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【cinema】『再会の街で』(試写会)

2007-12-11 23:48:33 | cinema
'07.12.10 『再会の街で』(試写会)@一ツ橋ホール

baruからのお誘い。いつもは簡単なあらすじと出演者くらいは調べて行くけど、時間がなかったので何の予備知識もなく見た。日本語タイトルからすると恋愛モノかと思っていたけど、これは友情と再生の話しで、しっかりとした人間ドラマだった。

「美しい妻と2人の娘に恵まれ、仕事も順調な歯科医アランは、20年ぶりに大学時代ルームメイトだったチャーリーを見掛け声をかける。再会したチャーリーは不幸な出来事から心を閉ざし、現実を生きようとしていなかった・・・」という話。チャーリーに起こった悲劇は9.11のこと。妻と3人の娘を失った。9.11については既に何本かの映画が日本でも公開されている。この映画は事件そのものではなく、あの日からずっと傷を負ったままの遺族を描いている。事件のことは映像もなく、事細かに語られることもない。だからチャーリーの苦しみが「あの悲劇」だけに限定されず、同じ痛みを共感できる。あんな悲劇じゃなくても、喧嘩別れだとしても、人はいくつもの別れを経験する。その記憶を揺さぶられる。

チャーリーの様子が普通でないことを心配したアラン。彼と過ごす時間が増えていく。次第に自分が見ようとしなかった問題や気持ちに気付いていく。自由にやりたい事だけして過ごしているように見えるチャーリーを、元の優秀な歯科医に戻そうとする。でも、それはアランの思い描いていた「幸せ」に過ぎない。チャーリーの弁護士の言葉にハッとする。何故まるで少年のように、ゲームやギターやレイトショーを楽しむためにアランを呼び出すのか。アランも楽しんで付き合ってくれるからだろうか…。

弁護士はチャーリーがアランを受け入れたのは、失った家族の事を知らなかったからだと言う。確かそうだけど、彼の言った意味とは違うと思う。チャーリーは傷と向き合わされて、ある行動に出る。常軌を逸したその行動を見た時、そんなに辛いなら楽になったらいいんじゃないかと思った。もういいよ、楽になりなよと・・・ こんな思いまでさせる権利がアランにあるのかとさえ思った。日本やヨーロッパの映画なら彼はあのまま突き進んで、別の結末を向かえたのではないかと思う。でも、これはアメリカ映画で、彼が今ある不幸な境遇は、あの9.11によるものなのだ。そして、9.11だけでなく、どんな形であっても愛する人を失い、辛い思いをしている全ての人に向けての励ましでもある。だからチャーリーは立ち上がらなければならない。少なくとも心の痛みと向き合わなくてはならない。

チャーリーは感受性の強い人だ。だから折れてしまった心がこれ以上傷つかないように心を閉ざし、何も感じないようにしたのだろう。妻や子供を愛していたのはもちろんだけど、たった一つの後悔に苦しんでもいる。チャーリーは事件を起こし裁判にかけられる。その時、無理矢理傷と向き合わされる。その姿が痛々しい。あまりの辛さに彼のとった行動に眉をひそめる人々。確かに立派に乗り越えている人もたくさんいる。でも、あまりの辛さに向き合えずにいる彼は人としてダメなのだろうか? 裁判の後、妻の両親に本当の気持ちをぶつけるシーンは、心を揺さぶられて気付くと泣いていた。最近同じような経験をした。忘れたいのに忘れられないのと、忘れたいわけではないけど、片時も頭から離れず、その記憶に心をえぐられるのはどちらが辛いのだろう。

原題「REGIN OVER ME」はチャーリーが学生時代大好きだったTHE WHOの「Love,Regin o'er Me」(愛の支配) からつけられたとのこと。心を占めて離さない気持ち… その気持ちと向き合えたのはアランのおかげ。心から彼に向き合ってくれたから。そして、アランはチャーリーに向き合うことで、いつも人と向き合うことを避けていた自分に気付く。人はみな自分の中に自分で作った殻を持ち、その殻に閉じこもることで自分を守ろうとする。傷つきたくはないから… でも、いつか「殻」に支配されてしまうのかも知れない…

アラン役のドン・チードルはよかった。アランは決してヒーローではない。いい人だけど普通の人だ。その感じを上手く表現している。多少イラっとさせるところまで好演。妻役のジェイダ・ピンケット・スミスもよかったし、おかしな女ドナ・リマー役サフロン・バロウズも雰囲気のある美女で素敵。そしてチャーリー役のアダム・サンドラーが素晴らしい! コメディー映画 の印象が強くて、こんなに演技のできる人だとは知らなかった。無邪気に振る舞う彼がいつも痛々しく感じられた。そして彼の苦しむ姿、ある事でずっと自分を責めている姿に自分を重ねたりもした。

ずっとカメラがチャーリーやアランを追うように映す。その彼らが暮らすNYの街がいい。まるで自分もそこで生活しているような気もする。それが余計「愛する人を失う痛み」という誰もが経験することへの共感に役立っている。こんなに重い話なのに笑える場面もあって緩急が利いているので辛くなり過ぎずに見れる。
いい映画だと思う。心が折れて立ち直りたい人にはオススメ。解決の糸口は見つからなくても、自分の問題が特別じゃないと思えるし、自分で乗り越えなくてはならないことが分かる。そして、誰かが支えてくれていることにも気付くはず!

エンドロールで流れるPEARL JAMがカバーした「Love,Regin o'er Me」がかっこよかった♪

チラシやポスターのNYの街を歩く2人の構図、ボブ・ディランのアルバム「THE FREEWHEELIN」に似ていると思う。ドナ・リマーもドナ・サマーを思わせるし、音楽にこだわりがあるのかな?


『再会の街で』Official site


コメント (6)
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