クリスマス宝くじ
日本でも、スぺインのクリスマス宝くじ(ロテリア・デ・ナビダァ/Loteria de Navidad)はニュースになります。今年僕が買ったそのクリスマス宝くじの番号が74641です。写真はデシモ(decimo)と呼ぶ“十分の一券”で、その二枚を裏表で並べました。これが10枚綴りになったのを”ビジェテ/billete”と呼びます。それが当たったら5億円、二枚で一億円です。
さて、この番号の話です。長い話になるので、来週僕が億万長者になったか?いつもの貧乏人か?だけに興味のある方は今回のブログは読まずに飛ばして下さい。12月22日の「スぺインのクリスマス宝くじ」の世界ニュースに日本人の顔が出たら僕です。
では話を始めます。僕が住んでいる地区はマドリードの都心ではありません。東京で例えれば山手線の内側ではありません。マドリードではその山手線に当たるのが環状30号線(Ⅿ-30)です。鉄道線ではなく車の走る環状線で、もともとはマドリード(標高600メートルを超える丘です)を囲むように流れていた川が乾いたので埋め立て、6車線のハイウェイとなりました。繋げて丸くなった環状線の輪の姿を上から見たらアーモンド(ラグビーのボールの形です)に似ているので、マドリードの都心を「アーモンド」と呼ぶようになりました。スペイン語ではアルメンドラ(almendra)です。
マドリード国際空港バラハスに着いた貴方がタクシーに都心のホテルの住所代わりに、アルメンドラの○○ホテルへお願い、と言ったら超カッコイイですね。にぎやかな都心が好きな若者はアーモンドの中に住みたがり、僕のようなアーティストは広いアトリエを求めてアーモンドの外に住みます。制作に集中している時は静寂も欲しいです。スペイン人にもアーモンド内は通勤に便利だけど土いじりができない、と不満です。
それなりの庭が欲しいと引っ越してきたのが、お隣さんとなったホセ・マヌエルさん家族でした(以後敬称なし)。20数年前の話です。ホセ・マヌエル夫妻と男の子二人、女の子二人の6人家族でした。女の子は双子なので、いまだに見わけはつきません。私はマルタ、私はエリチョと僕の前では名乗ってくれます。
おっと、宝くじの話でしたね。そのお隣さんとはすぐに仲良くなり、夏はバーベキューを楽しみました。彼の庭でのバーベキューはイワシを焼き、僕の庭では羊でした。なぜ、こうなったのかは、彼のバーベキューはガス火で僕のは炭火です。それもオリーブの枯れ木を炭にして羊を焼きます。このように、お互い食べるのが好きで料理もするのが分かり、ワインの好みも同じとなると、二人でワイングラスを傾ける時間が増えました。ある時、昔話になりました。
ホセ・マヌエルの両親はバスク州(Vasco/スペインの北東、フランスのバスク州と背中合わせ)出身ですが、マドリードへ引っ越してきてからも頻繁にサン・セバスチャン(San Sebastian/美食で知られている州都)へ戻っていました。今でも、親せきはバスクに住んでいます。
彼が8歳の時、今彼は75歳なので67年も昔のことですが事故に遭いました。彼の兄弟は6人か8人(うち一組は双子)ですが、両親と子供たちが乗った自家用車(フォードだったそうです。当時は一台の車に乗れるだけ乗れました)がサン・セバスチャンからマドリードへの帰り道でパンクをしました。子供が詰め込まれた車はバランスを崩し道路から転げ落ち、横転しました。ホセ・マヌエルは割れた窓ガラスで顔を切りました。でも、フォード車の丈夫なボディーのお陰で、その程度のケガや打ち傷ですみ家族全員の命は助かりました。
無事にマドリードの家に戻りました。そのフォード車のナンバーが74641だったのです。本当に怖い思いをしたのでしょう、ホセ・マヌエルの頭には車のナンバー焼き付いてしまい、今でも覚えています。さて、これで宝くじの番号の出どころは分かりました。これから、なぜ?今?その番号を?の話になりますが、眠くなった方はどうぞお休みください。
僕は近所の銀行へ行った帰りに宝くじ屋に寄ります。銀行から宝くじ屋へ足が向かうのは、21世紀の銀行は金を失うところだからです。その穴埋めに自然と足が宝くじ屋へ向かうようです。でも買うのは“木曜日抽選”の3ユーロ(350円ですが感覚的には日本のワンコイン)の宝くじです。他に土曜日抽選の6ユーロ宝くじ券もあります。3ユーロはバルで払うワイン一杯代なので、外れても惜しくもないです。当たったら二杯飲みます。
