
◎2011年12月10日(土)
<浦山大日堂(7:02)……大ネド尾根取り付き(7:18)……峠ノ尾根合流(10:03)……1469mポイント(10:20~10:30)……大ドッケ?(11:02)……栗山尾根分岐(11:08)……バラモ尾根分岐(11:36)……岩場迂回(12:16~12:47)……栗山(13:07)……送電鉄塔(13:21)……車道(13:49)……栗山バス停(13:55)……浦山大日堂(14:28)>
ぶなじろうさんが先月、大ネド尾根を歩かれた記事を拝見し、自分もまた歩いてみたくなった。自分には縁のない尾根と思っていたが、正直のところ、ぶなじろうさんが歩かれたことを知り、以来、一気に身近な尾根になってしまった。985m地点付近の雑木の森は素晴らしいようだ。紅葉は既に終わってはいるが、初冬の雰囲気にもまた期待したい。雪はまだないと思うが、念のため6本爪アイゼンを持参。帰りは、峠ノ尾根は下ったことがあるので、別コースを下るとする。バラモ尾根という手があるが、その名称のニュアンスからして、一筋縄ではいかないような気がして、穏やかな響きのある栗山尾根で下ることにする。ところが、歩いてみると、実態は逆だったようだ。ちなみに、尾根の名称を調べると、大平山に向かうメインの尾根は峠ノ尾根。そこから派生するのが大ネド尾根と栗山尾根。バラモ尾根は栗山尾根からの派生しているようである。
(貯水施設の裏から上がる。階段が2つある)

浦山大日堂の入口前に車を置く。記すまでもなく、他の車はない。春日部(大宮?)ナンバーのハイゼットも、今日は置かれていない。気温-3℃。例のごとく、正露丸の香りをわざわざ確認して橋を渡る。林道をしばらく行くと、カラ沢の先に貯水施設があり、後ろに階段が付いていた。ぶなじろうさんが称する、おあつらえ向き階段だ。迷わず利用させていただく。今日の前半はぶなじろうさんの後追いだ。この階段はいやらしく、2基あるのだが、最初のは施設に付設されているため、立入禁止で使えない。2つ目に向かうには、沢沿いを行かないといけない。雪が付き、コンクリの上は凍り付き、行くまでに手こずってしまった。
(ここは寒々とした光景が続く)

植林帯に入り、噂の大岩を右に巻く。傾斜がかなりあって、息が上がる。雪の降った後のためか、土もかなり濡れていて滑る。無事に巻いて大汗かいて尾根に出た。何と、予定外の結構な雪があった。半端な積雪はいい迷惑。ちょっとこの先が雪では、ちょっとやばい感じ。向かいの尾根は峠ノ尾根から派生している南東尾根だろうか。陽がさしているけど、雪もべったりと付いている。左が植林帯で、右は雑木の状態がしばらく続く。左から本尾根とおぼしき尾根が入ってくる。確実に大ネド尾根を歩いているのを知り、ほっとした。ぶなじろうさんが「森林公」と称している石杭が出てきた。当初、意味が分からなかったが、雪をかいて見ると、「森林公社」と記されていた。森林公社?そんな機関あるの?今はない三公社五現業なら知っている。どうも、森林公は天下り対策の一環のような臭いがプンプンする。
(985m付近)

(三ツドッケ)

(これが限界の撮影)

振り向くと、樹間に大持山が見えてきた。急な登りが散発的にある。これが結構きつい。そして、ピンクのテープが続く。最初、登山ルートの目印かと思ったが、数字が記されているから森林公がらみのようだ。積雪も5cm程度になり、スパッツを付ける。だらだらと登る。見晴らしはいいが、木が邪魔になって、すっきりしない。やがて985mポイント付近だろうか。左の植林地が終わり、一気に明るくなった。雑木の疎林。日だまりの中、確かに心地よい歩きが楽しめる。左手に三ツドッケが顔を出す。ぶなじろうさんは、あの写真、どこで撮ったのだろうか。どこも、木の枝で、すっきりした写真が撮れそうにない。雪の上を、シカ道が尾根伝いにずっと続いている。これを追っていると、雪に隠れた障害物もなく、安心して歩ける。しかし、紅葉名残のかけらもない。
(ルートは何となく分かる)

