'07.09.15 『ミス・ポター』@TOHOシネマズ市川コルトン
水色ジャケットの世界一有名なうさぎピーター・ラビット。その作者ビアトリクス・ポターの人生を描いた映画。ピーター・ラビットとイギリス湖水地方が大好きなので見る。
「ロンドンの上流家庭に生まれたビアトリクス。意に沿わない結婚より、自分の絵本を出版して自立したいと考えていたが、20世紀初頭は女性が職業を持つことは難しかった。そんな時、彼女の本を出版しようという人物が現れ…」という話。映画では詳しく描かれてはいなかったけど、上流家庭の習慣として学校には通わず家からほとんど出ない生活だったため、友達と遊ぶ代わりに様々な動物を観察しスケッチして少女時代を過ごしたらしい。
ビアトリクスの生涯を通して特に言いたいことはないようだ。彼女の生きた時代に女性が自分の考えを通すのは大変なことだったと思うし、それは意外に現代の女性だって抱えている悩みでもある。もちろん制約は比べものにならないけど、自由だからといって何でも出来るわけでもない。現代でも数年前に「負け犬」なんて言葉が流行るくらい女性が結婚しないのは肩身が狭かったりする。そういう面では共感出来る。ただ、なんとなくビアトリクスに感情移入しきれない…。彼女は才能豊かなベストセラー作家であり、その潤沢な資金を使って湖水地方の自然を守った素晴らしい女性だったはず。でも、なぜかそこがあまり伝わってこない。彼女が初めて結婚を考えた相手との恋愛を中心に描いているからかもしれない。
彼女の作品を担当した編集者ノーマン・ウォーンがその相手。誰も理解してくれなかった彼女の作品とその才能を認めてくれた。少年のように真っ直ぐで純粋な男性。好みは人それぞれだけど、誰かに理解される、誰かと考えや感覚を共感し合えるというのは嬉しいこと。そんな相手との恋愛は楽しい。その感じはとっても分かるし、2人の恋愛は見ていて幸せになる。この恋は悲劇的な出来事により結ばれずに終わる。その痛みを必死で乗り越えようとするビアトリクスの姿には涙が出てしまったけど、それは単に自分の体験や記憶を刺激されただけの気がする。まぁ、映画でなくても自分も追体験するから感動するのだし、追体験するには自分の中に経験があった方が分かりやすいのだけど。
彼女はこの体験から本格的に自立を決意し、昔から愛していた湖水地方で一人暮らしを始める。湖水地方は作品の想像力の源だった。その湖水地方に開発の手が伸びようとしている事を知り、この自然を守ろうと決意する。この辺りもちゃんと描いているし、詳細に語っていないから伝わらないという事はない。ビアトリクスは自立した素晴らしい女性だけどスカーレット・オハラではない。スカーレットのように困難に真っ向から立ち向かい、その都度分かりやすくパワーアップする姿を見せられなくても(『風と共に去りぬ』は大好きだけど…(笑))ビアトリクスなりの強さや成長は伝わる。でも何故か物足りない…。
レニー・ゼルウィガーはとても良かったと思うけど、かわいく演じすぎな気も・・・。32才という設定だけど、当時は大年増だったはずで、箱入りではあってもそれなりの居住まいがあったはず。いつまでも子供扱いする両親に反発しつつも、とっても子供っぽい印象。子供の頃から持ち続けた想像力というのは、純粋な心ではあるけれど子供っぽいわけではない。その感じは恋人を失って自立してからも、何となく残っていた気がして少し説得力に欠けた気もする。逆にノーマン役のユアン・マクレガーは純心で子供っぽいところを前面に押し出していてよかった。実際のノーマンがどんな人だったのか分からないけど、お伽話のような恋愛のまま終わってしまう感じの方が映画的にはいい。
