マドリっ子は浜辺のヴァカンスが好き
ヨーロッパ財政危機の嵐が吹くので、スペイン人はこの夏のヴァカンスは控えるだろう、と日本人は思うかも知れません。が、ところがどっこい、バッチリと取りました。食事の最後のデザートと同じく、ヴァカンスは家計では「別腹」です。何しろ、フランコ政権の時代は、夏の3ヶ月はマドリードから北へ400㎞の港町・サンタンデール(Santander)へ内閣をそっくり避暑させていました。真夏のマドリードは気違い的猛暑なので、政治の場を移したのです。究極のクールビズです。
このスペイン財政危機の張本人の一人でもあるバンキア銀行は元々、マドリードの公益質屋でした。教会が始めたマドリっ子たちのための質屋で、夏は不要の毛布を質に出した金でヴァカンスへ行ってました。他の都市の市民も同じようなものです。そんなスペイン人なので、筋金入りの「ヴァカンス大好き」です。
8月のまるまるひと月をヴァカンスで休むのが一般的なスペイン家庭でしたが、EU(欧州共同体)に加入してからはヴァカンスのとり方も先進国風になりました。近頃は半月休んで、残りは冬のヴァカンスに当てるとか、分割する若いスペイン人も多くなりました。会社も工場もひと月閉める代わりに半ドンにするとか、半月だけ完全休業にするようになりました。
しかし、学校が少なくても2ヶ月、多くは3ヶ月近く休みなので、小さい子供を持つ親たちは未だにひと月の「完休ヴァカンス」を取らざるはえないようです。都市に住むスペイン人夫婦は共稼ぎなので、家族揃ってリゾートで2週間か3週間位過ごします。スペインは海に囲まれているので、どこの浜辺でも良いのですが、マドリッ子は地中海へ行きます。
その地中海の海岸の一つに「マドリードの浜辺」と呼ばれるベニドーム(Benidorm)があります。昔からマドリっ子たちで溢れかえる浜辺で、町内会の慰安旅行のノリで出かけます。だから、知り合いともバッタリと会います。ビール腹でイビキをかいていた浜辺で聞き覚えのある声に振り返へったら同僚だった、が良くあるのです。
ヴァカンスは気分の転換だぁ、と考える我々日本人には理解できませんが、なぜ、皆同じ場所へ行くのでしょう? 知らない人と居るよりも知ってる人と居るほうがリラックスするのがスペイン人で、ヴァカンスは未知への冒険心よりもリラックスとおしゃべりなのです。一人で海を見つめて静かな一日を過ごすのを得意としないスペイン人は、ジョッキ片手に24時間ワイワイやるのが息抜きなのです。
温泉で日頃の労を癒す日本人とは違うので、僕は疲れます。この不景気で、今年は海外へ出るスペイン人家族より国内でヴァカンスを過ごす家族が増えました。それと、三食付きホテルを朝食だけにしたり、カテゴリーを下げたり、滞在日数を短くしたりとやりくりをして、それでもヴァカンスへ出かけます。その為に一年かけてコツコツと貯めました。
今年の夏は多くのスペイン人が田舎の実家でヴァカンスを過ごしたようです。冬はジジババが100人足らずの寒村も夏は10倍20倍に膨れ上がります。僕の友達の村は信号のない村ですが、8月は交通整理をするそうです。それに8月は村祭りが多いので、それに合わせて里帰りする家族も多いのです。
地方出身者が多いマドリードは、繁華街は相変わらずの人ごみですが、ちょっと外れると閑散としているので、僕は8月のマドリードは嫌いではありません。ただ、行きつけのバルは休暇なのと、30度の熱帯夜には参ります。そうこうしているうちに8月も最終の週になり、隣人たちが日焼けした顔で戻り、お互いにヴァカンスの話で盛り上がります。僕もヴァカンスでしたので、ブログも休みでした。
牛追いの代わりに巨大な玉を転がす村祭り