たそがれオヤジのクタクタ山ある記

主に北関東の山を方向音痴で歩いています。山行計画の参考にされても責任は負いかねます。深慮せず軽く読み流してください。

シャクナン尾根ふたたび。尾根直登編。

2015年05月24日 | 秩父の山
◎2015年5月22日(金)

細久保橋手前駐車地(6:37)……シャクナン尾根取付き(6:57)……林道出合い(8:05~8:13)……1260m標高点(8:23)……第3ステージ出発ポイント(8:29~8:40)……三ツドッケ(10:00~10:16)……七跳山・1651m(11:32~11:43)……大クビレ(12:01~12:10)……大平山(12:21~12:32)……1469m尾根分岐(12:45)……林道(13:29)……細久保橋駐車地(14:37)

 ふがいない歩きで終わった先日の続き。というか改めての歩き。かねての予定どおりにシャクナン尾根の直登をしてみよう。特別な理由はないが、この尾根の攻略(笑)をだらだらと先延ばしにしておくわけにもいかない。さっさとケリをつけてしまいたかった。そのどたばた体験談を待っている方もいらっしゃるようだし…。
 先日は大日堂前に車を置いたが、犬に吠えられるのが嫌で、今日は林道の一般車通行止めまで入ることにする。軽自動車で行くつもりでいたが、都合がつかずに普通車になってしまった。対向車が来ないかとビクビクしながら入り込む。幸運にも対向車はなかった。時間も早かったせいか、いや、山に暮らす方の朝は早い。駐車の車は一台もなし。むしろ、県道を浦山に向かう際、一部区間、すれ違いのできない所があり、そこで対向車が2台来て、しばらくバックをした。そっちがバックをしてよと言いたいところだったが、ここは地元車優先がマナーだろう。

(では出発)


 カップそばを食べて出発。どんよりした天気だが、雨の心配はない。むしろ、三ツドッケで富士山を見られないかもと、余計な心配をしてしまう。営林作業小屋を通過。備え付けの寒暖計では12℃を指している。少しひんやりとしているが、今日は湿度も低く、快適な陽気になるらしい。せっかくの代休消化の歩きだ。こうでなくては。

(ハシゴの取り付き)


 グミノ滝分岐を過ぎ、ゲートから20分ほどで5日前のシャクナン尾根取付きに着いた。尾根末端にこだわるなら、分岐から登ってもいいだろうが、ここは岩まじりでちょっともろそう。敢えていきなり危うい思いをすることもないだろうと、例のハシゴから登って、途中から尾根に合流という段取りにする。
 前回の下見で、尾根に取り付く際の適地を2か所ほど見つけていた。まずは作業道を進んで、尾根を横切るポイント。続いて、水平道に入って植林に入るところ。この2スポットを逃すと、後は植林の中を踏み跡探しになってしまい、尾根に出ようにも、その形状をまったくつかめなくなってしまうし、上がるまで難儀なことになる。

(第1ポイントから尾根に上がる。左に水平になる踏み跡が続く)


(左に第2ポイントからの上りが見えてくる)


(振り向くと大持山)


 最初のポイントから尾根に取り付いてみた。見かけ以上の急登だった。トゲのヤブが続いている。踏み跡らしきものもあるが、昨日は雨だったのか、それに入ると、ずるずると滑る。草付きを我慢して登った方がいいようだ。ヤブとはいっても背が低い。休み休み登る。やはり、尾根直登なんて大それたことは考えずに巻き道を行けばよかったかなと早々に後悔し始めている。振りかえると、あれは大持山だろうか。

(第2ポイントからの合流点。左下から合流する)


 20分ほど登って、植林際の第2ポイントから上がってくる踏み跡と合流。どうもここは第2ポイントからの取り付きの方が正解だろう。ここまでの汗のかきかたとグッタリ感が全然違うはずだ。途中、右手からの踏み跡があったが、使われていないのかヤブで覆われていた。

(見下ろす。苦行でしかない)


