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春爛漫、黒田節に酔い 安倍と官僚との親密な宴

2013-04-22 | Weblog

安倍官邸を仕切る官房長官・菅義偉は「現代の梶山静六」になれるのか。

BUNSHUU 4/10/2013

安倍内閣が発足して約3か月がたった3月23日。首相・安倍晋三は神奈川県茅ヶ崎市内の名門ゴルフ場、スリーハンドレッドクラブでプレーを楽しんだ。桜は満開、同行したのは経済産業省から安倍の下に駆けつけた政務秘書官・今井尚哉ら官庁出身の秘書官たち。日銀総裁人事は国会承認され、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加表明も片付いた。7月参院選までの大きな2つの課題をこなした安倍は「花がきれいで、気持ちよくやれた」とご満悦だった。

 ハネムーン期間の3か月を終えても、内閣支持率は高止まりし、景気も上向き。安倍に、今のところ死角は見当たらない。

 そんな春爛漫の中での安倍のゴルフは、政権が好調な3つの要因をくっきりと反映している。

 まず第一は「復活した」と胸を張る日米同盟関係。ゴルフを首相在任中もプレーするきっかけとなったのは米大統領、バラク・オバマなのだ。

 話は昨年末にさかのぼる。初めてオバマとの電話会談に臨もうとした安倍は、先方の都合でかなりの待ち時間ができた。手持ち無沙汰の間、ワシントン勤務の経験がある外交官たちは、オバマがいかにゴルフが好きか、いかに毎週のように首都ワシントン郊外のアンドリュース空軍基地内のゴルフ場でプレーしているかを安倍に伝えた。「へえ、そうなのか。じゃあ、俺もやろうかな」。乗り気になった安倍は年が明けると、ゴルフを再開した。「ゴルフ」は2月の首脳会談の隠し味にもなり、オバマが「今度一緒にラウンドしよう。ただし、ゴルフが上手なこの人は抜きで」と副大統領、ジョー・バイデンを指して大笑いになった記憶も新しい。

 そもそも、安倍が3月に満開の桜のもとプレーしたスリーハンドレッドクラブは祖父、元首相・岸信介が元大統領、ドワイト・アイゼンハワーとプレーしたバーニング・ツリー・ゴルフクラブにならったゴルフ場でもある。「強い日米同盟」は、ゴルフと強くリンクしているのだ。

 2つ目は、安倍が気のおけないプレー仲間として選んだのが今井たち官僚出身の秘書官であるということだ。

「オバマのゴルフ好き」を伝えた外務審議官・斎木昭隆、政務秘書官の今井、同じく安倍とラウンドした秘書官・柳瀬唯夫ら経産省組が、安倍に近い筆頭格の官僚たちだ。外務省と経産省はTPPの事前交渉でも連携し、秘密を外部に漏らさなかった。そこに政治家代表として加わる官房副長官・加藤勝信も旧大蔵省OB、官僚出身だ。「根回しはお前たちがしろ」と無理難題をふっかけた民主党政権とは異なり、役人の生態を熟知する加藤は自ら携帯電話とメールを駆使し、要所に根回しする。「昔のやり方、普通に戻った」と霞が関の官僚たちが安堵する所以だ。

 TPP問題も、政権に就いてからの斎木たちの粘り強い進言がモノをいった。「オバマと1月に会談できないと分かったときは残念だったけど、今にして思えば準備する時間がとれてよかった」と安倍は周辺に語り、外務省への感謝を隠さない。

 第1次内閣当時の安倍は、前任者の元首相・小泉純一郎の存在に引きずられ、「政治主導」と気負いすぎていた。だが、今度の比較対象は民主党政権。「普通」にやっているだけで、世間の評価は「よくやっている」となる。

理想像は梶山静六

 良好さを演出する日米関係と、円滑に動く官僚機構をベースに、内閣では2人の大物政治家が安倍を助ける。官房長官・菅義偉と副総理兼財務相・麻生太郎だ。

「夏の参院選に勝って初めて、政権交代が完成する」が口癖の菅は、政治の師と仰ぐ元官房長官・梶山静六を、理想像にあげる。梶山は大向うを唸らせる政治的な大技と、緻密な日程づくり、大胆な政策で名をはせた。いまや一般的な用語となった政治日程を示す「工程表」とは、もともとは梶山が国会カレンダーをつくる時に好んで使った表現である。梶山は決断が必要な部分以外は官僚に任せ、一喝すべき時は一喝した。