全体として「一人の女性の自立」を描きたいんだとは思うし、ちゃんと自立していく過程も見せている。ビアトリクス・ポターの人生を考えて見れば、しなやかに控えめに、でもしっかり自分の考えを持って生きた女性であったことは分かる。ただ、度々ピーター・ラビットや他の絵たちが動き出す演出が過剰だった気がする。要するに彼女の空想なわけだから、頻繁に使うとただのお伽話になってしまう。ベストセラー作家になっていく過程も伝わらない。彼女の人生の中で重要だったのは絵本とナショナル・トラストの活動だったと思うのだけど、そこがあまり伝わらない。
数年前訪れた湖水地方は本当に美しかった。ビアトリクスが暮らしたヒル・トップ農場も尋ねた。本当に小さくてつつましい家だった。そこに向かうまでの道も狭く、私たちのバスは対向車を除けようとして出っ張っていた石で脇をこすってしまった。でも、この道幅も彼女の遺言で直せないのだそう。ある点では不便で融通がきかないけれど、それだけ意志を通さなければこの自然は守れないと、開発でズタズタになった日本を思ったりもした。
彼女のしたことはとっても意義のあることだったと思う。知人が立ち上げたばかりのナショナル・トラストに買い上げた土地を次々寄附した。元の持ち主には以前と同じ生活をさせることを条件としてそのまま住まわせ、自然の維持に尽力した。それは使命というより愛情だったはず。映画でも描かれているけど、さらりした印象なのが残念。ある程度ビアトリクス・ポターやナショナル・トラストに関して予備知識がないと分かりにくいかも。
けなしてばかりいるようだけど、湖水地方の映像は美しいし、衣装や調度類なども素敵。掘り下げが足りない気がしたけど人物像も伝わってはくる。そしてピーター・ラビットはかわいい! 20世紀初頭のイギリスに興味がある人にはいいかも知れない。その頃を舞台にしたラブストーリーとしては楽しめる。
『ミス・ポター』Official Site
こんなパネルが・・・
水色ジャケットの世界一有名なうさぎピーター・ラビット。その作者ビアトリクス・ポターの人生を描いた映画。ピーター・ラビットとイギリス湖水地方が大好きなので見る。
「ロンドンの上流家庭に生まれたビアトリクス。意に沿わない結婚より、自分の絵本を出版して自立したいと考えていたが、20世紀初頭は女性が職業を持つことは難しかった。そんな時、彼女の本を出版しようという人物が現れ…」という話。映画では詳しく描かれてはいなかったけど、上流家庭の習慣として学校には通わず家からほとんど出ない生活だったため、友達と遊ぶ代わりに様々な動物を観察しスケッチして少女時代を過ごしたらしい。
ビアトリクスの生涯を通して特に言いたいことはないようだ。彼女の生きた時代に女性が自分の考えを通すのは大変なことだったと思うし、それは意外に現代の女性だって抱えている悩みでもある。もちろん制約は比べものにならないけど、自由だからといって何でも出来るわけでもない。現代でも数年前に「負け犬」なんて言葉が流行るくらい女性が結婚しないのは肩身が狭かったりする。そういう面では共感出来る。ただ、なんとなくビアトリクスに感情移入しきれない…。彼女は才能豊かなベストセラー作家であり、その潤沢な資金を使って湖水地方の自然を守った素晴らしい女性だったはず。でも、なぜかそこがあまり伝わってこない。彼女が初めて結婚を考えた相手との恋愛を中心に描いているからかもしれない。
彼女の作品を担当した編集者ノーマン・ウォーンがその相手。誰も理解してくれなかった彼女の作品とその才能を認めてくれた。少年のように真っ直ぐで純粋な男性。好みは人それぞれだけど、誰かに理解される、誰かと考えや感覚を共感し合えるというのは嬉しいこと。そんな相手との恋愛は楽しい。その感じはとっても分かるし、2人の恋愛は見ていて幸せになる。この恋は悲劇的な出来事により結ばれずに終わる。その痛みを必死で乗り越えようとするビアトリクスの姿には涙が出てしまったけど、それは単に自分の体験や記憶を刺激されただけの気がする。まぁ、映画でなくても自分も追体験するから感動するのだし、追体験するには自分の中に経験があった方が分かりやすいのだけど。
