晴れ、7度、77%
もう20年以上、私たち夫婦によくしてくださっているふた回り年上のご夫婦を大連からお迎えし、お夕飯をご一緒にするために主人は香港から戻ってきました。この20年間、世界のあちらこちらでご一緒させていただいています。主人が別の仕事で外せないおりは、私一人でシンガポールから香港にお連れしたり、たくさんの思い出とともに、何も知らない私はこちらの奥様のその場その場の気遣いから服装に至るまで学ばせていただきました。まさか、ここ福岡で美味しいお魚をご一緒にいただけるとは思ってもいませんでした。
美味しいヤリイカのお造りとともに日本酒をいただき、私の引越しを労っていただきます。引越したばかりの我が家、まだ庭の造作も済んでいません。今回は自宅ではなくお料理屋さんを使いました。お二人を前に、この20数年、大きなお病気も乗り越えられ健康でいらっしゃることを嬉しく思いながらの食事でした。別れ際、引越し祝いにと私など見たこともないスコッチを頂戴しました。そして、奥様が小さな包みを私にと下さいます。「主人が今年年男なので、どうしても酉の絵に目が行くのよ。よかったら使って。」とおっしゃいます。「私も今年は年女で、還暦を迎えます。」と申し上げると「開けて見て。」とお言葉が返ってきました。
小さな木箱の中からは、色絵の酉の柄の盃が出てきました。優しげな酉の絵に外は九谷の赤です。 考えてみれば私専用の盃を持ちません。歳とともに、日本酒をと思うことも多くなりました。我が家にある盃は、ほとんどひとつずつ主人にと私が買い集めたものです。申年の主人に走破の猿の絵の盃を求めたのは。もう12年前のことです。主人の守りの盃になるようにと香港に置いてきました。全部の盃を並べると、土物、切子、錫、色ガラス、日本のものばかりか北欧のものまで手のひらに収まる盃があります。私が買うものですから、そんなにお高いものはありません。それでも長年集めた盃です。どこの店で求めたかまでよく覚えています。
あと半月もせずに誕生日を迎えます。しかも還暦の誕生日です。それを前に、赤い酉絵の盃を頂戴したことをとても嬉しく思いました。そして、そろそろ日本酒ですよ、と私に囁いているようです。
大きな引越しを終えました。30年ぶりに日本での生活が始まりました。そして、還暦を迎えます。私にとっては、本当に新しい一区切りを迎える年です。誕生日を前にいただいた盃は、大きな記念にそして意味のあるものとなりました。自分が過ごしてきた今までを振り返りながら、たくさんの人からのご厚意を味わいながら、誕生日を迎えたいと思います。