宅の庭に生きる虫や草花を観察しつづける超俗の人。
その様子も風貌もまるで仙人のよう。
身のまわりのことは連れ添って52年の妻・秀子(樹木希林)に何もかも任せ、
モリの姪・美恵(池谷のぶえ)が住み込みで家事を手伝う。

モリが家から出ようとしないものだから、熊谷家には連日、客ばかり。
何をしに来たのだかわからない者たちもいれば、
はるばる長野からモリの揮毫を求めて訪問した旅館の経営者・朝比奈(光石研)や、
モリの姿をフィルムに収めるカメラマン・藤田(加瀬亮)と助手・鹿島(吉村界人)。
さらには隣接地に建設予定のマンションオーナー・水島(吹越満)が
現場監督・岩谷(青木崇高)を連れて現れて……。

あちこちでクスッと笑えます。
冒頭の食事シーンでは、料理を食べるのに工具を持ち出すモリが可笑しい。
ハサミでチョキチョキ、ペンチでグシャリ、
自分の食べたいものを自分が食べやすい形状にしちゃいます。
それを普通のこととして流す妻と姪っ子。もうめちゃくちゃ可笑しいです。

『人生フルーツ』(2016)のご夫婦を思い出させるような暮らしぶりで、
ともすれば眠くなりそうな心地よさ。
蟻は左前足から歩き出すなんてモリは言い、それを確かめようとするカメラマン。
しかし蟻の一歩目がいつかなんてわかるわけないでしょ。そこ、突っ込もうよ(笑)。

一見ガラの悪い現場監督がすっかりモリと親しくなるシーンも○。
絵に限らず、「上手」なだけがいいとは限らない。「上手」は先が見えるから。
「下手」でいいんだというモリの言葉にうなずきたくなります。

没後40年でまだ著作権が切れていないから、
熊谷守一で検索してもその絵をネット上で見ることはできません。
個人の方のページがいくつかヒットしますけれど、著作権侵害かと。
熊谷守一つけち記念館と豊島区立熊谷守一美術館、行ってみたいなぁ。

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『心と体と』

2018年05月24日 | 映画(か行)
『心と体と』(原題:Testről és Lélekről)
監督:イルディコー・エニェディ
出演:アレクサンドラ・ボルベーイ,ゲーザ・モルチャーニ,レーカ・テンキ,エルヴィン・ナジ他

先週半ばにダンナ、海外出張へ。
その間にまたTOHOシネマズの1ヶ月フリーパスポートをつくろうと、
すでに6,000マイル貯めたのですが、飲み会だらけで映画を観るひまがない。
出張後すぐにフリーパスをつくるのは止めて、週末に。
ほんとは週末にナゴヤドームまで行こうかとも思ったけれど、
阪神ふがいなさすぎて、名古屋まで行くモチベーション保てず。
今年の球団スローガン、「執念」が泣いている。
テレビ中継を観るのもおそろしく、映画に逃げました。
フリーパスをつくる前に、シネ・リーブル梅田で2本ハシゴ。

ハンガリー作品。
第90回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた5作品中、4作品が日本で公開済み。
『ナチュラルウーマン』『ラブレス』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
好きかどうかは別として、どれも強烈な印象を残す作品でした。
本作は第67回ベルリン国際映画祭でも金熊賞を受賞しています。

ブダペスト郊外の食肉処理場
財務部長のエンドレは、代理職員として雇われた若い美人女性マリアのことが気になる。
彼女はコミュニケーションを取るのが苦手で、人を寄せつけない。
品質検査を担当し、片っ端からB級ランク付けしたものだから、社員みんなドッチラケ。
そんな彼女にエンドレが声をかけるが、続かない会話。

ある日、社内で牛の交尾薬が盗まれるという事件が起きる。
全従業員がお色気ムンムンの精神分析医と面談することに。
性的な質問ばかりが並び、エンドレは不愉快になるが、どんな夢を見たかとも問われる。
すると、エンドレとマリアがまったく同じ鹿の夢を見ていたことがわかり……。

オスカーの他の外国語映画賞ノミネート作品と甲乙つけがたいほど本作も鮮烈、
そしてこれは鮮烈のみならず、私は大好きな作品でした。
ただし、食肉処理のシーンもあるし、不思議な空気感漂う作品なので、
ハリウッド作品慣れしている人にはお薦めしづらい。

