マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

大人しくしていても禍はやって来る

2020-10-20 19:00:00 | スペイン日記

マドリード市の木“マドロウニョ”の実は色づき始めました。この実を好んで食べるのが住んでいたクマなので、マドリード市のシンボルはクマです。

 先月の9月は家の工事でした。下水管の工事でした。マドリードの住宅は浴室とトイレが一部屋になったのが一般的です。それをクアルト・デ・バニョ(cuarto de baño)と呼びますが、縮めて“バニョ(baño)”です。トイレだけはアセオ(aseo)とかセルビシオ(servicio)と呼びます。街のバルで“ちょっとトイレ”がこれです。

 

 我が家は各階に“バニョ”があり、来客用のトイレもあります。水漏れしたのは二階の“バニョ”の下水管でした。一階の玄関わきの“レンガ壁の裾”が数年前から湿っていました。その壁に今回水漏れした下水管が入っています。それは確か8月の中旬か下旬頃だった思います。玄関わきの壁が濡れていました。床を見ると水が流れた形跡がありました。前庭に水をまいたっけ?と自分に聞きました。40度の暑さがひと月も続いていたので体はダラダラ、頭にはビールが溜まって、そこに脳が浮いている状態でした。深く考える機能はありませんでした。そのまま忘れました。

 

 9月に入り、ある日玄関を出たら床が水浸しでした。さて?昨夜雨が降った?この時まで全く下水管のことなどは頭に浮かびませんでした。玄関わきの天井を見上げたら、木の板の継ぎ目から水が“ぽっつん”と垂れました。今、風呂に入り、流したばかりでした。さすが、僕も気が付きました、浴室の水が漏れたのだ!と。しかし、なぜ漏れたのかは分かりません。バスタブの管が壊れたのか?下水管に穴が開いたのか?これは専門家を呼ぶしかありません。蛇口を取り換える程度の水道工事人では手に負えないだろう、と家の修繕をいつも頼んでいるハイメさんに連絡をしました。

 

 翌日、作業服のままでハイメさんが来てくれました。僕が風呂の水を流すと木の天井から漏れ始めました。ハイメさんは壁を壊して下水管を調べないと原因は分からない、と言います。今週は他の仕事で手一杯なので、来週に壁を壊すことになりました。でも結局、彼が工事を始めたのは翌週の終わりでした。幸い家には他にも“バニョ”はあるので、そっちを使っていました。

レンガの壁が濡れていました

 水漏れ“バニョ”の蛇口や便器にはテープを貼りました。じゃないと、夜中に寝ぼけてトイレに行ったら使ってしまいます。そうです、寝室の“バニョ”だったのです。この下水管ですが、上は屋根に組み込まれている雨どいから始まり、壁内を垂直に下り地上に降りてL字型に曲がって自宅マンホールと繋がっています。前庭にあるのは深さ4メートルのマンホールでそれは歩道にある市のマンホールに繋がっています。我が家はこのような下水管が数本ありますが、水漏れを起こしたのは初めてです。

 

 こうして“ハイメ組”の工事が始まり、メンバーとも再会をしました。親方のハイメさんはエクアドル人で、ファンさん(スペイン人)、ジヨルジィさん(キューバ人)、パブロさん(メキシコ人)が一緒に働いています。僕とも顔なじみなので、親方が職人を連れてくるのではなく、それぞれ自宅から来て我が家で作業服に着替えます。

 

 まずは二階のバニョの壁を壊しますが、スペインの家はレンガ造りです。ベニヤ板を剥がすのと違い、“どんどんかんかん”とタイルとレンガを叩き壊します。現れた下水管に穴などは見当たりません。便器を外した穴から水を流し込みましたが、途中の穴洩れはなさそうでした。下が詰まっている、がハイメさんの結論でした。

 

 そうなるとプロの下水溝掃除業者の出番です。彼らは高圧力で放水をする特殊の車で来て洗浄液を流します。が、彼らも仕事がつまっていました。仕方ないので僕は一階の壁も壊して原因を見つける選択を取りました。たとえそれが徒労に終わっても費用は僕が持つのだし、下水管は昔の土管なので新しい強化プラスチック製と取り換えた思えば僕は自分を納得させられます。

