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ロンドンから徒然に

The Past

2014-04-13 | 映画・演劇
 映画「アーティスト」が上映された時は、今時モノクロ映画という逆転の発想に快哉を叫んだものです。ただ正直言って(というか上手く言えませんが)王道から逸れたところで違う光を放ってこそ輝く作品だと思っていたので、まさかアカデミー賞を取るほどのメジャーに踊り出るとは思わずに驚きました。しかも作品賞のみならず、監督賞、主演男優賞を始めとする5部門で受賞するなんて。

 しかし、どうせそこまで制覇するのなら、この女優さんにもノミネートだけでなく賞を取らせてあげたかったです。あの映画は間違いなくこの人の魅力のおかげで成り立っていたわけですから。

 そのベレニス・ベジョがまたまた素晴らしい演技を見せているのが「The Past」(仏原題はそのままの「Le Passé」。日本語タイトルが「ある過去の行方」)。数々の映画賞受賞歴で今や国際的に名高いイランの映画監督アスガル・ファルハーディーの作品です。(「A Separation(別離)」の監督と言えば分かるでしょうか)
 但し、今回の舞台はイランではなく、フランス。言語もフランス語です。



 それにしてもこの映画、どういうジャンルにも括り入れられない不思議な魅力を持っています。
 複雑な人間関係の過去の謎を探る手法はまるでサスペンスだし、その過程であぶり出される本人さえ気付いていたかどうか分からない内面世界の描き方は心理劇とも言えるし、異民族同士の結婚や子供の在り方、不法移民をめぐる問題などは社会派ドラマと見てもおかしくないし……で、それらが中途半端なものでなく、見事に消化されているので、130分という長丁場がたるむことなく良い緊張感で保たれます。

 とはいえ、見終わった後にあるのは爽快感ではありません。誰もが前を見よう、未来に向かって生きようとしながら、結局それぞれの「過去」を引きずって生きざるをえない現実を以てタイトルにしたのかもしれません。

 それにしても、登場人物の誰もが簡単に共感できるような“良い”人物ではないのに(ベレニス・ベジョ演じる主人公も激高タイプだし)見終わる頃にはその誰もを愛おしく思ってしまうのです。大抵好きになる映画って、僕の場合そんな感じなんですよね。

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