言語空間+備忘録

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中国共産党は分裂しない

2010-11-14 | 日記
陳惠運・野村旗守 『中国は崩壊しない』 ( p.62 )

 党政治局常務委員会は中国の事実上の最高意思決定機関であり、現在は胡錦濤 (党総書記、国家主席、中央軍事委員会主席) 、呉邦国 (全国人民代表大会常務委員長) 、温家宝 (国務院総理=首相) 、賈慶林 (政治協商会議全国委員会主席) 、李長春 (思想担当) 、習近平 (党中央書記処常務書記、国家副主席) 、李克強 (国務院常務副総理) 、賀国強 (党中央規律検査委員会書記) 、周永康 (中央政法委員会書記) の九人のメンバーで構成されている。
 かつての中国は、一人の絶対的な権力者による個人独裁国家だった。毛沢東が「左」と言えば全員が左を向き、小平が「右」と言えば全員が右を向いた。しかし、いまの中国にはそのような突出した指導者はいない。現在の中国は共産党による一党独裁国家ではあるが、複数の常務委員による集団指導体制である。その常務委員にしても、党内の支持基盤が安定していなければ強い発言権を維持できない仕組みになっている。
 近年になって雷鋒精神の見直しがはじまったのは、党内左派による巻き返しの圧力がもはや無視できないほどになってきたからだ。〇七年一〇月の中国共産党第一七回大会がはじまる一ヵ月前、一七〇人もの古参党員が連名で党中央に建言書を提出した。名前を連ねたのは、元国家統計局長、元全中国労働者組合書記処候補書記、元光明日報副編集長、元化工部長、元青海省共産党委員会書記……等々、ほとんどが省長クラスの党高級幹部だった。
 建言書はまず党の変質を強く批判し、「現在我々は党と国家の明暗を分かつ分水嶺に立っている」と指摘した。また、毛沢東思想と小平理論を対照し、小平の問題を摘出した。さらに行き過ぎた資本主義に反対し、社会主義体制を堅持するため、小平理論と江沢民理論を党規から排除するよう呼びかけたほか、党内規律の綱紀粛正のため、二六ヵ条に及ぶ改革案を提起した。
 ここに名を連ねた一人に馬賓がいる。かつて北京の中央政府機電部で江沢民の上司を務めた人物で、現在 (〇九年) 九五歳の古参党員である。『記念毛沢東』という本を著した彼は、二〇〇〇年頃から文化大革命の意義を再評価する論文をつぎつぎと発表し、改革開放路線を敷いた小平を「ブルジョアの政客」と痛烈に批判していた。また、小平に否定された毛沢東の名誉回復を求めたほか、江青ら四人組の名誉回復まで主張した。
 馬賓らのこうした過激な主張が国民のあいだで一定の支持を得ているのは、改革開放から三〇年を経た国内で、格差拡大、党幹部の腐敗・汚職等さまざまな問題が噴出し、左派に攻撃の根拠を与えているからだ。文革に参加した五〇~六〇代の層は、その大半が馬を支持している。
 このように、現在の共産党には党内に自律調整機能がある。極端に右傾化が進めば左派がこれを引き戻し、極左が暴走しようとすれば右派がこれを押しとどめるだろう。さらに付言すれば、党内の左右両派によるイデオロギー論争が派閥抗争や内部分裂にいたる可能性はきわめて少ない。なぜといえば、左派にしろ右派にしろ、「共産党による一党独裁権力の恒久的な維持と強化」ということで、その目的は合致しているからだ。


 現在の中国には突出した指導者はおらず、複数の常務委員による集団指導体制である。したがって共産党が極端に右、または左に暴走することはあり得ない。しかし、党内の左右両派による論争が内部分裂にいたる可能性はきわめて少ない。なぜなら、左派も右派も、「共産党による一党独裁権力の恒久的な維持と強化」を目的としているからである、と書かれています。



 「突出した指導者はいない」。

 このことは、一面では「人物が小さくなった」ともいえますが、要は政権が安定してきた結果、「カリスマが必要とされなくなった」ということではないかと思います。いまや、突出した指導者が現れるような時代ではなくなったということです。とすれば、今後、新たなカリスマが現れる可能性は (ほとんど) 考えられず、

   中国共産党においては、今後、集団指導体制が継続される

と考えてよいと思います。



 次に、党高級幹部による建言書、すなわち党の変質を強く批判し、行き過ぎた資本主義に反対して社会主義体制の堅持を主張する建言書が提出された、という点ですが、このことは、

   中国共産党内において左右両派の勢力が拮抗しており、
     (集団指導体制によって) バランスのとれた政治が行われている

ことを示している、とみてよいと思います。



 一部には、中国における左右両派の抗争が中国の分裂をもたらす、と分析・予想する人もいますが、

江沢民理論=「三つの代表」論」を、中国共産党が「あくまでも (共産党の) 特権・利権は捨てない」と宣言したものと捉えるならば、(著者の述べているように) 左右両派の抗争が党の分裂や、中国の分裂に至る可能性はきわめて小さいと考えられます。「中国人が共産党に入党する動機」のところで引用した「中国における共産党の特権・利権の凄さ」を考えれば、この予測には説得力があると思います。

 したがって、党内における左右両派の政策の相違は、(党の分裂・中国の分裂をもたらしたりはせず) 党内で消化され、中道的な政治が行われる結果をもたらす、とみてよいのではないかと思います。



 なお、引用文中で述べられている「雷鋒精神」とは、雷鋒の生きかた、すなわち生涯を党と人民への奉仕に捧げて「革命機械のなかの錆びないクギ」と称えられ、毛沢東が「向雷鋒同志学習 (雷鋒同志に学べ)」と号令して共産党員の手本とされた生きかたを指しています。つまり、金儲け・利己主義に走らず、党と人民のために生きる精神のことです。

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