植物園「 槐松亭 」

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鶏血石の鑑定結果(後編) やはりどう考えても本物だ

2022年12月04日 | 篆刻
さて今回で3話目、これを全部読んだらあなたも鶏血石マイスター(笑)であります。

1週間ほど前に届いた「恐らく偽物だろう」として3,600円で入手した鶏血石3本であります。間接的な情報は①いずれも元から印箱はついていない ②一本には「桂崖」と白文で彫られていて、1927年生の日展書家額田桂崖さんの持ち物(自刻印)である可能性が高い ③出品者は書道具を中心に20点ほど出品していて、同じところからまとめて委託(買取)してヤフオクに出したとみられるが、印材についてはあまり詳しくない、といったところです。


その3本のうち一つは最もオーソドックスで、鶏血石の中では安いレベルの自然石でした。
赤い色が少なく、しかも黒ずんでいます。よくみると小さなクラックが入っていて、透明な樹脂で接着しているかもしれません。無理に彫れば裂けて来るのは確実で、印材としては使えないと思います。これが、カサカサした質感で艶が出せない、印刀を撥ね返すくらいに硬い典型的な昌化鶏血です。間違いない石なので、最低3,4千円というところでしょうか。もう少し状態が良ければその倍くらいにはなるのですが。

次が問題の「全紅」(石全体が真っ赤になっている)と見紛うばかりの美しい石です。これは23×23×84㎜という堂々とした角印であります。
前面を子細にチェックしましたが、フィルム・塗装・樹脂などの形跡は一切ありません。角に少し刃を入れて素材を調べても、間違いようのない一体の自然石だと思います。


また側面の一面だけが少し明るい色になり、細かな石英質らしき粒状の模様が見えます。他の面がすべて均質でわずかな透明の層に朱が80%くらいの割合で入っており、色の白くなった雑味のある部分ぎりぎりまで削って、限りなく「全紅鶏血」に近く仕立てた様に見えます。その色が変わった箇所は、まさに「昌化鶏血」の特徴そのものであります。もし人工的に作ったならば、わざわざ価値が下がるような面は作らず4面共に真紅にするでしょう。

作り物(人造石)でない自然石で、真っ赤な石ならば「鶏血」と断定してよかろうと思うのです。

もう一つが、一番上の写真の品物。なんとも不思議な模様が入った「作り物」のようなきれいな石であります。白文で彫られている石で、構わず印面はすり潰しました。もし描いたもの・樹脂製・フィルムやコーティングされているならば、ある程度ペーパーで磨れば地の色・素材が出るはずです。その削った面は、暗い灰色に茶と朱が混在していました。

ただし、ワタシはヨウロウ石は腐るほど彫り、磨いていますが、鶏血石は今まで磨くことはまずありません。高価な石ですし硬いので印材として使う必要が無かったのです。石英と粘土と辰砂が何十万年も結合して出来上がった材がどうなるものかは判然としないのです。もしかしたら、ワタシの知らない石のように比重が重く、非常に硬くなる樹脂を加熱して溶かし、着色したものを層になるように重ねていったかもしれません。あるいは同じ組成の石を何千℃もの高熱でどろどろに溶かして固めたこともあり得るでしょうか。それはないか?

自然石ならば、パリン石の色合いや風合いがよく似ております。すこしどぎつい色模様の石も多いので、こんな石が「パリン鶏血石」なのかもしれないのです。しかし人工では無い鶏血であれば、珍重されます。とりわけモンゴルの方はパリン鶏血石にしか興味を示さないそうです。これが蒙古人の矜持でありましょうか。

ここで、この石がどうしてヤフオクに出品されたかを推理してみます。「桂崖」さんが本物なら、生年からみて鬼籍に入って遺族が遺品整理に出したというのが最も自然です。この先生は、若い頃日展に入選されている書道家さんです、だとすると、日中国交正常化1972年以降、盛んに催行された「交流事業」で、書道家さんなど芸術家が中国に招待されたのです。(ここからはあくまで想像です。)

 先生もその頃ならば脂がのった40歳前後でしょうか。中国で吉林省などの観光を行い、信頼できる書道具や印材の店を訊ねたでしょう。また、高度成長の真っただ中で、そこから1990年位まではみんなバブル経済の恩恵を受けていました。で、先生は勧められるまま高価な鶏血石を買ったのです。あるいは、交流団に記念の贈り物で貰ったのかもしれません。

当時、これだけの鶏血でも数万円から10万円ほどであったのだ、と推測します。まだ中国全体は貧しく物価も安かったのです。これらの印材は自分で彫ることはあまり想定していなかったのかもしれません。片方に彫られた印面の文字は自刻でしょうが、篆刻家さんのそれとは明らかに違っています。書家さんだけあってなかなかの彫ではありましたが。(印面の材質を調べるため、既に潰してしまいました)

気になるのは「印箱」が無いという事です。実は同じ出品者から数日に分けて出品されている印材もほとんどが箱なしか、間に合わせと思える安い箱に収められています。これだけの名品、高価な印材(本物の値打ちものと仮定して)ならば通常は古色豊かな布張りの箱がセットになります。モノによっては美しい布張りの台座まで用意されるのです。

それが、付属しないというからには「安物やバッタ物」である、と決めつける証拠にはなりません。もし、悪党がいて駄石やインチキな石を「高価な銘石」に見せかけて高値で売りつけるならば、小道具として高そうな印箱が欠かせないからであります(ワタシならそうします笑)。4,50年も経っているなら、この先生は、箱が邪魔で捨てたか無くした、鼠やシロアリに食われたか汚損などで捨ててしまったという可能性も高いのです。あるいはご本人を特定できる文字が書かれているものはご遺族が処分した可能性もあります(もったいないことですが)。

改めて石を見てみると細かな傷やスレが無く、大事に保管されてきたものに見えます。少なくとも前の持ち主はこの石は天然石、「鶏血」と認識していて、雅号を自分で彫ったのでしょう。ともあれ、ワタシの導き出した結論は「3個ともに『真正の鶏血石』である」です。一番赤の多い昌化鶏血石は、名高い銘品「大紅袍鶏血」に限りなく近い逸品であると考えるのです。

その金銭的価値は、安くても数万円、人によっては30~50万円と見るかもしれません・・・・まぁそこはどうでもいい事ですが。少なくともワタシのコレクションの中では最上位になるお宝で、死ぬまで大事にしたいと願うのであります。



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