植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

健さんの映画を堪能する

2021年05月28日 | 雑感
高倉健さんの生誕90年なんだそうです。日本を代表する国際的な俳優で、国内外の映画人からも尊敬される大スターでありました。長身で足が長く、筋肉質な細身、眉が太く大きな目、彫りの深い顔立ちは日本人のあこがれでもありました。モテたでしょうね。

 BS、WOWWOW、CS放送などでも盛んに高倉健主演映画を流しております。ワタシが生まれた時分に映画俳優デビューして、ながらく東映やくざ映画の大看板でありました。おそらく初期の映画から順番に放映されていたので、数か月前放送されていたのは緋牡丹博徒や網走番外地などの任侠映画 が多かったのです。カッコよかったなぁ。黒い着流しで一升瓶を下げ、背中の帯には「匕首」を挟み込み、単身敵役の親分の屋敷に乗り込む姿はしびれます。それから、やくざ路線からだんだん離れて、1973年の「ゴルゴ13」あたりから、文芸路線に転換しました。

 それでも晩年にいたるまで、訳アリの過去、前科者や殺人歴という設定が多かったのですね。寡黙にして無骨な役柄を演じれば、誰もまねが出来ない存在感があり、ワタシ達が想像する以上にストイックで努力家であった由。また、対人関係でも優しい気配りのある私生活であったようです。一方で、晩年以外の役どころに共通するやくざ気質、「犯罪的な過去・暴力性」という設定は、高倉健さんのどこかにそうしたものを想起させるような性質や素行があったのではないかとも思います。

 やくざを手始めに、軍人・居酒屋の主人・刑務官・警察官・鉄道員とどちらかといえば、公務員や庶民的ブルーカラー的な配役が圧倒的に多いのです。例えば、学者や教育者、医者、芸術家や企業家など社会的地位が高い知的な役柄が少ないのも、任侠路線の印象が余りにも強すぎるとか、なにか因果関係があるのかもしれません。案外(失礼)少年期から勉強家で英語も堪能、明治大学商学部に進学しているのです。

 見るとはなしに「幸福の黄色いハンカチ」 「遥かなる山の呼び声」など10本以上を鑑賞しましたな。こちらも数十年ぶりに見た映画が多く、筋立てなどは忘れており初めて見る映画のような感覚になりました。時折印象的な場面になって、そういえばこんなシーンがあったな、と思い出します。あの小さな手提げバッグを片手に、というのが流浪する健さんに、ついて回る姿でありました。
 
 幸福の黄色いハンカチ では、刑務所を出所するところから始まりますが、食堂でいかにもおいしそうにビールを飲み、かつ丼を平らげるシーンがあります。出所したての前科者が娑婆で食べるものがいかに美味しいか、それを表現した見事な演技だなぁ、と思っていましたが、健さんはそのために二日間飯抜きで撮影に臨んだそうです。
 出所後、舎弟が用意した横浜の山手(いまも実在する)マンションの部屋に入るのが映画の冒頭になる「冬の華」でも、パンにジャムを塗って牛乳と一緒にほおばるシーンも同様でした。一生懸命に役作りに取り組んでいるからこそ、降旗さんや黒澤明、山田洋二さんなどの名監督に一目置かれ、引く手あまたの名俳優だったのです。

 しかし、それにしてはずいぶんひどい映画にも出ているのです。二流映画・低予算・暴力や残酷シーンを前面に出したチープで安直な映画です。その代表が「ゴルゴ13」や「野生の証明」であります。これだけメジャーな映画にもかかわらず、ストーリー展開が不自然で陳腐、やたらと人が死にます。ゴルゴでは中東が舞台なのに、外人も含め全員が日本語を話す(笑)リアリティーの無さに驚きます。健さんの演技も原作とは全くイメージが違い、違和感だらけでした。(それでも千葉真一主演のゴルゴよりははるかにマシでしたが)

 角川映画で鳴り物入りだった「野生の証明」では、登場人物のほとんどが死に、健さんも薬師丸ひろ子もエンディングで死んでしまうという無茶な脚本でしたが、なんと健さんが何度も「なた」で人間の頭をカチ割るシーンが出てきます。特殊撮影もチープでバキュンドキュンという効果音も現実味がないお粗末な映画だったのに、当時はこんなものがもてはやされたのでしょうか。

 いくらいい役者を揃えても、配給会社と監督次第では、駄作になる典型的な映画でした。健さんも内心嫌だったのではないかと思います。

 晩年になると、「鉄道員(ポッポヤ)」、「単騎千里を走る」、などと落ち着いてしみじみ見れる映画が続き、2012年「あなたへ」が最後の主演作となりました。

 田中裕子さんが、亡くなった奥様役、その郷里の長崎の漁村に奥さんの散骨をするというのが映画のクライマックスでした。奥さんの生家の写真館に飾られた古い彼女の少女期の写真を見るシーンが印象的でした。健さんは、この時すでに80歳を超え、明らかに老人の足取りや身のこなしでした。活舌も悪く、張りがないカスレがかった声が誤魔化し様の無い老いをみせつけました。おそらくこの後健さんは映画には出ない、演技は無理だと悟ったのではないかと想像します。この二年後に他界しています。

 これを数日前に見たのでこれでおしまいと思ったら、オマケがありました、「健さん」というドキュメンタリー映画まで作られていたんですね。

 特に多くは山田洋二さんの映画に出演されていて、非常に好感が持てる作品ばかりなのですが、寅さん(渥美清)、倍賞千恵子さん、吉岡秀隆 さんなど寅さんファミリーとの共演作が多くて、なんとなく健さん映画とフーテンの寅さんとオーバーラップするような錯覚に陥ります。寅さんは「てきや」健さんは「侠客」似たようなものではありますが。

 古い映画をみるといつも感じるのは、あらかたの俳優さんはすでにこの世にいないということです。かつてスクリーンで輝きを放っていたスターもいずれ鬼籍に入ります。そんなことをしみじみ感じる歳まわりになりました。

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