夜な夜なシネマ

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『タクシー運転手 約束は海を越えて』

2018年05月05日 | 映画(た行)
『タクシー運転手 約束は海を越えて』(英題:A Taxi Driver)
監督:チャン・フン
出演:ソン・ガンホ,トーマス・クレッチマン,ユ・ヘジン,リュ・ジュンヨル,
   パク・ヒョックォン,チェ・グィファ,オム・テグ,チョン・ヘジン他

シネマート心斎橋にて3本ハシゴの3本目。
この日のハシゴは全部アタリ。
特に2本目に観た『犯罪都市』はスルーしかけていただけに面白い作品を観た喜び大きく。
しかしこの3本目も2本目と甲乙つけがたい面白さ。
面白さよりも「良かった」という点ではこちらのほうが上か。

これも実際に起きた事件が基。
『犯罪都市』はフィクションだと明言していますが、本作は実話ベース色が強いかも。

1980年5月のソウル。
妻に先立たれ、小学生の娘を男手ひとつで育てるタクシー運転手キム・マンソプ。
友人が家主の家に住んでいるが、家賃を何カ月も滞納し、家主の妻は怒りまくり。
仕方がないからこっそり友人に借金を申し込み、
「家主に家賃を借りる奴がいるか」と友人は呆れ顔。

そんな折り、タクシー運転手が集う食堂で、聞き流せない情報を小耳に挟む。
その運転手は、ある外国人客を全羅南道の光州まで乗せて往復する予定で、
高額報酬が約束されているらしい。その額ちょうど、マンソプが滞納している家賃と同額。
マンソプはとっとと食事を切り上げると、その外国人客が現れるはずの場所へと向かう。

待ち合わせ場所に現れたのは、ドイツ人記者のピーターことユルゲン・ヒンツペーター。
英語もろくにしゃべれないくせに、マンソプは約束していた運転手になりすます。

いざ光州へと出発するが、その頃、光州では激しい民主化デモが発生中。
光州では戒厳令が布かれ、厳しい言論統制がおこなわれていたために、
光州以外に暮らす人々は、メディアで報道されることを信じていた。
学生を中心とする民衆が暴徒と化し、軍人を痛めつけているのだと。
事実はその逆で、丸腰の民衆が次々と死に追いやられていた。

光州に行ったまま帰ってこない者がいると聞いたピーターが違和感をおぼえ、
極秘に取材するために光州を目指しているというわけ。
何も知らずに車を走らせはじめたマンソプは、
報酬を得たいがためだけに検問をくぐり抜け、なんとか光州に到着。
想像を絶する状況を目の当たりにして……。

前述の『犯罪都市』同様に、シリアスな話ながら、ユーモアにも溢れています。
職場で同僚にチラシを見せたら、ソン・ガンホのことを「なんか普通のおじさんぽい」。
ほんと、そうですよね。だからこそ、リアリティがあります。

オイシイ話だと思って飛びついたら、自分の命も危うくなるような状態。
留守番させている娘のことも気になって仕方がないのに、
電話一本かけることができない状況。
自分には関係のない話だと逃げ出したい、
でも、殴打されたり撃たれたりしている人を放っておいていいのか。

私にとって1980年なんてごく最近のこと。
そんな時代にこんなことが起きて、政府がそれをひた隠しにして、
善意の人々によってこんな動きがあったとは。

マンソプの決死の覚悟によって、取材を成し遂げたピーター。
ピーターが映像を公開したことで、光州事件を世界が知ることとなりました。
最後まで名乗らなかったマンソプ。
再会を果たして喜び合うふたりが映し出されたとしたらもっと美談になったでしょうが、
映像としても実話としてもそうでなかったところがとても切ない。
ハリウゥド的ではありません(笑)。

シネマート心斎橋ではほぼ満席でしたけれども、
もっともっと多くの人に観てもらえたら。

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