 実は、尾根に出さえすれば、あとは楽だと思っていた。しかし、植林の際を行き、やがて植林に吸収されるようになると、えっ何これ、といった急登が続いていた。嫌らしい急斜面だ。尾根型は明瞭。標石と、樹には白ペンキが続き、トゲ系もなくなった。たまに作業道のような踏み跡がクロスする。もしかすると、先日辿った踏み跡かもしれない。ここはぐっとこらえて尾根にこだわる。
 このシャクナン尾根、展望はまったくない。さっきの大持山が唯一だろう。この先、第2ステージ、第3ステージ(こちらは自然林のためか少しはましか)に入っても同じで、気が滅入るほどの急な植林と自然林の中の黙々歩きが続く。試練と思って歩いている分には結構だろうが、景色を楽しみながら歩くといったあたり前の風情からは程遠い。ただ、三ツドッケに立った時の達成感は、自己満足ながらも、他には比べるものがないのではと思うものがある。それが価値あるものかどうかは人それぞれだろう。この時点では、とにかく、前に前に進むことしか頭にない。

(ごちゃごちゃしているが唯一の息継ぎのスポットか)


 少し明るい小ピークを通過。傾斜も緩くなった。シャクナゲらしき密集も目にする。まだ花の芽も感じられないが、秩父の山だし、来月には満開だろう。その頃は梅雨時期だ。こんな状態が続けばいいなと思っても、ふたたび愛想のない植林に入って急登となった。914m標高点は知らずのうち、大分前に過ぎていたようだ。

(樹に青ネットが巻かれてくる)


(上の平たいところが林道)


(林道に出た。目の前に第2ステージの突端)


 明瞭な踏み跡が横切った。ここは先日、左から右に歩いた。第1ステージも、もうそろそろフィニッシュのようだ。樹にネットが巻かれはじめ、やがてまばらになり、進むに支障のない岩が横たわる。もう尾根型は不明瞭になっている。樹にピンクテープを見かけ、見上げると林道が見えた。
 林道でへたり込んだ。水よりもまずは一服。振り向くと、ここにはペットボトルのマークがある。取り付きから1時間10分か。先日の巻き通しで1時間20分だった。10分の短縮とはいえ、疲労度は倍近いものがある。この先、第3ステージを歩く体力が残っていればいいが。大汗をかいた。ただ、巻き道歩きほどの、踏み跡探しの神経疲れはない。
 第2ステージはパスして、林道歩きの予定でいたが、HIDEJIさんが1260m標高点に興味があるとのことで、自分にはそれほどのものではなかったが、まぁ、尾根通しにこだわりがある以上は、ついでに入ってみることにする。

(第2ステージはうって変わってなだらか。だが倒木が多い)


(1260m標高点)


 ちょっとした段差があったが、身体ごと這わせて尾根に乗る。荒れた広い尾根だ。枯れかけた自然林がメインになっている。倒木も目立つ。第1ステージの疲れもあったため、たいした標高差でもないが、息が上がってさっぱり進まず、小高い1260m標高点に着いた時には、いわゆる青色吐息だった。HIDEJIさんには失礼だが、ここを通過することに、さしたる意義はないかと思う。

(林道に下る)


 第2ステージの下り、先日の下見で末端まで行けないことを知っていたので、早めに林道に下りる。ここは先に行くほどに下りづらくなっていて、それでも倒木をまたぎながら安定しないところを下って林道に出た。ここでまた一服。余計なところで体力を消耗したような感じ。これでは、本ステージがきつくなりそうだ。途中でリタイアするにしても、下りは尾根型不明瞭で迷いやすいらしい。

(第3ステージはここから。手前に林道。奥に尾根が見えている)


(初めのうちは尾根型も明瞭だった)


(樹の切れ間から仙元峠に至る尾根。右が三ツドッケのはずだが見えない)


 第3ステージ。末端部はグズグズで無理のようだ。細久保林道側のちょい先のところから入り込んだ。すぐに踏み跡が現れ、尾根を左に巻いている。ここはどうしようか迷ったが、おかしなところに出たのでは後でしんどいと、上に見えている尾根に向かって尾根に乗る。何だ、この尾根、テープだらけじゃないの。例によって樹に白ペンキもある。上まで続いていれば、下り使用でも迷うこともないだろう。このテープ、目障りではあったが、作業用に付けたものかもしれず、まして、自分は一見の客の立場の尾根だ。テープ撤収だのと余計なことはすまい。まして、そんな気分的な余裕もない。やがて、さっきの作業道が下から上がってきた。やはり巻き道だったようだ。