 菅は官僚たちの駆け込み寺にもなり、調整が必要な案件なら「俺に任せろ」と引き受ける。安倍が首相官邸に登用した民間人たちの「ご意見拝聴」係もつとめる。慶応大教授・竹中平蔵は、放っておけば政権批判に回りかねないとみて産業競争力会議のメンバーに取り込んだ。菅と竹中は小泉内閣の総務副大臣、総務相以来の仲である。「総理の指導力をアピールするために、内閣にもめ事をつくり、総理決断の舞台を設定した方がいい」と物騒なアドバイスをする竹中を、菅は「内閣支持率が高いから、そんな必要はない」と軽くいなす。ここでも、政治主導・官邸主導を印象づけた小泉の“呪縛”から解放された政権の姿がある。

 菅は野党の頃から付き合いのある日本維新の会国会議員団幹事長・松野頼久とのパイプもつなぎ、民主党政調会長・桜井充ら馴染みの薄かった野党幹部とも精力的に会談する。縦横無尽に与野党議員に人脈を持った梶山譲りの動きだ。

 官僚ラインが練り上げた政策を土台に国会の折衝は政治家が担う方針は、鳴り物入りで起用されたはずの内閣官房参与の使い方でも分かる。元外務事務次官・谷内正太郎はTPP交渉の実務には立ち入っておらず、元財務事務次官・丹呉泰健は日銀総裁人事に関与していない。小泉の元秘書官・飯島勲も、官邸の入館カード整理にいそしむ。「小泉内閣の人材を活用する」のは、潜在的な批判勢力を抑え込むカモフラージュでもあった。

 梶山が遺言として残した著書『破壊と創造』を、菅は官房長官執務室に持ち込んで拳々服膺(けんけんふくよう)する。副長官の加藤と官僚チームの上に乗る菅は日々、安倍に接して直言する役回りも演じる。これも梶山が元首相・橋本龍太郎に仕えた当時、自らに言い聞かせた日課であった。

「まるで太子党だ」

 そして安倍の守護神となった麻生がいる。スリーハンドレッドクラブでのプレー前日の3月22日、麻生は東京・富ヶ谷の安倍の私邸を夜遅く訪ね、1時間半以上も2人で密談に及んだ。下手をすれば命とりになりかねなかった日銀総裁人事も、麻生の「組織運営の経験がない人が日銀を動かすのは難しい」との助言に配慮し、大蔵省OBの元財務官・黒田東彦に落ち着き、無事に国会も通過した。節目節目で、麻生は安倍の精神安定剤の役割を果たしている。

 麻生が「ポスト安倍」に野心満々なのは安倍も十分に承知している。それでも蜜月な2人の関係を、ある経済人は「まるで中国の太子党だ」と評する。国家主席・習近平を支える太子党グループとは、共産党高級幹部の子女たちを指す。岸と元首相・吉田茂を祖父に持つ2人の毛並みの良さからくる同胞意識には、余人にうかがいしれない強さがある。

 もう1つ忘れてはならない要素がある。外側から安倍政権を支えているのは、野党第1党、民主党の致命的なまでの弱さだ。首相が2度も3度もゴルフすれば、第1次安倍内閣の頃なら「危機管理上、問題だ」との批判が野党から出て、一定の支持を得たに違いない。ところが、今回はそんな声すらあげられない。

 3月27日。民主党最大の支持団体、連合の古賀伸明会長は敵地だったはずの自民党本部に足を運んで幹事長・石破茂に「政労トップ会談実現を」と懇願した。夏の参院選で自民党が「31ある1人区で全勝」との調査結果まで出ている。民主党の敗北は織り込み済み。古賀は「選挙の後、誰を担ぐかっちゅう問題が出てくるやろ」と、早くも代表・海江田万里の退任論にまで言及している。

 自民党が圧倒的に有利との声に、参院選挙区の候補が決まらない地区も多い。元代表・前原誠司らが必死になって前回衆院選で落選した前議員を口説くが、落選を嫌がってなかなか前向きの返事が得られない。「民主党が1人区で勝てるのは元代表・岡田克也の地元三重と、あと1つくらい」だからだ。

