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ロンドンから徒然に

マイノリティの叫び ~ WICKED

2008-08-10 | 映画・演劇
 昔から映画なんかでは、主役よりもちょっと癖のある脇役に惹かれてきました。それが悪役ならさらに言うことありません。時として主役を食ってしまうほど魅力のある悪役も存在しますよね。
 でも『オズの魔法使い』に登場する“西の悪い魔女”をフィーチャーして物語を作り上げるなんて発想には驚きました。1995年に出版された『オズの魔女記 Wicked : The Life and Times of the Wicked Witch of the West』をベースに数年前にNYでミュージカル化され、日本でも昨年から劇団四季が日本語版で好評を博していたので気になっていたのですが、やっと今日こちらで観ることができました。



 地下鉄のみならず、主要路線の起点になっているナショナル・レールもあるヴィクトリア駅はいつもたくさんの人で混みあっています。このすぐ横にあるのがアポロ・ヴィクトリア劇場です。
 ここはかつて、ローラー・スケートを使ったミュージカル『スターライト・エクスプレス』が1984年から2002年の長きに渡って上映されたので、そのイメージが僕には強く残っています。



 そこで今『Wicked』が上演されています。急にチケットの入手を思い立ったこともあって良い席は全然なく、劇場に着いてみたらDress Circleの後ろから2番目という遠い席でした。
 昔『オズの魔法使い』の舞台も観たこともあるのですが、実は殆ど覚えていないのです。基本的な知識なしに楽しめるのかなと心配したところ、案の定関連した登場“人物”が顔を出します。でも心配するほどのことはなく、知っていればより楽しめるでしょうが、知らなくても大筋は問題ありません。



 莫大な制作費などの前評判からもっと大仕掛けで魅せるミュージカルかと思いましたが、意外と正統派でした。というより、もう少々の仕掛けでは驚かなくなっているのかもしれませんが。
 今回は本来脇役の“西の悪い魔女”エルファバが主役なのですが、いざ主役になってしまうと、どうしても野球に例えるなら直球投手にならざるをえなく、この役で皆をうならせるのは相当に力量がいるだろうな、と感じました。その点ではちょっとだけ低い音域が弱かったかな。(いや、敢えて辛口過ぎることを言っているだけで、全般的にはもちろん質が高いです)

 かたや美味しい役だなと思ったのは“北の良い魔女”グリンダです。こちらは対照的に変化球を投げることができる役なので、比較的簡単に(というのは失礼ですが)観客の心を奪うことができます。マチネということもあってか、レギュラーではない代役だったみたいなのですが、なかなか健康的で3枚目で可愛いグリンダでした。

 それにしても、グリーンの肌のエルファバは、人種問題だとか民族問題だとかに代表されるマイノリティに対する差別や誤解を表現しているのでしょうか。動物を解放しようとする行動も今日的に感じました。
 自分の心に忠実に振る舞い、圧政に屈することのない彼女の姿は今の世の中の不満を受け止めて、その捌け口になっているのかもしれません。彼女の力強い歌が終わる度に送られる盛大な拍手にそんなことを感じました。