(尾根は広がったが、テープと踏み跡で助かる)


 さっぱり先に進まなかった。かなり身体が重くなり、息切れが続く。地形図を見る限り、第1ステージに比べて標高線も込み入っていないし、少しは楽かと思っていたが、それは最初のうちだけで、次第に尾根が広がり、傾斜も増してきた。これでは本当に三ツドッケまで持たないのじゃないのか。しかし、ここまで来たからには行くしかあるまい。ストックを出し、歩程を緩め、ちんたらと休み続きで登ることにした。少しは楽になったが、息切れは相変わらずだ。

(左からグミノ滝経由の尾根が合流)


(この辺はうるさかった)


 やがて、左から尾根が上がってきた。あれがグミノ滝方面から上がる尾根か。HIDEJIさんの登った尾根だ。広がっていた尾根も次第に集約されてきた。だからといって歩きやすくなったわけではなく、倒木そのものよりもその枝葉が何ともうっとうしい。テープも、この状況から逃げるかのように、尾根合流の方に導く。それに従う。
 さっきからずっと、小さな羽虫が回りを飛んでいて何とも気色が悪い。すでに口を開けて呼吸しながら歩いていた状態だ。うるさいなと、下向きの顔を正面に向けたら、2匹、口の中に入り込み、飲んでしまった。すぐに出せばよかったが、喉の中で止まってしまった。出そうと、何度も咳をしたら、ついには涙が出てきた。結局、虫は飲み込んでしまったが、しばらくは喉奥にひっかかったままで、気になってしょうがなかった。

(最初のピークに到着)


(次のピークがかすかに)


 ようやく最初のピークに着いた。何の目的かは知らないが標石が置かれている。そういえば、後でHIDEJIさんの記録を見直しさせていただいたが、この最初のピーク写真を見ると、20日の間にピンクテープが2本ほど増えているようだ。賑やかな尾根になりつつあるということか。

(右手に大平山)


 この先、三ツドッケまでの間にピークが2つあるようだ。ここからでは、樹間に次のピークしか見えていない。下りかけると、右手に大平山と大クビレが見えた。新設の鉢巻林道を見ようとしたが、緑が濃くなり、肉眼では確認できない。そういえば見えなくもないといったところだろうか。いずれにしても、後で直に見るつもりでいるから今は見えなくてもいい。

(これから核心部か)


(シロヤシオ)


 ネットの事前情報をあさり過ぎた感がある。最初のピークから三ツドッケまでは相当な難路ということで、かなり身構えてしまっていた。最初のピークを含めて3つ目のピークへの登りが応えるともあった。残雪のある頃なら、あるいはそうかもしれないが、尾根が特にヤセ落ちているところはなかったし、注意して登れば何も問題はない。

(アカヤシオか)


(ようやく最終が見えてきた)


 ピーク間の標高差にしても、後でGPS軌跡を見てみると、それぞれの鞍部からの登り返しは、<第1>─33m─<第2>─66m─<第3>─34m─<山頂>となっていた。だから楽だということではなく、いかれかけた身体には、やはりきつかった。山頂が近づくに連れ、ピンクや白のツツジが咲いていて、癒された気分で三ツドッケ山頂に到着した。取り付きから3時間。さすがに疲れた。これさえ済めば、後は大きな上りはないと思って、とにかくこらえた。

(三ツドッケ山頂に到着。「天目山」は東京言葉らしい。以降、山頂からの写真はオッサンがどうしても写ってしまい、ろくなのが撮れなかった)


(富士山)


(雲取山方面。どれが雲取なのかは知らん。もしかして写っていなかったりして)


(蕎麦粒山。左に仙元尾根)


(そしてシャクナン尾根。あのボコボコを登ってきた。なぜか紅葉期の写真になっていたりして)