下水管を取り換えました。この下に根っこが詰まっていました

 まずは、パブロさんとファンさんで一階の壁と土管を壊して、原因を探りました。前庭には水道があるので、それを下水管に流しながらの作業でした。下水管が綺麗なったら、現れたので“根っこ”でした。丁度L字型のところでした。しかし、玄関わきには木はありません。この家が建つ前にあった木の“根っこ”としか考えられません。根っこの一部だけが残り、30年以上もかかって成長したのでしょう。自然はすごい!と思わず関心をしました。同時にかちんかちんにかたまった自分のうんちじゃなくて、ほっとしました。

 

 その下水管には雨水、汚水、ふろ水が流れ落ちます。でも、再び水を流し込んでも、マンホールにその水が落ちるまでに時間がかかります。う~ん、まだ何かがある。仕方がない床も壊そう、となりました。床はコンクリートで固まっています。電動ハンマーで壊します。工事現場で使っている“ガガァガァー”とうるさいあのマシンです。僕はちょっと待ってくれ、床を全て(L字のところからマンホールまで)を壊す前に、このL字のところから少し先までをとりあえず壊してくれるように頼みました。

 

 ジヨルジィさんが電動ハンマーでセメントの床を壊し始めました。道路工事の現場ように壊したらセメントの破片が下水管に落ちて詰まります。なので、僕のお古のシャツで下水管の穴を塞ぎました。そして出てきたのは“ねっこの元”で、取り出したらお相撲さんの腕の太さもありました。ふろ水を流したら詰まるはずです。それを取りだして水を流したら“ソーメン流し”のようにスルーと流れ落ちました。詰まった原因は分かりましたが、この先何が起きるか分からないのでL字のところにもミニマンホールを造りました。

 

 次回、詰まったらそこを開ければ原因は分かります。その頃まで僕は生きているとは思いませんが・・・。下水管も取り換え、壁のレンガを積み、浴室の壁や床のタイルを貼り直しました。玄関の床はスペイン焼きタイルです。ジョルジィさんは残りのタイルを上手にカットしてアルミ製のマンホールの蓋にはめ込みました。見た目の仕上がりにこだわるのはスペインと言う国の性格です。日本人としては見た目よりも中身(下水管)ですが、ここはそういう国です。

 

 工事そのものは4日か5日の時間数ですが、原因を手探りでやったり、セメントを乾かしたり、“ハイメ組”は他の工事もあったので、終わったのは2週間後でした。その間は数人の職人さんが家の階段をパタパタと上がったり下がったりでした。

 

 家で仕事する方―絵描き、小説家、作曲家―は分かってもらえると思いますが、人が家の中をウロウロするだけでも落ち着きません。そこに、「どんどんかんかん」「ガガァガァー」「パタパタ」です。全く仕事ができませんでした。

 

 下水管工事が終わり、ほっとしてワインを飲んでいた9月末日か10月の初日でした。秋になり朝晩はセーターなどが必要でした。今日は朝から曇りだなぁ、とワインを白から赤に替えて手酌での“キッチンワイン”でした。空を覆っていた雨雲から雨が降り始めました。いいお湿りだよね、しばらく降らなかったし、と呑気にワイングラスを片手に中庭に落ちる雨を窓越しに楽しんでいました。

 

 そのうちに“バシャバシャ”と大降りになりました。窓ガラスをヒョウが“パチパチ”と叩き始めました。ずいぶんふってきたなぁ、と僕は呑気に飲み続けていました。でも、マド越しに聞こえる“バシャバシャ”の雨音が隣のように聞こえます。うん?もしかしたら、雨漏り!?台所から出て、隣の居間を覗くと、サンルーフの天井から滝のように(そう見えた)雨水が落ちていました。

水浸しになったサンルーム

 

 行ったらサンルームが水浸しでした。幸い、居間とサンルームの間にはサッシがあるので居間の浸水はありませんでした。サンルームもサッシで囲まれています。普通の家は屋外に取り付けてある雨どいが我が家は屋根に組み込まれています。つまり、サンルームの上に雨どいがあり、そこから洩れました。葉っぱが詰まると雨水が漏れます。急いでモップで水を吸い上げ、新聞紙を床に敷きました。その上にバケツを数個並べました。