雪が深くなり、雪の下が滑るようになり、アイゼンを付ける。この時点から、嫌な歩きが最後まで続くことになる。アイゼンは間に合わせの軽アイゼンだから、アンチスノープレートなるものも付いてはいない。雪質なのか、6本爪のアイゼンに問題があるのか、2歩も歩くと、足底は団子状態になってしまう。この団子が7cmくらいの高さになることもあり、まるで、一本歯の高下駄をはいているような感じだ。これがずっと続くからたまったものではない。登りのうちは、コブ付きのままでも歩きやすいのだが、下りや平地ではバランスをすぐに崩す。転んだ拍子に左足のふくらはぎに痙攣が走った。嫌な予感。以降、頻繁に木の根に足をたたきつけては雪を落とす繰り返しになってしまった。雪の下の落ち葉もべっとりとくっついてくる。歩程も一気に落ちてしまった。さりとて、アイゼンを外すと滑るし、我慢するしかない。とうとう、ザックから杖を出した。以前に購入してあった3段折りたたみの杖。軽く、ザックの中にすんなりと収まるのが特徴。K女が持っているのを見かけ、物欲から衝動買いしてしまっていたが、今一つ信用できないので、使用は極力避けていた代物。細くて、頼りがいがないのである。しかし、雪の上ではいいみたいだな。力を入れても曲がったりはしない。これでアイゼン団子がなければ、八ガ岳を歩いているかのような、ルンルン気分の初冬のハイクだ。木の枝にぶつかる度に雪が身体に付くようになり、合羽の上着を着用した。
(そして、峠ノ尾根に合流)

(足が大平山方面に向かう)

(1469m)

だらだら登りが続き、ようやく、峠ノ尾根に合流。一面、スズタケの世界になった。葉が見あたらないが、死んでいるのか、枯れているのか。さて、ここからどうするか決めていない。大平山まで行くつもりはない。今日はあくまでも尾根歩き。だが、自然に大平山の方に足が向いた。狭いスズタケ街道の中をシカの踏み跡が続いている。1469m地点までは行った。そこから先、アイゼン団子が鬱陶しくなり、休憩して、ここでUターン。とうとう、アイゼン団子が苦痛の種になってしまった。
(花新田の上の広場)

(大ドッケ?だろうか)

峠ノ尾根を下る。大ネド尾根の合流点を突っ切ると、しばらく下りルートが分からなくなったが、シカ道を追ったら、花新田の上の馴染みの場に到達した。雪のためか、この先、一気に街道も細くなる。大ドッケらしきところを通過。3月に来た時も大ドッケの位置が釈然としなかった。「大平山方面」と記された標識があるところが大ドッケなのだろうか、それとも、大平山寄りのピークが山頂なのか。そこには赤テープがあるだけなのだが。
(シカが先導してくれる)

(直進すると峠ノ尾根伝い。左に向かう)

栗山尾根の分岐に到着。前に来た際、高みの左側に踏み跡があったのを確認している。峠ノ尾根は直進だ。雪の窪みにはシカの踏み跡。高みを回り込むと、北側に向けて尾根が続いていた。これがなかなか急である。一旦アイゼンを外したが、滑るのでまた渋々、付けた。下りの雪団子は最悪だ。木に足をぶつけて雪をはたきながら、杖もダブルで支えながら、そっと下りた。幾分、傾斜が緩やかになり、左手にちょっとした丘のようなものが見えたので行ってみた。後ろには大平山らしき山が見え、北西方向には、浅間山と両神山の頭が見えた。そして、矢岳の尾根の下斜面には広大な伐採地。すごい景観。尾根に復帰し、なだらかになった尾根を下る。テープを散見し、ここもまた、間違った歩きをしていないことにほっとする。スズタケもようやく消えた。
(バラモ尾根分岐)

(遠く浅間山。手前の伐採地のある尾根が矢岳のある尾根だろうが、矢岳は分からなかった)

(長沢背稜の山々)

(栗山尾根はこんな感じの尾根)

(大平山方面に向かう道)

