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ロンドンから徒然に

貴族院の在り方

2008-08-20 | 日常


 こちらで何かの申込用紙に自分の名前を書き込もうとすると、必ずtitleという欄があります。日本人の感覚からすると、せいぜいMr. Mrs. Miss それにMs. くらいしか思い浮かびませんが、実はこれがけっこう複雑なのです。Sir Senator Doctor General  etc....色んな肩書があるものだと感心します。Lordだとか、いわゆる貴族が持つ敬称もこの中に含まれるのでしょうね。
 もっとも、功績の著しい人に授爵されるケースもあるので、必ずしも日本人の思い描く“貴族”とはイメージが違うのだと思いますが。

 ところで、昨日書いた国会議事堂の内部ですが、TVの国会中継で見慣れた緑色の皮のシートの“下院=庶民院House of Commons”とは別に、臙脂色の皮のシートの“上院=貴族院House of Lords”があります。こちらはむしろ女王陛下の施政方針スピーチ(政府が起草しますが)の場として馴染みがあるかもしれません。
 平たく言えば、庶民院が日本の衆議院に当たり、貴族院が参議院に当たると思えばいいと思います。ところが大きな違いは貴族院の議員は選挙で選ばれないのです。それに定員もありません。名前の通り貴族の称号Lordを持つ議員で構成されていますが、二大政党(かつては保守党vs自由党、今は労働党vs保守党)の思惑で授爵が繰り返され、一番多かった時期は1,200人以上もいたそうです。

 しかしながら、ブレア政権の下での改革で、世襲貴族は92人だけになり、現在はその他の一代貴族、法服貴族、聖職貴族を入れて全部で700人ほどだということです。もっとも、貴族院は出席が強制されるわけではないので、一番人数が多かった時期でもせいぜい300人ほどの出席しかなかったようですが。
 出席が自由というのはけしからん、とも思うのですが、実は貴族院の議員は(一部の例外を除いて)給与をもらっていません。ある種の歳費は発生するらしいのですが、基本的には無給です。もともと本来の“貴族”で構成されていたので、金の心配などなかったのでしょうね。

 ところで、こうした貴族院の在り方はやはり色々と物議を醸しているらしく、昨年の春には庶民院で、世襲制の禁止と選挙導入が可決されています。実際の成立にはまだ様々な手続きがいるので実現するかどうかは分かりませんが、これがもし成立したらすごく大きな歴史上の出来事になると思います。

 僕のイギリス人の友人は、貴族院の抱える様々な問題は認めながらも、存続に賛成だと言います。というのも、貴族院は「世界で最高の演説を聞ける場所」と言われるほど、見識者で構成されており、庶民院の勢いだけで可決された議案をきちんと冷静に判断するには必要な場だと言うのです。

 日本でも参議院の在り方が度々取り沙汰されますが、少なくとも貴族院に匹敵するほどの“見識者”で構成され、“最高の演説”が聞けるくらいならいいのにな、と実情を考えて憂えてしまいます。