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[都教委] ついに公の場で教科書の使用適否に踏み込む(まさに由々しき事態)

2013-06-28 | Weblog

6/27記事:国旗・国歌「見解合わぬ」教科書 都教委が「不適切」議決

国旗掲揚と国歌斉唱について「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と記した実教出版(東京)の高校日本史教科書について、東京都教育委員会は二十七日に開いた定例会で「使用は適切でない」とする見解を議決した。

都教委はこれまで、都立各校に非公式に「記述は都教委の考え方と相いれない」などと伝えていたが、公の場で教科書の使用適否に踏み込むのは前例がなく、反発が広がりそうだ。 

見解は、今年の教科書採択の対象となる同社教科書「高校日本史A」と「高校日本史B」に国旗国歌をめぐり「自治体で強制の動き」という記述があると指摘。「『国旗掲揚と国歌斉唱の指導を適正に実施することが教員の責務である』とする都教委の考え方と異なる」と問題視した。

その上で「実教出版の教科書を都立高校などで使用することは適切でないと考える」と結論づけている。

定例会では、木村孟(つとむ)委員長が「私から教育長に対し、教育委員の意見を踏まえて見解をまとめ、校長に周知するよう指示した」と明らかにした。委員からは意見は出なかった。

教科書は、使用する前年にそれぞれの高校が選び、その報告を基に教委が採択する。教委は通常、義務教育ではない高校については学校の選択を尊重して追認している。

昨年は見解の中で示された二つの教科書のうち、近現代史が中心の「日本史A」が採択の対象となった。都教委は都立二百三十三校のうち、一年生で日本史を教える十七校に「都教委の考え方とは相いれない」などとする電話を入れていた。

結果として十七校は実教版以外を選択。本紙の取材では、当初は実教版を選ぼうとして、都教委の電話で断念した高校もあった。実教版の全国シェアは14%で、都立高の採択結果は不自然との指摘が出ていた。今年は通史を学ぶ「日本史B」も採択の対象で、影響はさらに大きくなる。


6/28記事:「二重検定おかしい」都立高教師ら反発 実教出版日本史

東京都教育委員会が、実教出版の高校日本史教科書について「都教委の考え方と異なる」と指摘し、都立校で使用すべきではないとの見解を示した問題。国の検定を通った特定教科書を名指しで排除する異例の手法に、教育現場などから怒りや反発の声が上がった。

都教委が二十七日の定例会で議決した見解は、今年の教科書採択の対象となる実教出版の教科書「高校日本史A」「高校日本史B」について「

国旗国歌をめぐる『自治体で強制の動きがある』という記述が、都教委の考え方と異なる」と問題視。「都立高校などで使用することは適切でない」と結論づけた。

「現場の教師が生徒の実情に合わせ教科書を選ぶ慣行が、都教委により踏みにじられた。納得できない」。都立高校で日本史を教える男性教諭(57)は同日午後、都教委の方針に声を震わせた。

勤務校は二年生で日本史Aを教えており、ことしの採択では実教版も選択肢に含まれる。校内ではすでに、都教委の意向を先取りするように、実教版に難色を示す声が出ているといい「さらにこんな見解が出れば、実教版を選ぶのは至難の業」と嘆息する。

「『この教科書は使うな』というやり方が横行すれば、やがては『この教科書しか使うな』という国定教科書のような制度にもなりかねない」。男性教諭は強く危惧する。

同様に都立高校で日本史を教える鈴木敏夫さん(64)も「国が検定を通し事実と認めた記述を都教委が否定し、その教科書を使わせないのは『二重検定』に当たる」と批判する。

実教出版の編集責任者は「事実であれば大変残念」と言うにとどめたが、出版労連教科書対策部の吉田典裕部長(54)は「憲法が保障する出版の自由の侵害」と強く反発する。

一方、都教委高校教育指導課の江本敏男課長は「各校で教科書選定作業を適切にやってもらうことが狙い。採択権を持つ都教委が、採択の具体的な考え方を示すことはあり得る」と説明している。

教科書は、使用する前年にそれぞれの高校が選び、その報告を基に教委が採択する。教委は通常、高校については学校の選択を尊重して追認している。

都教委が「不適切」とした二つの教科書のうち「日本史A」は昨年も採択対象だった。都教委は都立二百三十三校のうち、採択に当たる十七校に「実教版は都教委の考え方とは相いれない」などと非公式に連絡し、結果として全校が実教版以外を選択した。もう一冊の「日本史B」も対象に含まれる今年は、都教委が昨年より露骨に踏み込んで公の見解を出した形で、採択にかかわる都立校は延べ百九十四校に上る。

◆教委の職権乱用

高嶋伸欣琉球大名誉教授(社会科教育)の話 教科書検定を通った記述が、自らを批判する内容になっているからといって、選定をやめるよう通知するのは教育委員会の権限を越えている。