すこし広くなった鞍部に到着。木の枝に赤テープ。ここがバラモ尾根の分岐点らしい。覗いてみると、植林帯の薄暗いところを下るようになっている気配。栗山尾根はここからやや左方向に尾根を下る。明るくて気持ちのいい尾根歩きになった。すぐ左下に何やら平らな部分が見えた。行ってみると、どう見ても、幅2m程の道形がカーブして、大平山方面に向かっている。作業道だろうか。それとも林道?万一の時はここを下ればいいだろうが、どこに辿り着くのか皆目分からない。まさか天目山林道の延長ではあるまい。
(なかなかいい感じ。マニアックな光景だが、自分にはお気に入りだった)

(さて、問題の岩場。先が落ちている。残念ながら、危機感を抱くような写真は撮れなかった。正直のところ、それどころではなかった)

左が植林、右が自然林となり、尾根は次第に細くなってきた。そして、岩場が出てきた。尾根が細いから、ここをクリアしないことにはどうしようもない。岩場があることは知っていた。大した岩場ではないだろうと高をくくってもいた。1つ目、2つ目とアイゼン付きでも問題なく通過。あっさりと、正面や横腹を巻いて行けた。そして、標高950m地点あたりに3つ目の岩場。これは、向こう側を見下ろすと絶壁になっていた。左も右も切れている。一旦戻り、途方にくれた。自分には無理だ。あそこは越えられない。戻ってバラモ尾根下りか幅広の作業道歩きもちらついた。よく見ると、岩の右手横腹に2段の段差があった。あそこが巻きだろうか。アイゼンを外し、先ず、上の段に伝わってみた。雪と氷で滑った。手にする木や枝はすべて折れたり根こそぎになる。ここは行けない。命がけの状態で戻り、アイゼンをまた付ける。そして、その下の段に行ってみた。今度は、アイゼンの先が滑った。また戻る。アイゼン付けなきゃ氷で滑るし、付ければ歯の先で滑る。二進も三進もいけない。岩の向こう側までも行けないのである。下は沢。進退が極まった。左は奈落の底の景観だし、右の沢に下りて巻くしかないようだ。仕方がない。沢に一旦下りて、岩を巻くことにしよう。70m程下り、また尾根に上がる。岩場の真下に汗だくで着いた。ここから、見上げる尾根にトラバースか。とほほ。急斜面を横に行く。ダメ押しでアイゼンがまた、団子になる。もう、気にしてはいられない状況。うかつに木も石もつかめない。何とか、尾根に辿り着いた。30分要した。冷や汗の連続。
※後でネットの記事をよく確認した。この岩場からは、意外とあっさりと下れるツボルートがあるようだ。岩からその先を見下ろした直後のパニック状態の頭では、冷静さをかなり欠いていて、そんな簡易なルートのシミュレートをすることも出来なかった。おまけにアイゼンで果たして下れただろうか。また、この尾根歩きの楽しみは、途中の「山の神」の石祠を見ることだったのだが、石祠は、自分がトラバースして辿り着いた尾根と岩場の間にあったようで、結局、見ることはできなかった。数十m戻れば拝見できたのに残念だ。
(栗山)

何とか尾根に合流は出来たものの、ヤセ尾根である。まだ岩場が続くのではあるまいかと疑心暗鬼の状態。心臓がビクビクしたままで落ち着かない。やがて、尾根がまた広くなり、ようやくほっとした。あの岩場の通行はまったく恐怖であった。すんなりと下りていれば3分で済むところが30分もかけてしまった。まだ足もガクガクしている。雪が少なくなり、もう、コンチキショーの気分でアイゼンを外した。その場に捨て置きたいくらいだ。すぐに栗山に着いた。何の変哲もないただのピーク。昭文社マップには「丸山」と記されている。別名なのか間違いなのかは知らない。山頂には「栗山」の標示があった。しばらく休んで、動転を落ち着かせた。しかし、何とか助かった。
(大持山方面)

(フェンス沿いに鉄塔に向かう)

(有間山方面)

(栗山を振り返る)