 山頂に着くなり富士山が見えた。薄ぼんやりした天気だけに無理かなと思っていた。これだけでも登って来た甲斐があるというものだ。ここで、本当はまたへたり込むなり、じっとしていたいところだが、運悪く、先着のオッサンが三角点に腰をおろして一人占め状態でいた。聞けば、石尾根だかを登って雲取山からの帰りとのことで、避難小屋2泊だそうだ。今朝の出がけは5℃だったとか。東京の方で、そちら方面の山には詳しく、あれが御岳山だと教えてくれはしたが、これから七跳山に向かうと言うと、きょとんとしていた。大方、その下を巻いて来たのだろう。シャクナン尾根を指さし、あそこを登って来たんですよと話しても、あまりぴんとはこないままだった。
 ここでタバコを吸うのは悪いだろうと、ちょっと下に赤いツツジが咲いているところがあって、そこでタバコを吸ったが、戻るとオッサンも吸っていた。だったら、最初っから吸っていてくれればいいものを。
 もっとゆっくりしたかったが、オッサンが出発準備の声を出しながらもなかなか腰を上げてくれず、仕方なく、「お先に。お気を付けて」と山頂から離れる。これじゃちっとも疲れが抜けんわ。

(これまでとは全然違う雰囲気になる)


(富士山は頭だけかすかに)


 長沢背稜を西に向かう。何だかケモノの臭いがして、自分の歩きにくっついてくる。もしやと思って立ち止まると、自分の放つ悪臭だった。シャクナン尾根でたらふく汗をかいたらしい。さっきのオッサンにも、臭い人という印象を与えたかもしれない。
 長沢背稜の歩き、基本的には巻き巻きになっていて、ちょっとしたピークでも巻き道が付けられている。三ツドッケ(天目山)にしても巻きピークだ。こんなところでこだわり歩きをしても仕方がないので、巻きで歩く。たまに気まぐれでピーク経由にすると、ちょっとした上りでも息切れが相当なものになる。自然林の中の歩き、しっかりした歩道。歩いていて気持ちはいいが、展望はない。開けたところがあって、行ってみたが、ここからでは富士山も頭だけの景色になっていた。

(大栗山1591m)


(この木橋もいつまで持つだろうか)


 1591mピークに立ち寄ると、大栗山の標識があった。ここも大平山がうっすらと見えるだけだが、シロヤシオがひっそりときれいに咲いていた。
 崩れかけの斜面に木橋が渡されている。これがしばらく続く。七跳山1651mに行くには、巻き道直下から登るのではきつい。かなり手前から離れた。案の定、ゼーゼーしながら登った。

(七跳山)


(地形はややこしいが、迷うことはない)


(数は少ないが見頃だ)


 七跳山到着。しばらく休んだ。この山、山名板はなく、金属片がかろうじて残っているだけだ。山頂部は二重、三重の山稜になっている。三角点らしき標識が置かれていたが、よく見ると主図根点標石だった。とにかく静かだ。あたる風が心地よい。菓子パンを半分食べてから大クビレに向けて下る。

(大平山を見ながらの下り)


(矢岳の尾根かと思う)


(大クビレが見えてきた)


 以前はもっとヤブめいていたと記憶するが、明るく、見通しも良くなっている。やはりスズタケの存在だろう。目にも入らない。そのためか、踏み跡はしっかりと目視でき、テープ類はまったくないが、安心して歩ける。途中でツツジを楽しむ。ここもこれからシャクナゲがにぎやかに咲くところだろう。矢岳の尾根が左にちらっと見えて、やがて、正面下に大クビレが見えてきた。

(大クビレ。V字形に右に新林道が延びていた)


(その下に白殿谷につながるらしい古い道跡)


 大クビレに着いてまず驚いた。尾根突端の右側に林道が出来ていた。尾根を挟み、林道がV字になっている。左は天目山林道の延長部だ。随分と派手に付いたものだ。偵察に行った。山肌をかなり削った様子の林道が続いていた。これが南面鉢巻林道の正体だろう。
 ふと、その下を見ると、古い踏み跡が見えた。なるほど、これが白殿谷(中ノ沢)に沿った古道(作業道?)か。いずれ歩いてみないとなぁ。こうなると、かなりマニアックにはなってくる。

