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ロンドンから徒然に

SHAME

2012-01-22 | 映画・演劇
 「何か面白い映画ない?」と訊かれた時に薦めることのできる作品というのは、考えたらなかなか難しいものです。
 自分が好きじゃないものを無理に薦める必要はないし、かといってその人と同じ感性かどうかは、よほど親しくしていないと分かりません。
 先日書いた《The Artist》のような、こういう言い方は悪いけれど“万人向け”の優等生映画ならば、甘口だよとことわった上でまぁ無難に薦めることはできるのですが、今日書こうと思っている《SHAME》の場合は、さて?

 スティーヴ・マックイーン監督とマイケル・ファスベンダーが再び組んだこの映画、結論から言うと傑作です。僕は大好きです。多分この1年が終わっても、最も印象に残った映画として挙げられるんじゃないかと思っています。



 しかるにこの映画、何故誰にでも良いよというのをためらうかというと、もしかして表面だけで判断されてしまわないかなと心配だからです。
 というのも、主人公はセックス依存症、その妹には自傷癖があるという設定で、ヌードもあれば、セックス・シーンも溢れており、中には(書きにくいですが)放尿シーンまであるという内容なんです。
 しかもこれを演じるのがマイケル・ファスベンダーとキャリー・マリガンという人気スターと来ているので、観客の中にはもしかしたら好奇心で観に来ている人もいるかもしれません。

 しかしながらもちろんここに描かれているのは、そんな表象のずっと奥底にあるもの。言葉にすると結局安っぽくしかならないので(というより僕にそれを表現する力がないので)やめておきますが、僕はけっこうこの映画に打ちのめされました。

 それは監督の力、俳優の力はもちろんのこと、もしかしたらNYという大都会の持つ暗い力にも負っているのかもしれません。
 ここに現れるNYには、誰しもがひと目でそうと分かるシンボリックな場所はひとつもなく、それでもそこでひしひしと伝わる空気感が紛れもなくNYなんです。それが劇中のキャリー・マリガンのある歌(なんと歌手をやっています)と、ある台詞と融合して、ますます意味深い場所になっていきます。

 そのキャリー・マリガンも久々に体当たりの演技でした。《Education》で人気と名声を得て以来の彼女の演技は、どこか窮屈そうに僕には感じられたのですが、ここでは吹っ切れて伸び伸びした感じが良かったです。

 しかし何と言ってもマイケル・ファスベンダーの演技。これは凄い!激しい怒り、抑揚のない無関心さ、ずるい心、絶望感……全てをこれ以上ないというくらいパーフェクトに演じていました。彼なくしてはこの映画は成立しなかったかもしれません。

 そしてやっぱりスティーヴ・マックイーン監督の力量。どの場面を切り取っても絵になるアングル、カラー…“アーティスト”としての力量を存分に放っています。
 《ハンガー》でも約10分に及ぶ長回しが見られましたが、この作品にも印象的な長回しが採用されています。
 ひとつは主人公があるいたたまれない事情から夜の街にジョギングに出るシーン。NYの街の(この時は僕には普段のこの街の“喧噪”というよりむしろこう感じられたのですが)“静寂”の中に吐き出される彼の息遣いの強調された音がその時の彼の感情を見事に表現していました。
 そしてもうひとつは職場の同僚の女性との食事のシーン。もしかしたらこの映画で唯一ユーモアに彩られて暖かかった場面かもしれません。

 この映画、こちらでは18歳未満入場禁止の成人映画指定でしたが、映画館はけっこう混んでしました。日本での上映があるのかどうか調べてみたら、当初上映禁止の判断がされそうになったところ、ぼかしを入れることでR18での上映が決まったみたいです。
 相変わらず暴力に甘くセックスに厳しい映倫ですが、正直言って変な期待を持って行ったとしたら肩すかしだと思いますよ。心にガツンと来るシリアスな映画ですもん。

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