もう、送電鉄塔が尾根先に見えていた。ここから尾根が二股になる。植林を抜け、右手の鉄塔の方に向かう。東側にフェンスが続き、その下は急斜面の伐採地になっていた。フェンスの脇には踏み跡があり、これを辿れば、栗山地区に着くかもしれない。鉄塔に到着。ここでもしばらく休む。鉄塔の側には、見渡したところ、巡視路は目に付かなかった。北東の尾根を下って、もう一つの鉄塔を通過するしかないか。標高差はざっと250m。左下に浦山大橋が見えている。ところが、この尾根は何とも急で、雪もついて、薄暗い。出来れば、これを下りたくはない。地形図上の点線なんてものはどこを探してもない。来た方向の下に踏み跡らしきものを発見。これを行ってみるか。
(用水路)

(車道に出た)

踏み跡はすぐに消え、植林帯の中を適当に下ることになった。結局、フェンスの延長線上の、用水路のようなところに出た、というか戻ったというか。水はない。何のための水路なのだろうか。この水路を下ってもいいが、ところどころに段差が付いていて、歩き通すにはちょっときつい。またかすかな踏み跡を見つけた。これを追う。柚子の木が2本あった。見るからに人の手が加わっている。しばらく下ると民家が2軒。失礼ながら廃屋かと思ったが、カレーの匂いが漂ってきた。昼餉か。無性に腹が空いた。車道が見え、降り立った。
(そして、間もなく県道)

(二十三夜碑。ここから地蔵峠に入ったのだろうか)

車道を行くと、川俣に通じる道路に出た。すぐに「栗山」のバス停。1日3往復のバスは17分前に出ていた。岩場でモタモタしていなければ、十分に間に合った。大日堂までは4kmくらいか。テクテク歩くとするか。路面は凍結している個所が随分とあった。20分程で毛附トンネル。トンネル歩きは避けたい。地形図を見ると、毛附の集落を通る迂回路がある。旧道だろう。右に曲がる。河原の駐車場があった。そういえば、3月に来た時は、ここで、ラーメンをつくって食べたんだっけ。トンネル出口に出た。石碑があった。文政年間のもので、「二十三夜」と刻まれていた。あの峠ノ尾根の地蔵峠にも同じものがあった。月夜の講か。
(駐車地に着いた。トイレはこの時期、使用不可となってしまっていた)

大日堂前の駐車場に到着。他に熊谷の地元ナンバーの車が3台あった。げんなりして、着替えをする気にもなれず、そのまま帰る。気温は大して上がらず3℃。これが、秩父市内に入ると9℃になった。武甲山は白く、寒々としている。明日は、ハイトス氏から、奈良部山のお誘いをいただいているが、そのルート、岩場があることは知っている。お付き合いはよした方がいいだろう。2日続きの恐怖体験のキャパは今の自分にはないな。
この記事を、ほとぼりが覚めた翌日に書きながら、雪がない時期に、改めて、今度は栗山尾根からバラモ尾根に下ってみたいものだなと思うに至ってしまった。あの岩場が、どうもしゃくにさわる。
<浦山大日堂(7:02)……大ネド尾根取り付き(7:18)……峠ノ尾根合流(10:03)……1469mポイント(10:20~10:30)……大ドッケ?(11:02)……栗山尾根分岐(11:08)……バラモ尾根分岐(11:36)……岩場迂回(12:16~12:47)……栗山(13:07)……送電鉄塔(13:21)……車道(13:49)……栗山バス停(13:55)……浦山大日堂(14:28)>
ぶなじろうさんが先月、大ネド尾根を歩かれた記事を拝見し、自分もまた歩いてみたくなった。自分には縁のない尾根と思っていたが、正直のところ、ぶなじろうさんが歩かれたことを知り、以来、一気に身近な尾根になってしまった。985m地点付近の雑木の森は素晴らしいようだ。紅葉は既に終わってはいるが、初冬の雰囲気にもまた期待したい。雪はまだないと思うが、念のため6本爪アイゼンを持参。帰りは、峠ノ尾根は下ったことがあるので、別コースを下るとする。バラモ尾根という手があるが、その名称のニュアンスからして、一筋縄ではいかないような気がして、穏やかな響きのある栗山尾根で下ることにする。ところが、歩いてみると、実態は逆だったようだ。ちなみに、尾根の名称を調べると、大平山に向かうメインの尾根は峠ノ尾根。そこから派生するのが大ネド尾根と栗山尾根。バラモ尾根は栗山尾根からの派生しているようである。
(貯水施設の裏から上がる。階段が2つある)