(大平山に向かって、最初の鞍部で新林道に接する)


 取りあえず大平山に向かう。標高差60m程度のものだが、今の自分にはかなりつらい。大クビレでもっと休んだとて同じだろう。微風がともかくの救いだ。春ゼミも散発的に鳴いている。本格的に鳴くのはもう数週間だろう。
 林道が尾根をかすめていく。尾根際は工事でえぐられている。やがて遠ざかるが、しばらく右下に見えていた。
 尾根の雰囲気が変わっていた。ここを歩くのは5年ぶりになる。スズタケの繁茂は消えていて、ごく普通の自然林の尾根になっている。ここも除草剤を散布したのだろうか。先日、足尾の山に行き、「除草剤区」と記された杭を見かけて以来、スズタケの死滅はどうも除草剤散布ではないのかと思うようになっている。

(大平山山頂)


(参考。5年前の5月)


 大平山山頂。平凡なピークだ。山名板が一枚。そして三角点標石。展望はなく、長居するようなピークではない。そういえば、大クビレからここまでの間で富士山が見えるということだったが、頭から消えていた。今日は見えたろう。ちょっと残念だ。
 菓子パンの半分を食べて、下るとする。下りは当初の予定通りに、峠の尾根1469m標高点から南東に下る尾根。先日の記事で、この尾根の名称を熊取尾根またはチガオノ尾根と記したが、自分でもよくわからないし、断定的に記すのもどうかと思い、ここでは熊取谷左岸尾根とでも記すことにしよう。熊取谷そのものの位置は確実だ。自分の目で看板を確かめてもいる。何も問題はないだろう。尾根の名称なんて、登山者が勝手に付けたのもかなりあるのではないだろうか。基本は、沢があれば、右岸尾根、左岸尾根だろう。

(峠の尾根にはやたらとテープがあった)


(とうとう後ろから林道が追いかけてきて合流)


(つまりこんな感じ。左側の峠の尾根から右の林道を見下ろすというか、もう同時進行だ)


(1469m標高点。峠の尾根を下る分には、この先、林道から解放される)


 峠の尾根、最初のうちはテープがやたらと目について、随分とうるさくなったなといった程度のものだったが、標高1500m付近を過ぎ、進路が北東から東寄りになったところで、右後ろから林道が延びてきた。尾根筋とほぼ平行というか接触し、このあたりは平坦部になっているため、ヘタをすると、そのまま林道に引き込まれてしまうのではないだろうか。もしかすると、あのうるさいほどのテープも、注意を喚呼するためのものではないのか。確かに、自分もつい林道沿いに歩いてしまい、テープを探して左の林の中に復帰する始末だった。とうとう登山道まで入り込んだのか。林道はなおも右下に続いている。

(熊取沢左岸尾根。右下に林道が執拗について来る)


 1469mで峠の尾根から離れる。嫌な予感がした。やはり、林道はこの熊取谷左岸尾根伝いに続いていた。
 尾根そのものは明るい尾根ではあるが、それも、林道造成のための伐採がされたためであり、右下には絶えず林道が見えている。たまに消えてもそれはカーブのためであり、やがてはまた復帰する。どうも落ち着かない。樹間越しに三ツドッケが見えているが、あぁ、あそこを歩いたんだなといった感慨がまったく沸かない。そして、ずっと続く樹の赤ペンキもまたうるさい。つまり、この尾根は、林道ができる以前からの作業用の尾根だったのだろう。地形図のコピーが落ちていた。これは作業の落し物なのか、ハイカーの忘れ物か、想像もつかない。

(林道の終点。反対側から。右が尾根)


 この状態が標高1250mあたりまで続いた。林道は尾根に乗り入れた状態で行き止まりになっていた。あるいは、本道は手前のカーブで尾根から離れた際に別口で下っているのかもしれない。想像の話だが、熊取沢沿いに分岐した林道に下っているのではないだろうか。でも、先日見た限りでは、もっとも先まで覗き込んだわけではなかったが、車が通れそうな林道ではなかったような気がする。