見解の相違があるなら、選定した高校に対し誤解のない指導をするよう伝えればよく、職権乱用だ。昨年は高校に電話で懸念を伝えたが、メンツのために正式な通知にしたのではないか。

高校の教科書は無償ではなく、家庭が負担するので、不適切な採択方法に異議を申し立てる保護者もいるかもしれない。


参考:2012年都教委の電話事件

声明:日本出版労働組合連合会 2012年10月11日

東京都教育委員会および横浜市教育委員会による実教出版 日本史教科書採択への不当な介入に抗議し、採択のやり直しを求める。

今年行われた高等学校教科書の採択において、東京都教育委員会(都教委)が実教出版の新課程用『高校日本史A』に対して、また横浜市教育委員会(横浜市教委)が新・旧教育課程の同社日本史教科書を採択させないように圧力をかけ、現場の希望とは異なる教科書採択させた。両教委の行為は公権力である教育委員会が特定教科書の採択に介入・妨害した前代未聞の暴挙であり、強く抗議する。

都教委の場合は、実教出版教科書日本史Aの「国旗・国歌法」に関する「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」という側注の記述を「問題」視しこの教科書を採択しないよう都立高校校長に「情報提供」と称して数度にわたり電話で連絡して圧力をかけ、採択を希望する教科書名を記入する「選定理由書」を校長に書き換えさせた。その結果、当該教科書は今年度使用対象17校中6校あった採択を全て失った。都教委自らは手を汚さず、あたかも教育現場が当該教科書を希望していないかのように見せかけた狡猾な手口というべきである。

横浜市教委は日本史Aだけでなく現行版日本史Bも問題とし、「実教出版教科書を採択しないように」と市立高校校長に圧力をかけたが、校長らがこれを拒んだので教育委員会自身が別の出版社の教科書に「意見報告書」の選定理由を書き換えた。市教委は、横浜市の中学校では育鵬社版(1年生)と自由社版(2年生)の歴史教科書が採用されているので、実教出版教科書の「日本の侵略加害の事実を記述する教科書を『自虐的』と非難する立場の人々が執筆した教科書があらわれたことに対して、アジア諸国からも強い批判がおこった」などの記述によって「嫌な思いを持つ生徒もいるのではないか」という荒唐無稽な理屈でこの行為を正当化した。

両教育委員会の行為は、学校教育法が高等学校の教育の目標として掲げた「社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、社会の発展に寄与する態度を養うこと」(第51条3項)を自ら破るものである。教育現場の意向を無視して行われた教科書採択結果は、とうてい正当なものと言うことはできない。両教育委員会は関係者および東京都民・横浜市民に謝罪し、採択をやり直すべきである。

この事件は高校日本史教科書だけの問題ではない。教育委員会が自らにとって不都合と考える記述がある教科書は採択させないということになれば、どの教科であれ教科書記述を萎縮させることになるであろう。この事態を放置すれば、他の教科にも必ず否定的な影響を及ぼすであろう。また他の道府県に影響が及ぶことも懸念せざるをえない。出版労連は、両教育委員会が今回の採択を撤回してやり直すこと、今後このような採択妨害というべき行為を行わないこと、具体的な再発防止策を講じることを強く要求するものである。以上


教科書用図書検定 最高裁の判断

教科用図書検定が検閲にあたるのではないかという議論もある。この議論は「家永教科書裁判」に関連して活発化した。この一連の裁判において最高裁は、検定制度自体が検閲や事前抑制に該当することはなく合憲であるとの判断をしている。ただし、検定制度そのものが検閲や事前抑制であるとして禁止されることはなくても、検定の内容如何によってはそれが適用違憲または裁量権の逸脱・濫用による違法となりうるともしている。

最高裁が検定制度を検閲にあたらず合憲であるとした理由として、検定不合格となった書籍を教科書として使用することはできないけれども、一般図書として「思想の自由市場」に登場させることは可能であることを挙げている。事実、歴史教科書問題で検定不合格となった家永三郎の三省堂『新日本史』(三一書房『検定不合格日本史』1974年)や西尾幹二ほか『新しい歴史教科書』(扶桑社2001年)が一般図書として販売された事例も存在する。

家永(教科書裁判)事件

高等学校日本史教科書『新日本史』(三省堂)の執筆者である当時の東京教育大学名誉教授・家永三郎(2002年11月29日没)が教科用図書検定(教科書検定)に関して国を相手に起こした一連の裁判。1965年提訴の第一次訴訟、1967年提訴の第二次訴訟、1984年提訴の第三次訴訟がある。1997年、第三次訴訟の最高裁判所判決をもって終結。初提訴より終結まで計32年を要した。