浦山大日堂の入口前に車を置く。記すまでもなく、他の車はない。春日部(大宮?)ナンバーのハイゼットも、今日は置かれていない。気温-3℃。例のごとく、正露丸の香りをわざわざ確認して橋を渡る。林道をしばらく行くと、カラ沢の先に貯水施設があり、後ろに階段が付いていた。ぶなじろうさんが称する、おあつらえ向き階段だ。迷わず利用させていただく。今日の前半はぶなじろうさんの後追いだ。この階段はいやらしく、2基あるのだが、最初のは施設に付設されているため、立入禁止で使えない。2つ目に向かうには、沢沿いを行かないといけない。雪が付き、コンクリの上は凍り付き、行くまでに手こずってしまった。
(ここは寒々とした光景が続く)

植林帯に入り、噂の大岩を右に巻く。傾斜がかなりあって、息が上がる。雪の降った後のためか、土もかなり濡れていて滑る。無事に巻いて大汗かいて尾根に出た。何と、予定外の結構な雪があった。半端な積雪はいい迷惑。ちょっとこの先が雪では、ちょっとやばい感じ。向かいの尾根は峠ノ尾根から派生している南東尾根だろうか。陽がさしているけど、雪もべったりと付いている。左が植林帯で、右は雑木の状態がしばらく続く。左から本尾根とおぼしき尾根が入ってくる。確実に大ネド尾根を歩いているのを知り、ほっとした。ぶなじろうさんが「森林公」と称している石杭が出てきた。当初、意味が分からなかったが、雪をかいて見ると、「森林公社」と記されていた。森林公社?そんな機関あるの?今はない三公社五現業なら知っている。どうも、森林公は天下り対策の一環のような臭いがプンプンする。
(985m付近)

(三ツドッケ)

(これが限界の撮影)

振り向くと、樹間に大持山が見えてきた。急な登りが散発的にある。これが結構きつい。そして、ピンクのテープが続く。最初、登山ルートの目印かと思ったが、数字が記されているから森林公がらみのようだ。積雪も5cm程度になり、スパッツを付ける。だらだらと登る。見晴らしはいいが、木が邪魔になって、すっきりしない。やがて985mポイント付近だろうか。左の植林地が終わり、一気に明るくなった。雑木の疎林。日だまりの中、確かに心地よい歩きが楽しめる。左手に三ツドッケが顔を出す。ぶなじろうさんは、あの写真、どこで撮ったのだろうか。どこも、木の枝で、すっきりした写真が撮れそうにない。雪の上を、シカ道が尾根伝いにずっと続いている。これを追っていると、雪に隠れた障害物もなく、安心して歩ける。しかし、紅葉名残のかけらもない。
(ルートは何となく分かる)

雪が深くなり、雪の下が滑るようになり、アイゼンを付ける。この時点から、嫌な歩きが最後まで続くことになる。アイゼンは間に合わせの軽アイゼンだから、アンチスノープレートなるものも付いてはいない。雪質なのか、6本爪のアイゼンに問題があるのか、2歩も歩くと、足底は団子状態になってしまう。この団子が7cmくらいの高さになることもあり、まるで、一本歯の高下駄をはいているような感じだ。これがずっと続くからたまったものではない。登りのうちは、コブ付きのままでも歩きやすいのだが、下りや平地ではバランスをすぐに崩す。転んだ拍子に左足のふくらはぎに痙攣が走った。嫌な予感。以降、頻繁に木の根に足をたたきつけては雪を落とす繰り返しになってしまった。雪の下の落ち葉もべっとりとくっついてくる。歩程も一気に落ちてしまった。さりとて、アイゼンを外すと滑るし、我慢するしかない。とうとう、ザックから杖を出した。以前に購入してあった3段折りたたみの杖。軽く、ザックの中にすんなりと収まるのが特徴。K女が持っているのを見かけ、物欲から衝動買いしてしまっていたが、今一つ信用できないので、使用は極力避けていた代物。細くて、頼りがいがないのである。しかし、雪の上ではいいみたいだな。力を入れても曲がったりはしない。これでアイゼン団子がなければ、八ガ岳を歩いているかのような、ルンルン気分の初冬のハイクだ。木の枝にぶつかる度に雪が身体に付くようになり、合羽の上着を着用した。
(そして、峠ノ尾根に合流)