マリアは人並み外れた記憶力を持ち、ものすごく頭がいい。
だけど、人とのコミュニケーションに関してはそうは行かず、失敗してばかり。
失敗するのが怖いから、人を遠ざけているところもあるようです。
帰宅して、その日の人とのやりとりを再現して自己嫌悪に陥るところなど、
人間らしくない彼女の人間らしい一面に好感が持てます。
彼女は自分に何かが欠落していることをちゃんとわかっていて、
なんとかしたいと思っているけれど、なんともできないんですねぇ。

それが、およそ恋愛の対象とは言いがたい、くたびれた中年男と出会って変わる。
エンドレは左手が不自由で、人生の何もかもをあきらめている。
そんな彼も、マリアと出会って毎日ウキウキわくわくする。
私の苦手な「オッサンの妄想」ではあるのですが、なんだか許せてしまう。

心を開きはじめた彼女の、周囲の人との会話シーンがすごく好き。
会社の清掃員のおばちゃんとの会話なんてピカイチ。
彼女を幼い頃から担当する精神科医のカウンセリングも良いし、
CDショップの女性店員との会話にはムフフと笑ってしまいました。
「会いたくてたまらない」という歌詞を聴いたときのマリアの表情は、雷に打たれたかのようです。

魂を揺るがすほどヘヴィーな作品ではありません。
でも、人の痛みだとか優しさだとかを、それこそ心と体で感じたい。

ネタバレになるけれど、マリアが手首を切るシーンでは、え〜っ!
想定外の悲しすぎるラストになっちゃうの!?と呆然としかけてホッ。
左手の不自由なエンドレ、左手を切ったマリア、向かい合えば補えている。

鑑賞後に、エンドレ役の俳優がほぼズブの素人だと聞きました。
道理でぎごちなさがあったはずだわ。
思い返すとなるほどなシーンがたくさんあり、下手といえば下手だけど、
愛想のないオッサン、でも実直という印象で、よかったのでは。

恋したときに聴きたい曲って何ですか。

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『追悼特別展 高倉健』へ行きました。

2018年05月22日 | 映画(番外編:映画とこの人)
先週の火曜日、午後休を取りました。
元町駅から徒歩数分の激ウマ中華料理店で晩ごはんを食べる前に、
西宮市大谷記念美術館で開催中の『追悼特別展 高倉健』へ。

手元にチケットがなかったら、スルーしていたかもしれません。
高倉健世代じゃないし、出演作もほとんど観たことがないのです。
しっかりと記憶にあるのは『あなたへ』(2012)のみ。
私が劇場で観たのはおそらくこの1本きりでしょう。
そのほか、ビデオやDVDで観たことを覚えているのは、
『飢餓海峡』(1965)、『八甲田山』(1977)、『幸福の黄色いハンカチ』(1977)、
友情出演の『刑事物語』(1982)、『鉄道員(ぽっぽや)』(1999)ぐらい。
『ブラック・レイン』(1989)すら観ていないのですから。

ファンでもなく、思い入れもなく、でも凄い人だったというのはなんとなくわかる。
そんな状態で展覧会を観に行ったのですけれど。

めちゃめちゃ楽しかった。

生涯で205本の映画に出演した健さん。
それらを年代毎に分けて、展示室の複数箇所に設置されたモニターで、
205本すべてのダイジェスト版を観ることができます。
全部観ると2時間以上。ええ、全部観ましたとも。

本当は年代順に観るべきだったのでしょうけれど、
健さんの初出演作は1956(昭和31)年で、私はこの世に生まれてもいない。
最初のほうは興味が薄かったから、私は遡る形で拝見。
まずは2000年代の展示室を観たら、テンション上がる。
うんうん、私も知っている健さんだ。
『ブラック・レイン』(1989)のマイケル・ダグラスに思わず若っ!
リドリー・スコット監督もご健在、まもなく新作も公開されます。

ずんずん遡ると、数カ月前にリメイク版を観た『君よ憤怒の河を渉れ』(1976)。
富司純子ってこんなに健さんと共演しているのですね。
吉永小百合も大原麗子もめっちゃ綺麗。美空ひばりもさすがです。

