マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

ボイラーと給湯器の違いは分かるヤマダと、生ハムと鎧兜(よろいかぶと)の日

2014-04-07 13:41:26 | スペイン日記

水漏れのボイラー。下は洗濯機です。

 何か、ひと昔のネスカフェのコピーと村上春樹の「色彩を持たない 多崎つくると、 彼の巡礼の年」を合わせたみたいなタイトルですが、ニワトリのケンカ(喧しいだけ)みたいなスペインの二大政党の話やイワシの缶詰(兎も角安い)みたいなスペイン経済の話でもありません。くだらない冗談みたいな話なので、ワイン片手にどうぞ。

 ボイラーはスペイン語でカルデラ(caldera)、給湯器はカレンタドール(calentador)です。ふたつは似て非なるものです。値段も大違いで、ボイラーは給湯器の3倍か4倍します。ボイラーはセントラルヒーティングの暖房をはじめ風呂や台所の熱湯もまかないますが、給湯器はあくまでも湯沸し器で風呂や台所の熱湯を供給するだけで暖房はしません。今のボイラーはほとんどが天然ガスで沸かしますが、そのボイラーもマンションの平面用(フラット)と2階建て3階建ての個人宅用では2倍の価格差があります。

 最悪なのは僕の家のボイラーは個人宅用です。水漏れがしたのでボイラー会社に電話をしました。日曜日の午前中でしたが、スペインでは異例と思われますが修理人を寄越してくれました。その為にボイラー会社に年2万円近くを払ってメンテナンスの契約をしています。交換部品代はカバーされませんが修理人の出張費はタダです。水漏れは圧力ポンプでした。6年前にも水漏れをしたので交換しましたが再び壊れました。修理人は「もう12年も使っているボイラーなので、修理するよりは新品に替えたほうがいい」と水漏れはそのままで帰りました。

 確かに圧力ポンプ同様にガタが来ている予備タンクなども一緒に交換したら全部で14万円か15万円の出費です。ボイラーは水漏れをしていても暖房や風呂には問題が無いようです。実際、作動中は水漏れがなく、切っている夜にポッツン、ポッツンと水が漏れます。でも、ボイラーの下には洗濯機が置いてあります。仕方がないのでバケツを置きました。

 翌日にボイラー会社の下請け(A社とします)が新しいボイラーの見積もりに来ました。何と!30万円(2100ユーロ)!です。去年まではマドリード自治州の「エコ・ボイラーキャンペーン」があり、3万円(200ユーロ)の補助金が出ましたが、もう終わりました。くそー、いつものことです、運が悪い!

 マンションのように戸数で割って払うなら100万でも200万円でもいいけど、うちは個人宅なので一人で払う額にしては大きいです。たかが、ボイラーです、それも家庭用です。見積もりのエコ・ボイラーはガス代が30%減るというが、そんな事を誰が信じますか?! 所詮メーカーが補助金目当てで造ったシロモノで、とても、トヨタのプリウスほどの省エネは期待できません。

 僕よりもメカに強い隣人(もちろんスペイン人です)に聞いてみました。「せいぜい10%だろうね、それも暖房の温度を70度前後にセッティングしてで、80度以上にする寒がりにはメリットは無いね」とアドバイスをくれました(数字は水温で、大雑把に70度で室温が20~25度に温まる)。スペインには給湯器やマンション用のボイラーメーカーはあまたありますが、個人宅用ボイラーは3社で、大手はウチでも使っているフランスメーカーです。それもどうやらフランスで製造しているのか、早めの注文してほしいと下請けは言います。ボイラーくらい、全部スペインで造れよ!です。

 フランスのボイラー会社がよこした下請けA社の人はレオポルドと言うスペイン人でした。A社(従業員が3人か4人位でしょう)で35年も働いているが初めはドイツのボイラー・メーカーで働いていたそうです。今は57歳だそうですが、そんなことは水漏れボイラーを抱えている僕にはどうでもいいことですよ。12回の月賦払いの契約書にサインしてくれれば、銀行手続きはこっちでやるから、と簡単に言います。

 僕は、東洋人の顔をした、れっきとした日本人です。ここでは外国人です。月賦を最後まで払わずにトンヅラしたらどうするのでしょうか? 誰もボイラー担いで夜逃げはしませんが、もし僕が日本に居てレオポルドの立場だったら断りますね。ただスペインも他のヨーロッパの国々同様に人種が豊富なので、国籍で判断は出来ないでしょう。でも?レオポルドは何を基準に月賦の審査をしたのでしょうか?僕の人を騙すには見えない外面でしょうか?