 代表辞任どころか、参院選後の遠くない時期に民主党は分裂、消滅するだろうというのが、いまや永田町の常識なのだ。

新進党と重なる民主党

 局面打開には野党が共闘するしかない。だが、連合を媒介とした野党協力には日本維新の会、みんなの党は乗ってこない。民主党の最終兵器と目された幹事長・細野豪志は、いったんは「脱連合依存」を提唱しながら日教組のドン、参院議員会長・輿石東に「その方針はまずいぞ」と叱られるや、たちまち「連合との連携は極めて重要だ」と軌道修正した。連合と輿石を重視するなら、維新・みんなとの連携は諦めざるを得ない。

 一方で、生活の党代表・小沢一郎と協力すれば、民主党は選挙前に空中分解してしまう。どちらにも進めないジレンマが細野にはある。

 だからこそ小沢は「このまんまじゃ民主党は参院選で10議席しかとれない。どうして簡単な足し算ができないんだ」「細野は何をやってんだ。政党間の協力は幹事長の仕事だ」といら立ちを隠せない。このままでは自分も民主党も沈んでしまうことは、過去の経験が教える。1994年、小沢が中心となって非自民勢力を結集した新進党は内紛を抱え、第3勢力だった民主党の追撃もあってあえなく解党した。

 いまの政治状況に置き換えれば新進党が民主党で、当時の民主党は維新になる。維新は着々と「第2極」への布石を打つ。

 3月26日夜、東京・羽田空港ターミナル内にある中華料理店「赤坂璃宮」で維新幹事長・松井一郎はみんなの党幹事長・江田憲司と向かい合った。大阪府知事としての公務もあり、大阪へとんぼ返りしなければならない松井が指定した場所に江田が出向き、参院複数区での選挙協力を詰めたのだ。

 みんなの側には江田と代表・渡辺喜美の対立があり、渡辺は江田を「選挙協力の権限を持っていない」と当て擦る。維新の側にも前東京都知事・石原慎太郎を筆頭とする旧太陽の党と松井、共同代表の大阪市長・橋下徹との間に温度差がある。いずれにせよ、橋下ら大阪勢は維新を中心とした野党再編に、前原や岡田、前首相・野田佳彦ら民主党からの非労組脱藩組を巻き込む戦略を描く。

 折しも3月25、26の両日、昨年の衆院選での「1票の格差」に関する訴訟で広島高裁、同岡山支部が相次いで「違憲、選挙は無効」の判決を出した。国会周辺では「今夏の衆参ダブル選」さえ囁かれる。待ったなしとなった選挙制度の抜本改革が進めば、必ずや政界再編を伴うのは、20年前の小選挙区制導入とその後の推移をみれば歴史の必然でさえある。永田町の関心は、与野党とも既に7月の参院選後に向いている。

「参院選で親の敵を討つ」

 安倍内閣の剣が峰は、むしろ「選挙後」にある。

 内閣の大番頭、菅が言う「参院選に勝って政権交代が完成する」は、裏返せば参院選で与党が過半数を制して「ねじれ国会」が解消すれば、自民党の低姿勢も終わることを意味する。安倍が憲法改正や集団的自衛権の行使など自らのカラーが強い政策の実行に踏み出せば、いまは鳴りを潜めている公明党も動き出す。自民党では内閣改造・党役員人事をにらんだ猟官運動が激しくなり、これまで我慢してきた予算や政策への口出しも始まるのは避けられず、官僚との関係はまた大きく変わる。「過半数に1、2議席届かない結果ぐらいの方が、謙虚さが持続して良い方向に転がるんだが……」。あるベテラン官僚の言葉が、霞が関の不安を物語る。

 袖の下の鎧は見え始めている。3月25日夜、東京・平河町の赤坂四川飯店に「郵政選挙」での初当選組約30人を集めた会食の席で、安倍は「参院選は親の敵を討つものだ。これに勝たなければ、死んでも死に切れない」と一席ぶった。「親の敵」は、このところ安倍が好んで使う表現だ。「勝つ自信があるからだろうが、大丈夫かな……」と出席者の1人は独りごちた。

 驕りが出れば政界、一寸先は闇だ。仮に苦言を呈してくれる菅をも遠ざけるようになれば危険信号だ。菅が師と仰ぐ梶山の言葉に耳を傾けなくなった橋本が政権の座から滑り落ちたのは梶山の官房長官退任から、1年もたっていなかった。

 スリーハンドレッドクラブでのプレーと、前後数日間の出来事は、安倍内閣を取り巻く事情を象徴している。

 潮目が変わるのは7月21日、参院選当日である。

 

 

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2013年04月20日