 

 小降りになると雨漏りは止みました。翌日、屋根に上ってみたら雨どいは綺麗でした。一瞬ですが豪雨のように降ったので葉が出口をふさいだようです。そのあと葉は水圧で流されたようです。まずは保険会社に連絡を入れ、雨漏れの報告をしました。次にハイメさんに電話をして「雨漏れ」と言うと勝手を知ってる彼は「分かった」でスマホが切れました。

 

 僕の加入している火災保険は最低限保障なので修繕は自己負担です下水管工事は自己負担でしたが天災などで被った被害は直してくれます。サンルームの天井は玄関ように木の天井です。乾いたときに木の板が反ったりニスが剥がれたら修繕をしてくれます。その為には被害報告をしておかねばなりません。

 

 数日後保険会社の調査員が来て雨漏れの確認をしました。このたびたび漏れる雨どいのあるサンルームの窓下は我が家のバーベキュー・ガーデンがあり、その先には共同の庭があります。そこには高いプラタナスの木があり、秋にはどっさりとその落ち葉を屋根に積んでくれます。そのために年に2回ハイメさんが屋根に上って雨どい(数本あります)に積もった落ち葉を掃除してくれます。

蓋をした雨どいの通風口

 うんざりの僕はサンルームの雨どいに蓋をすることにしました。雨水は直にバーベキュー・ガーデンに落ちることになりますが、不都合が起きたら屋外に雨どいを付けます。その方が手入れは楽です。一週間後にハイメさんとパブロさんが来て雨どいを瓦で蓋をしました。一列に敷いた瓦の両サイドに潜水艦の潜望鏡の先のような形の筒を付けました。マドリードは夏になると屋根は50度を超えるので蓋をした雨どいの通風口でした。その通風口の周りはセメントで固めました。

 

 ハイメさんはセメントが乾いたころに防水ペンキを塗りに来る、と言って梯子は置いて他の工事現場へ行きました。その後マドリードはまたロックダウンになりました。今回はマドリード州全市ではなく、マドリード市と周りの一部の市です。“スポット封鎖”ですが“ハイメ組”は隣の州のトレド県です。まぁ、しばらく、工事再開は無理です。スペインを含めヨーロッパは9月が新学期なのでコロナウイルス感染を止めるのは難しいです。オンライン授業も限度があります。

積まれた薪

そうそう、下水管工事があったので納入を遅らせて貰っていた暖炉の薪が届きました。薪は玄関わきに積むので工事中は邪魔になります。いつもの薪屋さんで、以前は2トンから4トンを頼んでいました。それだと2年から3年の間は玄関が薪の山に囲まれます。

 

 今年は玄関わきにすっきりと積みたいとので、1トン半でいい?と馴染みのエステルおばさんに聞きました。エステルおばさんはお父さんの後を継いで薪屋をやっています。そのお父さんはもう90歳です。しょうがないわね、トミオさんだから良いわよ、と届けてくれました。薪トラックは4トンから8トン車が多いので、2トン以下は運んでくれません。

 

 薪屋は広い敷地が必要なので郊外に倉庫を持っています。旦那のハビエルさんが運んできて玄関わきに積み上げました。もうちょっと積む幅が欲しい、と言うハビエルさんに、高く積み上げちゃえばいいよ、と僕は言いました。素直なハビエルさんは渋々ながらも積み上げてくれました。

崩れました

 翌朝、薪が崩れていました。かなりの崩れる音がしたはずですが真上の寝室で寝ていた僕は全く気が付きませんでした。幸いだったのは新車のカローラを近くに駐車していませんでした。工事中は玄関から離して止めていたので、その習慣でした。コロナウイルスの再発で家の中で大人しくしていても不幸なことは起きます。ヤレヤレ。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
水漏れ (日本の友達)
2020-10-22 00:02:50
水漏れは原因を見つけられるかどうか勝負だね。それにしても大変だったね。実質より見かけを大事にするとなると余計だね。お疲れさん。
マドロウニョは人間は食べるの?
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マドロウニョ (日本の友達)
2020-10-22 00:31:02
マドロウニョ、日本でいうヤマモモに似ている。この木,雌雄異株かな?雌の木にしか実が生らない。
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