平日の昼間だし、健さんだし、客層に高齢者が多いのは当然か。
みんな楽しそうなんです、とっても。
ご夫婦らしき男女は、「ええとこで切れるなぁ」と言ってましたが、
そりゃそうです、ダイジェスト版なんだから(笑)。
女性三人組は、「あ、誰某(女優のあだ名)さん。可愛いなぁ」とか。
聞いても私はわからなくて。
「アラカンさんや!」とも叫んではりました。
誰かわからず、帰宅後に調べる。なるほど、嵐寛寿郎のことなのかぁ。
いまやアラカンといえばアラウンド還暦ですもんね。(^^;

美術館で俳優の回顧展というのは異例でしょう。
でもだからこその楽しさいっぱい。
台本やポスターと一緒に楽しませていただきました。
こんな展示もいいものです。今度の日曜日まで開催!

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『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

2018年05月21日 | 映画(は行)
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(原題:The Florida Project)
監督:ショーン・ベイカー
出演:ウィレム・デフォー,ブルックリン・キンバリー・プリンス,ブリア・ヴィネイト,
   ヴァレリア・コット,クリストファー・リヴェラ,ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ他

TOHOシネマズくずはモールで4本ハシゴした翌日。

午前中に映画を1本観てから谷町六丁目のギャラリーへ、
素敵なクラフト作家さんの素敵な個展を見に行く予定。
全行程電車のつもりが、朝から強めの雨が降っている。
駅まで歩くのが億劫になり、いろいろ算段して車で谷六へ。
ギャラリーのすぐ近くのタイムズに駐めて、地下鉄谷町線で東梅田へ。
ほぼ10時に梅田に着いたので、30分ほど阪急百貨店をうろうろと。
その後、梅田ブルク7でムビチケ購入済みだった本作を鑑賞。
ちなみに、映画終了後は地下鉄で谷六へ戻り、
雨の似合うギャラリーで個展を楽しませていただいてから、
車で箕面へ帰りました。完璧なスケジュール(笑)。

太陽が照りつけるフロリダ、夢の国“ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート”のすぐ隣。
まぶしい色彩の中に描かれるのは、過酷な現実に生きる子どもたち。
明るいけれど明るくない、鑑賞後にものすごく凹む1本でした。

ディズニー・ワールド脇の安モーテルに暮らすシングルマザーのヘイリー。
その娘で6歳のムーニーは、同じモーテルの階上に滞在するスクーティや、
近隣のモーテル住まいの子どもたちと、毎日いたずら三昧。
その日も到着したばかりの新入り家族の車をめがけてツバの飛ばしっこ。
不覚にも見つかって大目玉を喰らうが、その家族の娘ジャンシーと友だちになる。

お人好しの管理人ボビーは、モーテルに居住することは絶対に認めないとしながらも、
ほとんど住人と化した客たちのために奔走している。
しかし取りっぱぐれは勘弁と、客たちから宿泊費を徴収して回る日々。

無職のヘイリーは、バッタものの香水を手に入れると、
ムーニーを連れてリゾートホテルの玄関先をうろつき、カモを見つけては販売。
そんなふうになんとか滞在費の工面をしていたのだが……。

子どもたちの目線で描かれる世界が斬新。
子どもの背の位置でカメラが回るから、子どもの目に映る世界がわかります。

ムーニーやスクーティのいたずらは、時に無邪気を通り越して悪辣。
車にツバを吐きかけるなんてまだ可愛いほうで、
サブプライム住宅ローン危機で手放されたとおぼしき空き家に侵入して放火まで。
大きな火事になったのを見てスクーティは元気をなくすけれど、
ムーニーはそんなこと屁とも思っていない態度です。
顔はめちゃくちゃ可愛いから、天使の顔をした悪魔的な雰囲気も。(^^;

そんなふうにどんなときも明るすぎるほどのムーニーが
初めて自分の感情を見せるとき。これはもう本当につらい。
ムーニー役のブルックリン・キンバリー・プリンスは末恐ろしいほどの演技力。

遠田潤子の『蓮の方程式』という本を読んだばかりだったため、
母親と子どもはどうあるのが幸せなのかを考えさせられました。
だらしない母親であっても、ネグレクト(育児放棄)ではない。
歪な環境で、とても子どもが真っ当に育つとは思えない暮らしぶりだけれど、
わが子に対して確かな愛情を持っていることははたから見てもわかる。

