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ロンドンから徒然に

ボルベール <帰郷>

2007-08-18 | 映画・演劇
 偶然の一致でしょうが、天才監督ふたりが同時期に同じ曲を自分の映画の中で使ったら、やっぱり気になります。しかも両方共に昨年のカンヌ映画祭の出品作ときたらなおさらのこと。

 『VOLVER(帰郷)』.....タンゴの名曲として知られるこの曲を、アキ・カウリスマキ監督が『街のあかり』の冒頭から流します。この曲の作者でもあるアルゼンチン・タンゴの歌の創始者カルロス・ガルデルが歌うオリジナル・ヴァージョンです。
 そして、曲のタイトルそのものが映画のタイトルにもなった『ボルベール<帰郷>』の中で、ペドロ・アルモドバル監督はフラメンコ、それも最も速く楽しく自由な形式と言われるブレリーア(ス)のリズムで、主演女優のペネロペ・クルスに歌わせます。
 封切の日に観損ねていた『ボルベール<帰郷>』をやっと今日、観て来ました。
 
 昨日のブログの内容を引き摺っているわけではありませんが、アルモドバル監督の映画には視覚的、聴覚的に印象に残る場面が必ずあります。
 今回の視覚はまず“赤”。服だとか花だとか日常にさりげなく使われている赤が、ある時いきなり起きる事件でぐっと強調されてインパクトになる。具体的にはこの場合殺人なのですが、そこでこの事件が核になるのかと思って身構えると、見事に裏切って核心が次に移ります。
 聴覚としては、彼等の交わす挨拶のキスの音の大きさ!マドリッドなどの都会ではこうまで派手ではないらしいのですが、メインの舞台のひとつになったラマンチャの田舎ではこんな感じらしいです。これがひとたび葬式ともなると、ひとりひとりとこの大きさでキスを交わすのです。これが人との繋がりの大きさを表し、またボケてしまった叔母とのキスの場面でその繋がりの濃さとかが自然と分かるのです。

 いつもながら演じる女優達も皆達者です。中でも主演のペネロペ・クルスは文句なく、今まででもベストの演技かもしれません。
 “付け尻”まで着けて臨んだたくましく強いスペインの“母親”が、怒りを迸らせた後にたちまち弱い“娘”になってしまう。それがワンショットの中で演じられます。それは例えば彼女の目。濁流のような涙から、こぼれそうで決してこぼれないぎりぎりの涙まで、自由自在に使い分けるあの目には皆惹き込まれてしまうでしょう。

 そして19年ぶりにアルモドバル作品に出演する、母親役のカルメン・マウラ。コメディ女優らしいユーモアのある軽快な演技と、母親の雄大な愛を感じさせる重い演技のバランスは、これまた素晴らしく、最後の方でのペネロペとふたりの長回しのシーンなんかはたまりません。

 最後に、これは言わない方がいいのかもしれませんが、ペネロペの歌う『VOLVER』は、やっぱり吹き替えらしいです。(でも、あのシーンのペネロペは本当に綺麗ですよ)