(右側斜面。植林と伐採地の切れ目)


(5日前に林道から撮った伐採地)


 右手が植林になり、尾根も薄暗くなった。本来はこの明るさの尾根だったのだろう。尾根から踏み跡の作業道が別れ、林の中に入っていく。そして、その植林も消え、今度は広い伐採地になった。同時に、尾根の傾斜が増した。次に出て来たのがフェンス。伐採地に沿っている。頼りない感じのネットフェンスだが、尾根側よりも急で、はるか下に林道が見えている。場合によっては、フェンス沿いに下ろうかとも考えたが、今のところ尾根の方が無難だろう。赤ペンキもまだ続いている。

(三ツドッケ。ぶなじろうさんのアイドル山。この時点でそんなことは思い出しもしなかった。目先のことで忙しくなりつつあった。三ツドッケの眺め、ここからの構図も趣向有り)


 依然、三ツドッケを眺めながらの下り。尾根は次第にヤセて、足元も不安定になってきた。そして、傾斜もさらに増した。伐採地のネットは離れていき、とうとう見えなくなってしまった。

(急斜面のヤセになったが、ペンキは続く)


(なだらかな気持ち良さげな斜面に見えるがとんでもない)


 次第に、落葉が覆うようになってきた。左右ともに急斜面で、左はかなり下が沢だ。右とて沢ではないが同じようなもの。落葉で足を滑らせたらただでは済まないだろう。いつしかペンキは消えていた。ペンキで散々誘導しておいて、あとは勝手に下れってか。そりゃないだろう。もしかしたら、別方向に安全ルートの導きがあったかもしれないが、今の頭はパニックになっていて、戻るという発想にも至らない。果たして戻れるかが問題だが。ついに、樹に抱きついて下る羽目になった。この尾根はロープ必携だね。手の平が汗でびっしょりだ。

(右下に林道。その間の写真は撮れなかった。それどころではなかった)


 右下に林道が見えてきた。このまま飛び降りられたらどんなに楽だろう。相変わらず樹に抱きついては下る。足がワナワナ、ガクガク状態になって久しい。樹の間隔が開けば、ソロリソロリと尻で下る。
 ようやく終点が見えてきた。先日の下見で、ここの終点は危ないことを知っている。グズグズの斜面を林道に回り込まないといけない。ここにも落葉の堆積がある。滑ったらそのまま沢に転落する。ほっとして立ちくらみでもしたらアウトだ。そーっと林道に出た。この尾根にこれ以上追いかけられるのはゴメンとばかりに、林道の先に行き、尾根の先端が見えなくなってから石にへたり込んだ。今日は都合2回目のへたり込みだ。
 全身がべっとりとしていた。冷や汗がこんなに出るものかと驚いた。しかし、この尾根、熊取だかチガオノ尾根だか知らないが、そんなことはもうどうでもいい。自分のマネをして下る方がいたとしたら、くれぐれも自己責任でロープを必ず持参のこと。まぁ、そんな方はいまい。どこに行きつくか知らないが、途中から新林道に逃げた方が無難だろう。上り時使用なら、少しは安全かも。

(林道を下る)


(右に営林作業小屋)


 今日はどこにも寄る予定もないし、あったとしてもその気がおきない。黙して林道を下る。まだ興奮がさめやらない。6.5kmの標識があったから、3kmは歩かないといけない。
 仙元谷の小滝を見て営林作業小屋。気温は22℃になっていた。これが先日の日曜日の陽気だったら、果たして歩ききれたろうか。湿気も少なく、自分のケモノ臭以外はすがすがしい中の歩きだった。下りで仙元尾根を使うことも想定していたのだが、どうしても大平山の新林道を確認しておきたかった。まぁ、下りの尾根選びは大失敗ではあったが、クマのいる大ネド尾根を下りたくないとなると、選択肢も少なくなる。

(心身ともにお疲れだわ)


(沢で身体を洗った)