(足が大平山方面に向かう)

(1469m)

だらだら登りが続き、ようやく、峠ノ尾根に合流。一面、スズタケの世界になった。葉が見あたらないが、死んでいるのか、枯れているのか。さて、ここからどうするか決めていない。大平山まで行くつもりはない。今日はあくまでも尾根歩き。だが、自然に大平山の方に足が向いた。狭いスズタケ街道の中をシカの踏み跡が続いている。1469m地点までは行った。そこから先、アイゼン団子が鬱陶しくなり、休憩して、ここでUターン。とうとう、アイゼン団子が苦痛の種になってしまった。
(花新田の上の広場)

(大ドッケ?だろうか)

峠ノ尾根を下る。大ネド尾根の合流点を突っ切ると、しばらく下りルートが分からなくなったが、シカ道を追ったら、花新田の上の馴染みの場に到達した。雪のためか、この先、一気に街道も細くなる。大ドッケらしきところを通過。3月に来た時も大ドッケの位置が釈然としなかった。「大平山方面」と記された標識があるところが大ドッケなのだろうか、それとも、大平山寄りのピークが山頂なのか。そこには赤テープがあるだけなのだが。
(シカが先導してくれる)

(直進すると峠ノ尾根伝い。左に向かう)

栗山尾根の分岐に到着。前に来た際、高みの左側に踏み跡があったのを確認している。峠ノ尾根は直進だ。雪の窪みにはシカの踏み跡。高みを回り込むと、北側に向けて尾根が続いていた。これがなかなか急である。一旦アイゼンを外したが、滑るのでまた渋々、付けた。下りの雪団子は最悪だ。木に足をぶつけて雪をはたきながら、杖もダブルで支えながら、そっと下りた。幾分、傾斜が緩やかになり、左手にちょっとした丘のようなものが見えたので行ってみた。後ろには大平山らしき山が見え、北西方向には、浅間山と両神山の頭が見えた。そして、矢岳の尾根の下斜面には広大な伐採地。すごい景観。尾根に復帰し、なだらかになった尾根を下る。テープを散見し、ここもまた、間違った歩きをしていないことにほっとする。スズタケもようやく消えた。
(バラモ尾根分岐)

(遠く浅間山。手前の伐採地のある尾根が矢岳のある尾根だろうが、矢岳は分からなかった)

(長沢背稜の山々)

(栗山尾根はこんな感じの尾根)

(大平山方面に向かう道)

すこし広くなった鞍部に到着。木の枝に赤テープ。ここがバラモ尾根の分岐点らしい。覗いてみると、植林帯の薄暗いところを下るようになっている気配。栗山尾根はここからやや左方向に尾根を下る。明るくて気持ちのいい尾根歩きになった。すぐ左下に何やら平らな部分が見えた。行ってみると、どう見ても、幅2m程の道形がカーブして、大平山方面に向かっている。作業道だろうか。それとも林道?万一の時はここを下ればいいだろうが、どこに辿り着くのか皆目分からない。まさか天目山林道の延長ではあるまい。
(なかなかいい感じ。マニアックな光景だが、自分にはお気に入りだった)

(さて、問題の岩場。先が落ちている。残念ながら、危機感を抱くような写真は撮れなかった。正直のところ、それどころではなかった)

