散歩
樹木
高見 順
枯れて
生きる
生きて
枯れる
立派に枯れる為に
壮 ( さか ) んに生きる
葉がすっかり落ちつくしたからといって あの樹は枯れたんじゃない。
冬が過ぎて水が温 ( ぬる ) む頃になってみたまえ。
枯れたような枝から みずみずしい新芽が吹き出してくるから。
芽出しの時はいいものだ。 ちょうど赤ん坊が生まれたときみたいで。
葉の落ちつくした姿はさびしい。 人間の晩年に似て。
しかし あの枯れ木は 一面からいえば
夾雑物を全部落としてしまって
樹の骨格というか ギリギリの場所へ帰ったんじゃないか。
私たちもあの樹に倣 ( なら ) って
娑婆で拾い集めたすべてのものを
一度 さっぱりおとしてみる必要があるんじゃないか。
はたして ・・・ 後に何が残るか。
その時残るものこそ ・・・ 本当の私なんだろう。