 細久保橋に着いた。一旦、車に戻り、着替えを持って、またゲートを越えて沢に下りた。手拭いを濡らし、全身を拭いて着替えをした。ようやくすっきりした。
 帰りの林道。これもまた対向車を気にしながらの運転だったが、今日は林道に自分以外の車は入っていなかったようだ。犬も車には吠えない。県道に出てようやくほっとした。しかし、熊取谷左岸尾根の下りは悪夢に近かった。シャクナン尾根の達成感も半分消えてしまっていた。

(本日の軌跡)

「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図200000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)、数値地図25000(地名・公共施設)、数値地図250mメッシュ(標高)、数値地図50mメッシュ(標高)及び基盤地図情報を使用した。(承認番号 平24情使、 第921号)」

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16 コメント

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Unknown (でん)
2015-05-24 14:35:32
長い樹林帯歩きはまさに試練です。
目的あっての歩きでないと気持ちもついてきませんね。
シャクナゲが咲いてないのは花芽がないんじゃないですかね?
様子からしてそんな気がしました。

天目山からの眺望、富士山の右にある山が雲取山じゃないでしょうか?
小雲取山からの伸びやかな稜線が特徴かと。
このあたりの山域は玄人好みな感じがします。
私じゃ一生歩かない山域かもしれません。
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でんさん (たそがれオヤジ)
2015-05-24 14:56:08
でんさん、早速、ありがとうございます。
玄人好みというのは何なのでしょうかね。「渋い歩き」に通じるとすれば、全然渋さはない、マニアックとすればそこまでもいかない。
結局、蓼食う虫も好き好きの部類コースではと思っています。
自分もシャクナゲくらいは葉でわかりますが、花芽ですか。確かに探してもなかったですね。ということは、時期的に、もう咲くことはないのでしょうか。ずっとそんな状態でしたよ。
雲取山のご教授、ありがとうございます。そんな気はしていたのですが、何せ、オッチャンが自分が下って来た山なのに、「ここからではどうだろう、見えないかも、わかりづらい」とかあやふやなことを言うものだから、こっちも混乱してしまいましたよ。
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8時間歩き (K女)
2015-05-24 14:57:09
読み終わって、長いよねと思い時間を数えてみたら、8時間、熊との遭遇はなくて良かったです。

クビレ?この言葉に反応してしまいました、あの場所を言うのですね、想像とは違っていたような。

鹿除けのネットが、木々ごとに取り付ける作業も大変でしょうね、自然であっても人の手が加わっているのだねと感じます。

富士山が綺麗に見えて、登山者にはアクセントになりますね。自分の時は、いつも振り返る余裕がないけど、いつもながら、何か発見があるようで、それもすごく大切だと感じます。
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K女さん (たそがれオヤジ)
2015-05-24 18:25:45
K女さん、こんにちは。
読み終えるまで8時間かかりましたか。ありがとうございます。お疲れさまです。
今回は後半部にとんでもないハプニングがあって、結果としてダラダラとなりました。
クビレですか。やはり女性ですね。私はあまり反応はいたしませんが。写真に出ている隣の尾根「矢岳の尾根」に「クタシノクビレ」という舌がもつれそうなクビレがあるのですが、クビレって何なのでしょうね。ぎゅっと締まったところかなと思ってもそうでもないようだし。
この辺、長い林道が通っているため、深山であっても、人の手はあらゆるところに見えます。そのため、安心しても歩けるという面もあります。
写真を見直すと、きれいなスポットは全然なくて、どちらかというときたない風景続きです。そのため、富士山も少しはきれいに見えたのではないでしょうか。
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難路とはいっても・・・ (瀑泉)
2015-05-24 19:10:55
三ツドッケまでのシャクナン尾根歩き,難路とは言ってもたそがれオヤジさんのお歩きのレベルから,難路の部類にも入らなかったようで(笑)。まぁ,最初は植林で展望なし,高度が上がってもピンクテープがうるさいでは,難路ならぬ苦難尾根だったでしょうネ。
でんさんも,仰ってますが,石楠花は花芽が無いのでしょうネ。
昨日,オロ山界隈を歩いて来ましたが,標高1700m前後で満開でしたから。
オロ山と言っても,北の台地ではありませんが,以前いただいた情報を参考に,おかげさまで,ニゴリ小屋も見て参りました。遅ればせながら有難うございました。
試練尾根の下り,たそがれオヤジさんが,ロープ云々を勧めるようじゃ~,自分なら熊に会っても大ネド尾根を下りますヨ(笑)。
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Unknown (ぶなじろう)
2015-05-24 19:16:31
今晩は。
お疲れ様でした。
中々の苦行ルートとお見受けいたしました。
登り、下りとも急斜面の連続攻撃を受けると言う事でしょうか。尻込みしたくなるような山です。ポイントとなると思われたゴツゴツは案外「大した事なし」と言う事ですねぇ~。