左が植林、右が自然林となり、尾根は次第に細くなってきた。そして、岩場が出てきた。尾根が細いから、ここをクリアしないことにはどうしようもない。岩場があることは知っていた。大した岩場ではないだろうと高をくくってもいた。1つ目、2つ目とアイゼン付きでも問題なく通過。あっさりと、正面や横腹を巻いて行けた。そして、標高950m地点あたりに3つ目の岩場。これは、向こう側を見下ろすと絶壁になっていた。左も右も切れている。一旦戻り、途方にくれた。自分には無理だ。あそこは越えられない。戻ってバラモ尾根下りか幅広の作業道歩きもちらついた。よく見ると、岩の右手横腹に2段の段差があった。あそこが巻きだろうか。アイゼンを外し、先ず、上の段に伝わってみた。雪と氷で滑った。手にする木や枝はすべて折れたり根こそぎになる。ここは行けない。命がけの状態で戻り、アイゼンをまた付ける。そして、その下の段に行ってみた。今度は、アイゼンの先が滑った。また戻る。アイゼン付けなきゃ氷で滑るし、付ければ歯の先で滑る。二進も三進もいけない。岩の向こう側までも行けないのである。下は沢。進退が極まった。左は奈落の底の景観だし、右の沢に下りて巻くしかないようだ。仕方がない。沢に一旦下りて、岩を巻くことにしよう。70m程下り、また尾根に上がる。岩場の真下に汗だくで着いた。ここから、見上げる尾根にトラバースか。とほほ。急斜面を横に行く。ダメ押しでアイゼンがまた、団子になる。もう、気にしてはいられない状況。うかつに木も石もつかめない。何とか、尾根に辿り着いた。30分要した。冷や汗の連続。
※後でネットの記事をよく確認した。この岩場からは、意外とあっさりと下れるツボルートがあるようだ。岩からその先を見下ろした直後のパニック状態の頭では、冷静さをかなり欠いていて、そんな簡易なルートのシミュレートをすることも出来なかった。おまけにアイゼンで果たして下れただろうか。また、この尾根歩きの楽しみは、途中の「山の神」の石祠を見ることだったのだが、石祠は、自分がトラバースして辿り着いた尾根と岩場の間にあったようで、結局、見ることはできなかった。数十m戻れば拝見できたのに残念だ。
(栗山)

何とか尾根に合流は出来たものの、ヤセ尾根である。まだ岩場が続くのではあるまいかと疑心暗鬼の状態。心臓がビクビクしたままで落ち着かない。やがて、尾根がまた広くなり、ようやくほっとした。あの岩場の通行はまったく恐怖であった。すんなりと下りていれば3分で済むところが30分もかけてしまった。まだ足もガクガクしている。雪が少なくなり、もう、コンチキショーの気分でアイゼンを外した。その場に捨て置きたいくらいだ。すぐに栗山に着いた。何の変哲もないただのピーク。昭文社マップには「丸山」と記されている。別名なのか間違いなのかは知らない。山頂には「栗山」の標示があった。しばらく休んで、動転を落ち着かせた。しかし、何とか助かった。
(大持山方面)

(フェンス沿いに鉄塔に向かう)

(有間山方面)

(栗山を振り返る)

もう、送電鉄塔が尾根先に見えていた。ここから尾根が二股になる。植林を抜け、右手の鉄塔の方に向かう。東側にフェンスが続き、その下は急斜面の伐採地になっていた。フェンスの脇には踏み跡があり、これを辿れば、栗山地区に着くかもしれない。鉄塔に到着。ここでもしばらく休む。鉄塔の側には、見渡したところ、巡視路は目に付かなかった。北東の尾根を下って、もう一つの鉄塔を通過するしかないか。標高差はざっと250m。左下に浦山大橋が見えている。ところが、この尾根は何とも急で、雪もついて、薄暗い。出来れば、これを下りたくはない。地形図上の点線なんてものはどこを探してもない。来た方向の下に踏み跡らしきものを発見。これを行ってみるか。
(用水路)

(車道に出た)

踏み跡はすぐに消え、植林帯の中を適当に下ることになった。結局、フェンスの延長線上の、用水路のようなところに出た、というか戻ったというか。水はない。何のための水路なのだろうか。この水路を下ってもいいが、ところどころに段差が付いていて、歩き通すにはちょっときつい。またかすかな踏み跡を見つけた。これを追う。柚子の木が2本あった。見るからに人の手が加わっている。しばらく下ると民家が2軒。失礼ながら廃屋かと思ったが、カレーの匂いが漂ってきた。昼餉か。無性に腹が空いた。車道が見え、降り立った。
(そして、間もなく県道)

(二十三夜碑。ここから地蔵峠に入ったのだろうか)