「真夏の魔法」なんてサブタイトルを付けられると、
明るいエンディングが待っているかと期待してしまう。
ディズニーワールドで夢の世界が繰り広げられる隣でこんな現実。
その対比が激烈でなかなか受け入れられそうにありません。
呆然としてしまう後味のなか、思い出すのはウィレム・デフォー演じるボビーの人間臭い温かみ。

記憶に残る凄い作品です。

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『孤狼の血』

2018年05月20日 | 映画(か行)
『孤狼の血』
監督:白石和彌
出演:役所広司,松坂桃李,真木よう子,音尾琢真,駿河太郎,中村倫也,
   中村獅童,竹野内豊,ピエール瀧,石橋蓮司,江口洋介他

TOHOシネマズくずはモールで4本ハシゴのラスト。

この日のハシゴがいかに時間に無駄のないハシゴだったかと言いますと、
1本目『モリーズ・ゲーム』 9:05-11:35
2本目『ラブ×ドック』 11:40-13:45
3本目『ボストンストロング ダメな僕だから英雄になれた』13:40-15:50
4本目『孤狼の血』 16:05-18:25
どうです、完璧でしょ~(笑)。

原作は劇場公開の数日前に読みました。そのときのレビューはこちら
満点を付けたい小説で、映画化を担当するのは白石和彌監督。
めちゃくちゃ期待していたのですが、冒頭からゲロゲロ~。(--;

1988(昭和63)年、広島・呉原市(呉市をモデルにした架空都市)。
暴力団対策法成立直前、ここではふたつの暴力団が一触即発の状態。
一方は地場の尾谷組、もう一方は広島の五十子会をバックに呉原に進出中の加古村組。

呉原東署に赴任した国立大出の新人刑事・日岡(松坂桃李)は、
マル暴のベテラン刑事・大上(役所広司)とコンビを組むことに。
凄腕ながら暴力団との癒着の噂もある大上のやり方に、日岡は面喰らう。

そんななか、加古村組系列の金融会社の経理担当・上早稲(駿河太郎)が失踪。
暴力団絡みの殺人事件を確信する大上は、日岡を連れて捜査開始。
大上はずいぶんと尾谷組の若頭・一之瀬(江口洋介)に肩入れしている様子。
ヤクザと会うたびに金が入っているとおぼしき封筒を受け取る大上に、
癒着はまちがいないと日岡は考えるのだが……。

たぶん、原作を読まずに本作を観たら、それなりに面白いと思います。
しかし原作を読んでしまったら、なんだかいろいろとガッカリ。

思いっきりネタバレしますから、知らないまま観に行きたい人はご注意を。

まず、グロい。
原作とはずいぶん構成も異なっていて、上早稲の拷問シーンで始まります。
養豚場での拷問は、豚のお尻がどアップになったと思ったら脱糞。
画面の中央に肛門が映って、そこからクソですよ、クソ。これがもう耐えがたくて。
指詰めのシーンもモロ写し。痛い、痛いっちゅうの。

原作では最後まで描写のない、日岡が大上を内偵しにきた監察官だということ、
これが中盤には明らかにされます。
上司の嵯峨(滝藤賢一)に日岡が報告するシーンも半ばには登場。

原作と比べていちばんの不満は、日岡と大上の絆をちっとも感じられなかったこと。
日岡は大上を憎みこそすれ、敬ってなどいません。
また、大上と一之瀬の信頼関係も映画版では感じられず。
そもそも原作では一之瀬は大上に敬語で話していますしね。

原作にはいない薬局の娘(阿部純子)の存在や、
飲み屋の女将からクラブママの里佳子(真木よう子)への改変やら、
ちょっぴりつまらないものになってしまいました。
ヤクザや刑事の下品なダジャレもちっとも笑えないし。

白石監督じゃなければこんなに期待して観ることもなかったので、
それだけにガッカリ感が大きいです。
原作で感じた切なさも映画版ではなくなってしまったのがとても残念。
ガミさんにはパナマ帽を被らせてほしかったなぁ。
ただの警察vsヤクザ映画になっちゃった。
巷の評価は高いけど、白石監督の力量はこんなもんじゃないはずだと思うのでした。

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