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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

映画「ハンナ・アーレント」(監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ)を見た

2014-03-31 | Weblog

■製作年:2012年
■監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
■出演:バルバラ・スコバ、アクセル・ミルベルク、ジャネット・マクティア、他

昨年公開され評判もよかったドイツ映画の「ハンナ・アーレント」を見てきました。ハンナ・アーレントとはドイツのユダヤ人思想家であり、著書「全体主義の起源」はつとに有名であり、私もその名前を聞いたことがあります。ただ彼女がどんなことを発言していたかは全く知らなかったのですが。その上で書かせてもらえば、映画の中で語られる「悪の凡庸さ」はある意味、とても重要な指摘だと思いました。

 

その概念は映画のパンフレットによると、ナチズムのよな全体主義について、ハンナ・アーレントは上からの命令に忠実に従う小役人が思考を放棄し、官僚組織の歯車になってしまうことを指し、ホロコーストのような巨悪に加担してしまうということを懸念しいる「悪の凡庸さ」と定義づけたということ。悪は狂信者や変質者によって生まれるものでなく、ごく普通に生きていると思い込んでいる凡庸な一般人によって引き起こされてしまうのだと問うたのでした。

 

人間はどうしても長いものにまかれがちです。村八分にされることが本能的に怖いと感じでしまいます。環境が、あるいは、周囲が勢いを持って一つの方向に流れていくときにそれに否を唱えることはとても難しいことと思うのです。いや、私の場合はそんなことないと言い張る人でも、いざ大きなうねりでもって一つの方向に流れていく状況に置かれた時、本当に豪語していたように否と言えるのか、私ははなはだ疑問に思います。人はそんなに強靭な精神を持ち合わせていないと思うのです。人はもっと弱く、流されやすく、あると思っている主体性も自分が思っている以上にはない、そんな生き物のように思えてなりません。

 

私はこの映画をみて熊井啓監督の「海と毒薬」という映画を思い出しました。この映画は戦時中の日本において捕虜となった外国人を医学研究者が人体実験の材料としてしまうという実話をベースとした話ですが、人体実験を行った彼らはごく普通の人であり、むしろ医学における探究心が強かった故に起こった事件という描かれ方をしていました。戦時中という異常な状況の中で思考が麻痺し人道的な判断を誤ってしまう。それは「悪の凡庸さ」に繋がることではないか?と遠い昔に見た映画を思い出したのでした。

 

ビートたけしの出世ギャグ「赤信号、みんなで渡れば怖くない」は「悪の凡庸さ」の発展形というのは、言い過ぎでしょうか?

⇒於;下高井戸シネマにて

アイヒマン論争―― ユダヤ論集2 (ユダヤ論集 2)
J.コーン,R.フェルドマン,齋藤 純一,山田 正行,金 慧,矢野 久美子,大島 かおり
みすず書房
全体主義の起原 1 ――反ユダヤ主義
ハナ・アーレント,大久保 和郎,ハンナ アーレント,Hannah Arendt
みすず書房
全体主義の起原 2 ――帝国主義
ハナ・アーレント,大島 通義,大島 かおり,ハンナ アーレント,Hannah Arendt
みすず書房
全体主義の起原 3 ――全体主義
ハナ・アーレント,大久保 和郎,大島 かおり,ハンナ アーレント,Hannah Arendt
みすず書房

 

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