車道を行くと、川俣に通じる道路に出た。すぐに「栗山」のバス停。1日3往復のバスは17分前に出ていた。岩場でモタモタしていなければ、十分に間に合った。大日堂までは4kmくらいか。テクテク歩くとするか。路面は凍結している個所が随分とあった。20分程で毛附トンネル。トンネル歩きは避けたい。地形図を見ると、毛附の集落を通る迂回路がある。旧道だろう。右に曲がる。河原の駐車場があった。そういえば、3月に来た時は、ここで、ラーメンをつくって食べたんだっけ。トンネル出口に出た。石碑があった。文政年間のもので、「二十三夜」と刻まれていた。あの峠ノ尾根の地蔵峠にも同じものがあった。月夜の講か。
(駐車地に着いた。トイレはこの時期、使用不可となってしまっていた)

大日堂前の駐車場に到着。他に熊谷の地元ナンバーの車が3台あった。げんなりして、着替えをする気にもなれず、そのまま帰る。気温は大して上がらず3℃。これが、秩父市内に入ると9℃になった。武甲山は白く、寒々としている。明日は、ハイトス氏から、奈良部山のお誘いをいただいているが、そのルート、岩場があることは知っている。お付き合いはよした方がいいだろう。2日続きの恐怖体験のキャパは今の自分にはないな。
この記事を、ほとぼりが覚めた翌日に書きながら、雪がない時期に、改めて、今度は栗山尾根からバラモ尾根に下ってみたいものだなと思うに至ってしまった。あの岩場が、どうもしゃくにさわる。
秩父がすでに雪山になっているなんて、びっくり。冬場の山は道具の使い方も知ってないと行けないなと思って、やはり、私は冬眠ですね。
鹿の足跡に沿っての山行は魅力的、うらやましいです。
「魅力的」?ですか。それは場所にもよりけりですね。登りの広いところは確かにいい感じでしたけど、下りのスズタケの狭い回廊では、魅力的と言えるものでもありませんでしたが。
ところで、あの3段式の杖は良かったですね。欠陥品という噂を聞いたこともありましたが、あと数回の使用は大丈夫でしょう。
冬眠もいいですが、冬眠するほどの活動もしていないのではないですか。
毎度、正露丸の臭いを確認して頂き恐縮です。今回も漂っていたのでしょうか?おいらは、この臭いを嗅ぐと何故か安心してしまいます。
取り付きの階段ですが、おいらは緑色の金網ごしにヘツリ到達いたしました。
雪道に沢山の足跡がありビックリしました。まさか、この山が人気の山になるとは思えませんので。鹿道で納得いたしました。
次回の大平山は大栗尾根かバラモ尾根を下ろうと目論んでおったのですが、たそがれさんをしてこの状況ではなかなか厳しそうですね。とりあえず、来秋登りで使ってみる事にします。大変参考になりました。
三つドッケの写真は、985mはるか手前、杉林の切れ目から撮りました。おいらが気付いた唯一の場所でした。
あの三ツドッケは遙か手前でしたか。私が気づいた時は既に遅しだったわけですね。かなり残念です。
栗山尾根はいい雰囲気ですよ。あの岩場を除けばですが。おそらく、再挑戦はぶなじろうさんの幾分前になるでしょう。冷静になって、よく見て来ますよ。あっさり上り下り出来るところがあるようですから。
ちょっと触れましたが、ここのところ、矢岳にすごく興味があるのですよ。いろいろと、ネット記事を見ているのですが。雪の時期は、素人にはちょっと無理ですかね。
あまりに緊張の連続の場所は写真を撮るのを忘れてしまうくらいであるのは良くわかります。
おまけに一人だと余計に心細く、途方にくれるのくだりも良くわかりますよ。
それとアイゼンの団子はほんとに困りますね。
自分は団子のおかげで転倒した苦い思い出がありますが、これはアンチ雪団子プレートはそれ成りに役には立ちますよね。
やはり付けないと悲惨です。
985m付近の疎林の写真はいいですね。
このような場所は好きです。
薄い雪が地面を覆っているのがまた良いですね。
985m付近の風情は、袈裟丸山に行く途中の、二子山近くの森に似た感じがしましたね。日がなぼんやりといてみたいような所です。
どうも、半端な雪はダメですね。下が締まっていないし、水気もたっぷりある。アイゼン使っても、果たして効果の程も分かりません。今回のことで、ちょっとした雪でも軽アイゼンは避けた方がいいような気になりましたよ。
この時期、山の選択には迷いますね。すべてが一長一短のようで。やはり、雪の無い里山がいいのかなと思いました。