ほぼ毎週買うので、店のおばさん、おじさんとも顔馴染みです。買うのは毎週決まって末尾7です。ラッキーセブンにあやかったわけではありません。何番でも同じなら7でいい、と選ぶのが面倒なだけです。宝くじ屋の人も僕の顔を見たら末尾7番を出してくれます。クリスマス宝くじも毎年買っていますが(40年間)当たりません。これは決まった末尾を買うわけでもなく、その時の気分次第です。
で、この夏休み前にひらめきました! どうせ買うならホセ・マヌエルの家族を救った自動車ナンバーを買おう、と。それと僕はいまだにビジェテ券を買ったことがありません。毎年デシモ券、十分の一券でした。自分一人で買うのではないけれど一度は手にしてみたいクリスマス宝くじビジェテです。で、ホセ・マヌエルに「どうだ、その番号のビジェテを一緒に買おうじゃないか」と持ち掛けました。二つ返事でOKだったので、その宝くじ屋に74641の番号を探してもらいました。
もし、自分の気に入った番号があったら、宝くじ屋はデジタル印刷をしてくれます。が白い紙に数字が印刷されているだけで、レシートと同じです。クリスマス宝くじには欠かせない聖家族のイラストはありません。それでもちゃんとした宝くじ券ですが、何か寂しいです。なので、ビジェテ(10枚綴り)を二枚買うからと宝くじ屋に頼んだのです。
ホセ・マヌエルは兄弟が多いので一枚では足りません。それぞれが買った十分の一券を兄弟だけではなく、従妹たちとも交換します。10枚綴りで一枚のビジェテは200ユーロで2万5千円です。2枚で5万円です。宝くじ屋の話では、夏のヴァカンスが終わったら全国の宝くじ屋が持っている宝くじ券を交換するそうです。その時にその番号を探してくれることになりました。
僕は制作に追われていたのでそのことを忘れていましたが、9月の末にいつもの銀行の帰りに寄ったら「残念だけど希望の番号券はなかった、ごめんね」と言われました。そのことをホセ・マヌエルに話して二人で、仕方がないね、とバルで飲みました。彼もレシートみたいな宝くじ券は嫌で、クリスマス宝くじ券は昔からの印刷だ、でした。そのあと僕は日本へ帰って個展をオープンしました。11月にマドリードへ戻ったら、ホセ・マヌエルから電話がありました。「トミオ、個展はどうだった?」「一杯飲むか?」と近所のバルで会いました。
で、彼は74641の宝くじ券を僕の前に出しました。その番号を手に入れたのです!彼がバスクの友達に話したら、根気よくネットで探してくれました。オビエド(Oviedo/スぺインの北で、バスク州の隣のアストゥリアス州の州都)の宝くじ屋が持っているのが分かり、ホセ・マニュエルは電話をしました。相手に送金をしたら宅配でビジェテを送って貰えました。宝くじは運です、見つかったのも運です。これで当たらなかったら、僕は神様に石をぶつけます。ホセ・マヌエルに宝くじの代金を払い、これは宅配代だ、とワインをおごりました。
抽選会の丸かご大と小
抽選日は12月22日です。抽選方式は昔からの“伝統スタイル”で0から99999までの玉が入った巨大な丸かごと一等から末尾賞までの玉が入った小さい丸かごを同時に回します。出た玉の数字と賞を子供たち(サン・デ・イルホンソ学校の生徒)が歌い上げます。半日もかかる大イベントですが、クリスマスには欠かせません。生活に困っている人に当たるとテレビを観ているスぺイン人も一緒に涙を流します。
前歯の欠けたお婆さんに市場の肉屋で買った“孫券”が当たった映像には、もう涙、涙ですね。孫券とは、肉屋が買ったビジェテを客に2,20ユーロ(250円)で売る、100分の一券です。お婆さんに一等が当たれば500万円で、外れても完売した肉屋には220ユーロ入るので一割の儲けです。パン屋はひ孫券(千分の一)を客にタダで配ります。来年もご贔屓に、です。どれも年末の心温まる行事です。
賞金額はビジェテ(10枚綴り)単位なので、一等賞は4百万ユーロです。日本円でほぼ5億円です(写真の宝くじ券は十分の一券なので5千万円)。スぺインの宝くじの魅力は一等から五等まですべての賞は当たり番号だけです。いたって単純で、組番号もシリーズ番号もありません。同一番号のビジェテ券が170枚ほどあるので、一等だけの賞金総額だけでも850億円になります。
庶民は写真の十分の一券(デシモ/decimo)を買います。デシモ券は20ユーロ、2500円ですが、一等が当たれば5千万円です。それで家が買えます。二枚持っていれば一億円です。買った家にデザイナー家具を入れ、友達を招待したお披露目パーティーには生バンドも呼べますね。急にみみっちくなりますが、末尾でも元金は戻ります。抽選日までスペイン中をバラ色の夢で染めてくれるのがクリスマス宝くじです。