ちなみに、「雲取山方面」に映っているピークは多分芋の木ドッケだと思います。その僅か左側にあるはずの鈍重なピークが雲取山だと思います。

ご確認の林道、ガッカリですね。かい伐、マル禿げの大平山になるかもですね。

ここのスズ竹壊滅は除草剤なんでしょうか?あまりにも広範囲なもので。

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瀑泉さん (たそがれオヤジ)
2015-05-24 22:00:13
瀑泉さん、こんにちは。
こんなエリア外の記事にまでお付き合いいただき恐縮です。
私の場合、個々の記述も針小棒大なところがありますから、その苦難も半分未満ととらえてください。瀑泉さんにとっては、さらにその半分以下の労苦かと。
私が秩父の山にうつつを抜かしている間に、瀑泉さんはしっかりと足尾の山ですか。気持ちもあせりますよ。さらにオロ山とはね。
まして、ニゴリ小屋経由とは、どんなところをお歩きだったのか…。大変、気になっております。何となく、オロの北西尾根じゃないのかなと想像したりしているのですが。
足尾の山も、最近はテープが豊富になったり、わんさと押しかけたりと、どうも、自分の好みから離れていっているような気がして、足も遠のき、積極的に足が向かないといったところです。
秩父のこの界隈、まだ今の足尾の山の賑わいに比べると程遠く、自分には似合っているのかなと思ったりしているのですよ。
返信する
ぶなじろうさん (たそがれオヤジ)
2015-05-24 22:17:46
ぶなじろうさん、こんにちは。
登りも下りもというか、下りで、あんな熊取谷の左岸尾根を使わなければいいだけのことで、今回はいっぺんに大平山の様子も見ておきたいところがあって、こんな形になりました。
欲張りをしなければ、仙元峠の方に抜けるのが無難かとも思います。
肝心のシャクナン尾根ですが、HIDEJIさんコースをとっても、やはり苦行ではありますよね。むしろ、末端よりもグミノ滝経由の方が、ステージ中継点も細久保林道出会いの一か所しかないのできついかもしれません。
山頂直下のハイライト部分は、それまでの登りに比べると、落差のあるちょっときつい延長でしかありませんから、それほどでもないような気がいたします。
かねてのシャクナン尾根、ぶなじろうさんに先行してしまいましたが、ぶなじろうさんのお歩きを楽しみにしております。

大平山の惨状というか、あれでは山がかわいそうです。そのうちに、山頂から車のエンジン音が聞こえるようになるかもしれませんね。
スズタケの件はよくは知りません。全国的に枯れているようではありますよね。ただ、あれだけ広範囲に除草剤となるとかなり手間もかかるでしょうし、いったい、何なんでしょうかね。
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Unknown (でん)
2015-05-24 22:23:45
画像を勘違いしていたようで富士山のすぐ右に雲取山はありません(^^;)
ぶなじろうさんの見解が正しいように思います。
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でんさん (たそがれオヤジ)
2015-05-25 05:35:23
でんさん、ありがとうございます。
雲取山そのものがさして特徴のある姿をした山ではないですから、特定できずともしょうがないでしょう。
まして、私の写真もあやふやなところがありますし。
しかし、皆さん詳しいですね。私なんか、足尾の山にしてもよく間違いますよ。
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