 僕はこの手の人達-水道修理屋や庭師など、―いわゆるブルーカラーですね―と話す時は台所でします。居間よりも台所の方がファミリー的だしその家庭の経済状態が丸見えだと思います。居間はリッチに装うと思えば、それなりにカモフラージュできますが、毎日料理をつくり食事をする台所は生活がモロに出ます。それが功を奏したのかも知れません。とりあえず、考えて返事します、と答えました。

 ネットでボイラーの交換を検索していたら、他の下請け会社(Bとします)が目に入りました。そこは各種のメーカーのボイラーを扱っていて、月賦もOKです。電話で見積もりを頼むと、翌日に来てくれました。B社はうちの近所ではないので見積もりが無料なのかも確認しました。じゃないと出張費を請求されることもあります。来たのはアウグスティンと言うオヤジでA社のレオポルドよりは少し若そうです。

 水漏れボイラーや配管を確認して、キャンペーンは終わってるので、スタンダードのボイラーを薦めました。エコ・ボイラーではないけど20万円ちょっと(1500ユーロ)です。ドイツ製、イタリア製も揃えてありますが価格に大差が無いので、下請けA社と同じフランス製にしました。ドイツにもフランスにもそれぞれの国内には沢山のボイラーメーカーがあると思いますが、マドリードで商売しているのはドイツのJ社、フランスのS社、イタリアのV社と各国一社ずつです。フランスのS社にしたのはメンテナンスの契約もしているので、それを続行すれば手続きは簡単です。

 台所に誘って、月賦の話をしました。必要書類をメールスキャンで送ってくれれば、銀行に融資の審査を依頼するので2, 3日かかるそうです。彼は慎重です。僕は一日考えて、審査書類やなんだかんだと日数が掛かりそうなので、A社に電話をしました。B社の見積もり機種をオタクでは幾らになるのか?と聞きました。差額が僅かなので審査もないサインだけですむA社にしました。

 しかし、何事もスムーズに運ばないのがスペインです。新しいボイラ-に取り替えてから、彼らの銀行の審査に通らなかったとレオポルドが言って来ました。仕方ないので、自分の口座のある銀行にして、融資審査は通りました。バブルの時は書類審査もなく支店長サインで事足りましたが、欧州中央銀行に救済して貰っている今はスペインの銀行もまともな手続きをするようになりました。前から当たり前の事をきちんとしていれば銀行破綻に陥ることもなかったのです。


カロリー数は同じなのにコンパクトになった新しいボイラー

 それにしても、金を受け取る前に取り付けてしまったA社はお人好しですが、よく潰れないで35年間も続いてるもんです。日本人は正直だからいいけど、マドリードにはゴマンと外国人が住んでいます。フランスのボイラー会社Sから、部品代も含んだメンテナンス契約のディスカウント・キャンペーン中だけど、どうですか?と電話がありました。それにしました。キカイはドイツ製が壊れにくいので安心だけど、フランス製とイタリア製はいまいちだからです。

 じゃ、ドイツのJ社製にすればいいじゃん、ですが、隣人たちもフランスS社を使っているし、リセ(Lycée/フランス人学校)が近くなのでフランス人家族も結構住んでるので、S社のサービスカーを良く見ます。電話一本、住所を告げるだけで3時間以内に修理人が来てくれるところをみると、僕の住んでる地区はフランスS社の縄張りのようです。

 この地区の下請け会社がA社で、フランス人はスペインでは外国人なので、外国人相手の商売はお手の物だったのです。別に僕の外面ではなかった訳で、部品代込みのメンテナンス契約までしてしまった僕はまんまとフランス商法にはまったのです。台所にイベリコ豚の生ハム一本が置いてあるのを見たレオポルドはこの家からは金が取れると値踏みしたのではないでしょうか?


値踏みにされてしまったかも知れない、今年の生ハム

 だから、値の張るエコ・ボイラーを薦めて、B社のスタンダード・ボイラーを薦めなかったのです。くそー、ですよ、武士の鎧兜が置いてある居間に通せば良かった。この顛末でボイラーの出費は30万円から20万円に節約できました。しかし、銀行融資の時に20万円も30万円も手続き費用は同じだし、月の返済額も大差ないのよ~、の甘い言葉につられて30万円、必要もないのに10万円余分に借りちゃいました。

 何か得したような気分になってしまう自分のこの経済オンチさ。口座のあるのはちゃんとしたマドリードの銀行で決して高利貸しでもスペインで急増のチャイナ・マフィアでもありません。僕のようなバカにはグローバルな生活をするって、ホント疲れますよ、ガクッ。
コメント (1)
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