彼女はこの体験から本格的に自立を決意し、昔から愛していた湖水地方で一人暮らしを始める。湖水地方は作品の想像力の源だった。その湖水地方に開発の手が伸びようとしている事を知り、この自然を守ろうと決意する。この辺りもちゃんと描いているし、詳細に語っていないから伝わらないという事はない。ビアトリクスは自立した素晴らしい女性だけどスカーレット・オハラではない。スカーレットのように困難に真っ向から立ち向かい、その都度分かりやすくパワーアップする姿を見せられなくても(『風と共に去りぬ』は大好きだけど…(笑))ビアトリクスなりの強さや成長は伝わる。でも何故か物足りない…。
レニー・ゼルウィガーはとても良かったと思うけど、かわいく演じすぎな気も・・・。32才という設定だけど、当時は大年増だったはずで、箱入りではあってもそれなりの居住まいがあったはず。いつまでも子供扱いする両親に反発しつつも、とっても子供っぽい印象。子供の頃から持ち続けた想像力というのは、純粋な心ではあるけれど子供っぽいわけではない。その感じは恋人を失って自立してからも、何となく残っていた気がして少し説得力に欠けた気もする。逆にノーマン役のユアン・マクレガーは純心で子供っぽいところを前面に押し出していてよかった。実際のノーマンがどんな人だったのか分からないけど、お伽話のような恋愛のまま終わってしまう感じの方が映画的にはいい。
全体として「一人の女性の自立」を描きたいんだとは思うし、ちゃんと自立していく過程も見せている。ビアトリクス・ポターの人生を考えて見れば、しなやかに控えめに、でもしっかり自分の考えを持って生きた女性であったことは分かる。ただ、度々ピーター・ラビットや他の絵たちが動き出す演出が過剰だった気がする。要するに彼女の空想なわけだから、頻繁に使うとただのお伽話になってしまう。ベストセラー作家になっていく過程も伝わらない。彼女の人生の中で重要だったのは絵本とナショナル・トラストの活動だったと思うのだけど、そこがあまり伝わらない。
数年前訪れた湖水地方は本当に美しかった。ビアトリクスが暮らしたヒル・トップ農場も尋ねた。本当に小さくてつつましい家だった。そこに向かうまでの道も狭く、私たちのバスは対向車を除けようとして出っ張っていた石で脇をこすってしまった。でも、この道幅も彼女の遺言で直せないのだそう。ある点では不便で融通がきかないけれど、それだけ意志を通さなければこの自然は守れないと、開発でズタズタになった日本を思ったりもした。
彼女のしたことはとっても意義のあることだったと思う。知人が立ち上げたばかりのナショナル・トラストに買い上げた土地を次々寄附した。元の持ち主には以前と同じ生活をさせることを条件としてそのまま住まわせ、自然の維持に尽力した。それは使命というより愛情だったはず。映画でも描かれているけど、さらりした印象なのが残念。ある程度ビアトリクス・ポターやナショナル・トラストに関して予備知識がないと分かりにくいかも。
けなしてばかりいるようだけど、湖水地方の映像は美しいし、衣装や調度類なども素敵。掘り下げが足りない気がしたけど人物像も伝わってはくる。そしてピーター・ラビットはかわいい! 20世紀初頭のイギリスに興味がある人にはいいかも知れない。その頃を舞台にしたラブストーリーとしては楽しめる。
『ミス・ポター』Official Site
こんなパネルが・・・
私もTBさせていただきました。
>湖水地方の映像は美しいし、衣装や調度類なども素敵。掘り下げが足りない気がしたけど人物像も伝わってはくる。
確かに掘り下げ足りませんが、アッサリと言う感じがよかったですね。
でも観たあとの「ほんわか感」が、今も良かったと思います。
TB&コメントありがとうございました。
こういう伝記モノってどこにポイントを置くかということが重要なのかもしせませんね。
この映画は彼女にとって自立のきっかけとなった恋愛の始まりと終りにポイントを置いたことは良かったと思います。
少し物足りない気もしますが、上品でいい映画でしたね。
湖水地方にまた行きたくなりました♪